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第十五話 番外~とある異世界召喚者の回想~



 僕は浜崎健治。平凡な高校生――のハズだったんだけど、現在は何故か、異世界を渡り歩いている。


「ほら、何をボンヤリとしてますのケンジ? 早く行きますわよ!」


 ――魔族の令嬢と一緒に。


「分かった分かった。分かったからそう急かすなって」


 苦笑しながら歩き出したところで、彼女は頬を膨らませた。


「むぅ……私はちゃんとケンジを名前で呼びましたのに、貴方は私のことを名前で呼んでくださらないのですね?」


 拗ねている。間違いなく彼女は拗ねている。ここで放っておくと、後で間違いなく面倒なことになるから、選択肢を間違えるワケにはいかない。


「ゴメンゴメン。俺が悪かったよ、マシェリカ」


 彼女の名を呼びながら近づき、俺は優しく頭を撫でる。こうしてあげると――


「わ、分かれば良いですわ。罰としてそのまま続けなさいっ!」

「はいはい」


 機嫌がよくなるのだ。口調と言葉では突っぱねているが、俺には分かる。伊達にもう何年も一緒にいないからな。

 ――あぁ、そうさ。もう何年にもなるんだ。

 思い起こせば色々あった。それはもう色々とありまくりだったよ。

 周りも、そして僕自身についても。



 ◇ ◇ ◇



 まず最初に僕たちが巡り合ったのは、異世界召喚という名のテンプレだった。

 勇者を呼び出したくてどこぞの国の王様が儀式を行い、気が付いたらクラス全員が異世界に飛ばされている。そんな展開を、まさか僕たちがリアルで味わうことになろうとは。

 しかも召喚された全員が勇者というから驚きだ。勇者って基本的に一人じゃなかったのか。しかもちゃんと全員がチート持ちと言うからこれまた驚きだ。

 ――思えば途轍もなく浮かれていた。恥ずかしいという言葉では片づけられないほどに浮かれていた。

 いや、調子に乗っていたと言うべきだろうか。まぁ、どちらでもあまり意味は変わらない気はするんだけど。

 勇者という肩書き、王家という名の後ろ盾。そしてそれを後押しするチート。

 これらが揃ってしまった僕たちは、実に色々と好き勝手をした。

 その結果、周りの目が――周りの姿そのものが見えなくなっていた。迷惑そうな表情も、嫌がって泣いている声も全く感じ取れていなかった。

 きっとそのバチが当たったのだろう。

 ある日僕たちは、神様から追加で能力を授かった。そしてそれを境に、僕たちはチートを失っていった。

 そこで僕はようやく我に返った。同時に周囲が途轍もなく恐ろしく感じた。

 町の人々に多大な迷惑をかけてしまった。ただの子供になったことを知ったら、人々は僕たちを殴り殺しに来るんじゃないかと思えてきた。

 実際、そうされても仕方がないことをしてきた。

 見境なく女の子を抱くヤツもいたし、何人か孕ませている可能性も高い。そして気に入らないことがあるとそれをぶっ壊したりしたヤツらもいた。冒険者ギルドを乗っ取ったヤツらもいたっけ。

 僕自身は一応、そのどれもに当てはまらない。しかし遠くから面白おかしく見ていただけで、咎めたり被害者へのフォローなども全くしてこなかった。

 現実でいながら現実と思っていなかった。アニメの世界に入り込んでいるだけだと思っていたのだ。

 しかしそれは、僕の勝手な勘違いでしかなかった。

 実際は途轍もなく恐ろしい現実の世界そのものだったのだ。

 チートを全て失った。恐らく王家も僕たちを見限り、もうフォローなどもしてくれないだろう。そしてこの世界には家族がいない。当たり前にいた親も、当たり前に存在していた帰る家もない。

 そこに気づいてしまった僕は、一気に周囲が暗くなったような気がした。

 恐ろしくなった。怖くて怖くて仕方がなかった。

 だから脇目も振らずに逃げ出したのだ。涙と鼻水で顔をグシャグシャにしつつ、頭の中を真っ白にさせながら。

 ――気がついたら、どこかの草原にうつ伏せで倒れていた。

 夜だった。そしてとても静かだった。

 手や足が動くことを確認した。とりあえず生きているようではあった。

 のそりと起き上がり、ボンヤリと周りを見る。僕以外に誰もいない。近くに建物みたいなのもない。ここがどこなのかも全く分からない。

 ――ここで死ぬのかな?

