神界都市アレンテス(3)
俺は今薄暗いダンジョンの中で初めて会う名前の長い女に怒られている。正直言って覚えられる気がしない。もうルパ○三世でいいじゃない。
「なんで叩くのよ!」
「いや、今のはツッコミといって俺の国では仲良くなった者がやる挨拶みたいなものなんだ」
「仲良く……な、ならいいわ! 私のことはパーナでいいわよ!」
少し顔を赤くしながらモジモジしているパーナ。さてはこいつ友達いないな?
「なら最初からパーナでいいだろう。長過ぎて驚いたじゃないか」
「おばあちゃんに初めて会った人にはしっかり名乗りなさいって言われたわ!」
あぁ、そう。
「それにしてもマサヤは変な名前ね! 格好も見たことない服着てるし」
パー子よ。お前にだけは名前の事を言われたくない。
俺の格好はジーンズにパーカーと日本人なら変な格好とは言わないだろう。パー子は西洋風の暗めの赤いドレスだ。
「パー子は何処の国から来たんだ?」
「バルス大陸よ。そのパー子っていうの嫌な感じだからちゃんとパーナって呼びなさい! マサヤは違うの?」
いいじゃないか、頭パーなんだから。
バルス大陸……知らないな。そんな破滅しそうな大陸があれば日本人として忘れるわけないしな。やはり違う世界か。
「俺は日本という国から来たんだ。聞き覚えはないか?」
「聞いた事ないわ。それに私は生きている頃もあまり世間に触れてこなかったから……」
そう言ってパーナは少し顔に影を落としながら微笑んだ。
そうか……パーナも俺と同じ様に命を落としてここに来たんだ。少し配慮が足りなかったな……。
「ならここから出た後、色々知っていけばいいさ」
「え……でも私達……」
「最終試練を突破すれば何でも願いを叶えてもらえるんだ。どうとでもなるだろ」
「それもそうね! 頑張りましょう!」
そう言ってさっきとは違う、明るい笑顔を見せるパーナに俺も励まされた。
「ところでパーナ。差し支えなければウインドを見せてもらえないか?」
「ウインド?」
もうやだこの子。置いてこうか?
パーナにウインド関連を手早く説明し、パーティの申請をしてみる。こいつあの時泣いてたからな……。
ルインダルト・パーナシア・アイリアット・マルティス・ゲイラゲン三世をパーティに誘いますか?
はい。と
「今パーナにパーティ申請したんだがきたか?……何やってんの?」
パーナはウインドを開いたり閉じたりを繰り返していた。
「見て! マサヤ! どう!?」
ドヤ顔でそんな事を言ってくる。そんなの誰でも出来るだろう!
「くだらない事やってないで早くパーティ欄をみてくれ! 時間制限あるんだぞ!」
本当にこいつとパーティを組んで大丈夫なのだろうか……?だが今後に向けても試しておきたい事がたくさんあるからな。
「あ、きてるわ。マサヤのパーティに参加しますか? だって」
「はいを押してくれ。いいえは押すなよ?フリじゃないからな?」
「解ってるわよ」
ルインダルト・パーナシア・アイリアット・マルティス・ゲイラゲン三世がパーティに参加しました。
よし。俺のウインドにパーナの名前と体力と状態が表示される。ステータスやスキルは表示されないらしい。
「これで私達は一連托生ね! これからよろしく!」
「それよりパーナ。そこの窪の壁で光っている石は鉱石じゃないか? 採ってみてくれ」
パーナは頬を膨らませソッポを向いている。何を拗ねてるんだ。仕方ない自分で採ろう。
手で採ろうとしても採れない。思ったより硬いな。そうだ、あれを使ってみよう。
ウインドからコボルドッグの牙を取り出し、壁と鉱石の間に打ち付ける。
ガキン!
「よし。採れた。見ろパーナ……悪かったよ。これからよろしくな?」
「もう無視しないでよね!」
俺はパーナの機嫌を取りつつ、ウインドを見るとポイントが6.5になっていた。
もう一つある鉱石を今度はパーナに採らせてみる。
ポイントが7になる。
どっちが取ってもポイントが半分入るのか。場合によっては効率が悪いが、安全性は格段に上がるだろう。
上がるよな?
