第一話 異世界召喚されました……隣のクラスが
俺の名前は沢倉秋宏。私立高校で寮生活を送っている二年生だ。
全寮制というワケではないが、希望した生徒なら、基本的に誰でも入れる仕組みとなっている。運動部でなければダメ、みたいな条件は特にないのだ。実に大らかでありがたい話だと俺は思う。
そこでの生活も、特にこれと言って特別なモノはない。
ルームメイトかつ腐れ縁な友達と一緒に学食で朝メシを食い、部屋へ戻ってその日に必要な荷物を確認し、教室へ向かう。そして授業を受けたりして、放課後はソイツと遊んだりする。
課題が出れば、真っ先にそれを終わらせてしまう。面倒なことはさっさとやっちまうに限る、とアイツは言っていた。破天荒だが真面目なヤツなのである。
ちなみにその腐れ縁なルームメイトの名は、城ヶ崎ルクト。海外育ちで留学して来た日本人とのハーフ、という自己紹介をヤツはしている。
銀髪でクールなイケメン君。まさに絵に描いたような男と言える。そんなヤツと俺は、中学のときから一緒に行動しているのだ。
とどのつまり、腐れ縁というワケだ。それ以外の表現は思い浮かばない。
日本人でないヤツと友達になる。これに関して疑問を抱く者もいるだろうが、心配はご無用だ。知り合ってから四年が経過した今でも、俺の学生生活は平和そのものであると断言できる。
そりゃあ確かに、文化の違い的なモノは多く発生してきた。しかしそれもちゃんと向き合えば、普通に乗り越え、普通に打ち解けられるモノなのだ。
最初は確かに戸惑った。しかし今では退屈しない生活を送れている。これもアイツのおかげなのだと、俺は心の底から思っている。
もっとも、アイツに直接言ってやるつもりはないけどな。恥ずかしいから。
そんなこんなで今日もまた、至って変わらない一日が始まる。
流石に度肝を抜かれるようなことはそう起こるまい――そう思いながら、一限目を迎えようとしていた時、それは起こった。
突然、教室が眩く光り出したのだ。
全く持ってワケが分からない。男女問わず驚き叫ぶのはむしろ自然だと思う。
かくいう俺も驚いていた。何故か隣の席にルクトを見てしまったが、ヤツも凄まじく驚いていた。今にして思えば、滅多に見れない顔だったと思えてくる。
そして数秒後、光は収まった。同時に教室から、全員姿を消してしまった。
これが今朝起こった出来事である――俺の『隣の』クラスで。
◇ ◇ ◇
「しっかし驚いたなー。アレには流石の俺もビックリしたぞ」
寮の部屋に戻ってきたところで、ルクトが鞄をドサッと放り投げる。俺も鞄を机の上に置きながら、同じようなことを考えていた。
「同感だ。思わず飛び出して確認しようと思ったわ」
「アキも珍しく慌ててたもんな。まぁ、無理もねぇ話だ」
にししと笑うルクトに対し、俺も苦笑で返した。
ちなみにアキというのは、ルクトが俺のことを呼ぶときに使うあだ名である。単純で分かりやすいにもかかわらず、何故かルクト以外で使っているヤツは一人もいなかったりする。ある意味で不思議だと、なんとなく思えてしまう。
それはともかくとして、現在の状況を話しておこう。
放課後ではあるが、時間帯はまだ午前中である。何故なら臨時休校になってしまったからだ。
理由は勿論、隣のクラスの連中が消えてしまったことだ。
神隠しだなんてバカバカしい。こんなのはタチの悪いイタズラに違いない。頼むから誰かそうと言ってくれ。そんなことを先生たちが、頭を抱えながら唸るような声で言っていた。
しかし、現実は色々な意味で非常である。これはトリックでもなんでもない、立派な神隠しであることは明白だった。
教室は三階にあり、誰にも見つからずに大人数が外へ出るルートは存在しない。故に生徒たちが結託して、授業をボイコットしたという可能性も、ないと考えるのが自然だろうと言われている。
おまけに時間帯は授業が始まる直前ということもあり、近くを移動していた先生たちもたくさんいた。そしてその先生たちは、皆揃って断言していた。隣のクラスの連中が歩いている姿など見ていないと。
最終的に駆けつけた校長と教頭の判断により、まずはこの事態を認めるべきだという判断が下され、それに従うこととなった。
