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第10話 暗黒大陸へ

20191104 12時更新 本日二回目

「……ミッシェル? って、まさかドラゴンの名前なの?」

「ああ、直ぐに来るからちょっと待っててくれ」

「直ぐに? って、あんたまさかドラゴンを従えてるとか言うわ――っ」


 恋が何かを言い掛けて口を閉じた。

 それは、魔人を凌駕するほどの巨大な気配を感じたからだろう。


「なっ……なに……? なんなのよ、これ……!?」

「ミッシェルの魔力だな」

「こ、こんなのって……ど、ドラゴンだとしても、こんなの尋常じゃないわよ!」


 恋はかなり驚いている。

 そうか。

 ドラゴンとしか俺は説明しなかったが、ミッシェルはエンシェントドラゴンだったもんな。


『この女は何を戸惑っているのだ?』

『ミッシェルの力が大きいから驚いてるんだよ』

『……あの程度の雑魚にか?』


 確かにミッシェルは雑魚だ。

 が、それは俺たちの基準での話だ。

 俺も以前はドラゴンに苦戦したことがある。

 初めて目にした時は、信じられないほどの巨躯を目にしただけで震えてしまった。

 そんな恐怖の感情は当に忘れ去ってしまったいたけれど。


『普通の人間にとってはドラゴンってだけで怖いもんなんだ』

『ふむ……人とは脆い種族なのだな。

 そんな中……お前のような者が生まれると考えると、人間の持つ可能性とは面白く興味深い』


 声だけしか聞こえないが、アルが俺と恋を交互に見つめている姿が目に浮かんだ。


 ――ビューーーーーーン!  バサッ! バサッ!


 強烈な風を切る音と共に、地面に向かって吹き飛ばされそうな風が吹いた。

 敷地を覆う大きな影を見て、この場にいた生徒たちは――いや、町の住民は皆、顔を上げたことだろう。


「早かったな」

「も~う、お友達とお茶してたのに……」


 ドラゴンってお茶を飲むのか……それは勉強になった。


「悪いな。

 だが急いで連れ行ってほしいところがあるんだ」

「いいわよ。

 あなたの頼みならなんでも聞いちゃうわ!」


 ミッシェルはウィンクした。

 その光景にこの場にいた者たちは慄いている。


「ど、ドラゴンを飼いならしてる!?」

「やはりあの方こそ真の勇者!?」

「いや、もしかしたら古の時代に存在したというドラゴンライダーかもしれないわよ!」


 妙な噂が広がっている。

 残念ながらどれもハズレ……いや当たらずしも遠からずか?

 他の異世界で勇者と呼ばれた頃もあれば、ドラゴンライダーだった頃もあるからな。


「……め、巡……あんた、さっきこの世界に来たばっかりじゃなかったの……?」

「ああ、そうだぞ」

「そうだぞ――って、じゃあなんでいきなり、こんなすごいドラゴンと知り合い――というか、妙に親しくなってるのよ!」

「その辺りの説明は暗黒大陸に向かいながらでいいだろ」


 俺は恋の手を引くと、有無を言わさず抱きかかえた。


「ぁ――!?」

「いくぞ」


 一言だけ伝えて、俺は転移の魔法を使ってミッシェルの背に転移する。


「乗ったわねん?」

「ああ、暗黒大陸まで頼む」

「それじゃあ――全力全開で行くわよ~!」

「え、ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が――」


 ブワアアアアアアァァァァァッ!!!

 轟音が響いた。

 それはミッシェルが羽ばたい音。

 同時に飛行が始まると、一瞬で城下町が小さくなっていく。


「は、速ッ!? でも、どうして風圧がないの?」

「風の魔法を使って、抵抗を全て無力化してる」

「……巡……凄すぎるよ」

「このくらいは普通だぞ? 恋も少し練習すればできる」

「風の魔法の話しじゃなくて! 一瞬で魔人を倒しちゃったり、いきなりドラゴンを呼び出して背中に乗って移動って、常識的に考えておかしいじゃない!」


 異世界の常識とは? と、俺自身が疑問に思ってしまう。


「……俺の経験上、ドラゴンと友達になった奴は結構いるぞ?」

「結構はいないわよ!」


 教団の大司教とか。

 それこそ、竜と信頼を築くことで力を得るドラゴンライダーとか。 

 ドラゴンと信頼関係を築く人間はいないこともない。

 まぁ、この世界ではそうじゃないのかもしれないが。


「ま、それぞれの世界にそれぞれの常識があるんだ」

「はぁ……無数の異世界を救ってきたって言ってたけど、その言葉の真実味が増していくわね」


 溜息をついた後に恋は苦笑した。


「ねぇ、巡……随分と親し気だけど、あなたの彼女さんなの? あたしにも紹介してほしいんだけど?」

「彼女ではないが――」

「っ――巡、さっきから抱きかかえてるけど、女の子に対してデリカシーがないから!」「あ、ああ、悪い」


 腕の中で暴れ出した恋を、ミッシェルの背に下ろす。

 頬を膨らませて明らかに不機嫌になっていた。


「あら~、あなたも罪な男ね」

「何がだ?」

「鈍感なんですよ、こいつ昔から」

「浮世離れしてるものね~。

 色々と大変な人だとは思うわん……でもその分、不思議な魅力があるわよねん」

「否定したいところですけど……ドラゴンの目から見てもそう感じるですね」

「これでも竜として数万年の時を生きてるから……竜生経験豊富なのよん。

 色々な人を見てきたけど、彼は本当に特別な感じがするわ」


 竜生?

 それは人の人生にはなんの役にも立たなそうだが、数万年か……ミッシェルはドラゴンだけあって、そこそこ長生きのようだ。

 それでも俺が過ごしてきた時と比べれば赤子と変わらない。 


「それと恋愛相談ならいつでも乗るわよ? あたし大好物だから……と、自己紹介させてもらうわねん。あたしはミッシェルよ」

麗花うるか れんです。

 えっと……ミッシェルさん、でいいですか?」

「ええ、好きに呼んでいいわよん。

 たとえばお姉様とかね」


 お姉様?

 ミッシェルは性別的に雄なのでは?

 いや……これに関しては確認しないでおこう。


「あはは……じゃあミッシェルさんって呼ばせてもらいますね」


 苦笑する恋。

 どうやらミッシェルがフレンドリーなことに困惑しているようだった。

 俺が見て来た中でも、このドラゴンはかなり人間味があるほうだと思う。

 オネエ言葉だからそう感じるだけかもしれないが。


「ミッシェル、暗黒大陸の場所はわかってるか?」

「友達の暗黒龍がいるから、何度も遊びに行ったことがあるわん」

「なら位置を伝える必要はなさそうだな」

「ええ、お任せあれ!」


 すると高速飛行していたドラゴンはさらに加速する。

 速度は既に音速を超えて――大陸を出て視界には紺碧の海が広がっていた。

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第一部完結しました。
『勇気を出してよ皆友くん!』
もしよろしければ、ご一読ください。
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