「そろそろ先に進もう。もうあと35分しかない。その鉱石は仕舞おうと念じればウインドに仕舞えるぞ」
パーナは何が楽しいのか、鉱石を出したり仕舞ったりしている。
「そうだ、パーナ。お前はどんなスキルを持ってるんだ?」
「魔力自動回復大よ! すごいでしょ!」
「どんな効果なんだ?」
「魔力の回復が他の人よりかなり早く回復するわ!マサヤはそんなことも知らないの〜?」
イラッ
「一つだけか? 俺は二つあるぞ?」
「ムッ! しょうがないじゃない! まだレベル1なんだから!」
まて、スキルはレベルと共に増えるのか?なんでパーナは知っている?
「パーナのいた世界には魔法やスキルがあったのか?」
「当たり前でしょ? このスキルは生きていた時も持っていたわ」
なんだと?
「レベルは? いくつだった?」
「2よ! でも今は1になっちゃってるわ……」
レベルは1に戻ってるのか……なら俺はそこまで不利ではないのか? というか2で胸を張らないでほしい。
色々と考えられる可能性があるがパーナ一人を参考にしていいものか?
駄目だ。出来るだけ他の奴らとも情報交換をしたい。
通路の先に部屋の入り口が見えてきた。先程と同じ様に慎重に中を覗き込む。
部屋の中央に、緑色でボロ切れを纏った130センチくらいの小鬼らしきものがウロついている。
「あれはゴブリンね」
「知ってるのか?」
「本で読んだことあるわ。確かランクはFよ」
コボルドッグと同じか……なら大丈夫か?
「俺があいつの注意を引くからパーナは合図をしたら攻撃魔法をゴブリンに撃ってくれ。威力がみたい。」
「わかったわ」
よし、行くぞ。
俺は部屋の中を走り、一気にゴブリンに近づく。ゴブリンは俺に気付き、俺と同じ棒を振り回し威嚇してくる。
ゴブリンの腹目掛けて棒を振るう。しかしゴブリンは受ける。ほう? 小さいクセにやるじゃないか。
だがこれなら……。
そのまま数度打ち合いゴブリンの棒を弾き飛ばす。10年以上も道場で鍛えたんだ。体格差もあり、こんな奴に負けるはずがない。
「パーナ! 今だ!」
「任せて! ファイアーボール!」
武器を失い、焦っていたゴブリンに向けパーナが魔法を放つ。
その魔法は直径20センチくらいの火の玉で、緩やかな放物線を描き、ゴブリンに向かっていく。
それを俺とゴブリンはゆっくり眺め……
ボスッ……
ゴブリンの近くの地面にぶつかり消える。
………………。
「キシャーー!」
「うわっ!」
あまりな事に呆然としているとゴブリンが掴みかかってきた。
「パーナ! もう1発! 他の魔法!」
「ダメ! 魔力切れよ!」
「嘘だろ!?」
俺は焦るもゴブリンと組み合い、身体に染み付いた動きで相手を組み倒し、首を背後から絞める。身体の大きさに比べると力が強い!
しばらくもがいたゴブリンは力が抜け動かなくなる。
今のは体格が大きいものだったら危なかったかもしれない……。
「やったわね!マサヤ!」
パーナが駆け寄って声をかけてくる。
俺は光を失った目で問いかける。
「おいパーナ。あの魔法はなんだ?」
「ファイアーボールよ!」
そうじゃない!
「威力やスピードはあんなものなのか?」
「まだレベル低いんだからしょうがないじゃない!」
向上する可能性はあるのか…ならいいが今は期待できないな…ってかあの威力1発で魔力切れるとかどんだけ低いんだ?
「パーナの魔力はいくつなんだ?」
「2よ! 普通は大体1分で1回復するんだけど、私の場合はスキルのおかげで、その半分のスピードで回復するから1分あれば全回復よ!」
そんなスキル捨ててしまえ!
『オラッ!とっとと歩け!』
『ごめんなさい。言う通りにしますから叩かないでください……』
そんな声が反対の通路から聴こえてきた。