 本気でそう思った。生きる気力がなかった。何もかも投げ出したかった。

 手足を投げ出して仰向けに寝転がり、そのまま目を閉じた。きっとこうしていれば死ぬだろう。そのうち野生の魔物がエサと勘違いし、僕を見境なく食い尽くしてくれるに違いない。

 やがて何も聞こえなくなり、ふんわりユラユラ揺れるような感触を味わった。


 そして目が覚めた僕は――何故か馬車に乗っていた。



 ◇ ◇ ◇



『死ぬなんてこの私が許しません! そんなヒマがあるなら私の相手をなさい!』


 ビシッと右手人差し指を突き出しながら、僕にそう言い放つ魔族令嬢。腰に手を当てながら起こった表情を浮かべて堂々としているその姿は、なんとも似合っているなぁと思った。

 気が付いたら僕は、マシェリカに助けられていた。いや、むしろ拾われたと言ったほうが正しいかもしれない。

 本人曰く、たまたま通りかかったら死にかけている人間を見つけ、何故か興味を持ったとのことだが、果たしてどこまでが本当なのやら。

 まぁ僕自身、そんなことはどうでも良かった。

 実験材料にされるも良し、何かの生け贄にささげられるも良し。煮るなり焼くなり好きにしてくれって感じだった。

 ついでだから、僕の正体と経緯も全て打ち明けた。今更隠すことなんてない。どれだけみっともなかろうが知ったことじゃない。そんな気持ちで洗いざらいぶちまけまくった。

 ――そしてマシェリカから返ってきたのが、さっきの言葉だった。

 有無を言わさない勢いで、僕はマシェリカの屋敷で一緒に暮らすこととなった。執事さんやメイドさんに聞いたところ、どうやら僕はマシェリカに気に入られてしまったらしい。

 一体どうしてこうなったのやら。問いただしても答えてくれないどころか、我々はお嬢様とケンジ様を応援しておりますよ、と言われる始末だ。

 更に――


「ハッハッハッ、まさかあのじゃじゃ馬娘が気に入るとはな。良かろう。ケンジとやら、娘をよろしく頼むぞ」

「やっとあの子にもいい相手が見つかりましたね。これでひと安心ですわ」


 なんやかんやで彼女の両親にも認められたのだった。しかも友達飛び越して将来の相手という一生モノ的な形で。

 流石にこればかりはすぐに受け入れられなかった。

 だって魔族だよ? 上流階級のお嬢様ってだけでも不安要素バツグンなのに、そもそも人間とは違う種族って、本当に大丈夫なのかって感じだよ!

 そう思った僕は慌てて聞いてみたところ――


『構わん構わん。人間と魔族が結ばれるなんざ、禁忌でもなんでもないからな』


 ――ということらしい。

 どうやら人間と魔族というのは、地球でいう日本人とアメリカ人ぐらいの違いでしかないらしいのだ。

 魔族は敵だ、とランフェルダの王様は言っていたが、それも王様や一部の貴族たちが、勝手にそう思っていただけのようだ。現に魔族側は、過去にこそ色々とあったらしいが、別に敵対したいワケでもないとのこと。

 恐らく本当なのだろうと僕は思った。そうでなければ、僕がこうして魔族に助けられることもなかったのだろうから。

 勿論これが、全てウソである可能性は否めない。しかしどうにも僕は、この人たちが言ってることは本当だと思えてならなかったのだ。

 あくまで直感に過ぎないけど、何故か僕は、マシェリカとその家族さんたちを、否定したくなかった。信じてみたいと思っていた。

 僕はそのことをマシェリカにも話した。すると彼女は――


『望むところですわ! ケンジに幻滅されないよう、これからも精進し続ければいいだけのこと。せいぜい覚悟なさい! 必ず私なしでは生きていけないようにして差し上げますから!』


 と、いつもの如くビシッと指を突き出しながらそう言った。

 これってもう、完全に受け入れてるよね?

 むしろ彼女が僕を取り込もうとしている感じだよね?

 呆然としながらそんなことを考えていると、マシェリカはスッと近づき、スルリと僕の腕を絡めてきた。


『私から離れられるなんて、思わないほうが身のためですわよ♪』


 そう言いながらウィンクしてくるマシェリカに、僕の頭はクラッと揺れた。



 ◇ ◇ ◇



 ――そして早くも数年が経過し、今に至る。

 今はマシェリカと二人で、世界中を歩き回る旅人夫婦だ。旅立ちの際、彼女は自分の身分も家も全てを捨ててしまった。本人曰く、余計な荷物を持って旅などしたくなかったとのこと。