緊急職員会議により、警察を呼んで事情を話し、今後の対策を取るという。
しかしまぁ、当分の間は荒れるだろうな。なんせ三十数人が一瞬にして姿を消しちまったんだから。
マスコミが押し寄せる――いや、それ以前に保護者や教育委員会か。ウチの子を返してみたいな叫びが聞こえてくるのかもしれないな。
「こりゃ、しばらく荒れるぜ。なんせ三十数人が一瞬で消えたんだからな。マスコミもそうだが、保護者や教育委員会も黙っちゃいねぇだろう」
おぉ、ルクトも同じことを考えていたか。まぁ、状況が状況だし、別に不思議でもないとは思うんだが。
「だろうな。このまましばらく、休校ってことにはなってくれないもんかねぇ?」
「なるんじゃねぇか? 知らねぇけど。そんなことより、今回の件だが……」
ルクトが話を切り出した瞬間、スマホの着信が聞こえてきた。ルクトがポケットからスマホを取り出すと、何やら訝しげな表情を浮かべる。
「……まさかな」
そう呟きつつ、ルクトは電話に出る。そして――
「なるほど。そういうことか……連絡ご苦労。また何か分かったら、すぐ知らせてくれな」
そしてルクトはスマホを切り、深いため息をついた。
「神隠しのタネが分かった」
「どんな?」
「異世界召喚だ」
俯いたまま答えるルクトに、俺は反応が出来ないでいた。
「いや、正確には勇者召喚になるのか。とにかくまぁ、そういうことだ」
「そういうことって……」
俺の戸惑いに気づくこともなく、ルクトは更に淡々と話す。
「さっきの電話は、俺の部下からの連絡だ。なんでもランフェルダ王国が、勇者召喚に手を出したらしい。理由は魔王を倒すためだそうだ」
なるほど、ルクトの言いたいことは大体分かった。しかしそれでも、非常に疑問に思えてならないことが一つだけある。
「……その魔王であるお前がここにいるのにか?」
「あぁ、どうもそうらしい」
俺の問いかけに、ルクトは頭を抱えながら応えるのだった。
◇ ◇ ◇
さて、ここらへんでルクトについて話していこう。
ルクトは地球人ではなく、立派な異世界人――しかも魔王なのだ。つまりとっても偉い人なのである。
俺が異世界召喚という言葉に戸惑いを覚えたのは、非現実的なことから目を背けたのではない。流石にラノベのようなベタな展開はないだろう、という考えからきているモノだった。
――いや、これはこれで、現実から目を背けていたと言えなくもないのか?
まぁそれはともかく、ルクトは魔王なのである。海外育ちのハーフというのは、後から作られた設定に過ぎない。正確には人間ではなく、魔族と呼ばれる種族らしいのだが、見た感じは人間のそれと大差ない。
そもそも今、俺が見ているルクトの姿が、本当の姿かどうかも分からない。魔法か何かで姿を変えていたり、普通の人間だと俺たちが思い込んでいるだけという可能性は十分にあり得る。
だが、仮にそうだったとしても、俺はコイツとの付き合いを断つつもりはない。
中学一年のときに出会って、もう五年も続いている。五年間ずっと同じクラスで過ごしており、こうしてルームメイトとして暮らしているのだ。
まさに腐れ縁も良いところである。
ちなみに俺自身は、ルクトの故郷である異世界に行ったことはない。正確には、行きたくても行けないのだ。
異世界へ行くには専用のゲートをくぐる必要がある。そのゲート自体は、ルクトが簡単に生成できるが、何故か俺はそのゲートをくぐれないのだ。何故なのかは未だ判明していない。
実のところ、俺はもう異世界へ行くというのは、完全に諦めている。ゲートをくぐれるようになる機会は、恐らくこの先もないだろうと、なんとなくそう思えてならないのだ。
異世界に興味がないワケではない。しかしどうしても行きたいかと言われれば、別にそうでもない。だから不可能であるなら、それはそれで全然構わない。
ルクトは絶対に連れて行くからなと息巻いているが、そこまでしなくてもなぁ、というのが俺の本音である。それを言えば言うほど逆効果になるため、最近では曖昧な返事で誤魔化すようにしているほどだ。
これについてもまぁ、追々なんとかしていくつもりである。
「とりあえず、どうするよ?」
