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忘れられた魔法と血に沈んだ剣


森の奥へと進んでいる途中、小さな血溜まりと肉片、辛うじてイタチに似た生物と分かるまでに損傷した死骸が散乱しているのを目にした。


「うわ、グロ……キモチわるっ。」


ルナリリアは自分の仕出かした所業を棚にあげ、足早に木々の間を抜け移動する。せっかくこっちの世界に来たんだし、向こうにいては滅多に体感出来ない大自然を堪能しようと、キョロキョロと辺りを見回しながら「さっきのはノーカン!」と、気持ち新たに歩き出した。


普段から難しく考えることを放棄している彼女の脳が「ま、なんとかなるなる」と、元々の楽天的な性格と刹那的な思考回路を存分に発揮し、いつも通りにその時の気分で行動を開始してしまった。


それで良いのか、元社会人三十ー歳……。

社会復帰して九ヶ月、それまでニートだったとしても、今すべき事がまだ他にあるはずだろうに……。


フン、フフンフ~ン♪とルナリリアは、無表情でハミングしながら奥へと進み、木に抱き着いてはその大きさを実際に肌で感じたり、ほんのりと発光している花を見つけては匂いを嗅ぐなどして自然を満喫している。


さ迷う彼女の視界に入るのは彼女の胴回りの三倍はある巨木群と足下に広がる草花のみで、あまりにも変化の乏しい周囲の光景に、二時間が経った頃ルナリリアは足を止めその場にしゃがみこんだ。


「あぁもう疲れたぁ。洞窟とか無いし。……ここ何処?」


彼女の肉体スペック的には全く疲れていないので、飽きて面倒くさくなったに違いない。


「楽しかったけど、それも最初だけやしなぁ。珍しいのもあったけど、ほとんど木とか草やし……。」


深夜の森の真っ只中で、熱しやすく冷めやすい悪癖が顔を覗かせる。そしてこの発言で、ルナリリアが散策に飽きたことが確定された。

今は地面に落書きしながら「お腹空いたぁ」とブツブツと繰り返している。


空腹にしても、休日は起きて直ぐからゲームをし、皿洗いが嫌とコンビニで済ませ、買いに行くのもダルいからと夜一食に纏めて摂っていた為に、今日一日本当に何も食べていないのだ。自業自得すぎて同情の余地無しだが……。


「アッ!……、一狩り行こうぜっ!!」


下がっていたテンションが急上昇し始める。

食材が無ければ狩ればいいじゃないかと、先程目にしたイタチ達を思いだし、項垂れた顔を上げ透き通る様なソプラノボイスが物騒な台詞を発する。




「血で汚れそうやし、腹捌かなアカンよなぁ。装備は……、いらんからコレにしとこ。」


左側の刀【絶魔刀:桜】をアイテムボックスにしまい、新たに取り出した片手剣【アクアブレイド】を装備する。レア度は☆一から最高値の☆十でランク分けされ、その中では☆六と高めに位置する青い鞘と直刃が特徴的な、入手されてから今までずっと眠っていた剣がルナリリアの腰に携われた。


「んで、何狩ろう?森やし猪系やったらおりそやなぁ。猪肉やったら煮込み……は無理やから、そんまま焼くしかないな。」


マップを呼び出し、生息していそうな猪系の魔獣を検索するためにボアと入力すると、マップが更新されルナリリアを示す中心点から遠く離れた位置で、ダークホーンボアと表示された赤い光点がまばらに散っているのが確認できた。


「あれ?数増えてるし、タイマーもなくなってる……。ゲームじゃなくてリアルになったからかな?」


一度討伐した魔獣は、生態などの解説付きで各個人毎に独立した図鑑に登録され、マップで検索をかけるとそのエリア内にいる対象の一体がランダムで五分間表示される。五分経過後に再度検索は可能だが、その際は先程とは別の対象が選択される仕様になっている。

