神界都市アレンテス(5)
バンスとの決闘後、俺は動けなくなりパーナに回復魔法をかけてもらっていた。
「まったく! そんな格好で無茶しすぎよ! マサヤの体力1しかなかったんだからね!」
パーナとはパーティを組んでいるのでお互いの体力がわかるのだ。
1しかなかっただと? 特に外傷とかは無いんだが……。もしかしたら、この神から与えられたとかいう仮初めの肉体とやらは、負荷が掛かると体力が減り、体力が残っている限りは消滅しないのかもしれない。
ウインドを開く
名前 田所正弥 レベル4 ランクE
体力5 (40)
攻撃8
防御8
敏捷8
魔力8
魔法
なし
スキル
根性 早熟
レベルが4になっている。
体力の5が今の体力で、横の数値が最大値か。ステータスの確認をしていると体力が6になる。体力も自動で回復するのか……時間的には3分で1くらいか。
もしかしたらどんな怪我をしても生きてさえいれば治るのかもしれないな。
「ねぇマサヤ。次のヒールお休みしていい? 手がべちゃべちゃで気持ち悪いからウォーターボールで洗いたいの」
「あと1回待ってくれ、もう少しで起きれそうだ。ところで、なんでそんな汚れてるんだ? それは油か?」
「ヒール!……これを採ってたのよ……ポイントにはならなかったわ……」
そう言って右手に草を取り出す。それを受け取り、ウインドに一度仕舞う。すると、ウインドに油草と表示される。
油草
火を起こす時に少量使用すると火がつきやすい。絞ると油が取れる。この草が生えている所での火気は非常に危険。
こいつ……ファイヤーボール撃ってなかったか?
まぁあの威力なら大丈夫か……ちなみにパーナのヒールは体力が2回復するぞ! 戦闘中は使えないね!
「よっ……と……なんとか動けそうだ。ありがとうパーナ。手を洗ったらまたヒールを頼むよ」
「わかったわ! 任せなさい!」
「さて……」
俺は放置する形になってしまった幼女の方を向く。逃げずにこちらを見てた事を考えると、助けられたことはわかってるみたいだ。……そう思いたい。
いきなり近づいたら怖がらせるかもしれない。
「俺の名前は田所正弥だ! 君を虐めたりするつもりはないよ! 今からそっちへ行って良いかい?」
「私はルインダルト・パーナシア・アイリアット・マルティス・ゲイラゲン三世よ!」
幼女はコクッと少し顔を下げると、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
俺たちも幼女の方に歩み寄る。
「あの……ルゥはルゥといぅ……です」
「ルゥか。俺は正弥だ。ルゥはここが何処だかわかるかい?」
ルゥは首をフルフルと横に振る。
何も解らずこんな所に飛ばされて、さぞかし不安だっただろう。俺はしゃがんでルゥと視線を合わせる。
「ルゥは何か覚えている事はあるかい?」
「ルゥは……ご主人さまの屋敷で働いていましたです。それで……ルゥはしっぱいしてしまいました……です。しっぱいするとみんながルゥを叩くです……この間はすごくいたくて……でもみんなやめてくれなくて……」
次第に眼に涙を浮かべながらルゥは自分が覚えてる事を語る。
「ルゥのからだが……うごかなくなって……気付いたら……」
「もういい……! わかった! 大丈夫だ!」
俺はルゥを抱きしめる。
「もうルゥを叩く奴はいない! いたとしても俺が必ず守ってやる! だから大丈夫だ! 安心していい!」
「う……うぅ……ルゥは汚ない……です」
ルゥは自分が汚い存在だと言い聞かされていたのだろう。離れようと、もがくが俺は離さない。
「ルゥは汚くなんかないよ。髪も白くてとてもキレイだ。ほら顔を上げて」
ルゥの泥と涙と鼻水でグチャグチャの顔を袖で綺麗に拭いてやる。
「ほら、顔もキレイになったよ」
「う、う……うわぁぁぁぁぁん」
ルゥは泣きながら俺に縋り付いてくる。俺はルゥが落ち着くまで、抱きしめながら大丈夫だと頭を撫でてあげる。
「うぅ……ルゥちゃん……」
パーナを見るとルゥと同じく顔を涙と鼻水でグチャグチャにしていた。
「グスッ……すんっ」
「落ち着いたか?」
「はい…です」
「そんな格好じゃ寒いだろう? これを着てくれ」
俺はルゥの頭から自分の着ていたパーカーを被せる。ブカブカで足まで隠れてしまったが問題ないだろう。靴はどうするか。
「あったかい……です」
そう言ってルゥは初めて笑った。
「ルゥちゃん? 私はパーナよ? マサヤとは仲間なの!これからよろしくね?」
「パーナ?……よろしくです」
そういうとパーナは手を振り上げ………。
ガシッ!
俺は振り下ろされたパーナの腕を咄嗟に掴みとる。
「何をしている!?」
ルゥは怯えて俺の足にしがみついている。
「え?……だってマサヤが仲良くなったら頭を叩くって……」
「バカヤロウ! 仲良くなるのに頭を叩く奴がいるか!?」
パーナは困惑した顔でキョドキョドと俺とルゥを見比べている。
「とにかくこのべちゃべちゃな手を洗って来い!!」
「う、ぅわぁぁぁあん! マサヤの嘘つきぃぃぃ!」
泣きながら走っていくパーナを見ながら、俺はルゥの頭を撫でる。
「ルゥ。パーナはお前を虐めようとしたんじゃないぞ? 仲良くなりたかったんだ。ただ……馬鹿なだけなんだ。許してやってくれ」
俺はパーナの誤解を解くためルゥに笑いかける。
パーナは右手を左手にかざし
「ウォーターボール!」
バシャッ!
水は左手に当たり地面に染みをつくった。
その染みを呆然と見つめるパーナ。
…………………。
「ほらな?」