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急いで身を隠し、素早く後退する。
一瞥しただけでわかる。
あいつの持っている銃は強い。
西洋映画でもよく敵側の俳優などが使い、どんなに勇敢な主人公でも真っ正面から殺り合うのを避ける。
はたまた味方にこの銃を使う人がいれば、「不安」という言葉が消える。
敵に回れば恐ろしく、味方にいれば心強い。しかも、最高の結末をもたらしてくれる銃。
『M134』、通称『ミニガン』だ。
銃に詳しくない僕でも、あれと戦うのは命を自分から捨てるようなものだということがわかる。
(ベルトみたいなのに弾をいれるやつって実在したのか………)
つまり、あれだけ予備の弾が残っているということだ。
残弾0を狙った方が良いのかも知れないという甘い考えは頭から棄てて、どうすれば奴の隙をつけるか考える。
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ウィンチェスターを構えて、壁から少しだけ顔を出し、相手の立っている位置を確認する。
奴は先程と変わっておらず、依然としてこちらを向いていた。
「上手くいくか……?」
少し息を吸い、大きく息を吐く。
狙うのは8ヶ所。
それも素早く、的確に狙わなければならない。
覚悟を決め、遮蔽物の間をすり抜けながら1つ目の目標を撃った。
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あの銃は、本体が重いのか、三脚のような物の上に固定されてあった。
つまり、持ち運びができないということだ。
移動して攻撃できない武器はどんなに威力があっても、機動力がなければそこが弱点となる。
僕の狙いはそこにあった。
先程から撃っている8ヶ所の目標物。
奴の回りにある、大きな蛍光灯だ。
こういったショッピングセンターの室内に窓があるエリアは少なく、明かりがなければほとんど何も見えなくなる。
また、奴の後ろは映画館。元から明かりを調節してあるため、十分暗い。
ということは、自分の後ろにある最も遠い蛍光灯を壊せば、そこより奥からの明かりはここまでほとんど届かない。
つまり、奴の上の蛍光灯までの8ヵ所全ての蛍光灯さえ壊すことができればこちらが優位に働けるのだ。
奥の蛍光灯程楽に壊すことができたなら、もう少しこの戦いは安全に終わっただろうが、そう上手くいかないのは仕方ないことだ。
「これで6ヵ所、あと2つ!」
自分の上の蛍光灯を2つ壊し、遂にやつの頭上の蛍光灯だけになった。
ここからが勝負だった。
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大きく後退し、暗闇に紛れる。
その行動の一瞬に僕の姿を見たのか、凄まじい銃声と共に、僕が隠れていた壁が弾ける。
(どんな威力だ!!)
あれを1発でもくらえば蜂の巣になること間違いなしだった。
念には念をいれ、手探りで遮蔽物になりうる物を探し、頭と銃だけを出して蛍光灯を狙う。
乾いた音と共にガラスの割れる音が響き、残す蛍光灯は1つになる。
「もういっぱぁーつ!!」
思わず声が出たが、気にしない。素早く照準を合わせて引き金を引いた時、辺りは全て闇に包まれた。
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ネストマンはミニガンを構えたまま、辺りが暗くなっていくことに僅かながら恐怖していた。
(何を狙っている?それでは何も見えなくなるぞ?)
何者かわからなかったが、浅はかな考えだと思いつつ、頭上の蛍光灯が割れた時、ネストマンは三脚をたたみながら少しずつ移動する準備をしていた。
そして最後の蛍光灯が割れ、辺りが暗くなったと同時にネストマンは先程までとは違う位置に急いで移動した。
その瞬間だった。1発の銃弾が先程まで自分がいた場所を通過したのだ。
(今だ!)
無理やり立てた三脚のままで、相手が撃った瞬間にでる発火炎 [撃った際に銃口から出る光]
向けて、引き金を引いた。
(これを狙っていたのか?逆に利用させてもらう!)
引き金に指をかけて1秒もたっていなかった。
喉に衝撃が走り、姿勢が崩れる。
(…え………?)
銃から手を放し、喉を抑える。グローブ越しに喉から心臓の鼓動を感じる。見えないので確認できないが、恐らく、
(撃たれた……?)
続けざまに左肩、左胸に着弾する。
(バカな………何故……?)
ネストマンの意識が体から剥がれ落ちるまで、そこから一瞬だった。
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「はぁ…はぁ……」
予想通りの行動をしてくれたのだが、やはり撃たれるということはまだ怖く、奴を倒した後も汗が止まらなかった。
「ウィンチェスターが壊れてなかったらいいんだけど……」
僕のおじいちゃんの愛銃だけは壊したくないと思ってはいるが、今回ばかりは囮にせざるをえなかった。
全ての蛍光灯をウィンチェスターで撃った後、暗闇に向けて適当に撃った1発は、いわゆる威嚇射撃だ。
撃った直後のウィンチェスターはその場に捨て、MP7を構えた僕は、ウィンチェスターの発火炎目掛けて撃つあいつの居場所を確認することができた。
あいつは、ウィンチェスターの発火炎を頼りに撃った為、僕が被弾することがなかったのだ。
しかし、単発モードのままになっていたことに気がついたのが撃った後だったので、無駄に焦ることに繋がってしまった。
「これからは気を付けないとな」
僅な明かりをつけて営業している映画館に向けて、走りながら呟いた。