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私が悪役で、妹がヒロインで

「おーほっほほほ」


 今日も今日とて悪役面の私の高笑いが構内中に響く。

 散らばったプリントを踏みつけながら私が考えているのは今日のご飯って何だったっけ?と現状とは全く関係のないこと。


 まぁこれは日課みたいなものだからやっているだけで、いつものように人一倍顔立ちの綺麗な彼女に軽めのタックルをかまして、落ちた何かを踏みつけるまでの一連の行為が身体に染みついているのだ。


 だがこれは嫌がらせとかそういうんじゃない。というかこれは転生前、仲良しだった妹と交わした約束を守った結果である。


 怪我しない程度に尚且つ私以外の悪役令嬢が湧いてこない程度に嫌がらせをし、ついこの間まで平民としていたのに何やかんやあって男爵家に引き取られてしまった妹へのエールのようなものだ。


 だから止めない。

 大事な妹が推しを攻略するまではお姉ちゃんがシナリオ通りに進めてあげると約束したのだから。



 死んだのは2人一緒だった。

 仲良くアニメグッズをたくさん置いてある本屋さんへ今期一押しのキャラグッズを買いに行った帰りに居眠り運転のトラックに轢かれたのだ。

 それで次に目を覚ました時には私は随分昔に妹と読んだweb小説の中の悪役令嬢になっていた。


「ここまでの流れもラノベかよ」

 鏡で自分の顔を確認して開口一番に出た言葉はそれだった。

 そのおかげで一週間ほど精密検査を受けさせられる羽目になった。


 当たり前のようにいた婚約者は私の推しキャラではなかったが、今作のメインヒーローでもあった。

 ワガママを言うなら本編完結後で更新されたifルートパート1での相手、主人公の幼馴染のキャラクターの方が好きで、できればヒロインに転生させてほしかったのだが……そこまで融通は利かないのだろう。

 まぁそんな都合よくヒロイン転生キタコレ!なんてならないのは数多くのラノベで学習済みである。



 私達姉妹の本棚の肥やしであったラノベの知識が生きることはなかったし、むしろいうなら世界観も全く違うこの世界で前世の記憶もあんまり役には立たなかったが、特にこれといった問題なく過ごしてきた。



 ――そう、学園入学までは。



「少しお時間よろしいでしょうか?」


 入学式を済ませた後にとある少女に呼び出しを食らった。

 社交界でも見たことのないその顔に、平民の出の割によく公爵令嬢に話しかけられたな……と感心しながら、信用できる護衛を一人だけ連れて空き教室までついていくと彼女は周りに誰もいないことを確認してから抱き着いた。


「ずっと会いたかったよ、美智お姉ちゃん!」


『美智』なんて名前で呼ばれるのは10年ぶりで、前世以来のことだった。


「まさか悠美も転生して……」

「うん、そうだよ。私、ヒロインなの! ちなみにお姉ちゃんの推しは今、シナリオ通り村にいる」

「どうだった?」

「ファンアート通りのイケメンだった。けど私の好みではない」


 このバッサリと切り捨てる物言いは確かに私の妹である。疑いようもない。


「悠美~」

「お姉ちゃ~ん」

「「協力して」」

 そしてハモるところもさすがは私の妹なのである。


「相変わらず推しは次期宰相でおk?」

「おk。お姉ちゃんの方は?」

「とりあえず婚約破棄したい」

「王子様はやっぱりこっちでも腹黒?」

「まだわかんないけど、本編読了した身としてはあのエンドは避けられるものなら避けたい。後、結婚するなら鍬の似合う筋肉質の男がいい」

「王子はお姉ちゃんの好みと真逆だもんね」


 今まで婚約相手に不満などなかった。好みではないが。シナリオと違ってか、私にさらしていないだけか、腹黒ではなさそうだし。それに病んでもいない。もう一度言うが好みではない。


 だが最終話付近でヒロインがベッドに鎖で繋がれて嘆くシーンを読んだ私からしてみれば、彼へのイメージはあまりいいものではない。どんなに優しくされようが、過去の記憶が呼び覚まされるのだ。


 まぁ病まなければいいかなんて思っていたが、人間は欲深い生き物なのだ。


 結婚自体を回避できるものならしたい。



 ――こうして私は王子と婚約破棄をするために、そして悠美はifルートパート3の相手である次期宰相殿を攻略するために手を組んだ。


 ……のだが、順調に進みつつある悠美の方はさておき、私の方は進展する様子がない。


「ミラー」

「何ですの?」

「こういうのは、その……感心しないな」

「そうですか」


 こうして腹黒 (予定)の婚約者の目の前で悪行を繰り返して、さらにつれない態度を取り続けているのに彼は婚約破棄を言い渡す兆しさえ見えないのだ。

 いや、まぁ一国の王子としてそう簡単に婚約破棄を言い渡すほどオツムは弱くないけどさ……。でも、そろそろ……ね。見捨てるくらいはしてほしいんですけど……。



 ――なんて甘い考えをしていた時期もあった。


 いや、まさか卒業して早々にあのシナリオに突入するとか思わないでしょ……。


「僕だけのミラー。これからはずっと僕だけを見て?」


 いつの間に私の婚約者様は、いやもう夫か、は病んでいたのだろう。


 そんな兆候なかったじゃん!


 学園入学前も普通だったし……あ、いやちょっと待てよ?


 思い返せば社交界デビューの日、私と踊ったファイロン家のご令息を学園で一度も見かけていない。

 一年次に隣の席だったシュラッド家のご令息も療養のためとか言って結局卒業まで帰ってこなかったな。

 それからずっと三年間王子の隣の席で…………ってめっちゃ兆しあったわ!!


 フラグめっちゃ立ってんじゃん! 気づけよ、私!


「ねぇミラー、何を考えているの? あの、男爵令嬢の事? ごめんね、リヒルのお気に入りでさえなければあの女のことも君の前から消せたんだけど。ほら、リヒルには今後も国のために働いてもらわないといけないからさ……」

「ああ、えっと、そこまでしてもらわなくても大丈夫です」


 とりあえず、妹の推しが次期宰相殿であったことを幸運に思っておこう。



 私達姉妹はそれぞれ悪役令嬢とヒロインに転生した。


 私は婚約者のヤンデレ腹黒王子と結婚し、妹はツンデレ次期宰相とうまくやっているようだ。


 転生したからと言って人生うまくいくなんて思っていない。

 だがせめて鎖は付けない方向で暮らしたいとは思うのだった。


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