NEVER END
こちらは七夕企画参加作品になります。他作品は『七夕小説企画』と検索するか、公式サイトから飛んでみてください。
拝啓。先立つ不幸をお許し下さい、なんて言ったら怒られるかな。自殺した人みたいだし。そりゃ私だって混乱してるんだからね? 詳しい事なんて全然解らないでいるし、不安で押し潰されそうだし、どうしてこうなっちゃったかなんて分からない。
でも喚いたって仕方がない。それにもう残された時間はほんのちょっとしかないみたいだし、後悔だけはしたくない。本当は直接貴方に伝えたかったんだけど、恥ずかしいし焦っちゃって上手く伝えられないと思うから、手紙にしました。口で言うより伝わると思うしね。恥ずかしいけど悔いが残っちゃうのは嫌だから、全部書いておきたいと思います。少し私の話に付き合って下さい。
貴方を初めて見たのは大学の学食でした。貴方は大学で将来を嘱望された有名人だったからすぐに分かったんだよね。私のような凡人は必死に泣きながら練習して入試に挑んだって言うのに、貴方は推薦で、それも大学からスカウトされたなんて噂が飛び交っていたから、ついつい睨んじゃって、貴方に変な顔で見られた。それが最初だった。昔のことだから覚えてないかも知れないけど、私は昨日の出来事のように覚えてます。大袈裟かも知れないけれど、あの時から全てが始まったのかも知れない。いくら教授の差し金だって、何だかんだ言って貴方は私のレッスン付き合ってくれたしね。
そう。これは覚えてるんじゃないかな。貴方が初めてデートに誘ってくれた時のこと。私は前日のレッスンで教授に酷いこと言われたからイライラしてた。ほんの些細なことがどうしても気に食わなくて、心の中がもやもやしてて、つい貴方に当たっちゃった。多分貴方の才能に嫉妬してたんだと思う。あの時は本当にどうかしてました。ごめんなさい。いつか謝ろうと思ってたんだけど、私も何だか恥ずかしくて、謝れなかった。ごめんね。反省してます。そう言えば、あれからもう六年以上経つんだね。あの時私が教えて上げた星の名前覚えてる?
結婚して子供出来て、貴方も世界的にも認められて。きっと私は世界一の幸せ者だって、胸を張って言える。でね、きっと私がこうなっちゃった原因はここにあるんじゃないかなって最近思ってるの。これは私の勝手な推論で変な話だけどね、きっとね、人間って一生に神様から与えられてる幸せの量って決まってるんだと思う。私はきっと貴方に一生分の幸せをこの六年間で貰ったんだと思う。だからこんなに早く寿命が来ちゃった。そう思えば、こうなっちゃったのも何か納得できるんだよね。だから私はちゃんと運命を受け入れられてるのかも知れないし、もしかしたらそうやって死にたくないって藻掻いてる自分を誤魔化して、無理矢理納得させているだけなのかも知れない。でもね、私は今までの人生を後悔してないよ。例え貴方に出会ったからこそ、こうなっちゃったとしてもね。是対に、後悔はしてない。
久しぶりに長い文章、それも手書きで書いたから少し疲れたかな。文字を書くってこんなに重労働だったんだね。最近はずっとベッドの上の毎日だったから体力も衰えちゃって、手紙書いてるだけで疲れちゃうんだから、ショパンのノクターン弾くのも無理かもね。せっかく貴方が好きだって言ってくれたのに、ちょっと淋しいかな。
そろそろ本題ね。
えっとね、家のこと、つららのことをお願いします。つららが泣いても私はもうあやしたり抱き締めてあげることが出来ないもの。だから困ったときは私の父と母を頼ってください。この前母がここにお見舞いに来てくれたとき頼んだら大丈夫って言ってくれたから、きっと力になってくれるはずです。