 だからと言って、そう簡単に捨てるのもどうかと思ったのだが、そんな僕の意見など彼女が聞いてくれるわけもなく、もはや僕も追及を諦めているのだった。

 もう数年が経つというのに、彼女は全く後悔する様子を見せていない。そして彼女の実家が動いている様子も全くない。

 後で知ったことだが、彼女には年の離れたお兄さんがおり、家の跡継ぎとかは全く問題ないとのことであった。

 どうやって知ったかと言うと、旅先でバッタリ出くわしたのである。

 そしてやはりあの父親の息子と言うだけあってか、そのお兄さんことラディスさんもまた、じゃじゃ馬な妹を拾ってくれてありがとうと涙ながらに感謝された。

 むしろ拾ってくれたのは僕のほうなんだけどね。

 そんなことを思っていると、妹をよろしく頼むと言われた。どうやらお兄さんからも無事に受け入れられたらしい。僕は至って何もしてないけど。


『本当にありがとうございますお兄様。いつか私たちに子供が生まれたら、必ずや紹介いたしますわ』

『あぁ、楽しみに待っているよ』


 ――と、僕の存在など最初からないかのように話を進める二人。もはやツッコむ気にもなれなかった。まぁ別に良いんだけどね。

 マシェリカと子供を作るのも、この世界で生きていくのも異論はない。

 ただやっぱり――元の世界にいる両親に、何も伝えられていないのが気がかりではある。違う世界同士を渡り歩く術が見つかってないのが、どうにも悔しい。

 僕たちが旅をしている理由もそこにある。

 異世界召喚という技術そのものは存在するのだから、何かしらの手段が他にもあるんじゃないかと思ったのだ。

 マシェリカも地球という世界に興味を抱き、行ってみたいと願ったからこそ、こうして二人でゴールの見えない旅を、何年もひたすら続けている。

 しかし、一向に兆しすら見えていない。

 ――本当に見つかるだろうか? もう諦めたほうが良いんじゃないのか?

 そんな弱気な声が、幾度となく僕の脳内を駆け巡る。

 ――どこかの町に落ち着き、そこで子を成して、ありふれた家庭を築き上げるのがお前の役目だろ。

 そんな囁きが何度も聞こえたような気がした。

 そしてその度に、マシェリカに感づかれ、叱咤され続けてきた。私の旦那様ともあろうお方が、そんな情けない表情をするなど許しません、と。

 全く――マシェリカには頭が上がらないよ。そして感謝してもしきれない。こんな僕をずっと支えてくれているのだ。

 そんな彼女のことが、今ではとても愛おしくて仕方がない。心の底からそう断言できる。

 ちなみにそう告げてみたところ、マシェリカは真っ赤になりながら――


『な、何を当たり前のことを言ってるんですの? 本当に情けないですわね。許してほしければ、今の言葉をもう何回か繰り返しなさいな。勿論、私のことをギュッと抱きしめながらですわよ! キスも添えなければ不合格ですからね!』


 と言いながら両手を広げてきた。しかも目を背けて。

 なんてゆーかもう――可愛すぎますよね。えぇ、そりゃもう可愛すぎますよ。もう完膚なきまでの撃沈でした。

 故にその後は可愛がりました。色々とメチャクチャ可愛がりました。気が付いたら朝になってたのは、ご愛嬌と言うことで良いと思うんだよね。マシェリカはなんか怒ってたけど。

 ――急に獣になるなんて卑怯ですわよ、とか言われても困りますよね、マジで。

 さてさて、そろそろ現在の僕たちについて話そうか。

 といっても情報集めがてら、魔王が暮らしている魔界のお城に赴いているという以外、特に語れる要素なんてないんだけどね。

 以外にもすぐ謁見してくれるということになり、王の間まで通してもらった。

 するとそこには――


「えっ……そ、そんなバカな……」

「ど、どうしましたの?」


 玉座に座っていた魔王の顔を見て、僕は驚いた。隣でマシェリカが何か言っているようだが、全く聞こえてこない。

 僕は震える手をギュッと握り締めて落ち着かせながら、なんとか頑張って魔王と呼ばれるソイツに尋ねた。


「お前、城ヶ崎じゃないか? 城ヶ崎ルクトじゃないのか!?」


 そうなのだ。魔王は確かに隣のクラスにいた男と瓜二つの顔だった。他人の空似にしては似すぎている。

 しかしこれはいきなり過ぎた。控えていた魔族騎士の一人が、怒りの表情で剣を抜こうとしていた。


「キサマ! 魔王様に向かって何たる無礼な!」

「あーいいからいいから。それよりも……」


 魔王は気の抜けるかのような声色でそれを制し、再度俺のほうを見る。何かが見透かされそうで、どうにも緊張する。


「その名前を知ってるってことは……もしかしてお前、通ってた高校は――」

「あ、あぁ――」


 高校。またしても懐かしい呼び名だ。この世界へ飛ばされてからは、聞いたことがなかったような気がする。

 地球にいた時に通っていた高校の名を告げる。すると魔王は、とても嬉しそうな笑みを浮かべてきたのだった。


「やっぱりそうか。お前、隣のクラスだったヤツか。懐かしいな」


 あぁ、間違いなく城ヶ崎ルクトだ。この声は間違いない。そして懐かしい。

 そのあまりの衝撃の大きさに、俺は思わず声を失ってしまうのだった。

 ――数分後、ずっと探し求めていた答えが現れたことを知り、再度ビックリ仰天することになるのだが、それはまた別の話である。



次回でエピローグになります。同日の朝7時に更新する予定です。

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