各エリアが三~五つのゾーンに別れており、仮想現実空間内では土地代がかからないのを良いことに、その一つずつを広大な面積で実装している為、エリアを歩き回っても遭遇せず討伐出来なかったという事故を防ぐ役割と、図鑑作成というやり込み要素の二つを併せ持つ機能になっている。因みに初討伐の際は、ギルドでクエストを受けることで討伐対象にマーカーが設定され、達成すると自身の図鑑に登録され次から検索出来るようになる。が、ルナリリアのマップには全対象が表示され、時間制限無しへと変化していた。


「これが、ゲームとリアルの差か……。まっ、とりあえず狩ってから考えるとしますかね、っと!!」


普段との相違点に戸惑いつつも便利になったから特に問題無しと頷き、他の光点と距離があり単体で行動している可能性が高いダークホーンボアに狙いを定め駆け出した。



ドッッドッドッドドド……!!


走り出して数分、視線の先から段々と大きくなる木々の倒れる音と地面から伝わる振動、ダークホーンボアの発する低い唸り声を聞き、ルナリリアはその場で足を止め迎撃体勢に入った。


「……やっぱ突進で来たかぁ。んじや、楽勝やな。」


そう言いつつも、この世界での初めての戦闘にゴクリと綺麗な喉を鳴らし、剣を上段で構え獲物が眼前に躍り出るのを待つ。



「BoruruuuU!!!」


鼻先を覆い隠す様に、大地と平行に長く伸びた黒い巨大な角が、スキル使用時に発する緑の光を纏わせ進路上にある大樹を易々と突き破る。全身を包む硬い焦げ茶色の体毛が、接触した木々を削り取る。体高二メートル、体長五メートルもある体を支える六本の足は荒々しく地を蹴り、文字通りに突き進む。


木と木の隙間からその姿を視界に収めたルナリリアは、剣を思いきり力を込めて振り切った。


「ッラァァ!!」


その瞬間、ダークホーンボアだけでなく地面もが縦に裂けた。数時間前の再現か、衝撃波でいとも簡単に戦闘は終了してしまった。


「……マジかぁ。さっき暴れた時に出来てたから試してみたけど…………。スキル使わんでよかったぁ。谷とかになったら、危ないし。」


予想以上の威力にちょっと引きながら足元の、幅三センチ位の細長い亀裂を覗き込む。夜の闇で底の方はよく見えないが傍にある小石を落とすと、割りと直ぐに音が鳴り、深くは無いみたいなので「セーフ、セーフ」と自己弁護で乗り切るルナリリア。


「次はコレかぁ。……うん、こんな大量はいらんな。」


濃い血臭に眉をしかめつつダークホーンボアの前に移動し、一言。

ルナリリアは素直クールっ娘なので、本音がポロッと出てしまいます。


「はぁ。予想してたけどゲームみたいにドロップアイテムだけが残るとかは無いかー。とりあえず肩ロース最優先で、一応他の部位も味見しとこ。」


右手に握ったアクアブレイドで、いそいそと解体に取り掛かる。

巨体に悪戦苦闘しつつ三十分程で捌き終えたルナリリアは、フーッと聖水を飲んで一息つき、次に火を起こそうと薪と草を集め落ちていた石を火打石代わりに試してみたが……、石同士ぶつけた途端、真白い手の中で砕け散った。


「うん、コレは無理やな。 それに鉄板とかもないし……、あっ!なんかあったかも。」


メニューを開き、アイテムボックスのリストから調理に使えそうな物を探し始める。

ルナリリアはまだ気づかない。魔獣もいてスキルもあれば、魔法もこの世界には存在しているということに。

スッ、スッとページを捲っていた指が動きを止めた。


「ってか、アイテムボックスの中にご飯あったし!ゲームん中じゃあんまり使えへんからすっかり忘れてたー。もう料理するの面倒くさいし、今日はコレ食べよ。……その前に手洗いたい。」


