序曲
ある晴れた日の午後、私、マグダレーネ・フレーゲは息子のウーベを連れて公園に来ていた。辺りにはうっすらと雪が積もっていて、少し肌寒いけど陽が出ているからそこまで寒くはなかった。
私はぼーっとベンチに座りながら息子がボールで遊んでいるのを眺めてた。やっぱり、うちの息子は世界一可愛い。天使かと見紛うほどきらきらと輝く金髪、あの人に似たみどり色の綺麗な瞳、うん、どこをとっても天使だ。うちの子以上に可愛い子はどこを探したっていない。
「ママー!」
ご機嫌で遊んでいた息子がこちらを無邪気に振り向いた。
「なあに?」
私が優しく問いかけると、天使はニコっと笑って突然こちらにボールを投げた。
「あっ」
息子の投げたボールがコントロールを誤り、私の隣に座っていた人に直撃する。
「すみま…」
私は隣に座っている彼に謝ろうとして横を振り向き、あまりの衝撃に息を呑んだ。
なぜなら、隣に座っていた彼は、3年前に村を出て行った私の幼馴染だったから。
間違えようがない。王子様のような綺麗な容貌に、美しい翡翠色の瞳。最後に会った時よりもさらに成長して美少年から美青年になっていた。
本当に、原作通りの彼に近くなった。そして、いやでもこの世界の真実を思い起こさせた。
そう、ここは乙女ゲームの世界で、彼はゲームの主要登場人物のうちの一人だ。そして私は本編にすら出てこない、ただの村人A。
本来ならば、彼は今頃ヒロインと結ばれていてもおかしくない。なのに、原作を思い出してから興味本位で色々行動してしまった私のせいで、おそらく原作は書き換えられてしまった。
そもそも私がゲームの内容を思い出したのは、もっとずっと前、彼の故郷の村でもあるヴレーメン村に住んでいた時だった。