神界都市アレンテス(2)
飛ばされた先は四方5メートル程の狭い空間、そして一本の通路が伸びている。足元には薄明るく光る植物が生えており視界はそれなりに明るい。
「ここがダンジョンか……」
俺は念のためウインドを開く、すると新しくマップとパーティ、決闘、リタイアの項目が追加されていた。
まずはマップを開いてみる。
模擬ダンジョン1層 残り時間59分
マップには現在地と残り時間が表示されている。この四角い部屋が今いる所で青い光点が俺か。通路から先はまだ表示されていない。
どうやら通った場所が自動でマッピングされていくらしい。
パーティを開いてみる。
パーティ:最大6人まで編成が可能。
現在パーティを組める相手がいません。
パーティを組めば色々有利になるのか?ポイントはどう振り分けられるんだ?
次に決闘を開く
決闘:条件を付けプレイヤーと戦うことができます。
現在決闘が可能なプレイヤーはいません。
これを使えば殺し合いは避けられるんじゃないか? 何を条件に設定できるかわからないがやってみる価値はありそうだ。
リタイアの項目を開く
リタイアしてダンジョンから脱出しますか? はい/いいえ
俺はいいえを押す。どうやら自分からリタイアをすることも出来るらしい。命の危険を感じたらリタイアも考えねばなるまい。今回は死ぬ心配は無さそうだからやれるとこまでやろう。
さて、大分時間を使ってしまった。とりあえず先に進もう。
通路は光る植物が少なく、大分見通しが悪い。幅も2メートル程しかなく、ここでの戦闘は厳しいだろう。
幸いモンスターに出会うこともなく次の部屋の入り口がみえる。
俺は慎重に部屋を覗く。
居た……。
部屋の広さは先程よりかなり広い。先に続く通路は俺の正面奥と、左手にある。その部屋の中央に3匹、犬に似た生き物が動いてる。あまり強そうに見えないが丸腰で3匹ともなると多分危ない。
とりあえず気付かれないように壁沿いを慎重に歩き、二つある通路の、近い左手の方に向かう。すると犬擬き達が何かに反応した。
マズい!バレたか?
「フンフフンフ〜ン♪……ヒッ……!」
先程の金髪ボブカットの女が鼻歌を歌いながら奥の通路から部屋に入ってきた。あいつは馬鹿なのか!?
「ヴォンッ! ヴォンッ!」
「いやぁぁぁぁぁああ!」
女が来た通路を全速力で引き返していき、その後を2匹の犬擬きが吠えながら追っていく。
チャンスだ。あの女には囮になって貰おう! なに、今回は死にはしない!
俺は丁度足元にあった木の棒だかなんかの骨だか解らない棒を拾い残った1匹の犬擬きに向かっていく。
「ヴォンッ!」
犬擬きは俺に気付き、威嚇するように吠える。よく見ると目がなく、口がかなりデカイ、髭も太くて長いのが左右に1本ずつ伸びている。やだ、なにこれ、気持ち悪い。
「ヴォンッ!」
俺の隙を窺うように左右に歩いていた犬擬きが飛びかかってくる。
「だぁっ!」
俺は剣道の上段の構えから奴の頭目掛けて思いっきり棒を振り下ろす。
「キャンッ!」
犬擬きが地面に叩きつけられる。俺は体勢を立て直される前に、渾身の力を足に込め、奴の顎下からカチ上げるようにサッカーボールキックをお見舞いする。
「バキッ!」
骨が砕けるような音と共に犬擬きが動かなくなる。
やったか!?
しばらく動かなくなった犬擬きを見ていると、いきなり風化した様にバラバラと崩れて消えてしまった。そこには1本の牙が落ちていた。
こんな戦い方で良いのだろうか?なんか全然異世界っぽく無いんだが……。
牙を拾い、ウインドを開いてみる。所持品の中に『棒』と『コボルドッグの牙』というのがある。触れると収納しますか? とでるので試しに収納してみる。すると両手に持っていた棒と牙が光に包まれ消える。ウィンドの欄には×1と表示されていた。
「おお! すごい!」
試しに棒の方を出ろと念じてみる。すると右手に棒が現れる。これは便利だ。レベルも1つ上がっていた。
名前:田所正弥 レベル2 ランクE
ステータス
体力20
攻撃6
防御6
敏捷6
魔力6
体力は10、他は1ずつ増えていた。
さらにモンスター図鑑なる項目が増えている。
触れてみると
モンスター図鑑
黒髭犬
とある。さっきの犬擬きは黒髭犬というらしい。さらに触れてみる。
黒髭犬 ランクF 討伐数1
4つ足のモンスター、目がなく匂いと音で周囲を感知する。暗い場所を好み、群れて行動することが多い。ダンジョン内では稀に爪や牙をドロップする。
なるほど。討伐すると情報が載るらしい。
ランクはFと俺よりも低い。模擬ダンジョンだけあって大分難易度は低いのかも。運良くドロップアイテムを取れたし、これで4Pだ。案外簡単に10P貯まりそうだ。
「さて……どっちに行くかな……」
俺は左手と女が逃げていった方を見比べ考える。もしあの女がまだ頑張っていたら恩を売れるかもしれないし、駄目でも黒髭犬2匹で2P貯まる。万が一にも倒してるなんて事は無いだろう。
進む方向を決め、通路を歩いていると
「ヴォンッ! ヴォンッ!」
「いやぁぁぁ! 来ないでぇぇぇ!」
どうやらまだ頑張っていたらしい。
部屋に着くと壁の溝に入り、入り口に木の板みたいなのを盾のように構えて泣き叫ぶさっきの女がいた。
コボルドッグ達は吠えながら、木の板に体当たりをしている。木の板は既にボロボロで長くは持たないだろう。
俺は注意が女の方に向いてるうちに背後に忍び寄り、コボルドッグの頭に思いっきり棒を打ち付ける。不意を突かれたコボルドッグは一声鳴くと動かなくなる。
もう一匹が俺の方を向き、警戒した様に吠える。3匹目となれば恐れる足らず。軽くフェイントを入れつつコボルドッグを撲り倒す。
コボルドッグが崩れ去り、静かになり女が恐る恐る顔を出し、俺と目が合うと
「だ……だずげでぐれで……ありがどゔぅぅぅ!」
と泣き崩れた。こいつ泣いてばっかだな。
「ああ、気にするな。困った時はお互い様だ」
グスグス言ってる女が落ち着くのを待ち、自己紹介をしておく。
「俺は田所正弥だ。君は?」
「私はルインダルト・パーナシア・アイリアット・マルティス・ゲイラゲン三世よ!」
「なげぇ!」
「いたいっ!」
俺は思わずつっこんでしまった。