女心と秋の空を体現する彼女は、剥いだ皮の上に並べられた部位ごとに切り分けられた肉をアイテムボックスに収納し、ここまで走って来る最中に目にした川へ向かった。


バシャバシャと赤くなった腕を洗い、透き通った水をうっすらと染めるが、それも直ぐに右から押し流されて消えていく。


ご飯を食べ終えて川辺で休んでいたルナリリアは、最初の目的である洞窟を探しに行こうと立ち上がって周囲を見渡し、忘れ物が無いか確認する。

食事の際に出た容器などのゴミは全てアイテムボックスに入れ、自然を汚さない様にマナーを守り、ちゃんとお持ち帰りしているが、彼女は一つ忘れている。

膝下の高さまである草を剣で散らして進もうと思い、伸ばした手が空を掴んだ。


「あー、剣忘れたな。……もういっか、めっちゃ血で汚れたし。それに臭いとか取れ無さそうやし。」


川辺の石を小山の形に積み上げ、そこに鞘だけになった元アクアブレイドをザシュッと突き立てた。

憐れアクアブレイド。ここがあなたのお墓ですよと、ルナリリアはしゃがんで手を合わせた。




「よしっ、月も大分傾いてきてるしペース上げて探そっ!」


低く跳びながら小さくなる背中を、月の光を青く反射する直立不動の鞘が見送った。





食事休憩後からハイペースで森を駆け抜け探索するが、それらしい場所も見つからない。

マップの検索機能は既に試しており、結果は「該当無し」と表示された。アクアブレイドと入力すると「該当一件」の文字と共に、ルナリリアの後方に青い光点が一つ現れ、正常に作動している事が確認できたが、諦め悪く自分の眼で確認するまではと、更に奥深くまで勇み進んだ結果が――――



「全っ然見つからへーん……ってか、やっぱり無かったー。もう無理ー、つーかーれーたぁー……。」


ゴロゴロと草の上で何度も寝返りを打ち、間延びした声でルナリリアは愚痴を吐きつづける。



――――この状態だ。



「うわっ、もう三時かぁ。本当やったら家で寝てる時間やのになぁー……。はぁ~、はよ家帰って……寝た……い?」


メニューウィンドウに表示される時間を見つつボヤき出したところで、閃いた!というよりかは思い出したの方が正しいだろう。


「そや!ホームあったやん!!こっちでも出せるかわからんけど、試してみよっ。」


ガバッと起き上がり、流れる様に指を動かし弱連打。


「本当やったら街中でしか召喚でけへんけど……大丈夫そやな!!」


そう声を出すルナリリアの前に金色に輝く直径十メートル以上の魔法陣が展開し、一瞬、激しく光った後に魔法陣は消失し、三階建ての白亜の豪邸だけが静かに鎮座していた。


「……リアルやったら迫力あるなぁ。向こうやったら絶対住まれへんわ……。あっ、目がぁ~!ってするの忘れてた……。」


どうでもいいことを気にして落ち込むルナリリアだが、これから実際に過ごすことになる豪邸を見上げしばし立ち呆ける。


「…………、イベ頑張って良かったぁ。」


自分のニート時代は無駄じゃ無かったぞと、感慨にひたりながらウンウンと頷く。


「ふひっ。フヒヒヒッ。」


嬉し過ぎてテンションが上限突破したルナリリアから、ダメな方の笑い声が漏れる。

森の奥深くとはいえ、この豪邸にはほぼ全てが揃っているし、何より自分の家という事がより一層歓喜の声を上げる。


内装はルナリリアがゲームとはいえ、実際に一軒家を購入した際のシミュレーションをも兼ねて、かなり拘りぬいて造られている。


現実は、マイホーム購入なんて夢のまた夢で、ポストに投函される住宅販売お知らせのチラシの間取り図を眺めるだけだったが……。



「色々あったけど、今日はもう寝て休も。」


誤魔化す様に咳払いを一つ、重厚な見た目に反して軽く引くだけでスッと開くドアをくぐり、勝手知ったるや、二階の寝室へと直進しそのままベッドに飛び込んだ。


「うわっ!柔らかっ!!家のとは全然違う!枕もフワフワやし。全部綿飴で作られてるみたいやわぁ。コレは間違いなく熟睡出来るなぁ。…………からだが~ベッドに~呑・み・こ・ま~れ~るぅ~~……。」



純白のベッドに埋もれる様にルナリリアは、上機嫌で色々あった今日一日の疲れを癒す為、深い眠りに入った。

サブタイ詐欺になるのかな?

次は5日後位になります…。近々、上野歩vs母なども予定してます。

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