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第四話 実は校長先生よりも偉いのでは?



 本日より一週間の休校が決定した。今朝、風戸先輩からそう伝えられた。

 原因は分かり切っていた。神隠し事件と称される異世界召喚事件への対応で、しばらく授業どころではないということだ。

 まぁ、こっちとしてはありがたい話である。ティファニーの編入を準備する期間が設けられたからな。

 しかし俺みたいに喜んでいる声は、実のところ少なかったりする。

 三年生はかなり不安そうだ。秋を迎えている今、受験に向けてのラストスパートをかける段階だ。推薦は今がちょうど出願時期らしいから、学校に問題が起こって大丈夫なのかという声が非常に多い。

 センター入試を狙う者も、放課後の講習が軒並み消えるのではと焦っている。この学校は進学校として力を入れており、希望制による受験対策講習も毎日のように開催しているのだ。

 それをアテにしている三年生は非常に多く、今朝から寮や食堂で騒ぎ声が絶えないでいる。


「推薦どうなるんだよ? 俺、マジで一般試験の対策してねぇんだけど!」

「塾、行ったほうが良いのかなぁ? でも高いんだよなぁ……金なんてねぇし」

「やべぇな。受験用の参考書とかいるじゃんか……」

「買いに行くにしても、まず今の学校から出ることすらできねぇよ」

「まさしく踏んだり蹴ったりってヤツだな」


 ――という嘆きの声を聞きながら、俺は朝メシを食い終えて学食を出た。

 しかしまぁ、喜んでいる声もチラホラといる。もっかい寝直そうぜ、とか呑気そうに笑い飛ばしている男子を、三年生らしき男子が血の涙を流すかの勢いで睨みつけているそんな光景が、自然と背中を震えさせてくれた。

 ちなみにルクトは昨夜から留守にしている。ティファニーが日本で暮らせるよう準備を整えてくれているのだ。きっと今頃どっかで、魔法を使ってなんやかんやしてくれているのだろう。

 ふむ、折角だから差し入れでも買っておいてやろうかな。

 急な休校だから、今日の昼もパンの業者が来ているかもしれない。もしいたら、またカツサンドやハンバーガーを確保しておこう。きっと喜んでくれるぞ。

 そんなことを考えながら、俺は寮に戻ってきた。

 すると廊下の角から、荷物を持った私服姿の男子が歩いてきた。


「よぉ、実家にでも帰るのか?」

「まぁな。こんなところにいたら息が詰まっちまう。家でのんびりしてくるよ」


 夏休みなどの長期休業、もしくは何らかの事情で休校になった場合、寮生活している生徒は、申請すれば自宅へ帰ることが出来るのだ。

 もっとも俺やルクトみたいに、当たり前のように寮に残る者も結構多いが。


「沢倉は……親父さんたちが仕事で海外だっけ?」

「あぁ。俺が寮生活始めるのと同時に、両親揃ってアメリカだよ」

「なるほどね。じゃあ、俺行くわ」


 そう言って裏口へ向かおうとする男子だったが、俺は少し心配になる。


「……大丈夫なのか? 裏門もマスコミとかがいるんじゃ……」

「ちゃんと手は考えてあるよ。それじゃあな」

「おぅ……」


 爽やかな雰囲気で去っていく男子を、俺は生返事とともに見送った。

 不安は拭えないが、まぁきっと大丈夫なのだろう。

 俺はそう思うことに決め、とりあえず自分の部屋へと向かう。しかしまだアイツは帰ってきていなかった。

 さて、休校になっちまったことだし、今日はこれからどうしようかな。

 これと言って特にしなきゃならないことも――あったな。

 風戸先輩に、色々と整理がついたら伝えに行くって、約束しちまったんだ。あんまり待たせて痺れを切らせたら、それこそ面倒極まりないぞ。


「……しゃーない、行くか」


 なんだか重たくなった腰を頑張って上げ、俺は再び部屋を出る。

 さーてと、風戸先輩は寮の部屋にいるでしょうか?

