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台所から果物ナイフを取り、りせちゃんの左肩の布を引き裂く。
そこには銃弾が深々と刺さってあり、出血が止まりそうな気配はなかった。
「じっとして、動かないで」
体に触れる度に痛がっている為、銃弾が回収できない。仕方なく馬乗りの体制になり、無理やり押さえ込む。
「我慢してね」
親指と中指の爪で銃弾を掴み、引っこ抜く。りせちゃんは痛みに堪えられなくなったのか、気を失ってしまったが、こちらからすればとても好都合だった。
流れ出る血をタオルで拭き取り、消毒液をガーゼに染み込ませた物で軽く拭く。
これが正しいのかはわからないが、消毒液が染み込んだ新しいガーゼを傷口に当て、上から更にガーゼを置く。そして長めの包帯を使い、固く固定する。
今の自分にできる応急処置はこれくらいだ。
これ以上は僕も何をしていいのかわからない。
だが、いつまでもこのままとはいかないので、できるだけ速く専門知識を持った人に診てもらわなければならない。
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りせちゃんを車の後部座席に寝かせ、アクセルとブレーキを確認する。
これまでの奇妙な状況から考えると、恐らくほとんど全ての大人が消えてしまったとみていいだろう。そうなれば、生きるために必要な知識を身につけなければならなくなるが、インターネットが停止している為、本から知識を得るしかない。
家から道路に出るとき、試しにナビを起動してみたが、やはりこれも使うことができなかった。
「やっぱり駄目かぁ……」
昔から、じいちゃんの家以外の所は、本屋くらいしか行ったことがない。なので、ほとんどの道がわからないというのが本音だ。
「とりあえず北に向かって走ってみようか」
高松市の中心は北側なので、大きなショッピングモールもその付近にある筈だ。
現在必要な物は、本・医薬品・食料の3つ。
その全てを手っ取り早く手に入れるならショッピングモールの方が効率がいい。
また、そういった物を収納する大きな居住区も必要になってくる。
だが、いつさっきみたいに襲われるかわからない為、安易な行動は控えた方が良いのではという考えもある。
「まあ、到着してから考えることにするか」
りせちゃんの傷が深く、薬も底をつきそうな為、無理をしてでも入手しなければならない。なら、怖がって逃げるよりも戦って目的を達成する方が、自分にとって良い経験になる。
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道路の至るところに、運転手のいなくなった車が点在している。ほとんど全ての車がエンジンのかかった状態なので、ゆっくり動いているものや、衝突しているもの等、様々だ。
家から1番近い本屋に到着し、奪ったばかりの銃を構える。あえて裏口にまわり、静かに中に入る。足音をさせないように素足で来たのが正解だったのか、家にいたロボットと同じような黒色と灰色の機械が中に2体いたが、どちらにも気づかれていないようだった。
2体は離れた距離にいるため、片方を始末した後、直ぐにしゃがめば本棚が邪魔をしてくれるので、位置がばれることはないだろう。
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1番手前の灰色の奴に手が届きそうな距離まで近づき、ちょっとした実験を始める。銃を本棚に置き、後ろから首に手を回し左手で顎を、右手で頭を掴む。そして、勢いよく逆方向に捻る。
人間はこれをされると首の骨が折れるらしいが、こいつらに効くかどうか試してみたかったのだ。
良かったというべきか、一瞬でこいつの足から力が抜けていった。
(首の骨があるのか…)
ということはだ。恐らくもう1つの実験で、こいつらが何なのかがわかるかもしれない。
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死んだであろう灰色の頭を、勢いよく床に叩きつける。薄い金属製の頭なのか、軽い音が辺りに響き渡る。
そして、本棚の銃を回収し、通路にうつ伏せの状態で隠れて準備万端。
音に反応したもう1体が不思議そうに近づいてきて、死体に駆け寄る。
その油断しきった瞬間を狙っていた僕は、簡単にチョークスリーパーの体制に持ち込んだ。
家の死体と、さっきの奴の死体はどちらも首の部分が布のような素材で覆われていたので、もしやと思い、この技を選んだがどうやら有効らしく、じたばたともがき続け、力無く床に倒れた。
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「これくらいでいいかな」
医療関係、建築関係、野草を使った料理本、各種図鑑など、自分の持っていない知識が載っている本をかき集め、車に運ぶ。まだりせちゃんは起きていないようで、包帯とガーゼの取り替えも簡単に済ませることができた。
そして、趣味のコーナーからミリタリー関係の本を入手し、手元の銃を調べる。
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まず、じいちゃんの家で襲ってきた奴の銃が
『MP7』、重量1.6kgで装弾数40発。『ウィンチェスターM70』よりもかなり軽い銃だ。
次に、先程首の骨をへし折った奴の銃が
『UD M42』、マーリンという可愛らしい愛称で、重量4.2kgの20連発。ストレート・ブローバックの銃らしい(どういう意味なのかはわからないが)。
そして、最後に倒した奴の銃は
『コルト・ディテクティブスペシャル』という、非常に小さな回転式拳銃だった。595gで、装弾数6発。他の拳銃をあまり知らないので、どういう立ち位置なのかはわからないが、非常に握りやすい銃だ。
悪用されては困るので、全て僕が回収する。
本を見ながらいろいろと確認していると、それぞれの銃弾が別々だということがわかり、撃ちきってしまえばそれっきりになってしまう可能性が新たにでてきた。
だが、予備の銃弾を持っていない奴なんているのだろうかと疑問に思い、改めて死体に手を伸ばしたその時、首を絞め、気を失っていた黒色の奴がゆっくりと立ち上がった。
いろいろな銃を登場させておりますが、後程詳しい解説をさせていただきますので、お待ち下さい。