私たち、つららが生まれてきたとき嬉しくて泣いたよね。その時傍で見守ってくれてた父と母は笑っててくれた。私はね、つららには、つららが永遠の眠りにつくとき、つららが一番大切にしていた人に笑っていて、周囲の人たちに泣いてて貰えるような、そんな人生を送って欲しい、そんな人に育って欲しい。私はどうなるかわからないけど、私の両親はそうやって育ててくれたんだと思う。これは子育てしてて気付いたことなんだけど、両親のおかげで私は幸せになれた。貴方と巡り会えたんた。ほんの少しだけだったけど、幸せな人生だった。私のエゴかも知れないけれど、つららにも同じ想いをさせてあげたいの。私の分まで、つららを幸せにしてあげてください。お願いします。
あとさ、読んだらこの手紙破いちゃってね。どうせ意地っ張りな貴方だもん。他人の前では絶対に涙を見せないで、きっと全部終わった後、誰もいないところでひっそり泣いてるはず。この手紙を読み返すたびに貴方がめそめそしてるなんて、私には耐えられないよ。私はいつまでも貴方を泣かせたくない。貴方の影ではありたくないの。それだけは絶対に嫌。もう私は過去の人だから、忘れてとまでは未練がましくて言えないけれど、もう私のために泣かないでほしい。私のために涙を流すくらいだったら、それはつららのために流して欲しい。私の分もつららのためにいっぱいいっぱい泣いてあげて。
ね、今度会えるときはいつだろう。あ、間違っても早く来ちゃ駄目だからね。貴方にはつららがいるから。あの子を置いて来よう何て考えちゃ駄目だからね。つららが私みたいに素敵な旦那さんを見つけて、幸せになったのを私の分までしっかり見届けて、天寿を全うしてから来て頂戴。約束よ、これだけは絶対に守って。もし約束守ってくれたら天国の入り口まで迎えに来て、抱き付いていっぱいキスしてあげる。もし中途半端なタイミングで来たら追い返しちゃうんだから。
もし、もし私から会いに行けるようだったら絶対に会いに行きます。きっと貴方のピアノが恋しくなると思うから。神様の目を盗んでも会いに行くから、その時は私をどうか導いて。どんな迎え火よりも私は貴方のピアノに導かれるの。私は貴方のピアノが大好きだから。
それじゃあ、またね。また貴方に巡り会えることを楽しみにしています。世の中には輪廻転生って言葉があるくらいだから、きっとまた貴方にもつららにも会えて、また一緒に暮らせるよね。貴方は馬鹿馬鹿しいって笑い飛ばすかも知れないけれど、私はそうなるって信じてるから。私は貴方に口説かれたから、今度は私から口説いてみようかな。だから、せめて最期の瞬間は、笑って、ありがとうってお別れできたらいいな。また会える日を、楽しみにしながら。
拙い話に最後まで付き合ってくれてありがとう。くれぐれも無理をせず、お身体に気を付けて下さい。貴方の活躍を祈っています。
ずっと愛しています。誰よりも。
◇◆
帰り道の夕焼け空。
それはまるで朱を溢したような空で、前方、かなり遠くに見える大橋が逆光となって黒く染まって見える。風がゆったりと地面を撫で、背丈の低い花々を小さく揺らしていて、どこからかトラックのエンジン音が聞こえてくる。
俺は堤防沿いをゆっくりと歩いていた。隣には、四歳になる娘。しっかりと手を繋いでいる。背後には長く伸びていた影。俺が手を握り返すと、娘も負けじと手を握り返してくれた。
娘と手を繋いで、ぼんやりと堤防の上の道を歩いていく。
ふと手に変な力を感じて、視線を下ろすと娘は立ち止まっていた。娘の視線の先、そこには白くスラリと背の高い花が群生していた。名前は分からない。
「ねぇ」
娘は無邪気に微笑みを湛えて見上げてきた。
「おはな、ままのおぶつだんにおそなえしたらままよろこぶ?」
「……喜ぶよ。絶対な」
「じゃあもってく!」
娘が嬉々として名も知らぬその白い花に手を伸ばしたその瞬間、無意識に俺は娘を止めていた。自分でもどうして花を摘み取ろうとした娘を止めたのか分からなかった。娘は、どうしてと言わんばかりに俺を見上げてくる。俺は娘の目線に合わせるようにしゃがみ込み、娘の頭を撫でた。
