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プロローグ

初めての投稿です。至らない点も多いと思いますが、読んでいただける方は宜しくお願い致します。

いい朝だ。いつも通りの部屋も心なしか輝いて見える。


俺の名前は田所正弥(たどころまさや)。今年高校を卒業し、今は大学入学の前だ。この時期は学生というのだろうか? 学生で無いならニートという事になる。え? 俺ニートなの?


「おにーちゃーん」


時刻は8時半、テレビでは今日もハムスター達が元気に大冒険中だ。


「おにーちゃーん。起きてるー!?」


さっきから近所迷惑を考えず俺を呼んでいるのは、今年14歳になる妹の田所花苗(たどころかなえ)だ。俺はご近所関係を大切にしてるから大声で返事したりなどしない。心の中で「起きてるよ」と伝える。ハムスターにも出来るんだ。俺にも出来るだろう。へけっ!


「お兄ちゃん!!」


バンッ! とドアが乱暴に開けられる。ご立腹の様子をみるに俺の返事は届かなかったようだ。おかしい、こんなにも俺は妹の事を想っているのに!


「おはよう花苗。起きてるよ」


「起きてるなら返事くらいしてよね!」


ポニーテールをピコピコ揺らしながら朝から元気いっぱいだ。可愛い奴め。


「大きな声を出したらご近所に迷惑だろう。準備は出来てるよ」


「じゃあ早く朝ご飯食べて! 里美さん来ちゃうよ」


六式里美(ろくしきさとみ)。隣に住む幼馴染だ。 黒髪ロングの美少女で歳は17歳。もちろん身体が硬くなったり、空中を蹴ったりは出来ない。


今日、俺と花苗と里美でアメリカに行く事になっている。理由は後で話そう。


「おはよう。父さん、母さん」


リビングでは父が新聞を読み、母は台所の片付けをしている。


「おはよう正弥。今日は頼んだぞ」


「おはよう正弥。はやく食べちゃって」


うちの家は代々警察官だ。祖父は引退して道場の師範をやっている。俺は子供の頃から警察官に成るべく道場に通わされていた。




ピンポーン




朝食を手早く済ませていると、来客を知らせるチャイムがなる。


玄関の前では車椅子に乗った里美とその両親、そして里美の介護をしている靖子さんが立っている。


「お兄ちゃん、はやく!」


俺達は荷物を持ち玄関に向かう。


今日は六式家の車で空港まで送ってもらう手筈になっている。六式家の両親も仕事の関係で明日の出発となる。靖子さんは俺達と一緒の便だ。


「私達も直ぐに仕事を片付けて明日には向かうからな」


「着いたらホテルから出ないでね」


「ああ、わかってるよ母さん。じゃあ行ってきます」


両家で挨拶を交わし、両親に別れの挨拶をし、車に乗り込む。


両親は休みをとったのだが、どうしても外せない会議が今日の午後に入ってしまったらしく、飛行機の空席の関係で別々の出発となったのだ。



「マーくん。今日は宜しくね」


「任せておけ。里美は何があっても俺が守る」


「ふふっ。マーくんはいつも大袈裟なんだから」


そう言って笑い掛ける里美の顔はいつもより何処と無く明るい気がする。


里美は病気だ。


とても珍しい骨のガンらしく、発病したのは今の妹と同じ13歳の頃。この病気は歳と共に進行していき、身体の自由を奪っていく。

そして20歳を過ぎる辺りで死に至るのだ。里美はもう足が動かない。


今の医療では治療法が確立されてなく、どうしようもない状況だったところ、アメリカの医療チームが新薬の開発に成功したとの情報が入り、直ぐさまアメリカの病院へと移る事になった。俺達はその付き添いだ。


里美は病気が発症するまでは、天真爛漫な女の子だった。小さい頃からバレエを習い、天使の様に踊るその演技を見た俺は子供ながら感動と憧れを抱かずにはいられなかった。


その里美が病気を発症してからはあまり笑わなくなり、次第に弱っていくのみて、その頃の俺は何が出来るわけでもないのに、この子を絶対に守るんだと決意し、毎日道場に通った。


