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DesartWorld  作者: O3
第2章 ならず者の長
9/10

6 衝突

どうもO3です

店の前にたくさんの人が集まってきていた。ここは街の中心から外れたところにあるはずなのに外はやけに騒がしい。店の二階の窓からヤツキは外の様子を伺っていた。窓の外の人影は皆なにやら物騒なものを持っている。

「今、どんな感じだ?」

後ろから青い髪を二つにまとめた少女と、そのか俵で不安そうな顔をして身を寄せ合う子供と若い女や老人たちの声がした。彼女はその中で一番幼いであろう女の子と手遊びをしていた。彼女の無邪気な笑顔が辛うじて張り詰めた空気を和らげていた。

「………もうそろそろかな。」

ヤツキが壁に掛かった時計を見ると時刻は十時になろうとしていた。

予定の場所はここからでも見える。なにせ一番に街の端にある酒場なのだから。

二つの人の塊があるのが分かるが、その大きさの差は歴然だった。ヤツキは険しそうな顔でそれを見ていた。隣からラピスも窓の外を覗いた。

「どっちがどっちだ?」

「右にいるのがねーさんで……その反対が「旧」のやつらだよ。」

大きさの差は倍以上だとわかる。最初から条件が悪い。あの大将はとんだ親子喧嘩を買ってしまったようだ。

まあ、それがあの人なのだろうと、喧嘩をするとなった時ヤツキは止めなかった。止めても無駄だと思ったからだった。

どこまでも真っ直ぐで誰よりも優しいあの幼なじみの姿を思い浮かべた。直接戦うことはできないが、せめて少しでも力になればとここに彼らを匿うのを自ら名乗り出たのだ。

「………ところでラピスちゃん。あいつはどうしたの?」

隣で外を覗くラピスにヤツキは問いかけた。そもそも彼女はここにいるはずではないのだ。すぐに街を出ることを勧めたのもこういうことを恐れてだった。

だが、現にこの子はここにいるわけで相方もいないわけだ。ヤツキは特に詳しいことを話されていない。セツに詳しい状況を尋ねてもとにかくここでこの子達を匿っていればいいとだけ言ってそれ以上は話してくれなかった。

ヤツキの言葉に対してラピスは一瞬こちらを向いて、すぐ窓の外に視線を写した。そして暫くした後真っ直ぐと指を指した。

「あそこ。」

ラピスは静かに呟いた。ヤツキはラピスの視線の先を見た。そこにはあの人の塊があるだけだった。

「………まじか。」

その時のヤツキの顔は驚きと苦虫を噛み締めたような表情だった。ヤツキはただなにかを言うことなくぼんやりと真っ直ぐ外を見ていた。

時計がカチリと音を立て、十時ちょうどを示した。


***


土埃が降り注ぎ、セツは目を細めた。街の周りは荒地なので乾燥した地面が剥き出しになっている。土埃で霞んだ視界の先には無数の人影と日が反射して光る刃がある。

「姐さん。」

横に控えていたトウシが声をかけていた。持っている懐中時計は十時を示していた。向こうが突きつけてきた時間は二日後の十時。場所は町外れの荒野。今その時がきた。

「時間だね。」

周りの男たちが一斉にセツの方を振り向く。どれも今まで一緒にここまで来た顔ぶれだ。セツにとっては家族同然の仲間だった。彼らもまたセツのことを本当に親身に慕っていた。互いにここで散ることになっても全く後悔はない。この人の為に生きてこれたことを良かったと思っている。

「あんた達、準備はいいね?」

セツは静かに力を込めて呟くと右腕に付けられた腕輪の赤紅石に触れる。瞬く間に真紅の光が弾け、セツの手元には赤黒く光る鞘に収められた2本の脇差しが現れた。

「引き締めて行くよ。」

周りの男たちも各々の武器を手に取る。周りの男たちに囲まれながらセツは陣の先頭へと向かった。先頭に立つと向こうの大将も同じように待ち構えていた。グラードのその彫りの深いよく焼けた顔がにやけた。

「よお、見ないうちにいい女になったな。」

余裕そうな顔でグラードが投げかける。

「そっちこそ、見ないうちに老けたんじゃないのかい?」

セツも淡々と口を開くと、老けたと言われてグラードの顔に細かい皺が走った。

セツはこの男と特に話すこともないし話したくもなかった。自分の親といえど親らしいことをしてもらった覚えはない。母を早くに亡くし、自分は常に周りの男たちに任されっきりで父親からは全く相手にされない窮屈な暮らしだった。そんなときこっそりと男たちから逃げ出し、トウシのような下働きの男たちと遊ぶことが唯一の楽しみだった。そのあとはしこたま怒られたものだが、辞めようとは思わなかった。

