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両手で口を抑え、悲鳴をあげそうになるのを堪える。涙で滲んだ目の前は真っ赤に染まっていて、少し踏めば音が出るくらい血が溜まっていた。
ここは、とある商店街のショッピングセンターの中にある家電製品売り場の2階。
事の始まりは20分前、1発の銃声と1人の悲鳴から始まった。担任の先生の誕生日プレゼントをクラスの友達と買いに来ていた"木暮 怜奈"は、3階に上がるエスカレーターの途中で、銃を撃ちながら近づいてくる灰色の男を4人と、真っ黒な男を1人発見し、周りの人に押されながらも、走って家電コーナーに入った。
銃声、悲鳴、銃声、悲鳴の繰り返しが数分続く間、体の震えが止まらなかった。
(アキ、ユウコ、生きてるなら返信してよ……お願い………)
何度もメールを送った、何度も電話をかけた。
それでも返事がないなら、もう死んでしまったのかな、そう思うことしかできなかった。
私は、恐怖と悲しみで涙が止まらなくなった。
家電コーナーの冷蔵庫に隠れること10分。誰かが近くにいるような気配がなくなった。冷蔵庫の扉を開け、おそるおそる外に出る。辺りに見知らぬ2人が倒れており、足元の血溜まりはこの2人の血で作られているようだった。
腰が抜け、足に力が入らなくなるが、しゃがんだままの態勢でゆっくりとその場から後ずさる。
家電コーナーを抜け、先程使ったエスカレーターの前まで来る。エスカレーターは稼働し続けており、エスカレーターの上で殺された人達の死体を運び続けていた。
下りのエスカレーターに中腰でのり、おそるおそる死体を跨ぎながら下の階に到着する。
1階は至るところに死体が転がっていて、不気味な雰囲気だった。誰かがどこかで生きているのかもしれない、もしかしたらアキやユウコも何処かで生きているかもしれない、まだ死んだとは断定できない。だが、探しに行く度胸もなければ、先程の得体の知れない何かに勝てるとも到底思えなかった。
「誰かに、助けてもらわなきゃ……」
助けを呼ぶ為に外に出ようと自動ドアの前まで来た時、近くで車のエンジン音が聞こえた。
「車……?」
駐車場から聞こえてくるエンジン音は、私が走り出すと同時に消えて、車がどこに行ったかわからなくなってしまった。
そして遂に、1番危惧していたことが起こった。
後ろの自動ドアが開き、銃を持った灰色の男が駐車場に出てきたのだ。
急いで近くの車に身を隠し、様子を伺う。
灰色の男は辺りをキョロキョロと何かを探している素振りだったので、私はまだ見つかっていないようだった。
(このままゆっくり隠れていれば見つからずに済む……)
車の側面に周り、ゆっくりと下がる。
その時だった。
ガチャッという音をたてて、1台の車のドアが開いた。
その音に反応した、灰色の男は私のすぐ横を通り抜けて、車へと走っていき、撃たれた。
車の中から腕だけ出して灰色の男を撃った2人は、大声で話始めた。
「だから言ったじゃないっすか!僕達は音に敏感だから誰か1人くらい来ますよって!」
「仕方ないでしょ!車は普通駐車場に停めるもの!他の所に停めたら怒られるの!」
「怒る人いないのに、何を律儀に…」
「あーもー、うるさいなぁ……、さっきの本屋で殺しとくべきだったのかな……」
「いや、その話は無しってさっき言ったじゃないっすか!!」
「あー、わかったわかった、じゃあ、車でりせちゃんを守っててよ?僕が中を見てくるから」
「りょーかいっす!お気をつけて!!」
こんな状況なのに言い争っているうちの1人は普通の男の子なのに、もう1人は今目の前で死んだ灰色の男と似たような服を着た人だった。
「あ、あの……」
「え?」
「あ」
車の影から立ち上がって助けを求める。
「アキさん!いました!生存者です!」
「良かった!まだ僕以外にも生きてる人がいたんだ!」
アキさんと呼ばれた人が駆け寄ってきて、手を出してくる。その人の片手は銃を持っていて、握手を一瞬躊躇ったが、助けてくれそうな人なのでそういった素振りを見せてはいけないと思った。
「えっと、木暮 怜奈です……」
「僕は瀧 彰人。こっちの黒い奴は"サージェス"っていいます」
「サージェスです!」
凄く楽しそうに手を振ってくれるが、黒いヘルメットのせいで、とても不気味に見える。
「じゃあ、怜奈さんは車の中で隠れててください。僕が中を見てくるので」
「後部座席が空いてますんで!どうぞそちらに!」
「は、はい……」
後部座席のドアを開けて中に入ると、1人の少女が寝ていた。顔は気持ちよさそうに寝ているが、露出している肩には、綺麗に包帯が巻かれており、所々血が滲んでいた。
「あ、そうだ、怜奈さん、中がどうなってるか分かりますか?」
「えっと、灰色の男がまだ3人と、サージェスさんと同じ黒い人が1人いましたけど、どこに行ったかわかりません……」
一瞬しか見ていない為、まだいたのかも知れないが、知っていることは全て言う。
「ありがとうございます!」
彰人さんは私の情報を聞くと、自動ドアから中に入っていった。