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平助  作者: とむ
7/19

進:二

 試合は三本勝負。

 道場の中央で平助と宗次郎は向き合い、山南の試合開始の合図で同時に奇声を発する。新八と左之助は端で胡座をかいて座り、二人の試合の見学だ。


 互いに中段の構えをとっている。

 宗次郎は平助の喉元に剣先を向け、微動だにせず相手の呼吸を測る。

 それに対し平助は、剣を小刻みに震わせながら爪先の力だけで間合いを詰めていく。剣を震わせるのは、北辰一刀流独特のものだ。


 宗次郎の目線の先には平助の目。

 視界の中央で、剣が震える。

(──鬱陶しいな)

 体勢を変えてみようと、竹刀を大きく振った。

 その瞬間、平助の身体が縮こまり、宗次郎の脇の下をすり抜けた。


 いつの間にか胴を打たれていたことに目が丸くなる。

「胴あり一本!」

 山南が片手を挙げ、平助が一本奪ったことを伝える。

(──あーあ、やられた)

 宗次郎は面の中で関心し、口角を上げた。


 二本目。

 平助は下段、宗次郎は中段の構え。


 今度は宗次郎が先手を取る。平助の喉元目掛け竹刀をゆっくり突き出しながら、大きく一歩前に出る。後ろ足がつくが速いか、より大きく前足を踏み出し、再び喉元目掛けて突く。

 平助の小さな身体が飛んでいた。


「突きあり一本!」

 山南がさっきとは逆の方の手を挙げた。

「次もそっちの手を挙げるだろうね」

 喉を突かれた衝撃で咳き込みながら戻って来た平助に、宗次郎は嫌味を吐き出す。

「嫌だ。こっちを挙げさせる」


「一本勝負、始め!」

 カチカチと互いの剣先を牽制し合う。

 平助が間合いを詰め、鍔迫り合いの形をとった。頭一つ分も身長差があるため、宗次郎の腕が平助の目の前に来て視界が遮られた。


 あっ、と思った瞬間、顔面を押され、後ろにひっくり返りそうになったが体勢を立て直す。しかし、時既に遅し。宗次郎は目の前で竹刀を振り上げていて、今にも平助の面を打とうとしている所だった。

 平助は面を防ごうと腕を上げてしまった。上段の構えから左袈裟懸けの方向に竹刀が落ちてきた。


「一本!勝負あり!」

 宗次郎の方の手が挙がる。

「思ったより早く終わっちゃった。喉は大丈夫?」

 やけに優しく話しかける宗次郎。

「……まだだ!」

「……おう?」

「まだだ! あんたなんかに負けない! 絶対勝ってやる!」

「はははは!負けず嫌いだなあ。じゃあ、食客になるのは決定だ」


「お! また増えるのか」「また賑やかになるぜ」端で見ていた新八と左之助が言う。

「えっ俺が食客!? ……あ!」

「あんたが負けたら食客になるって言ってたからね。勝ったら山南さんと帰れたのに」

「そういうことだ、平助。潔く食客になろうか」

 笑顔で平助の肩に手を乗せる山南は、どこか嬉しそうだ。

「うう……山南さんまで…」

 悔しそうな顔をして平助はその場に座り込んでしまった。

「さーて、一仕事終わったことだし、俺は甘いモノでも食べてこよう。また後でね、皆さん」

 宗次郎はひらひらと手を振って、道場から出て行った。


「なかなか面白かったぜ?」

 座り込んだままの平助に、新八が声をかけた。

「ありがとうございます。えぇと、すみません、お名前は………」

「永倉新八だ。力任せの総司と違って、お前のは頭の良い戦い方だ」

 誉められたことに照れてしまい、平助はとりあえず笑顔を作った。

「可愛い顔するなぁお前。総司と同い年にゃあ見えね……」

 そこまで言い、さっき平助を怒らせたことを思い出して言葉が止まる。しかし、平助は笑顔のままだ。


「俺、新八さんみたいになりたいな」

 突然の言葉に、その場にいた者らは目を丸くする。「男らしいし、優しいし、憧れるなあ」

「何を言うかと思えば。面白えこと言うじゃねえか」

 と左之助が笑う。

 さっきまでの敵対心剥き出しの態度からいつもの素直な平助になったことに、山南は表情を緩めた。


「あぁ、いやぁ、そりゃあ……嬉しい限りだ」

と、新八は照れた顔で頭を掻く。

「ねぇ、新さんって呼びますね!えっと、それから左之さん!」

「お前、やけに素直になっとるのう」

左之助は大きく笑い、平助の頭を荒々しく撫でた。


「これがいつもの平助なんだ。よろしく見てやってくれ」

「山南さん、子ども扱いはやめてよね」


 十六歳の春の日、平助のまた新しい生活が始まった。


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