「そのお花だって、生きてるんだ。取っちゃ可愛そうだろ?」
予め決まっていたかのように、俺の口からはそんな言葉がスラスラと出てきた。
「かわいそう?」
生きている者を邪魔してはいけない、そう俺は娘に告げていた。
すると娘は視線を俺から花に移し、残念そうに眺めていた。俺はどうにかしてやれないかと周囲を軽く見渡し、そして見つけた。懐から財布を取り出しつつ、娘の両肩に手を当ててこちらに向かせた。
「あそこにお花屋さんがあるから」
指を指した先には一件の小さな花屋があった。店の中には穏和そうなお婆ちゃんが一人座っていて、新聞を読んでいる。俺は娘の小さな手に折った千円札を握らせ、
「好きな花、買ってこい。ママの好きなお花、分かるだろ?」
言われて娘は満面の笑みを浮かべて走り出す。
瞬間、走り行くその後ろ姿が妻に重なった。
胸が急に熱くなる。娘に妻の姿がちらついて離れない。俺は残像を振り払うように先程娘が摘み取ろうとしていた一輪の花を見詰めた。これ以上、娘を見てられなかった。
娘は妻にそっくりなのだ。優しそうな瞳、流れるような黒髪、そして何よりその顔に映る笑顔に何気ない仕草。全てが妻に重なって、どうしようもない悲しみに襲われる。妻がもうこの世にはいないことを思い知らされ、悲しみに全身が押し潰されそうになる。胸が、痛い。視界が歪む。
どうして。どうしてなのだろう。どうして妻は死ななければならなかったのだろうか。
あんなに娘の成長を心から願い、見守っていきたいと願っていた妻が。生きたがっていた妻がどうして。俺には理解できない。母親としてまだ幼い娘を一人残して死ぬなんて、さぞや無念だっただろう。が生まれたとき、病室でまだふにゃふにゃだった娘を抱きながら、この子の結婚式には絶対に自分が着たウェディングドレスを着させてやるんだ、そう馬鹿みたいにはしゃいでいた姿が目に浮かんで離れない。あの時、絶対に叶うと思っていた妻の夢は、叶わなかった。馬鹿みたいに小さくて、馬鹿みたいに素朴な妻の夢は、願いがこんなところで潰えて良いはずがないのに。
白い花に手を伸ばす。
永遠、そう思っていた。
白い花は、俺に握られながらも風に小さく揺れている。
大学で妻に出会ってからと言うもの、妻中心に世界が回っていた。仕事だってそうだ。妻が俺のピアノが好きだと言ってくれたから俺はここまでやってこられた。世界的にも認められ、リサイタルを開けるようになった。今の地位を掴むことが出来た。
妻にプロポーズして、返事を聞いたその瞬間、永遠だと確信した。永遠の幸せを噛み締めた。
やがて娘が生まれて、それから四年が経とうとしていた時だった。
余命の告知。
告知から二ヶ月。
俺が心から願い、望んだ『永遠』は六年と四ヶ月と一四日で幕を閉じた。
早いものだった。今から思い返しても、まるで奇跡のような六年と四ヶ月と一四日だった。過去を振り返るから短く感じられるのかも知れない。それとも行き着くところに行き着いてしまったからなのだろうか。
告知を受けてから、俺は自殺の報道がテレビをにぎわす度に、何度その行為自体を怨んだだろう。何度自らの意思で生死を選択できるその自由奔放さを嫉んだだろう。
そして何度願っただろうか。
その命、いらないのならば妻にあげてやってくれ、と。
花を放した。解放された花は元気よく風に揺れている。
顔を上げると、妙に鮮やかな夕焼けが視界いっぱいに広がっていた。妻と過ごした六年と四ヶ月と一四日。夕焼けをバックに、走馬灯のように、鮮明に、そして消えていく。
妻は、どこに行ったのだろう。目頭がまた熱くなってくる。
何となく、眼前いっぱいに広がる夕焼けに俺は手を伸ばしていた。精一杯手を伸ばしても夕焼けには届かない。もしかしたらあの夕焼けは妻なのかも知れない。そう考えてしまう自分がいる。けれどそんな自分を否定できなくて、心に浮かぶのは虚しさのみで、頬に涙が伝うのを感じている。何もない空間に手を伸ばす。妻と笑って過ごすためにあった未来は、どこにもないのだ。もう、どこにもないのだ。そんな未来を追い掛けるように、夕焼けに手を伸ばす。でも届かない。呼んでも呼んでも逢えなくて遠くなっていくのを思い知る。絶対に放さない、そう誓ったのに。
