いざ街へ
エメリアはある一つの職に目を留めていた。
魔石職人。
彼らが自身に流れる魔力を使い、固めて、非常用にと売り出したのが始まり。
特に冒険者に重宝され、腕の良い職人と契約を結ぶのが、その冒険者の運命を左右するとまで言われる。今やこのレイテット王国の一大産業として発展しており、女性もなりやすい職業だ。
現在では一般市民にも使いやすいように、腕輪やネックレスなど、小物や置物として作ることも可能だ。ただ大きくなればなるほど、性能が高ければ高いほど、その分作り手の魔力消費も大きく、販売時の値段も高い。
これ、売り物のメインにしようかな。
エメリアは魔力量だけはかなり高い。魔石を作るのにうってつけの人材だった。今でも臨時収入として街で買い取ってもらっていたが。
そうと決まればひたすら練習あるのみである。
エメリアは何度も書庫へ足を運び、魔石作りの基本をもう一度頭に叩き込んだ。
最初の数日は色も濁っていて効果もあまり良くなかったが、始めてから約10年、今やクリスタルのように光り輝く魔石を作ることができるようになった。
種類は様々で、その魔法の適性がなくてもちょっとだけ手軽に使える魔石や、お守り効果、魔力の補充と幅広い。
だがここ数年、エメリアは決してそれらを売りに行くことはできなかった。門番が異様に増えていたためだ。
どうしてエメリアが外に出ることをこれほどまでに厭うのか。両親の自分に対する態度からは自分はそこまで重要ではない気がするけど……。
なんでも、お父様から禁止令が出ているとのこと。何をやらかすか分かったもんじゃないから、と。
まあ逃げ出すつもりですが何か? くそう、私は街に行きたいのに!
数ヶ月が経った頃、エメリアは、両親に自立のことを話しに行った。
そろそろ原作が始まってしまうためだ。
重厚な机からお父様に見下ろされると威圧感がすごい。お母様、その扇で隠している顔を少しでもいいからこちらへ向けてくれればいいのに。
「……いいだろう。勝手に出て行け。お前がもうラズライトの名を出すことは許さん」
「はい」
なんということでしょう。
何年ぶりかに交わした会話がこれだけなんて。それほど私たち親子の関係は冷え切っていたということだろう。
とりあえず、言質は取った! いざ出発!
あらかじめまとめておいた荷物を片手に、門へと歩き出す。これがどうして中々きつい。
アイリにはたくさんの人がついていたため、エメリアが近寄ることができなかった。せめてと書置きを残す。
え? 私のお付きの人? いるわけないでしょ。アイリの方が可愛がられてるからね〜。
エメリアはのんびりと歩きながら、無事門も通過し、街まで歩き出した。ここは少し外れの方にあるのだ。
しばらくすると人も増え、賑やかになってきた。馬車も増える。人々の活気あふれる様子に、エメリアも楽しくなってきた。
しばらくして、背後から怒号と悲鳴が聞こえた。
振り返る間も無く、スレスレを馬車が通り抜ける。その際にこぼれ落ちたのであろうリンゴが、ピタリと狙いを定めたかのように、頭を直撃した。
ゴッという音とともに、痛さがやってくる。
「〜〜〜っ! いった……」
今日は厄日か何かなのだろうか。とりあえずこのままここにいては余計な注目を集めるので、立ち上がって進み始める。
少しふらっとしたが、まぁ大丈夫だろう。