 心の中でリズムを付けて呟きながら、俺は風戸先輩が住んでいる部屋のドアをノックする。しかし――


「風戸なら生徒会室に行ったよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 見事、肩透かしを食らってしまった。同室の先輩にお礼を言って後にする。

 ぶっちゃけあの人、生徒会室に住んでるんじゃないだろうな? あの人が寮の部屋にいるところ、マジで見たことないんだけど。

 ――とにかく中央校舎の三階へ行かねば。

 俺は裏口から寮を出て、学食を経由して校舎へ入る。未だ正面玄関は閉め切られているため、そうせざるを得なかった。

 もっともそれは正解だと思う。既にマスコミや保護者軍団が、中庭を中心にスタンバっているからだ。今日こそ教師連中から詳しい事情を聞き出してやる。そして責任の追及をとことんしてやるぜ、と言ったところだろうか。

 幸い、校舎は殆どが締め切られているためか、保護者たちの姿はない。

 そして生徒たちの姿もない。

 生徒で思い出したが、今回の事件に対して神経質になっているのは、巻き込まれなかった生徒たち――特に一年生の親も同じらしい。

 生徒が突然消えてしまう学校なんて危なすぎると言って、転校させる声も続出しているのだとか。そして意外なことに、それを親から言われた生徒は、ゴネることをせず素直に従う様子が多いらしい。

 そのウワサを聞いた瞬間は驚いたもんだが、よくよく考えれば無理もない話に思えてくる。たとえ巻き込まれなかったとはいえ、騒ぎの渦の中心にいることに変わりはないからな。

 静かな場所に避難したいという気持ちは、満更分からんでもない。

 それとは別に、転校させたくてもできないという声も多く出ているらしいな。経済的にそんな費用は出せないというのも、実に納得がいく話だ。


「ちゃんと説明してください! この学校は一体どうなっているんですか!?」

「ウチの子を安全に教育させてよっ!!」


 風に乗って、そんな叫び声が小さく聞こえてきた。

 今のは巻き込まれた生徒の親なのか――いや、無事だった生徒の親も、かなり多く乗り込んできているというウワサだから、そっちかもしれない。

 どちらにせよ、この騒動は当分落ち着かないだろうな。むしろ落ち着く日なんざ来ないのではとすら思えてくるわ。

 これじゃ、学校が休みになっちまうワケだ。学校側は俺たちにまで気を回している余裕のよの字すらないだろう。

 ふと、三階の廊下の窓から外を見下ろしてみる。

 中庭にはたくさん人がいる。明らかに保護者と言わんばかりのオジサンやオバサンたちばかりだ。そして校門の脇には、カメラや手帳を構えたオッサンたち。ありゃ間違いなくマスコミだな。今日も根性出してご苦労さんなこって。

 よく見ると、陣取っているのは職員玄関だけではない。中庭や昇降口、校門や裏口など、色々な場所に立っている。

 校内にいる教師たちを逃がさないぞと言わんばかりのギラついた目をしている。あるいはコッソリ出勤してきた教師を捕まえる意味もあるだろうか。

 やりすぎて警察沙汰にならないよう祈っておこう。

 ――警察って言えば、昨日は見てないな。少なくとも寮を捜索に来たとかは一度もなかったし、もしかして相手にされなかったんだろうか?

 まぁ、そこらへんも風戸先輩に聞いてみるか。きっと何か知ってるだろうし。

 そんなことを考えながら、俺はピリピリムード全開の中庭から、視線を戻そうとしたその瞬間――


「教師が窓から逃げたぞーっ!!」


 そんな男の叫び声が聞こえてきた。中庭にいる人々がこぞって反応し、どこだどこだと視線を動かす。

 スーツ姿でバーコード頭のオッサンが、別の出口から飛び出し、そのまま全力疾走で中庭を駆け抜けていく。そして周りの人たちは、こぞってそのオッサンを追いかけ出した。

 ――あれは教頭先生か。すんげぇ必死な顔して逃げてんな。

 そして追いかける親御さんたちらしきオジサンやオバサンたちも、皆揃って物凄い形相だ。

 まさにリアル鬼ごっこ。捕まったら死あるのみ。

 果たして教頭先生は無事生き残れるのか。そして保護者たちは、その怒りをぶつけることが出来るのだろうか。その行く末を知る者はいない。

 次回、スクールデンジャラスZ! 走れ教頭先生、見苦しき捨て身の大脱走!