少しばかり気になっていたことを、俺はルクトに問いかけた。
「隣のクラスの行き先は分かったっぽいけど……」
「いや、別にどうもしなくていいだろ。そういうアキはなんとかしたいのか?」
「……そうでもなかったりする」
「だよなぁ。隣のクラスに友達なんざいねぇし」
「これといった縁もないもんなぁ……」
確かに一大事だとは思うが、ルクトと話したように、助ける意欲はなかった。
「じゃあ、異世界に飛ばされた連中のことは、気にしないってことで」
「良い判断だな」
ルクトと意見が一致した。あんまりな決断かもしれないが、俺たちからすれば、所詮は他人事でしかないからな。同じ学校に通っているというだけでは、助ける理由にならない。
「ひとまず俺は、城のほうに連絡でも入れておこう」
ルクトはスマホの魔力通信アプリを起動させる。
当然、このアプリは表に出回ってない。ルクトが次元を超えた異世界の魔王城と連絡を取り合うべく、魔法でチャチャッとアプリを作り、それを日本で購入したスマホに仕込んだそうなのだ。
あくまで聞いた話でしかないが、恐らく本当なのだと俺は思っている。
初めてそれを教えてもらったときには思わず、魔力チートとはこのことか、と呟いてしまったのはいい思い出だ。
魔力通信アプリを作った理由としては、流石に普通の電波では、海は越えられても次元を越えることはできないからだそうだ。まぁ、当たり前と言えば当たり前なのだが。
ついでに言えば、そのアプリは俺にスマホにもしっかりと入っている。ルクトが無理やり仕込んできたのだ。自分が異世界へ帰省した際、何かの用事で連絡を取り合うためだと言って。
しかし正直に言わせてもらえば、あまり必要ないんじゃないかとは思っている。だって俺は、そもそも異世界へ行くことが出来ないのだから。
しかし、全く役に立ってないワケではない。ちゃんと利用履歴もあるのだ。
魔界のお土産は何が良い、というような電話ぐらいだが。
「ほー、なるほど、そいつは良い情報だ。ありがとよ。じゃあまたな」
ルクトの話も終わったようだ。しかも収穫があったと見える。ルクトが通話を切ると同時に、ニヤリとした笑みを俺に向けてきたのが立派な証拠であろう。
「興味深い話が聞けたぜ」
「みたいだな。俺が聞いてもいい話なのか?」
「あぁ。今朝起きた勇者召喚について、もう一つの可能性が浮上してきたんだ」
一体どんな可能性なのやら。ルクトが立ち上がりながら、ワクワクした表情で腕を組んでいるのも少しだけ気になる。ルクトがそうしているときというのは、何か行動を起こそうとしている合図でもあるからだ。
「勇者召喚ってのは、王家の人間を媒体にして儀式をする必要がある。媒体となった人間は死んでしまうことが多いんだが、稀に召喚された者と入れ替わる形で、召喚元の世界へ生きて辿り着けることがあるらしい」
「つまり、その王家の誰かが、こっちの世界……地球に飛ばされてきている?」
「あくまで可能性だがな」
ニヤリとルクトを見て、俺は納得した。そりゃあ、そんなふうにワクワクするかのような笑みを浮かべるハズだと。
「けど、隣のクラスの教室には、そんな人はいなかったけどな」
「同じ場所に落ちてくるとは限らないらしい。けど理論上、そう遠くない位置に落とされるらしいから、この町のどこかっていう可能性は高いだろうぜ」
「そんなご都合主義がそう起こるとも思えんけど……」
「同感だが、調べてみる価値はある。その証拠にこれを見てくれ」
ルクトは再びスマホを起動させ、とあるアプリ画面を俺に見せてくる。
「……これって、魔力探知アプリだよな? なんかすっごい久々に見た気がする」
「中学のときに作って以来、こっちじゃ全然使ってなかったからな」
まぁ、無理もない話だわな。地球で魔力を探知する機会なんざ、そうそうあるワケもないんだし。
「この近くで、俺以外の魔力が探知されている。つまりそこに、俺以外の異世界人がいるってことだ。俺は今から、ちょいとそれを確かめてこようと思う」
「今から? もうすぐ昼メシの時間だぞ?」
「パンでも確保しといてくれ。恐らく今日は、普通に業者が来てるハズだからな。あとでちゃんと金は払う」
