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第15話 初ダメージ!

20191114 17時更新

「っ――」


 魔族の少女――リリスの襲撃に反射的に周防の身体が動いた。

 攻撃に対してなんとか身構えようとしているが、振るわれた拳はあまりにも速い。

 そもそも避けるでなく、防ごうとした時点で失敗なのだ。

 あの魔族の拳には尋常ではない魔力が込められている。


(……ざっくり見積もって、騎士学校に攻め込んできた魔人が使った魔法の3倍くらいの威力だな)


 小柄な身体で壁を粉々にするだけの怪力の仕掛けはそういうわけだ。

 肉体的に普通の人間と変わらない恋や周防が、この魔族の少女から攻撃を受ければ死に繋がるだろう。


(……最悪、防御魔法でも展開できていればいいが)


 それだけの余裕は周防にはないだろう。

 絶体絶命のピンチ――なら、俺がどうにかすればいい。


「死ね――裏切り者!」


 ――ペチン。

 物騒な叫びのあとに可愛らしい音が響いた。

 それは彼女の拳を、俺が掌で受け止めた音だった。


「まぁまぁ、落ち着けよ魔族の少女」

「なっ!?」


 信じられないと目をひん剥いた小柄な魔人が呆然と俺を見つめる。

 だが驚愕したのは目前にいる魔族の少女だけではない。


「……狭間……くん? なんともないのか?」

「今の攻撃、とんでもない魔力量だったけど……」


 俺の仲間たちも心配しているのか声を荒げる。


「ああ、何も問題ない」

「嘘でしょ……大陸を消し飛ばせる魔力を込めたボクの攻撃を受け止められるなんて……」

「悪いが魔法解除(ディスペルマジック)を使って、拳に込められていた魔力を全て消滅させた」

「……魔力を……!? っ――マジか、クソっ、なんでだ……力が……出ねぇ……」


 拳を受けた止めたのと同時に、この少女に魔法封印を掛けた。

 これは名前のままに魔法の仕様を封じる魔法だ。


「お前の身体能力の高さは全部、魔法のお陰なんだろ?」

「ぐっ……それは……」


 図星を突かれて口を閉ざした。

 結果、今ここにいるのは非力な女の子というわけだ。


「これでお前は無力化されたわけだが……このあと、どうなるかわかってるよな?」

「クソがっ! 殺したきゃ殺せ!」

「殺す? なに言ってんだお前?」


 異世界あるある。

 負けた相手はくっ殺。

 当然、降伏してくれるならそんな物騒なことをするつもりはない。


「ま、まさか殺すよりも酷いことを!?

 ぼ、ボクのことを……辱めるつもりなの……」

「するかっ!」

「……」


 無言で疑いの眼差しを向けるな。


「巡がそんなことするわけないから!」

「なんでそんなことわかるんだよ!」


 ちょっと恋さん、魔族と口喧嘩を始めないでくださいね。

 ここは軽く流せばいいとこ――


「巡はロリコンじゃないのよ!」

「ちょっ!?」

「え、違うの?」

「違くないが、否定してくれるなら他に何かなかったのか!?」


 信じてくれるのは嬉しいが、庇ってくれても複雑になるやつだろ。


「ボクのどこがロリコンに見えるんだよ! これでも今年で300歳超えるからな!」

「300歳!?」


 魔人の言葉に恋はかなりびっくりしたらしく、声が甲高くなっていた。

 だが俺も意外に思う。


「思ってたよりも若いな」

「若くはないでしょ! ていうか30歳って言われても信じられないから!」


 なんだと?

 恋は若くて驚いたんじゃないのか?