 絶対見てくれよな!


「いやああああぁぁぁーーーーんっ!!」

『むわあぁてえぇぇーーっ!!』


 ――と、思わずナレーションをしていたところで、教頭先生と保護者たちの叫び声が聞こえてきた。

 つーか、いやぁんってなんだよ。オッサンのリアルいやぁんって誰得だよ。

 意外と余裕があるようにすら見えるんだが――と思っていたら、先回りしていた別の保護者たちと挟み撃ちにあっていた。

 捨て身の大脱走は失敗に終わったようだな。教頭先生は必死にもがいているが、もはやモンスターたちから逃れられることはできないだろう。

 ――教頭先生よ、アンタのことは少しだけ覚えておいてやるぜ。

 そう思いながら俺は、生徒会室へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



 生徒会室は、学校の中でも特に異質な空間だと思えてならない。

 床は赤を基調とした模様の絨毯が敷き詰められ、壁には校章がでっかくプリントされた旗布みたいなのが飾られている。

 そして部屋の隅っこには、同じく我が学校の校章を使った優勝旗のようなモノが置かれている。体育祭とかで使ってたヤツだ。こうして間近で見ると、実に立派なモノであることがよく分かる。

 そしてなにより、生徒会長の机だ。

 教室で使われている机や、会議室の長机とはワケが違う。明らかに事務机――それも社長や部長が使うようなひと回り以上の立派さを誇るモノだ。

 そしてそこに座る風戸先輩が、妙に似合っていて仕方がない。

 やっぱり何度見ても慣れないんだよなぁ。思わず緊張してしまうんだよ。もしかしてこの学校、校長よりも生徒会長のほうが偉いんじゃないのかと、本気でそう思いたくなってくるほどにな。


「うむ、話は分かった」


 風戸先輩が頷きながら、右手でメガネをクイッと上げる。その姿がサマになってると感じたのは、恐らく気のせいではあるまい。


「一クラスが丸々異世界に飛ばされただけでなく、まさか異世界のお姫様がこっちに来ているとはな」

「えぇ。風戸先輩なら、ギリギリ信じてくれるかなって思いました」

「確かに内容が内容だからな。これを教師連中に話したところで、まともに取り合ってはくれんだろう」

「ですよねぇ」


 苦笑しながら俺は思い浮かべた。鼻で笑われたり、バカにしたような上から目線をされる光景が、いとも容易く想像できる。

 高校生がガキみたいなことを言うな、って怒鳴られる可能性もありそうだ。


「しかしまぁ、なかなか面白い話じゃないか。実に興味深い」


 そう言いながら、風戸先輩がクックックッと含み笑いをする。肘をつきながら両手を組み、それで口元を隠しながら。

 その姿がとてもよく似合っていると思えてならない。まるで某ロボットアニメの司令官みたいだ。メガネかけてるって部分だけは共通しているから尚更だ。

 あれはいつだったか。ルクトが怖いもの見たさでそれを話したことがあった。すると先輩は、ならばヒゲも生やしたほうが良いかと言っていた。

 俺たちの冗談に付き合ってくれたのか。それとも真剣だったのか。それは未だ謎のままである。そして考えないことに決めてもいた。この人がどこまで本気でどこまでが冗談なのか、全く見えてこないからだ。

 一度確かめてみようモノなら、二度と這い上がれない深みにハマりそうな気がするから余計に。


「ティファニーと言ったか? そのお姫様の編入については分かった。海外からの特別留学生という扱いで、俺からも校長に話を通しておこう。流石に簡単な試験は受けてもらうことになるとは思うがな」

「はい。よろしくお願いします」


 試験については、元々避けられないとは思っていたことだ。

 朝メシのときに松永から聞いた話だが、ティファニーは文字の読み書きや数字の計算は普通にできるらしい。なんでも小さい頃から、王女として厳しい英才教育を受けていたとか。