「それじゃあ靖子さん、里美を宜しくね」


「はい、六式様。お任せ下さい」


「正弥君も花苗ちゃんも宜しくね」


「はい! おばさま!」


「それでは、行ってきます」


「気をつけてね」


空港に着き、別れを済ませて飛行機に乗り込む。席はファーストクラスで1番前に俺と花苗、一つ後ろに里美と靖子さんだ。


「花苗は飛行機初めてだろう?窓際は譲ってやろう」


「いいっ!お兄ちゃんが窓際座って!」


イヤイヤと顔を横に振る花苗はどうやら高い所は苦手らしい。そういえば遊園地でも絶叫マシンには一度も乗らなかったな


「なんだ? 怖いのか?」


「べ、別に怖くなんかないよ!?ただお兄ちゃんが座りたそうな顔してるから譲ってあげるの!お兄ちゃんてば産まれた時からそういう顔でしょ!」


俺は産まれた時から窓際に座りたそうな顔してたか…初めて知ったよ。将来は部署でも窓際かな。


遠い目をしながら席に座っていると、離陸のアナウンスが入る。


いよいよ飛び立つのだ。里美の今後に希望が持てるとなると嫌でも喜びが溢れてくる。


「お兄ちゃん!シートベルトこれであってる!? 落ちない!?」


「いや、間違ってる。それだと落ちるぞ」


「ええっ!? うそ!?」


「嘘」


「お兄ちゃんのばかたれ!」


花苗は頬を膨らませてそっぽを向いてしまうが、怖いのか俺の袖は離さない。


ばかたれって……そんな言葉よく知ってるな。ちょっとからかい過ぎたか。最初の浮遊感も落ち着き、謝ろうと花苗をみると目から光が消えていた。大丈夫か! 戻ってこい!


「里美、体調は大丈夫か?」


「大丈夫よ。でも少し疲れたからちょっと眠るね」


やはり久しぶりに外出となると疲れるか。すこし静かにしていよう。もうシートベルトも外せるし花苗とトイレを済ましておく。


しばらくして3人の男が後ろから歩いてくる。なにやら物々しい雰囲気だ。2人が操縦室に入って行き、1人がその部屋の前に立つ。


「なんだガキ。ジロジロみてんじゃねぇよ」


「ひっ」


花苗と目が合ったようで、ガンを飛ばしてくる男。操縦室の扉が開き中に入った男が扉の前の男に耳打ちをする。


「よしお前ら! この飛行機は俺達が乗っ取った! お前ら人質だ! 騒ぐんじゃねぇぞ!? 騒いだ奴は撃ち殺すからな!」


なんだと?突然の事に頭が追いつかない。ハイジャック? 日本で? 警備は何をやってる? ふざけんな。俺達はアメリカにいかなきゃならないんだ。こんな事あってたまるか!


「お兄ちゃん! どうしよう!? なんなのこれ!?」


「ガキが! 騒ぐなっつってんだろ!」


男が髪を掴み花苗を通路に引っ張る。


「いゃ! やめてっ!」


クソ! 突然の事に動揺して反応が遅れた!


「おい! 離せ!」


「うるせぇ!」


男に掴み掛かろうとした俺に銃を向け、引鉄に指をかける男。



ダァンッ!!



「がああぁぁぁっ……!」


「きゃあああああ!」


「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ!」


左腿にありえない熱と痛みがはしる。目の前がチカチカして焦点が定まらない。撃たれたのか!?


機内は悲鳴が響きわたり、花苗は俺に手を伸ばし泣き叫んでいる。


「マーくん!?」


「正弥さん!?」


後ろからは俺の様子がよくわからないのか、里美と靖子さんの焦った声が聞こえる。


「チッ!」


男が苛だたしげに舌打ちをし、顔をしかめる。

まずいこのままだと花苗が…


「花苗…! 俺は大丈夫だから騒ぐな…!」


「いやぁぁぁ! お”に”ーち”ゃーんんん!」


パニックになってしまった花苗は泣き叫び続ける。


「うるせぇ! これだからガキは嫌いなんだ!」


男が花苗の頭に銃を向け、再び引鉄に手を掛ける。


「やめろっ!」



ダァンッ!!ーーーードサッ



「花苗っ!」


「花苗ちゃんっ!」


嘘……だろ……? なんだ? なんなんだ!? なんなんだよこれは!!


頭の中が真っ白になり、視界が真っ赤に染まる。俺は足の痛みも忘れ、男の顔面を思いっきり殴りつける。何かが砕けた音がしたが気にしてなどいられない。


「花苗……? 花苗……! あぁぁぁ……!」


花苗は既に息絶えていた。


何も考えられない……どうしてこうなったんだ……?


扉が開く


「なんの騒ぎだ!」


機内室から男が出て来て、呆然と花苗に縋る俺と、倒れてる男を見て俺に銃を向ける。


「この野郎! やりやがったな!」


「マーくん! 危ないっ!」




ダァンッ!!




三度の銃声、そして俺にのしかかる様に倒れる里美。


里美の胸からは赤い液体が溢れている。


「里美……なんで……?」


「よか……た……まー……くん……いつも……ありが……とう……」



里美は笑いながらそれだけ言うと力が抜け動かなくなる。胸からはまだ血が溢れていた。


何故立てない里美が…この状況を理解できない俺が呆然と男の方を向くと一瞬の光と共に意識が途切れた。







次に目が覚めたのは薄暗い見知らぬ場所だった。














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