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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Knights of round Vol.1 Runaway
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痕跡

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

「何だとっ!?遅れているだぁっ!」


 グレイ・スカーの巨体が放つ怒りの声に、目の前に立つ傭兵達の顔も真っ青になる。

 それはそうだろう、巨体の上にぱっくりと割れた狼の口からはただでさえ鋭い牙がチラチラと覗いている。それが歯をむき出しにして、臓腑からわき上がる怒りの炎を罵声に変えて思う存分吐きだし続けているのだ。

 怖くない奴が居るわけがない。


 だが、そんなことはグレイ・スカーにはまったく関係の無い話だ。

 嫌なら真面目に仕事をすればいい。なのにそれがこの体たらくだ。「12%程度の遅れです」だと。まったく、最悪である。1%の遅れでどれだけ危険が跳ね上がると思っているのだろう。

 この口の中に頭を放り込んで、ぐしゃぐしゃと咀嚼して見ればすこしはこいつらの頭の中身を自分も理解できるのだろうか?


「あの札束を見てお前等も安心したな?なら、きちんと時間までにやりとおして見せろ。仕事ができないならそいつは必要ない。遊びでキャンプをしているわけじゃないんだからなぁ」


 ようやく言葉にも、理性が入ってきてこれだけを言うと”部下”だという連中を下がらせた。

 まったく役に立たない奴等だ。任務を成功させるのは当然だが、この調子なら半分も生きては帰ってこないだろう。




 トニーが最初にディアナとルーベンの様子がおかしいことに気がついた。

 ざわざわしている、冷静さと知性の2人があんな調子なのは珍しい。

 次に、施設にヤバい奴等が居ることに気がついた。

 私服姿だったが、懐かしの会いたくない親達である。


「おい、おいっ!」

「静かに!……わかってる、なんでここにいるんだ。追ってきた?そんなはずはない」


 いいながら、ヴィクターは冷静に荷物の中からホークガールが置いていった双眼鏡を取り出してのぞく。


「で、でもよ。あそこに実際、いるんだぜ?」

「わかってるよ。ホークガール……は大丈夫だろう。中からたくさん(人が)出てきている。脱出しているはずだ。親達があそこにいる以上、僕らもここに居続けるのは不味い」

「撤退だ、撤退するんだろ?」

「落ち着けって。そうだ、だがそれならなんでディー達はあんなに慌ててる?こっちの配置はホークガールに言ってある。あそこからメガンを呼び戻してもいいのに……ああ、そんな。嘘だろ?」


 ここでようやくのこと気がついた。

 のぞいている双眼鏡の向こう側、親達のすぐそばで荷物の影の中を移動する少女の姿を見つけた。



「ディー、落ちつけ」

「でもルン。ああ、何をやってるのあの娘」


 もうパニックだった。

 メガンの役目は、自分たちよりも前の位置でl敵の近くに潜んでいる事だったはず。

 すばしっこいし、身体能力に優れていて隠れるのも上手いからこそ彼女はそれにえらばれたのだというのに。

 ここでホークガールの真似をする必要なんてどこにもないというのに。


「メガン、何を考えてるの?」

「わからない。だが、戦おうとは思っていないはずだ」


 努めて冷静にふるまうルーベンのおかげで、ディアナも落ち着きを取り戻せそうだった。

 だが、それでもメガンの行動は彼女達にとっては不可解というしかなかった。

 それも仕方の無いことだろう。

 彼女達の位置からは見えなかったが、車から降りてきた”プロモーター”が自分の手首と手錠でつながったかばんを開くと。周りに集まる傭兵達に向かって中身のびっしりと詰まった札束をみせていたのだ。


 これを見た瞬間、メガンという少女の頭の中にあった理性は、衝動に一気に支配されてしまった。


 チャンスがあるかもしれない。もうちょっとだけ近づいて、見ているだけだ。

 そしてチャンスがあったら、あれを手に入れる。手錠がしてあるけど、なんてことはない。自分の怪力で引きちぎればいいだけだし。あれだけあれば、この先もこんな危ないことをしなくて済むんだから。