「まあ、特に俺も話したいことはない。さっさと蹴りをつけようじゃないか。」

この男もセツと同じことを思っていたようだった。その辺は認めたくないがやはり親子なのだろう。

グラードが懐から1枚のコインを取り出した。コインが反射してきらりと銀色に輝く。

「俺がこのコインを投げて地面に落ちた時が………始まりの合図だ。いいな?」

グラードの言葉に金色の目を光らせセツは黙って頷いた。グラードがコインをその太い親指の上に乗せた。グラードが親指を弾くとカキンと爪とコインがぶつかる音がしてコインが空高く舞い上がる。その光景の一つ一つがゆっくりと見えた。

ぎらりとひときわ強くコインが反射して弧を描く。弧を描くとコインはするすると吸い寄せられていき………地面に触れた。


「「かかれ!」」


親子ふたりのよく通る声が同時に発せられた。雄叫びと共に野郎共が一斉に土埃を巻き上げ走り出した。互いの武器が激しくぶつかり合う音がけたたましく響く。

一気に巻あがった砂埃で視界が霞んだ。セツはその中に白いフードを被った男の後ろ姿を見送った。

「上手くやってくれよ……。」

セツは一人でぼそりと呟いた。その間にもフードの男の後ろ姿はどんどん遠ざかっていった。

トウシはちょうど最前線から少し後ろのところにいた。目の前で同胞が刃を向けて戦っている。自分も剣を振るいたいが経験が浅いため、ここで自分の仕事が来るまで様子見という立ち位置に置かれた。響き合う金属音に前線を気にしながらも後ろから来るフードを被った男を待っていた。

時折男たちの呻き声も聞こえる。砂埃の隙間から見える赤がよりきつく目に焼き付くような気がした。

トウシの剣を握った手は微かに震えていた。トウシ自身戦闘経験はさほどない。というか剣を握ったことはほぼないと言って良かった。死と隣り合わせなのは覚悟していたがいざ目の前に迫るとやはり、その恐怖にも近い圧で押しつぶされそうになる。

こうではダメだと、身を引き締めるためにぎゅっと目をつぶるった時なにかが近くに迫っているのを感じだ。はっとして目を開けると白く光る刃が迫っていた。

どうやら前線が思ったよりも押されているようで、いつのまにか前線が下がってきていたのだ。トウシは飛んできた刃を持っていた剣ですんでで受けとめた。相手の武器と自分の武器が相当な大きさ等の差があるようには見えない。だが、トウシには圧倒的に重い衝撃が伝わってきた。まるで巨大な斧とぶつかったような感覚だった。自分の使っている剣が刃こぼれし、破片が降り注いぐ。

「っつ!!」

受け止めきれずに推し倒れそうになったところを何とか踏ん張った。トウシにはわからなかったが相手の武器には魔力が纏わせてあったのだ。たった少しの魔力でも纏わせられればそれは格段に威力が上がる。同等にこっちも魔力を纏わせられれば相殺できるのだが、生憎トウシにはそういう素質がなかった。

相手が軽々とトウシの剣を弾きあげ、その懐に潜り込もうとした。トウシは何とか剣を奮って牽制するも、軽々と躱され再び剣と剣がぶつかり合う。重い衝撃が再び襲いかかり今度は受け止めきれずにトウシはよろめいてしまった。

それをチャンスと言わんばかりに相手の血走った目が視界に写り、剣が自分の体目掛けて真っ直ぐと伸びてきた。

剣はトウシの腹に突き刺さるはずだった。突如後ろから赤色の閃光が走り、瞬く間に相手の男の腹から血が舞い上がっていた。相手はそのままのけぞって地面に崩れ落ちた。

何が起こったか分からずトウシが後ろを振り向くと、白いフードの男が少しの離れたところにたっていた。持っている刃がぎらりと輝いている。そして、トウシに向かって何か合図をするとそのまま前線へと走り去っていった。

トウシは突然の出来事にあたふたとしながらも、計画を思い出し懐から小さな笛を取り出してそれを思いっきり吹き鳴らした。

笛を吹き鳴らすと甲高い音が戦場に響いた。後からそれに続いて次々と同じような音が伝染したように響き渡りはじめた。仲間たちの動きが一瞬だけ止まる。

「なんだ?あれは。」

唐突に聞こえた甲高い笛の音にグラードが反応した。

笛の音と同時にある変化が起り始めたのだ。前線でぶつかって各々に戦っていた敵がそれぞれ何ヶ所かに別れて集まりだしたのだ。そして、それぞれが集まるとどこかへ移動し始めた。ある塊は荒野のさらに向こうへ、またある塊は街の方へと駆けていく。

