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耳元を通り抜けた銃弾は、背後の木に着弾した。
おそらく警告の1発なのだろう、わざと頭の横を通したとしか思えない。
だが、その1発だけで僕の勇気は針を刺した風船のようにしぼんでいった。
体が硬直し、たったの1歩も踏み出せない。
背中に冷たい汗が流れる感覚がはっきりとわかる。
今の1発で居場所はわかった、移動もしていない。
だから、今ならまだどうにかできる。
だが、どうしても体が動かない。
僕はこの時初めて死を覚悟した。
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こたつの中に隠れていたりせは、発砲音を聞いて本能的な危険を感じた。
「なに…?今の音……」
こたつから這い出て、玄関に向かう。そして近くの小窓から外を伺うと、彰人さんが立ったまま小刻みに震えていた。
りせはこの時初めて銃声を聞いたので、何が起こったかは判断できないが、りせにもわかることはあった。
「彰人さん……怖がってるのかな………?」
銃声がしたにも関わらず、1歩もその場から動かない。
それなのに、手に持った銃は離していない。
つまり、
「さっき急に現れた男の人が音の原因……?」
さっき現れた人が銃を持っていたとすると、それを危険に感じた彰人さんが私を家に入れるように声をかけたことと辻褄があう。
つまり、今彰人さんはピンチなのだ。
りせはそう捉え、近くにあった柱時計を勢いよく倒した。
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死を覚悟し、手から銃が落ちそうになったその時。
家の中から何かが倒れる大きな音がした。
何が倒れたのかわからない。
しかし、その音が僕の張り続けていた緊張の糸を一瞬緩ませた。
音に反応したのはこいつも同じようで、家に向けて発砲し初めた。
おそらく音の原因はりせちゃんだろう。
どこにいるのかわからないが、今は無事でいることを祈るしかない。
あいつの意識は今、家の中に集中している。
つまり、今しかチャンスがないということだ。
りせちゃんのおかげで死への恐怖がわずかに薄まった。
体は震えているが、まだどうにか落ち着いて狙える程の震えだ。
M70を構え、堂々と銃を撃ち続けている奴の頭に照準をあわせる。
再度改めて深呼吸を数回おこない、トリガーに指をかける。
「はぁー……」
大きく息を吐き出し呼吸を止め、僕はトリガーを引いた。
発射された銃弾は照準通りに真っ直ぐ進み、およそ30M先で銃を撃ち続けていた人のような機械のこめかみ部分を撃ち抜いた。
発砲音が止み、今までの銃声が嘘のような静けさに戻る。
おそるおそる近づき、銃口で体をつついてみる。
反応が無い。
死体を仰向けにして、銃を回収する。
僕はおじいちゃんが持っている銃のことしか知らないので、名前などはまったくわからないが、ウィンチェスターのような単発の銃でないことはわかった。
死体から離れ、りせちゃんの安否を確認するために家に入る。
「りせちゃん……?」
大声で呼び掛けてみるが、返事がない。
まさかと思い、あわてて玄関近くの書斎に入る。
そこには肩から血を流し、小刻みに震えているりせちゃんがいた。