 異世界と地球では言語とかも大きく違うかと思ったが、割と地球のそれと似たり寄ったりらしいんだよな。数年前、ルクトが地球に来た時に知ったことだが。

 勉強のほうは松永が引き受けてくれたし、多分なんとかなるだろう。


「あ、そう言えば、警察って来ました?」

「昨日の夕方に一応来たぞ。胡散臭さ全開って感じだったがな。しかし話を進めていくうちに、信用はしてくれたよ。もっともそれからは、信じられないという言葉に切り替わってしまったがな」


 風戸先輩によれば、この学校のシステムが信用させてくれたとのことだった。

 実はこの学校の学生証はICカードとなっており、授業開始前にその学生証を専用の読み取り機にかざし、出席確認を行うシステムを取り入れている。

 消えた隣のクラスも例外ではなかった。一限目が始まる前に、全員が教室の認証機にカードをかざして出席確認をしていたため、学校側がウソをついていないことが証明されたのだった。

 ちなみに寮にも警察の人は来たらしいが、寮長に簡単な聴取をして、帰っていったらしい。そしてその直後に、風戸先輩は寮の廊下で、俺と松永が話しているのを見つけたとのことだ。

 ということは、ちょうど目覚めて暴れるティファニーを、ルクトが魔法で縛り上げていたときだったとも言えるワケだ。

 きっと運に助けられたってのは、こういうことを言うのかもしれないな。


「それにしても、まさかウチの生徒が、城ヶ崎がいた世界に飛ばされるとはな」


 風戸先輩は面白そうに苦笑する。


「お前たちはそのことに対し、特に何もするつもりはないとのことだが、まぁそれはそれで構わんだろう。お前たちがしでかしたワケでもなし。そしてやはり内容が内容だ。その判断は正しいと言える」


 そう言ってくれて助かった。俺としても余計な問題は起こさず、穏便に過ごしていきたいからな。

 ――まぁもうすぐ、そうも言ってられなくなるのかもしれないんだけど。


「何かあったら俺に相談しろ。お前は俺の後釜なんだからな。遠慮はいらんぞ」

「あ、それはもう確定なんですね?」

「無論だとも」


 風戸先輩がニヤリと笑いながら頷いた。


「生徒会の次期メンバーについてだが、お前や城ヶ崎、松永は確定だ。なんならティファニーを加えることも、検討はしてやるが?」

「話が早すぎますよ。つーかその、見事に仲間内で固められてるんですね」

「そのほうが、何かとやりやすいだろう?」

「まぁ、確かに……」


 知らないメンバー同士でいきなり力を合わせろってのも、流石に無理がある。やはり気心が知れたヤツらのほうが良い。そこを考慮してくれたのは、素直にありがたいと思っている。

 果たして代替わりした生徒会はどうなることやら。

 それこそ、神のみぞ知るってところか。


「ぎゃああああぁぁぁーーーーっ!!」


 物思いにふけっていたその時、外から叫び声が聞こえてきた。

 声からして若い男だが、今度は一体何があったのか。風戸先輩と一緒に窓の外を見てみると、さっきの教頭先生と同じように、ジャージを着た若い男が、保護者軍団にもみくちゃにされていた。

 確かあれは――この春に新しく来た先生じゃなかったか?