「追え!」

敵を逃がすようなことも生かすようなこともあってはならない。

グラードは直ちに先頭集団にそれを追うように指示を出した。先頭の集団が指示通りにいくつかに別れて敵の後を追いかけた。先頭の兵力が抜けたことで真ん中に控えている陣が先頭に立つこととなった。

グラードはこの奇妙な変形に特に焦りもしなかった。所詮先頭集団はこの後ろを守るための縦のようなもの。主な戦力であるこの中陣の用心棒たちはそんじゃそこらのゴロツキとは違う。剣を振るえるのはまだかとギラギラと光るめがひしめき合っている。

それに中陣が前線に立つことになったのは向こうも同じだった。セツの陣も先頭集団が散っていったため同じような状態だった。だが向こうに見える用心棒らしき者は少なく顔はどれも見かけたことのあるものばかりで、数もこちらより少なかった。つけ焼き刃のゴロツキが手練の用心棒を中心に構成した陣にかなうわけがない。このままぶつかれば優位に立てるのは目に見えていた。

グラードは冷たい笑みを浮かべた。

「いけ!」

グラードの怒鳴り声と共に用心棒たちは相手の陣に向かって突進していく。それは荒れ狂う獣同然だった。セツの陣もそれを向かい撃つように動き始めた。

「………?」

グラードが顔を顰めた。敵陣がこちらのように勢いよくは突っ込んでこない。まるで周りを見て足並みを揃えて走っているようだった。その予想外の動きに雇った用心棒たちの顔にも戸惑いの色が見えたが勢いを止めることはなかった。そっちが来ないならこっちが行くまでと、そのまま我が敵に向かって走っていく。

敵陣は相変らすの速度で向かってきた。だからその中から一つの人影が抜け出て先頭を一人で走り始めたのはよく目立った。白いフードを深く被った人影はどんどんと後ろの集団を置き去りにしていく。それでも集団は慌てることなく同じペースでそれを追いかけていた。

前に出たたった一人が無鉄砲にこちらに突っ込んでくるように見えた。明らかにありえない行動に走る用心棒たちは苦笑していた。なぜこんなことをしたのかこのフードの男に尋ねたくなるくらいだった。用心棒たちは雄叫びを上げていっせいにフードの男に向かって刃をむけた。

「ぐわっ!!」

男の悲鳴が聞こえる。その悲鳴の正体は先頭を走るフードの男に切られた男のものだった。前を走る男たちが次々とその男に腹を斬られたり、貫かれたりして鮮血を巻き上げて崩れ落ちていく。

用心棒たちは集中してその男に襲いかかるが、男の持っている武器が唸り声をあげるとあっという間に迫り来る刃を弾きあげてしまった。大きな金属音が戦場に轟く。その間に男は武器を手の中で滑らせどんどんと目の前の男たちを切りつけていった。次々と呆気なく倒されていく同胞に用心棒たちはたじろいた。たった一人の男に一瞬で五人以上も片付けられてしまったのだ。男のもつ長い柄の先についた湾曲した刃が淡い赤の光を纏い、振られる度に尾を引き残像を残した。

前線の様子を見て、中陣の後ろにいる大将をとりまく男たちからざわめきが起こった。その男たち、及びグラードはあの武器に見覚えがあった。

男の武器は全く無駄がなく的確に狙ったところを捉えながらも伸びやかで速い。あれほど武器が意志を持った生き物のように暴れ回るのを初めて見た。

男は依然とその湾曲した刃、薙刀を振るい続け白いフードを赤く染めていく。用心棒たちは大きく吼えると一斉に刃を突き出し男に向かって突進した。さすがにこればかりは男も受け止めきれないと判断したようで、男たちの間をするするとすり抜けて躱していく。

が、躱した先にもまた用心棒たちが待ち構えていた。男に向かって刃が繰り出される。それをギリギリで交わすも、被っていたフードは大きく引き裂かれてしまった。その時、フードの男の顔が見えた。フードの男の口角が確かに上がったのを男は確かに見た。まるでこの瞬間を待っていたかのように口をニヤリとさせ、ぎらりとまるで闘技場に放たれた獅子同然の目を光らせていた。目が会った瞬間男の背筋は凍りついた。

この戦場を楽しんでいる。それを読み取るのは簡単だった。

男はボロ切れ同然になったフードを脱ぎ捨てた。せっかく借りたものなのにダメにしてしまうとは申し訳なかった。だが、あれだけ血を付けてしまったあとなのでどっちにしろダメになるしかないのだろう。さっきまで狭かった視界が開け、舞い上がった土埃と鮮血の間であの目に焼き付く桃色の髪が揺れる。

