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香川県高松市にある、高松空港付近の山奥に、僕の祖父母は住んでいる。
おじいちゃんは猟師で、小さい頃からいろんな野性動物を見せてくれた。(ほとんど死体だったが)
そんなおじいちゃんも、92歳の誕生日を迎える前に、あの世へと旅立ってしまった。
葬儀では、何度もじいちゃんの姿を見て泣いた筈なのに、涙が止まらなかった。
葬儀のことはそれだけしか覚えていない。
目が覚めた時には、12時をまわっていた。
泣きすぎたせいで目が少し腫れている。
食事をとっていないが、東京に帰る準備をしていないので、先に準備をしなくてはならない。
キャリーバックに荷物を詰め込んだら、玄関に置く。
ほんとうは車に置きたいのだが、父さんが鍵を持っているので車が開けられない。
おそらく母さんも父さんもまだ準備をしているのだろう、時間が迫っているのにまだ出てくる気配がない。
「…………お墓………行こうかな………」
次はいつここに帰ってこれるかわからないので、最後にもう一度だけ挨拶をしたくなった。
サンダルに履き替えて、小走りでお墓に向かう。
近くの道路沿いにお墓はあり、墓地の中で1番大きい墓なのですぐに区別できる。
「ここでキャッチボールしてたなぁ……」
おじいちゃんとの思い出を振り返りながら手をあわせ、泣きそうになりながらも、なんとかこらえつつ祈っていると、急に肩を叩かれた。
そこにいたのは12歳程の女の子で、さっきまで泣きじゃくっていたのか、目が真っ赤だった。
「ど、どうしたの…?」
「お母さんが、いなくなっちゃったの……」
「お母さんが?」
「うん…、急にお母さんがいなくなったの……」
今にも泣き出しそうな震えた声で、眼を擦りながら少女はポツポツと話だした。
「車を運転してたのにね?いなくなったの……」
「う、運転中に!?」
いきなり声をかけてきてこんな変な話をしてくるあたり、ドッキリか何かだと思った。
運転中に消えたというのは本当なのだろうか。
「君、名前は?」
「……多田………りせ…」
体を震わせながら、消えそうな声を絞り出す。
「僕は瀧 彰人。りせちゃん、とりあえず僕の家に行こう、で、落ち着いてからまた話を聞かせてくれる?」
「うん……」
この子の話を信じていないわけではないが、僕も出発の時間が迫ってきているので、おばあちゃんに任せるべきだと思う。
りせちゃんの手を引いて家に帰り、玄関から大声でおばあちゃんを呼ぶ。
…………………。
返事がない……。
「ちょっとここで待っててね」
「うん」
靴を脱ぎ、台所に向かう。
「いない……?」
昨日、見送ると言っていたはずなのに、おばあちゃんの姿はそこにはなかった。
「部屋かな……?」
襖を開けて中を見るが、誰もいない。
「母さん、おばあちゃんがどこにいるか……」
母さんの部屋を開けてみるが、母さんもいない。
もう車に乗って待っているんじゃないかと、車がある裏口に向かう。
「エンジンがかかったままなのに誰も乗ってない……?」
やはりそこにも姿はなく、ドアが開き、エンジンがかかったままの車がそこにあった。
もしやと思い、ケータイに電話しようとする。
「え……?圏外…?」
昨日まで使えた筈の通話ができなくなっていた。
試しにインターネットで適当なことを検索をしてみるが、機能していない。
「どういうことだ?」
急な展開過ぎて、頭がついていかない。
落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、ゆっくり深呼吸する。
ある程度落ち着いてからまた考えてみたが、何が起こっているのかまったく理解できない。
「お兄ちゃん、ちょっと来て!」
しびれを切らしたのか、りせちゃんが大声で僕を呼び初めたので一旦合流することにした。
玄関で待っていたりせちゃんは僕を見つけると、手で速く来るように急かし初めた。
「どうかしたの?」
「誰か来てるよ?知ってる人?」
りせちゃんが指差しながら呑気に知り合いかと聞いてくるが、指を指した方向には、人ではなく
銃を手に持った、人のような機械が立っていた。