神界都市アレンテス(4)
ダンジョン内、俺達はゴブリンとの戦闘を終え、さらに探索を続けようとしていたところ、進む先から声が聴こえてきた。
『オラッ! とっとと歩け!』
『ごめんなさい。ごめんなさい。言う通りにしますから叩かないでください……』
『それにしても白狐に会えるとは運が良かったな』
『ああ、これで10Pは俺のもんだな!』
『おいバンス。俺達の、だろ?』
『すまん。俺達のだ』
通路の先から白い髪に耳を生やした幼女が縄に繋がれ歩いてくる。歳は6歳くらいだろうか。腕や顔に痣があり、顔に表情がない。靴も履いておらず、纏っている服はボロボロでゴブリンと大差ない。よく見たら尻尾も生えているようだ。
続いて如何にも異世界の冒険者といった格好をした男2人が現れる。その内の1人が幼女から伸びる縄を握っていた。
「パーナ。警戒しとけ」
プレイヤーだ。この試練はプレイヤーを倒してもポイントが入る。好戦的だった場合、戦闘になるかもしれない。俺は小声でパーナに注意を促す。
「え? なんで?」
…………はぁ。
パーナはキョトンとした顔で首を傾げる。
コイツといるとため息が止まらない。ため息を吐くと寿命が減るという迷信があるが、もし俺が2年以内にいきなり消滅したら末代まで呪ってやろう。
「よく見ろ、あんな幼い子をロープで連れ回してるんだ。いい奴なわけないだろう?この試練はプレイヤーを倒してもポイントになるんだぞ」
「でもあの子、獣人よ? あの人の奴隷なんじゃないのかしら?」
でた。奴隷。コイツらの世界ではあれが普通なのか?
「いや、あいつらの話を聞く限り偶然出会ったんだろう。10Pと言っていたから隠された宝と何か関係がありそうだ」
何にせよ幼い子をあんな風に扱ってるのを俺は見過ごせない。決してロリコンだからではない。ただ他の人より幼女に対しての親愛の気持ちがほんの少しだけ強いだけだ。
とりあえず声を掛けてみるか
「おい、あんた達! あんた達もプレイヤーだな!?」
「何だお前?……ハッ! 女連れとはいいご身分じゃねぇか!」
そう言ってバンスと呼ばれていた方の男がパーナの事を舐め回すように見て、下卑た笑いを浮かべる。
「ヒッ」
パーナは小さく悲鳴をあげながら身体を両手で抱いている。
これは駄目なパターンだな。あの子を救うには戦闘は避けられないか。
「おい、嬢ちゃん! そんな冴えない奴より俺達と来ないか!?」
「いやよ! 私はマサヤとパーティ組んでるんだから!」
「けっ! つれないねぇ!」
「おいバンス。早く行こう?」
気の弱そうな男はバンスに先を急ごうと急かす。
「あぁ、そうだな。お前らも精々時間いっぱい頑張れよぉ!……オラッ! 歩け!」
どうせ無理だろ? という皮肉じみた声色で俺達に別れを告げ、幼女の縄を鞭のように振るう。
許せねぇ!
「おい! バンスとやら! その子は何だ!? 何でそんな扱いをする!?」
バンスは振り返り
「あぁ? 何だお前? 獣人擁護派かぁ? 獣人なんてのは人様より下なんだからこれでいいんだよぉ! それにコイツは白狐だ。白狐は宝の匂いを嗅ぎつけるから……」
「おいバンス! 余計なことは……!」
なるほど。あいつらはあの子を使って宝を探しているのか。それでももしパーティを組んでいたら5Pずつしか入らないぞ? その辺はわかっているのか?