ぱぱ、と言う声に俺は振り返った。そこには心配そうに見上げている娘、手には花束が両手で大切に握られている。
「……明日は早いし、帰ろうか」
俺は娘の手を握った。
その手が、酷く暖かかくて。
娘に涙を見せまいと、俺は必死に堪えた。
◇◆
ベランダに、木製の椅子が向かい合って二つ置いてある。一つは俺の椅子で、もう一つは妻の椅子だった。つららがいるから禁煙ね。それからと言うもの、この空間が出来上がった。
妻はとても可愛らしい人だった。いつもいつも柔らかい笑顔を浮かべていて、何度妻に助けられたことだろう。抱き締めれば暖かくて、ほんの少し恥ずかしがり屋で、くすぐったそうに身を捩る妻が愛しくて愛しくて。自分の居場所がここだと確認できた。
愛用の椅子に座り込み、新しい煙草を咥え、火を付けた。
俺は、また妻に会えるのだろうか。
肌身離さず持ち歩いている『手紙』を握り締めながら、静かに煙草を吹かして想う。
見上げれば、満天の星空。
そう言えば、七夕も近い。すっかり忘れていた。
手に持っていたガラスの灰皿に煙草を押し付け、星空を理由もなしに眺る。
妻と過ごしていた日々は、あの満天の星空のように輝いていた。毎日が幸福の塊で楽しかった。昔読んだ本の主人公が言っていた。死んだ人は夜空の星となって生きている人を見守っているのだ、と。もしそれが本当ならば、妻は俺のことを見てくれているのだろうか。妻はあの空にいるのだろうか。空には妻が大好きだったピアノはあるのだろうか。寂しがっていないだろうか。
「……どうすりゃ、いいのかな」
自嘲しながらもう一本煙草を咥えて火を付けようとすると、さあね、という声が返ってきた。
思わず、周囲を軽く見渡して、やがて煙草に火を付け、落ち着くように自分に言い聞かせる。
妻は死んだのだ。こんなところにいるはずもない。
けれど。
もしかしたらどこかにいるのかも知れない。気が付けば俺は家中を探し回っていた。寝室、娘が寝ている子供部屋、客間、洗面台にバスルーム、そしてリビング、キッチン。妻は、どこにもいかなった。
「……なあ」
庭に出て、もう一度星空を見上げる。
「どうすりゃ、逢えるんだよ……」
妻が植え、育てたたくさんの花が咲き誇っている。
◇◆
靴を、履いていた。
違和感に俺の思考は停止、再び動き始めた思考がまず弾き出したのは、ここは何処だ、という簡単な命題だった。身体も空間も、何もかもがふわふわとしていて、現実味の欠片もない。まるで自分がお伽話の世界に放り込まれてしまったような、何とも言えない感覚に俺の身体を支配されながら、考えてみた。そもそも確かに俺は庭に出たが、靴は履いていない。なのに何故俺は靴を履いているのだろうか。
ふと到った。
夢か。
今、きっと自分は夢の中を漂っているのだ。そう思うと全てが上手く説明できるし、何よりも俺自身が納得できた。
ならば。
夢ならば。
期待を抱きつつ、その期待を疑いつつ。俺はゆっくりと振り返る。夢なら、もし本当にここが夢の世界ならば何か良いことが起こってくれればいいのに、そう願いながら振り返ると―――
「……おう」
懐かしいとはまだ言えない。
愛しいとなら言える。
待ちこがれたその姿が、目の前に存在していた。
「あかり……」
華奢な身体。婉美な口元。絹糸のような長い髪。純白のワンピースが静かに揺れている。
「あ、あ……」
言葉にならなかった。口が麻痺したように、脳が麻痺したように、どうしたらいいのか分からない。言いたいことはたくさんある。聞きたいこともたくさんある。けれど想いと想いの奔流がぶつかり合い、何もかもを綺麗に打ち消してしまう。震えた声で精一杯、口を開いた。