 やはり、どうしたって彼女は子供だったのだ。

 彼女の位置からは見えない位置に、絶対に知られてはいけない存在が居ることに気がつけなかった。

 自分の仲間達が今の自分をどんな思いで見つめているのかなど考えないまま、少女はひたすら突出し続けようとする。



「どうする、ディー。ヴィクターを呼ぶか?」

「呼んでどうするの?」

「君のゲートと彼のフォースフィールドでメガンを包んでここに引っぱりこむ、それでどうだ?」


 ルーベンの提案をディアナは即刻却下する。


「ダメ。フォースフィールドは無音じゃないわ。それに弱い状態でもあの子を動けなくすればパニックを起こして暴れるかも。危険なだけよ」

「ではどうする?なにもしないのか?今は君の親達はあそこにいる連中と話しているが。隠れているメガンを見ればすぐにばれる。全員が本気を出してきたら、今の僕らだけじゃ戦っても無理だ」

「わかってる。でもあそこにはあたしのパパもいる。ジャンプゲートを開けば、痕跡が残ってわかってしまうわ」

「どうする、連れ戻しに行くか?だが、僕じゃダメだ。背が高いし、君もまずい。トニーに来てもらうか」

「待って!あの娘、動くのをやめたわ」


 ディアナの言うとおり、メガンはようやく影を移動するのをやめたが。今度はそこでうごかないままチロチロと何かをのぞき見ている。

 どうやらこちらを見ているわけではなさそうだ、何を見ている?


「?」

「ディー、どうもメガンはあの背広を着た男を見ているみたいだ」

「なぜ?なにがあるの?」

「よくわからないが……手に持っている鞄と手錠でつながっている、ようだ」


 思わずめまいを感じる。

 多分、自分達が稼ぐ稼ぐ言いまわっていたせいかもしれない。

 あの鞄の中に、大切なものが入っていると思って……お金か何か。貴重品が入っているとなぜか確信して1人で奪い取るつもりなのだ。

 皮肉にも、その推測は当たっていて、鞄の中にも金がひしめいていたわけだが。そんなものを取って無事で済むわけがなかった。


「ディー、ここから戻るように合図を出すか?」

「それもダメ。あそこにいる誰かに見られたら、全部終わりよ?」

「…やれることはないのか?」

「そうでもないわ。あたしがジャンプゲートを開ける。そこからメガンを引きずりこむの、それしかない」

「それなら!?」

「でもまだよ。ホークガールが居ないと無理。あたしがあけるから、ルン。彼女と協力して力づくであの娘の体を引っぱって」

「メガンが驚いて暴れたら?」

「大丈夫、びっくりするかもしれないけど。相手があたし達だとわかれば素直なはず。それより問題は、パパがこっちの魔法に気がつかないといいんだけど……」


「お待たせっ」


 突然、草むらの中からホークガールが顔をのぞかせていった。


「ちょっと待たせすぎちゃったかな?でも、バッチリ終わったからね。あれ?メガンちゃんはここじゃないの?さっき配置場所をのぞいたらいなかったんだけど…」


 ディアナは大きく息を吸うと、謝罪からはじめて素早く状況を説明した。メガンが暴走して突出してること、兵たちの中にヤバそうなのが来たこと、そしてなぜかわからないが自分達の親の姿があると言うこと。

 ホークガールには罵られることも覚悟していたが、有難いことに彼女はそんなことはしなかった。そのかわりに


「やれやれ、お譲ちゃんは元気なのも考えものね。なんでも力任せはいけないって教えてあげないと」


 などといって笑ってくれた。


「本当にごめんなさい。でも、協力して貰わないと。メガンを助けられなくなる」

「いいって、わかってるから」

「だが、ディー。君の魔法の問題が残っているぞ」

「わかってる。でも、これはもうリスクを承知でやるしかない。今から誰かがあそこに行って、2人で戻ってくるなんて正気じゃないわ」

「……」

「あのね、2人とも。深刻になっているところを悪いんだけど、私が思うに。それほど心配はいらないんじゃないかと」

「?」


 突然、そんなことを口にするホークガールに2人は疑問の目を向ける。


「落ちついて考えて。あなたの親達があそこにいるのがおかしいってこと。あそこにいる連中は作戦前のはず。

 なのにあの様子はどう見てもお客さんよ、私服だしね。なら、ちょっと騒ぎがあってもあなた達の親はあそこでは好きにふるまえないはず。バレルかもしれないけれど、時間はあるわ。その間に出来るだけ逃げよう」