「いいじゃねぇか、それぐらい。何にせよ俺達は宝を手に入れてこの試練は突破ってわけだ。それじゃあな」
「待て、あんた達はパーティを組んでるのか? だったら等分されて5Pずつしか入らないぞ?」
「なんだと!?」
「チッ」
バンスは驚き、気の弱そうな男は忌々しそうに舌打ちをする。どうやら気の弱そうな男は知っていたらしい。大方宝を見つけて油断したところを裏切るつもりだったのだろう。どうせ急造のパーティなんてそんなもんだ。
「テメェ! リッケル! 知ってやがったのか!?」
「お、落ち着け! そういう可能性もあると思ってただけだ!」
気の弱そうな男はリッケルというらしい。
バンスはリッケルに掴み掛かり、腕を振り上げる。
このまま仲違いさせてもいいが、あの子はどのみち救えない。ここは条件をつけて決闘を仕掛けてみるか。
「おいあんた達! 提案がある! 時間もあまりない!あんた達はこの試練を突破したい。それでいいな? 俺はその子を引き受けたい。そこでだ。俺とあんたで条件をつけて決闘をしないか? 俺達は既に9P持っている。それに俺を倒した時に2P入るから合わせて11Pだ! これを全部かける! あんたが勝てば宝と合わせて21Pだ! 2人分に足りるだろう!?」
バンスはこちらを向きニヤリと笑う。
「そりゃ願ってもない提案だが。なんだぁ? そんなにこいつが気に入ったのかぁ?」
「あぁ、そうだ。なんなら武器も使わない。」
俺は持っていた棒を捨てる。
「けっ! 舐めやがって! いいだろう! 受けてやる!」
「おい!バンス!」
「お前は黙ってろ!」
よし。これであいつを倒せばあの子を救える。俺はウインドを開きバンスに決闘を申し込む。
バンスに決闘を申し込みますか?
はい
勝利条件を設定して下さい。
相手を降参させる。もしくは戦闘不能にする。
賭ける物を設定して下さい。
田所正弥側
パーティ分の全9P、決闘に負けた際、バンスに倒されたとしてリタイア
バンス側
決闘に負けた際、田所正弥に倒されたとしてリタイア
あの子は所持物ではないから賭けられないのか。
「その子は賭けられないから、条件はこうさせてもらった! 依存はないか!?」
「どのみち負ければ突破はできねぇ! かまわねぇよ!」
決闘が承諾されました。決闘を開始します。
よし。やるぞ。
パーナはというと、時間がないというのを聞き必死で部屋の隅に生えている草を抜いていた。
おい、パー子よ。それはドロップアイテムじゃないからポイントにはならないぞ?
「余所見してるんじゃねぇよ!」
バンスが殴り掛かってくる。流石、冒険者をやっていたとあって強烈だ。俺はバンスの伸びてきた腕に手を添えて軌道を逸らす。そのまま体勢が崩れたバンスに足を掛け、服を引っ張り投げ飛ばす。
身体が当初より大分動く、先のゴブリン戦でレベルが上がったか?
「どうだ? 降参するか?」
「ふざけるな! 妙な技を使いやがって!」
起き上がったバンスの身体が淡い光に包まれる。
なんだ?何かのスキルか?
バンスが右肩を全面に突き出し、さっきとは比較にならないスピードで突っ込んでくる。
「くっ……!」
「ほう? これを避けるか! 生意気な! だが次はないぞ!?」
間一髪、回避が間に合ったが次は避けれるかわからない。
俺は足を肩幅より少し開き、腰を落とし両腕を前に突き出し重ねる。
「観念したか! 吹き飛べ!!」
バンスの肩が手に触れた瞬間、絶妙に腕を引き、腕を押し出す。
田所式武術(今、名付けた)受け返し
自分の身体を使い、衝撃を循環させ相手に返す技である。
「重っ……!」
あまりの衝撃の強さに身体が悲鳴をあげている。全ての衝撃を受けきれていない。それでも足を踏ん張り全身の力で押し返す。
「ぉ……らぁぁあっ!」
バキバキバキッ!
肩が砕け、バンスが吹き飛ぶ。
俺は肩を上下させ荒い呼吸を整えながら、バンスを見やる。正直もう一歩も動けない。立たれたら負ける。
ウインドが自動で開き、勝利の文字が表示される。
勝った……!
恐らく5分も経っていないだろうが、何時間も走った後のように身体が怠い。
バンスが光に包まれ消える。試練開始前の場所に戻ったのだろう。
俺はもう1人の方を向き
「リッケルといったか……? あんたもやるか?」
と、強がりの笑みを浮かべる。
「いや、やめておこう」
リッケルは暗い目を俺に向け、ウインドを開きあっさりと光に包まれあっさりとリタイアした。
俺は力を抜き地面に倒れる。
「マサヤ!」
パーナが駆け寄ってくる。お前なにしてたんだよ…
「待って!今ヒールをかけてあげる!……ヒール!!」
パーナが俺の胸に手を当て回復魔法をかけてくれる。
心なしか身体が楽になった気がする。
「ありがとう……パーナ。続けてくれ……」
「ダメ!……魔力切れだわ!」
………………。
なんでそんなに手べちゃべちゃなの?
獣人の幼女は状況がわからずオロオロしていた。