「あ、のな……」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「つらら、ちゃんと育てるから」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「頑張る、から」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「お前の分まで、可愛がるから」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「なあ、俺」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「幸せ、だった……」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「もっと、もっと幸せになる、するつもり、だったのに」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「何で、だよ」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「何で、死ぬんだよ」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「無責任だって。人の心、散々占領しておいて、さようならなんてさ、認めねぇよ」
妻は俺の目の前で可憐に笑っていた。
「なあ、」
妻の笑顔が歪んだ。涙が止めどなく溢れ出してくる。嗚咽が漏れ、肩の揺れが止まらない。
「なあ、お前、最期に―――」
ようやく言葉らしい言葉が漏れた瞬間、妻の人差し指が唇を塞いだ。
そして何かを悲観するように空を見上げた刹那、天から光が降り注いだ。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
悟った。一瞬のうちに時間切れだと言うことを。
「行くな!」
妻の手を握り締め、叫んでいた。
「せめて、何か言えって!」
薄れていく妻の身体。妻の手の感触も消えてしまった。
「あかり!」
叫び散らす。妻の名を、何度も何度も。
手を伸ばす。妻の手を掴もうと、何度も何度も。
薄れていく妻の身体。神々しい光に飲まれていく。
思わず、俺は駆け出す。
もう逃がすまいと、手を伸ばしたその瞬間、妻は僅かに唇を動かして―――
◇◆
気が付けば、庭の真ん中に座っていた。
ふと、見上げれば満天の星空。美しい天の川、妻が得意そうに教えてくれた、忘れもしない夏の大三角形、ベガ、アルタイル、デネブをバックに流星が駆け抜ける。
しばらく見上げていると、じわりと視界が滲んだ。
腕で強引に拭い去ると、持っていたガラスの灰皿を庭に置く。
灰皿の上に『手紙』を載せて、ライターで火を付けた。
◇◆
満天の星空の下、俺はふと思った。
空はさぞかし淋しいだろうと。空には妻が愛して止まなかったピアノはないらしい。
「悪い」
呆然と呟く。
「信じてなかった。お詫びに、誓う。何度でも弾く」
灰皿の上に積もった燃えかすを庭に溢さないように慎重に持ち上げて、
「だから、また、来い。弾けば、来てくれるんだったよな」
誰に向けてというわけでもなく、溢す。
「とびっきりのオリジナルを聞かせてやるよ」
星空を仰ぎ、いつしか妻が名前を教えてくれた星々を見上げた。
「タイトルは『星に願いを』―――なんてどうだ?」
短編のくせに長くなってしまいました。ジャンルについては非常に悩みましたが、ここはあくまで恋愛と言い張ることにしました。何はともあれ、ここまでお付き合い頂いた読者様に感謝を。そしてこのような機会を設けて下さった針井龍郎様にも感謝します。ありがとうございました。感想やアドバイス等、随時お待ちしております。ではm(_ _)m