 そんな、家出した子供達がすぐそばで、自分たちから決死の救出作戦を練っているとはしらない親達。

 ディアナの父のイゴー・バーン

 ヴィクターの父のドブ・モリスン

 メガンの父のボクストン・ヒル

 彼等が何故ここにいたのだろう?


 実はなんのことはない、彼等がここに着たのはただの偶然であった。

 前の計画に従事した者と、回収に向かった者が合流して、この後は子供達の捜索チームのところへ移動する手はずになっていた。

 ところが、その最中に彼等の活動を支援するスポンサーの配慮でここにいる連中の所へと顔を出さなくてはならなかった。正直言えば、好きで来たというわけではない。

 だが、来てみるとそう悪いものでもなかったようだ。

 グレイ スカーはなかなかに手強い超人の傭兵だ。その彼が次の作戦で率いると言う連中が、とんだ間抜けのひよっ子共であるとわかったからだ。

 この巨体の獣人とは仲良しってわけじゃない。自然、男達の口元にはよくない笑みが浮かんでくる。

(これなら、どこかの運動場で組み体操でもやったほうがいいんじゃないか?)

 彼等が相手をするのは恐らく、西海岸を縄張りにしている政府所属の超人達である。

 百戦錬磨のグレイ スカーならば大丈夫だろうが、迷彩柄のカーゴパンツをはいたこの”お譲さん”達では生きて帰ることはできないだろう。


 ”子供達の家出”のせいで任務に集中できなかった【レヴォリューション9】の彼等にとって、苛立ちを僅かの間忘れさせる楽しい出会いとなっていた。


ゴトン!!


 それは唐突に音がした。

 周りでは”プロモーター”の周りにまとわりつく傭兵達を鼻息で蹴散らしたグレイ スカーにせかされ。慌ただしくしている連中は気がつかなかったが。

 それをニヤニヤと楽しんでいた3人は気がついた。


 並んでいる木箱の間、2段に積み上げられたそれは一瞬だけ宙に浮いた。それが音の正体だった。

 空の木箱のそばをねずみかなにかが通ったわけでは決してない。中身の詰まった木箱を、何かが跳ね上げたのだ。


「っ!?」


 同時にイゴーは懐かしい匂いと言うか、感覚を感じた。

 おかしな話だが、それは”ここで感じるはずの無い娘の存在”のように思えた。


 3人はお互いの顔を見合わせると、ゆっくりとその木箱の裏を目指して歩きはじめる。

 そう、あそこの裏に何かがあるのだ。



「おい、客共。どこへいく?」


 突然、後ろから生臭い息と共にグレイ・スカーが数人の部下を連れて立っていた。


「いやなに、ちょっと。あの裏で音がしたので見てみようと思っただけだよ」


 イゴーは笑顔を顔に張り付けたまま、なんでもないというように答える。

 怪しむ理由も、そこには微塵もなかった。

 だが、しかし


「そうかい、ならそれはこっちにまかせな。あんたらはそのまま動かなくていいぜ」

「……どういうことだ、スカー?てめぇとは知らない仲じゃねぇ。そうはいっても、今のいい方は気にいらねぇな」

「モリスン。あんたとは所詮仕事での付き合いだ。それに、今回はお前等エセ宗教者に雇われたわけじゃない。俺の仕事の邪魔になることは許さん」


 グレイ・スカーと3人の間に危険な空気が漂いだす。

 それに気がつき”プロモーター”が慌てて間に入る。


「はははは、皆さん落ち着いて。グレイ・スカーも。何も問題はない、そうでしょう?」

「だまれ、あんたは自分の仕事をしてりゃいいんだ。これはこっちの仕事だ。そしてそいつ等は客であって、仲間じゃない。資材の中につまらんことをしないと誰が言える?」

「そんなことするわけがない!」

「どうだかな。聞けばお前等、この前もしくじったと聞いたぜ?」

「おい、喧嘩売ってるのか?」

「事実しか言ってないぜ、こっちは。お前等がここに来るのを全員が両手を広げてハグしてくれると思ったか?逃げかえってきた負け犬が、これから戦場へと支度しているところにウロウロするのを喜ぶと思っていたのか?」