『ふむ……300歳など生まれたてと変わらぬと思うが?』

『だよな?』


 俺もアルに同意だ。

 異世界の常識としてだが寿命がとんでもなく長い種族が存在する。

 エルフ族などはその代表だ。

 魔人のように強い力を持った魔族も長寿であることが多い。

 だから300歳程度で驚くことはない。


「とにかくボクはロリコンじゃねえ! レディだ!」


 大抗議しながら俺の身体を殴ってくる。

 だが魔法を無効化された状態のリリスは無力だった。


「あ~わかったから暴れるな。

 別にお前らと争いに来たわけじゃない」

「信じられるか~~~~!!」


 腕を振り回すぐるぐるパンチ。

 しかしノーダメージ。


「魔法が封じられてるんだ。

 もう抵抗はやめておけ。

 今のお前は魔人じゃない、ただの人だ」

「ただの……人!?」


 が~ん! と擬音が見えるくらいのショックを受けて、リリスはその場で膝を突いた。 やっと大人しくなってくれたので、これでまともに会話ができそうだ。


「リリス、聞いてくれ。

 ……彼らに争う意志はない」

「黙れ!! 人間を――勇者を魔王様の下へ連れて来るなんて……お前は最低最悪の裏切り者だ! ボクは……お前を信じたいと思ってたのに……!」


 涙目になるリリス。

 周防がこの異世界に転移してから、彼らの間にも色々なことがあったのだろう。


「人間を信じようと思ったのがやっぱり失敗だったんだ……」


 魔族側の転移者である周防。

 だが人間という種族の壁はあまりにも大きかったのだろう。


(……周防が仮面で素顔を隠していたのは、自分の種族を隠す為か)


 この暗黒大陸では、肌の色や容姿で人間とバレることへのリスクがあったのだろう。

 周防がこの世界でどれだけ苦労してきたのか。

 それは想像に難くなかった。


「キミにそう思わせてしまうのは僕に力がないからだ。

 でも……その上でお願いしたい。

 僕を信じてくれないか? 失敗だったと思わせない為に僕はここにいる」


 周防は涙目の少女を見つめる。

 その目に一切の曇りはない。


「そんなこと……口ではいくらでも言える」


 二人の関係はわからない。

 だが、リリスが迷っているのがわかった。

 それでも周防の言葉はこの魔族の少女には届かない。

 現実問題――言葉だけじゃどうしようもないことがある。

 だから、


「てい!」

「あだっ!? てめぇ、何しやがるっ!」


 俺はリリスの頭をチョップした。

 瞳に溜まっていた涙が消える。


「お前がなんと言おうと、俺たちは魔王に会いに行く。

 何が起こるのか見届けたいなら付いて来い」


 そしてリリスを抱え上げた。


「おい! クソ野郎! 離しやがれっ!」


 魔人は俺の肩の上で暴れ出した。


「周防、行くぞ」

「あ、ああ……ごめんね、リリス」

「リリスさん、勇者のあたしが言うのもおかしいんだけどさ……巡に任せておけば悪いようにはならないと思うから」

「うるせぇ、ブス!」

「ぶ――……そういう悪いこと言う口は、こうだから!」


 恋は魔人の頬を掴んで左右に引っ張った。

 餅のようにびろ~んと伸びる。


「ふにゃ……や、やへろ、くしょ女!」

「な~に~か~な~?」


 笑顔のまま柔らかなリリスの頬を引っ張り続けている。

 ちょっぴと赤くなる頬。

 リリスは目に涙が浮かんできた……が、少女は戦意を失ってはいなかった。


「こにょ、やろっ!」

「はわっ……にゃ、にゃにすんの……」


 リリスの反撃。

 手を伸ばして恋の頬を摘まむと引っ張り返した。

 互いに睨み合いながら頬を引っ張り続ける二人。


「恋、その辺にしとけよ」

「ここであまり騒ぐのも……他の魔人たちがいつやってくるかもわからないから……」

「ぁ……ご、ごめん」


 言って俺の幼馴染はリリスから手を離した。

 殺し合いをするつもりなんてない。

 だが恋が勇者の立場上、ここが『敵』の根城であることに変わりはない。


「ボクに勝ったと思っていい気になるんじゃねえぞ! お前らなんて魔人全員で掛かれば、直ぐにやっつけてやるからな!」

「はいはい」

「んにゃああああ! 軽く流すな!」


 肩に担がれた状態で叫ぶリリス。


「うおっ……お前、やるな」

「あん?」

「叫ばれたから耳が痛くなったぞ!

 これはお前が俺に与えた最初のダメージだ!」

「――バカにすんなっ!」

「褒めたつもりなのに!?」


 何故か機嫌を損ねられてしまった。


「ふふっ、楽しそうですね」

「……?」


 美しい――その声音が聞こえた時、俺はそう感じていた。

 反射的に身体が女性の声に反応する。

 声の主の顔を見た瞬間、周防とリリスは息を飲んだ。


「お前は……?」


 俺が問うと気品に溢れたお姫様のような女性がその場に立ち止まった。

 そしてスカートの裾を摘まむと流麗な動作で一礼する。


「わたくしは――エリーナ・シュヴァイツァーと申します」

「エリーナ……ってことは?」


 俺は周防に視線を向けた。

 すると彼は頷き肯定の意を示した。


「彼女こそが魔族を束ねる魔王だ」


 どうやらこちらが向かわずとも、この異世界のラスボス自ら登場してくれたらしい。

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第一部完結しました。
『勇気を出してよ皆友くん!』
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