「あぁ、まぁ、それでいいんなら……」
「なーに、心配するな。つまんねぇヘマはしないさ」
そう言ってルクトは部屋を出ていった。俺は特に止めることも、そして慌てることもしない。これもまたいつものことだからだ。
程なくして学校のチャイムが聞こえてくる。昼休みの合図だ。学校と隣接しているだけに、結構大きい音だ。そして割と新鮮さもある。普段は平日に寮にいるなんてことはないからな。
――おっと、こうしちゃいられない。ルクトにパンを頼まれてたんだ。
俺は財布の中身を確認しつつ、寮を出て食堂へと向かう。ルクトの読みどおり、パンの業者がしっかりとスタンバイしていた。もっとも臨時休校となってしまったこともあり、群がる生徒の数も圧倒的に少ない状態だ。
そのせいだろうか。業者の人がどことなく不安そうな表情をしているのは。
まぁ、無理もない話だろう。いつも見込んでいた売上金額が、急激に下がることになるんだからな。
俺としてはいつも以上にのんびり物色できてありがたい限りだが。
「おっ?」
並んでるパンを見ていくと、思わず声を出してしまった。いつもは速攻で売り切れるカツサンドやハンバーガーなどが、今日は普通に残っているからだ。
これはとても貴重な光景ではないだろうか。折角だからしっかりとこの機会を逃さぬよう、しっかりと確保させてもらおうじゃないか。
俺の分とルクトの分。それぞれカツサンドとハンバーガー、それからコッペパンに照り焼きチキンを仕込んだ照り焼きドックを確保。この三つは競争率が高いことでも有名なのだ。
あとはメロンパンでも買っていこう。ルクトは割と甘党でもあるからな。それから飲み物の自販機へ向かい、野菜代わりに野菜ジュースを買っておく。飲み物までは頼まれてないが、これは俺からのサービスということで。
さて、大きな成果も得られたことだし、さっさと寮の部屋へ戻ることにしよう。少しばかり気になることもあるし。
――というワケで、俺は戦利品を片手に寮の部屋へと戻ってきた。
買ってきたパンと飲み物を机に置き、ベッドに座りながらスマホを起動。イヤホンを装着しつつ、ラジオアプリを付けた。
GPS機能によって特定された現在地ごとに、それぞれ限定されたチャンネルが用意されている代物である。つまり、この近所で起こっている出来事が中継されるということだ。
勿論、そう都合よく自分の町が中継されるなんてことはない。しかし、ここ最近においては、この町を中継する確率が増えているのだ。
それはどういうことかというと――
『さぁ、MCマルヤマが務めるラジオは、この後も続いていきます。皆さん、チャンネルはそのままですよーっ!』
ラジオを中継しているMCマルヤマという若い男の声が聞こえてきた。
正体は知らないが、いつも威勢がよく行動派であり、リスナーの間でもかなり人気が高いのだ。
ちなみにこのラジオ番組。数年前までは全然話題になっておらず、すぐに打ち切られるだろうと局の人たちも思っていたらしい。
しかしあることがキッカケで、この番組は人気に火がついた。以来この番組は、今もずっと存続している。
MCマルヤマさんが番組内で言っていたのだが、種火を落とした人物を探しているらしいのだ。なんでもスタッフさん一同、感謝の気持ちを贈りたいらしい。
だが俺は思う。恐らくその機会が訪れることは、殆どないだろうと。
なぜならば――
『おおっと! 例の人物が颯爽と、家と家の間を飛び移っております! 人間とは思えない動きを見せてくれるのは相変わらずですねぇ。しかーし、これはまだほんの序の口と言えるでしょう! 私が見たいのは、あの人物が繰り出す謎の現象ですからね! まるでファンタジーに出てくる魔法のような現象。それを繰り出す謎めいた人物の正体を、今日こそ私は突き止めてみせますっ!』
――とまぁ、なんとなく悟っているのも多いだろうが、一応言っておこう。
この謎の人物の正体はルクトだ。ついでに言えばルクトが――正確にはルクトの行動が、ラジオ番組の人気に種火を落としたのだ。
魔王として凄まじい能力を持っているアイツならば、人間技とは思えない動きなんざ楽勝に決まってるし、謎の現象というのは、異世界の魔法のことだ。それをアイツは面白おかしく披露しつつ逃げ回る。それを幾度となく繰り返してきた。
