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塗り立てのコンクリートのような灰色のボディーに、カメラのレンズのような紫色の眼、そして手に持った銃。
誰が見ても普通の状態ではなかった。
「りせちゃん、家の中に入って隠れてて」
「知り合い…?」
「ううん、知らない人」
りせちゃんを一旦家の中に隠す。もしこいつが銃を撃ってきた時に被弾でもしたら大問題だからだ。
「………………………………………」
「………………………………………」
20M程の距離でにらみ合う。
おそらくここで後ろを向いた時、こいつは撃ってくるかもしれない。
推測に過ぎないが、もしもそうなれば成す術はない。
視線を切らないように1歩ずつ後退りを始める。
どうにかしてじいちゃんの部屋に行くことができれば僕の勝ちだ。
しかし、こいつが何をしでかすかわからない為、安易に家の中に入れない。
こいつはまだ最初の立ち位置から1歩も動いていない。
どのくらいの身体能力があるかわからないが、普通の人間位であることを願う。
じいちゃんの部屋は玄関から左にある通路の突き当たり。
走ればおよそ6秒程だろう。
「一か八か……」
覚悟を決め、玄関目掛けて一気に走る。
石造りの玄関なので普通なら躊躇する所なのだが、痛みを我慢し、スライディング。
撃ってこない。
杞憂だったのかも知れないが、今はそれよりも先に部屋へ向かうことを優先する。
襖を開き、衣装棚へ飛び付く。
幼い頃に見せて貰ったじいちゃんのコレクション。
下から2番目の引き出しを引っ張ると出てくるそれは、生前のじいちゃんに長年連れ添った愛銃、
『ウィンチェスター M70』。
重量は4,3kg、装弾数4発にボルトアクションと、じいちゃんが愛してやまない銃だ。
1番上の段の引き出しの奥に弾のケースがある。
初めて見たときは絶対に触るなと言って怒られた、懐かしい物だ。
だけどごめんよじいちゃん、じいちゃんは必死に隠してたけど、僕は1回片付ける所を見てたんだ。
厳重なケースの中には50発程の弾が残ってあった。
その全てをポケットに詰め込み、4発だけ弾を込めて、玄関に向かう。
玄関ではりせちゃんが扉を開けて外を見ていた。
「ねえ、あの人どこに行ったの?」
「え?」
「いなくなってるよ?」
まさかとは思ったが、りせちゃんの言うとおりでどこにもあいつはいなかった。
勝手にいなくなったならいいのだが、銃を持っていたので、急に襲われる危険性がある為、排除できるまで安心することができない。
この家に2階はないので、高所から見渡すことはできない。
「りせちゃん、台所にある、こたつの中に入って隠れてて」
「こたつ?」
「うん、ここはちょっと危ないから」
「?、わかった……」
何が起きているのかまだ理解していないのだろう。
怖がる様子もなく、素直に言うことを聞いてくれる。
家の全ての出入口に鍵をかけ、玄関から堂々と外に出る。
家の中の方が安全だが、引火するのが怖いため、外で戦うことにした。
家の周りは木が多いため、非常に隠れやすく、また、探しにくい。
また、この銃はボルトアクションなので、1発撃つ度に、手動で薬莢を出さなければならない。
つまり、最初の1発だけが勝負なのだ。
セーフティを外し、深呼吸をする。
その瞬間、耳元を1発の銃弾が通り抜けた。