神界都市アレンテス(8)
『いらっしゃい! 今日も良い品揃ってるよ! 』
ガヤガヤ
『美味しいリンゴが入りましたよ〜! お一ついかがですか〜?』
ガヤガヤ
『当店の試練に挑戦する方、こちらでーす!』
ガヤガヤ
「ねぇ。マサヤ……」
「まー様……」
2年間の期限付き、苛烈な試練、もっと殺伐な雰囲気を想像していた俺達は、あまりに想定外の光景に思わず呆けていた。
目の前に広がるは中世ヨーロッパ風とでもいうのか、俺達が立っている神殿を中心に円形状に広場があり、レンガ畳に露店や店が建ち並び、多くの人が行き交っていた。
なんというか、活気に満ち溢れていた。
「お? お兄さん方! 今いらっしゃったんですかい? ようこそ! 神界都市アレンテスへ! この都市と周辺の地図はいかがですかい? 特別に300Gでお売りしますよ?」
天使の輪を付けた中年の男が話しかけてきた。
「あ、あぁ。貰おうか……」
「毎度あり! ウインドを出してくだせぇ!」
思わず答えてしまった俺は、言われた通りウインドを出すと
神界都市アレンテス及び周辺の地図を購入しますか?
消費300G
と表示される。
はいを押すと残高が700Gとなった。
「あの……。その頭の上のは?」
ついでなので、いい加減気になっていたそれについて聞いてみる。
「ああ。これですかい? 俺達はこの神界の神様である『ミーリス様』の眷属なんでさぁ。その証がこの輪っかなんでさぁ」
周りを見渡すと、他にも輪っかを付けた人達が客引きをしたり、店を出したりしていた。
パーナはウキウキした目で周りを見ている。ルゥは少し不安そうな、それでいてどこか興味有り気な表情をしていた。
「それではお兄さん方! あっしはこの辺で! 西通りで店も出してるんで良かったら寄ってくだせぇ」
そう言って足早に去っていく。
さて、どうするか。
「ねぇマサヤ! 私お腹空いたわ!」
…………。
「お前なぁ。こんな状況で……」
『きゅるるるる……』
下の方から可愛らしいお腹が鳴る音がし、ルゥが顔を真っ赤にして俯いていた。
「よし! 先ずは飯だな!」
「ちょっと!?」
ルゥを抱き抱えて広場へと歩いて行く。パーナが何か騒いでいるが聴こえない。ルゥが腹ペコなのは一大事だろう?
俺達は美味そうな匂いを辿りビルボア亭という料理店に入った。
店内はそこそこ賑わっており、店員が方々の注文を忙しなく受けている。
俺達は空いている4人テーブルに着き、一杯100Gのビルボアシチューを3つ頼み、しばらくして美味そうな匂いと共にシチューがきたのだが……。
「おかわり!!」
「早すぎるだろ! もっと味わって食え!」
「私こんな美味しいシチュー初めてだわ!」
パーナが俺とルゥが手をつける前に食べ終わるという妙技を披露していた。ってか結構ボリュームあるけどどうやったの?
ルゥがソワソワしながらこちらを見ている。
「俺達も食べようか」
「はいです!」
シチューには大きめに切られた野菜と鶏肉のような肉が入っている。
肉を掬い口に運ぶ。
一噛み毎に肉汁が溢れ出し、口の中を満たす。味は牛肉に近いが一切臭みがない。これは美味いな!
ルゥが目をウルウルさせながらこちらを見ている。美味しいさを伝えたいのに感動のあまり言葉が出ないようだ。
「ルゥ! 美味いな!?」
ルゥは顔と尻尾をブンブン振って答える。
「おかわりよ!!」
なんか変な声がしたが気にしてられない。俺達は夢中でシチューを食べた。
「美味かったな……」
「はい……です」
「おかわり!!」
ルゥには少し多い気がしたが、しっかり食べれたようだ。
「じゃあ今後の計画を立てるか。まずはルゥの服だな。それと俺の当面の目的を伝えとく」
ルゥは姿勢正してピンッと耳を立てこちらを向く。
「神様への質問で解っていると思うが、俺の知り合いというか妹と友人がこの神界に来ている。そいつらと合流したい」
「おかわり!!」
「これは俺の個人的な目的だから、ついてくるか別れるかはお前達で決めてくれ」
「ルゥはまー様と一緒がいい……です!」
「そうか、ありがとう。ルゥ」
ルゥの頭を撫でてやると嬉しそうに眼を細める。
「おかわり!!」
もうこいつは置いていこう。
『おい、どれだけ食べるんだ? あの子は』
『10はいくんじゃないか?』
あまりの食いっぷりにギャラリーができている。
店員さんにいたってはおかわりの注文をしてないのに既に準備している。
すると店の奥から恰幅のいい男にが出てきた。頭には輪っかがついている。
「私はこの店の店主をしております。サハルと申します。ここまで私のシチューを食べた方は初めてでして、一つ挨拶をと思いまして」
「それはわざわざありがとうございます。とても美味しかったです」
ルゥもしきりに頷いている。
「ご主人! このシチューは最高だわ!」
パーナは早くも8杯目となるシチューに手をつけている。
「ありがたいお言葉です。これは私からのサービスです。今朝取れたばかりのゾルの実です。甘酸っぱくて美味しいですよ」
そう言ってルゥの前に赤いブドウのような木の実を置く。
「なんかすいません、ありがとうございます。 そうだ、ご主人少しお尋ねしたいのですが」
「何でしょう?」
俺は折角なので都市の移動方法を聞いてみる。
「他の都市へはどうやって行けばいいのでしょう?」
「行き方は大まかに二通りあります。先ずは普通に歩いて行く、もう一つはポートにて移動する事が出来ます。」
「ポート?」
「はい。ポートとは一瞬で他の都市のポートに転移が出来るものです。しかし眷属以外の方は利用料は50000Gかかります。」
「50000か……」
全然足りないな……しかもどの都市にいるかがわからないから外れると無駄になってしまう。
「急ぎの用件であれば情報屋に手紙をお願いするといいでしょう。それでしたら1通100Gで請け負ってもらえますよ」
手紙か。そうだな、取り敢えず金が貯まるまでに手紙を出しておこう。
「そのポートと情報屋は何処にありますか?」
「地図はお持ちですか?」
俺はウインドを開き地図を表示する。
「では先ず地図の説明から致しましょう。神殿を中心に大通りが十字に通っているでしょう。この北西が装備や雑貨などが売られている商業ブロック、北東が酒場や仕事の依頼を受ける自由ブロック、南西が宿屋や湯屋などの居住ブロック、南東が試練を行なっている試練ブロックとなっております。都市の外に出るのは東と西と南に門がございます」
「北に門は無いのですか?」
「ここは北の都市なので、ここより北には何もございません。それで、ポートと情報屋は自由ブロックにございますよ」
「御丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、機会があれば是非また当店をご利用して下さい。それでは私はこれで失礼します」
「お時間を取らせてすいません。必ずまた来ます」
店主は和かに微笑み、店の奥へ退がっていく。
色々聞けたし、次に向かう場所もわかった。そろそろ出るか。
「まー様。あーんです」
「お、くれるのか? ありがとう」
ルゥが嬉しそうにゾルの実を差し出してくれる。ゾルの実はサッパリとした甘みの後に程よい酸味が広がる、脂っぽい物の後に食べると良さそうな味だった。
「それじゃあルゥ。行こうか?」
「はいです!」
ルゥを抱き上げ二人分の会計を済まし、店を出る。
「ちょっと! 置いてかないでよ〜!!」
あれ?パーナさん居たの?