こうなった原因は、元をたどれば俺にある。俺がラジオ番組のことをアイツに教えなければ、恐らくこんな騒ぎにはならなかっただろう。
まぁ、上手いこと良い方向に盛り上がってるのが幸いなところだ。
ちなみにルクト自身も、番組のことなど知ったことではないと言っていた。ヤツらが追いかけて来るから相手をしてるだけだと。だから感謝の気持ちなど受け取るつもりもないのだと。
果たしてこの追いかけっこの終わりは訪れるのだろうか。それはまさに、神のみぞ知る、といったところなのかもしれない。
『いつもは休日もしくは祝日に出没することが多い謎の人物……うぅん、いい加減名前がないのも不便ですねぇ……よし! では仮にXという名前で呼ぶことにしましょう!』
ほう。どうやらルクトは、謎の人物Xというコードネームを貰ったようだ。
『Xは未だ逃げています。追いつけそうで追いつけません。これはもはや、遊ばれているといっても過言ではないと私は思います!』
過言も何も、そのとおりなんだよ。いつもアイツは言っていた。今日もラジオの兄ちゃんたちと遊んできたと、それはもう笑顔でな。
『おおっと、Xは何故か神社に飛び込んでいきました。我々も追って……いや、Xが飛び出してきました!』
この近所の神社なら俺も知ってるが、あそこには特に目ぼしい何かがあるワケでもない。となると――
『Xは誰かを運んでおります! お姫様抱っこで軽やかに運んでおります! これは一体どういうことなのでしょうかっ!?』
なるほど。さしずめ件のお姫様を見つけたってところか。どうやらアイツの読みは正しかったようだ。
『とにかく我々を追跡を続けます。どんどん話されていきますが、追いかけます。ええい、まだだ! こんなところでは終わらんよ!』
それにしても、このMCマルヤマさん、相変わらずノリが良いなぁ。もうこれ楽しんでるようにしか思えないし。
『お姫様抱っこで抱えながら飛ぶ。なんという絵になるシチュエーション。だが我々は追い続ける。今日こそ謎の人物の正体を突き止めて……』
『そこのカメラを持って騒ぎ続けているキミたち、速やかに止まりなさーい!』
『おおっと、パトカーです。パトカーに見つかってしまいましたっ!』
ふむ。そろそろクライマックスってところかな。
『クソッ、またしても公務員の邪魔が入ってしまったか。止めるのは自分ではなくあの謎の人物だろうに……しかしこのままだと我の身が危ない。したがって今日はここまでとさせてもらおうか。それでは皆さん、アディオス、アッミーゴ♪』
『いいからさっさと止まりたまえ! ワケの分からんことを騒ぐな!』
そこでラジオは途切れた。同時に心地よい音楽が流れてくる。放送時間を繋ぐためのモノに違いない。これまでの放送でも何回かあったし。
きっと今頃、MCマルヤマさんとそのスタッフさんは、おまわりさんから説教をされていることだろう。しかし数日経てば、またケロッとした様子で生放送をするに違いない。これまでもそうだったし、これで懲りるような人たちではない。
リスナーの一人として、俺はなんとなくそんな気がしていた。
「よっす!」
ガラガラと窓を開けながら、ルクトが入ってきた。ラジオで聞いた誰かさんも、しっかりと抱えている。
ルクトはその誰かさんをベッドに寝かせた。
白装束っぽい服を着ている金髪少女。歳は俺らと同じくらいだろうか。顔立ちからして、人間ではあるようだが、明らかに日本人ではない。
おまけにかなりの巨乳だ。男ならほぼ間違いなく目を向けてしまうほどの。
顔もかなり可愛いし、そこら辺のグラビアアイドルなんざ、勝負にすらならないような気がする。
しかし残念ながら、今はこの少女に見惚れている余裕は全くなかった。
「ビンゴだったぜ。コイツは間違いなく、ランフェルダ王女のティファニーだ!」
こりゃ面白くなってきたと言わんばかりに、ルクトはニヤリと笑った。
異世界へ飛ばされた隣のクラスも、恐らく色々とあるのだろうが、どうやらこっちはこっちで、しばらくは退屈せずに済みそうである。
そう思いながら俺は、小さなため息をついた。