ジルは手の中で薙刀を回転させ、フードを引き裂いた男を切りつけた。後ろから迫り来る刃もその目を大きく見開き、男を切りつけた回転を利用して後ろを振り返る。と、同時に薙刀が強く発光する。ジルが大きく踏み込んで薙刀を薙くと、そこから赤い閃光の斬撃が放たれた。赤い閃光の斬撃は男たちに向かって一直線に飛んでいき、激しく砂をまきあげて男たち諸共を吹き飛ばした。周りに倒れた男たちはジルを中心にして倒れる図が作り出された。気づけばジルの後ろにいた郡団も追いついて加勢し始めた。中陣の大半をジルは片付けていたので数の差は完全に無いものとされていた。いくつもの刃がぶつかり合う音が響き渡る。

中陣の後ろにいるグラードをとりまく男たちが焦り始めた。たった一人の男に戦力の大半をそがれてしまったのだ。逆に焦らない方がおかしい程だった。グラードにはそのざわめきが酷く不快なものに聞こえた。彼は「黙れ。」と一言叫んだ。彼の眉間にはいくつものシワが深く走っていた。

「いったいどういう手を使ったんだ……あの女は!」

なんとも惜しいやつを逃してしまったものだ。

グラードは苛立ちとともに吐き捨て、敵陣の遥か後方を睨みつけた。

「すごい……。」

陣の後ろに控えているセツがぽつりと呟いた。周りの男やジルの後ろの郡団も唖然としていた。病み上がりだとは思わせないほどの鮮やかな動きは、まるで一種の舞をみているような感覚だった。たった一人でここまで成し遂げてしまった彼の実力は本物だと痛感させられた。

ジルが戦う代わりに付けてきた条件は三つあった。

まずはラピスをどこか安全なところに匿うこと。これは若い女や老人、まだ戦うには早すぎる子供たちと一緒にヤツキの元へ預けることにした。ヤツキをこれ以上巻き込まないためセツはあえて多くは話さなかったが、だいたいラピスや子供たちから聞きつけて察されているころだろう。

二つ目の条件は今まで集めた情報の開示だった。上層部でしか取り扱われていないものも全て開示して欲しいとの事だ。セツは最初聞いた時、なぜこの男はここまで情報が欲しいかりかいできなかった。それは三つ目の条件を聞いた時に分かった。

それは自分の立てた計画に従ってもらうことだった。情報を開示してしばらくした後ジルがこの条件を突きつけてきたのだ。その時にざっくりとした内容を尋ねた。セツも荒削りで突拍子もない計画にたいそう驚いたが協力してもらうためにもここは食い下がって彼に任せることにした。

作戦の内容はこうだった。

相手の陣系はまず最初に縦替わりの前陣を置く。そしてその後ろに主戦力の雇った用心棒を中心とした中陣、そのまた後ろに大将を置くという構図だった。それをまずこちらも真似る。だがこちらは前陣を縦替わりに使うのではなく別の方法で使用する。正面からぶつかれば数の差で簡単に打ち負かされてしまうので、何かしらの方法で戦力を削ぐ必要があった。

そこで前陣をいくつかのグループにわけて盾を誘導する。相手はこちら側についた人間を生かすような真似をしない。だからどこかへと移動すれば必ず追いかけてくる。そこを利用して縦の戦力を削ぐということだった。誘導人はただ敵を倒そうとせずに時間を稼げさえばいい。なんでもいいから時間を稼ぐように指示を出す。

この作戦はこちらの戦力も削げてしまうが大量の盾を一気にどかせられると考えればどうってことはなかった。

だが、問題は後ろの中陣からだった。中陣の主な構成内容は用心棒だ。戦闘に関してはプロで、ハッタリだけで生きてきた輩がかなうわけなどない。こちらにも何人か用心棒がいるといえどあれだけの数を相手にするには無理がある。セツがその辺りを問いかけた時。ジルは平然とこう言ったのだ。


「だから俺がその半分を片付ける。」


その時は突然何をいいだすのだとセツは呆れてしまった。どう考えても世界中でこの状況でその答えを出す奴はこの目の前の男しかいないとだろう思った。だが彼にはふざけている様子は全くなかった。

反対する前に、あまりにも真面目な彼をみてとりあえず中身を聞くことにした。

中陣が動き出したらこちらも動き始める。だが全員を一気にぶつけるのでは意味が無い。相手がどんどんと向かってきていてもこっちはゆっくりと走って向かっていく。ジルはその中に混じってしばらく走った後、陣を置いて一人だけ前に出る。そこで相手を片付けるということだった。陣が追いつく頃には何人か片付けることができるはずだということだった。