「ちょっ、ちょっと。グレイ・スカー、その辺でやめていただかないと」

「いいぜ、そこまで言ったんだ。最後まで吐いた方が、腸えぐられた後でも後悔は無いだろうさ」

「いきがるなよ。こっちは傭兵だ、ゲン担ぎってのにはうるさいんだよ。お前等が客だというなら構わんが、それはつまらん好奇心を満たすために歩き回ることを許すって意味じゃねぇといってるんだ」


 イゴーはキレかかっているドブと、静かに怒っているボクストンの肩に手を置く。落ち着けと言う意味だ。


「スカー、君の言うこともわかる。我らも君の力を借りたのは1度や2度ではない」

「覚えていてくれてうれしいぜ」

「だが、正直に言わせてほしい。あの木箱の裏にあるものが我々の興味を引いている。とても、とても強く、だ。我々だけでその音についての好奇心を満たすのが許さん、と言うのはわかった。なら、我らと一緒に音の正体を確かめると言うのならどうだろう?」


 妥協しないか、というのである。


「いいぜ。ただし、あんたらはそれ以上動かないで、俺の部下達で調べると言う条件ならな」

「っ!?調子に乗りやがって……」

「嫌なら、まずそこを見る前にあんたらを車まで送ってやる。そこでお別れだ。”我がまま”を押し通すガキはプロの現場にはいらねぇんだよ。こっちの言っている意味、わかるよな?」

「ああ……わかるとも。それでは、それでいいさ」


 苦い顔をしていたがイゴーが答えてしまったことで、残りの2人も我慢するしかなかった。

 実際の所、彼等にしたって確信があったわけではなかったのだ。グレイ・スカーが顎で指し示すと、後ろの2人が木箱の裏へと言って辺りをくまなく探す。


「なにもないですね」

「……だ、そうだ。納得したな?」


 この頃になると、3人の周りにもそれなりの人だかりができていた。実力はどうであれ、彼等は傭兵なのだ。空気が変わったことが分かれば、目の色も変わる。

 3人は引かなくてはならなかったが、諦めるつもりはなかった。


「グレイ・スカー。ひとついいかな?」

「なにかな、魔法使い?」

「君達は確か、明日の朝にはここを引き払うと聞いた。間違いはないかね?」

「……どういうつもりだ?」

「間違いはないか、と聞いているだけだ」

「……そうかい、そういうことならいいぜ。その通り、間違いないぜ。明日の”昼”にはもうここにはいない」

「なら、その時間に我々がここに戻って来て。君達が立ち去った後を見て回ってもかまわないね?」

「本当に訳のわからねぇ、イカレタ連中だな!!」

「どうなんだ?」

「いいぜ。俺達が立ち去った後なら、あんたらがここにきて生贄の儀式をしようが。生娘を殺そうが構わんよ」

「それだけが聞きたかった。それでは諸君、健闘を祈るよ。我等は退散する」


 そう言ってイゴーはわざとらしく一礼すると、振り返って車へと向かう。残る2人もその後ろへと続いた。



▼▼▼▼▼



 深夜の森を疾走する集団が居た。


 最初に飛び出してきたのは、こんな夜だと言うのにサングラスをかけたままの少女。ホークガール。

 続いて「危なかった、危なかった」と繰り返し口に出しながら走り出てくるトニー。

 無言でそれに続くヴィクター。

 その後ろにはディアナに抱えられる様にして声もなく泣いているメガン。

 最後に、後ろを注意しながら長身痩躯のルーベン。


 彼等はこうして窮地を脱することができた。痕跡はのこしたままで……。

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