 そしてよく見れば、職員室の窓から数人の先生が両手の拳を握りしめながら、必死に応援している感じであった。

 こりゃあ、なんとなく読めた気がするぞ。

 恐らく若手だか信任だかを理由に、先輩教師から保護者たちの対処を押し付けられたんだろうな。そしてヤケクソになって特攻した結果、あっさり捕まったと。

 そしてジャージ先生を助けようとする人は皆無。お前の勇敢な姿は忘れないぞと涙ながらに思っているのだろうか。

 社会の汚さというモノを、垣間見てしまった気がする。


「全く……もう少しマシな無駄死にはできないのかと言いたくなるな」


 これ見よがしに深いため息をつきながら、風戸先輩が言った。


「大体若手が上司に仕事を押し付けられることぐらい、想像できただろうに」

「でもそれだったら、生徒会長である先輩も、先生たちから言われたりしたんじゃないですか? 生徒代表として、お前もなんとかしろみたいな……」

「フッ、俺が素直にヘコヘコするタイプに見えるか?」

「全然見えないです」

「分かっているじゃないか。流石はこの俺が見込んだ男だ」

「そりゃどうも」


 むしろ先生たちの痛いところをついて、あれこれ要求する感じに思える。

 ――と、その時。


「む、電話か……はい、生徒会です。あぁ校長先生、お疲れさまです」


 生徒会長席にある電話が鳴り、それを風戸先輩が取った。どうやら校長からの内線らしい。

 それにしても、立派な造りの席に座りながら電話をする光景――なんだかますますどっかの社長室っぽい感じがしてならない。

 俺も近々、あの椅子に座ることになるんだよな。いや、あくまで風戸先輩限定っていう可能性もあるのか。それならそれで別に良いんだけど。


「校長……あなたはこの学校のトップなんですから、堂々とカッコいい姿を見せてやろうとは思わないんですか? このままだと評判下がる一方ですよ? 若手を盾に隠れることしかできないのかーってね」


 そう電話で話す風戸先輩は、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。それはもう悪そうな笑みを。

 こりゃアレだ。校長相手に色々と有利な条件を付けるつもりなんだろうな。

 やっぱりどう見ても、目上を相手にしている感じがしない。風戸先輩こそが、この学校の本当のトップなのではないかと、そう思いたくなってくる。

 ――そういえばいつだったか、年配の先生が俺に言ってきたことがあった。

 キミさえ良ければ、次期生徒会スタートを速めても良いぞ、と。

 もしかして、早く風戸先輩に席を降りてほしいから、先生は俺にそう言ってきたんじゃないだろうか。

 俺がそんなことを考えていると――


「次期生徒会のスタートは、例年通りですよ。早めるつもりはありません。規則はちゃんと守って然るべきでしょう」


 あ、会話の流れはよく分かんないけど、俺の予想したことがなんか当たったかのような感じだな。


「まぁ、それはともかく、この条件でお願いしますね。今から行きますから」


 そう言って風戸先輩は電話を切った。受話器の向こうから、ちょっと待ってみたいな叫び声が聞こえた気がしたが、とりあえず気にしないでおこう。


「校長から頼みごとを任されてしまった。ちょっと出かけなければならない」

「……俺にも手伝えと?」

「いや、大丈夫だ。そんなに大した用でもないからな」


 その返事は意外だった。留守番でも頼まれるもんかと思ってたが。


「それよりもお前は、その異世界から来たというお姫様のフォローをしてやれ」

「は、はぁ……分かりました。じゃあ、俺はこれで……」


 そう言って俺は生徒会室を後にしようとした瞬間、妙な気配を感じた。

 急いで外を見てみると、あれだけ騒いでいた人たちが静かになっていたのだ。何故か興味をなくしたかのように、ぞろぞろと校門から出ていく。

 これは一体どういうことなのだろうか。まさかルクトが何かしたのか。

 そう思った瞬間、またしても電話が鳴り響く。


「はい、生徒会……え、急にどうしたって言うんですか?」


 風戸先輩が電話を取った。どうやら校長かららしい。

 珍しく戸惑った様子で二分ほど話し、そして首を傾げながら電話を切った。


「校長から頼み事はキャンセルだと言われた」

「それは良かったですね」

「あぁ。分からんことが増えたがな」


 風戸先輩が窓の外を見ると、そういうことかと呟いた。どうやら事態は落ち着いたからもういいということなのだろうが――


「城ヶ崎の仕業だと思うか?」

「どうでしょうね……わざわざ学校のために何かするとも思えませんが……」

「だろうな。ひとまず話は終わりにしよう。お前も寮に戻ると良い」


 そう言われた俺は、今度こそ生徒会室を後にした。

 廊下を歩きながら外を見下ろすと、やはりガランとしている。あれだけいた大人たちが全員帰ってしまったのだ。

 とりあえず戻ったら、ルクトにでも聞いてみようかと思いながら歩いた。

 ――そんな俺を遠くから見ている人物に、全く気づかないまま。



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