作戦の内容もあまりにも無鉄砲なものであったが、セツは賭け事は嫌いではなかった。彼の実力を信じてこの計画を実行することにした。

トウシたちも見ず知らずの一人の用心棒が提案した計画を聞いた時最初は信じる気になれなかったが、セツに後押しされて半信半疑で計画を実行したのだ。

その時のジルの迫り来る男たちを次々と倒していく薙刀裁きにトウシはただ呆然として後ろから見ていた。素早く無駄のない鮮やかな動きは、戦闘の経験のない素人であるトウシがみても圧倒的な強さを物語っていた。

彼は今も前線で薙刀を振るっているのが見えた。赤い閃光が走り、風と共に男たちを薙ぎ払う。彼の表情は戦うことが楽しくて仕方がないように口を開けて笑っていた。

それと対してグラードが押されている前線を静かに厳しい顔で見ていた。あそこまで強い生気を宿し、生き生きとした目をした者を今まで見た事はなかった。

周りの側近たちは慌ただしく武器を手に取り始める。この周りの男たちも「旧」の精鋭部隊といえどあれだけ激しく暴れる獅子に勝つことを想像するのは難しかった。

グラードがそのうちの何人かに、声をかけた。小声で何かを話している。それをセツの金色の目が捉えた。声はこの男たちの怒号が響き渡る戦場で聞こえるわけなどなく、なんとか口の動きを読み取ろうとするが遠すぎてよくわからない。なにか重要なことを話しているのだけはわかったのでじっとそれをみていた。

その時、不意に何人かの男と共にグラードの姿が消えた。

「?!」

セツは何が起こったのかわからなかったが、すぐ後ろで男のうめき声が聞こえた。すぐに振り返ると、そこに自分の父親と何人かの側近の姿があった。そのすぐ前に倒れた仲間の姿もある。周りの男たちが一気に殺気立つ。

グラードの手には青いガラス細工のような小さい塊を握っていた。セツはそれがなにかすぐにわかった。

「「転送玉」………随分といいもの持ってるじゃないか。」

セツは悪態をついて笑った。グラードの手にあったガラス細工はそれと同時に一人出に砕け散った。

「転送玉」とは魔法道具の一種で、特定の範囲内なら1度だけ自分の望んだ所に行けるというものだった。なかなか作るもの大変なようで高額な代物である。質が悪いと自分の望んだ所に行けない時もあった。

「ああ、結構金を使っちまったけどな……。こういう時に使うとは思ってなかったけどな、万が一と思って買っといて良かったよ。」

グラードは冷たく笑い手の上の破片を捨てた。

「で?なんだい?そっちから来るなんてらしくないじゃないか。」

セツは大きくなる鼓動をかき消し、冷ややかに投げかけた。

「まさかそっちにあんなバケモンがいるとは思ってなかったんだよ。………いったいあいつにいくら渡したんだ?」

グラードが飄々と笑って尋ねた。セツは無視した。あっちから条件付きで引き受けてくれたと言っても信じないだろう。

答えないセツを見て、グラードはこれ以上聞いても無駄だと思ったのかさらに続けた。

「あいつらはもう使えん。弱い奴らはあのまま強いヤツに淘汰されていくのがこの世の常ってもんだしな。部下が使えなくなったらどうするか?そりゃ、自分で動くしかないだろうな。」

セツはグラードの人を物のように扱う態度に反吐が出そうになった。情のないこの人間を父親だとは思いたくなかった。

グラードが自分の左腕に付けている腕輪に触れる。その腕輪には赤紅石が嵌められていた。

セツの右腕にも同じものが付けられている。

真紅の光が赤紅石があふれ大きく膨らみ弾けた。彼の手には赤黒い鞘に収められた太刀が現れていた。グラードがすらりと鞘から太刀引き抜いた。一気に殺気がさらに強くなる。だが、セツはそれを制した。

「どうだ、大将対決といこうじゃないか。馬鹿娘が。」

白く光る刃が真っ直ぐとセツに向かって向けられる。セツも二本の脇差しを鞘から抜き、右手の一本をグラードに向けた。

「そうこなくちゃな。クソ親父。」

互いにニヤリと笑い、刃を構えた。

乾いた風がひゅうっと通り過ぎた時、二人は同時に地面を蹴った。

激しく響き渡る刃の音と共に、二人の最後の親子喧嘩が始まったのだった。

気づいたらだいたい8000字を超えるようになりました()長文の呪いです とうとう直接対決です続きます

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