潜入
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「よくやっている。私達の息子は意外に頑張るじゃない」
怒りを押し殺した声でそう言うと、モリスン夫人は机の地図から目をそらした。
ここはモーテルの一室、部屋にいるのは対面に座るバーン夫人とあとはあのクソ生意気なリメーンとかいう若者だけである。
当初は、動ける大人達全員での大掛かりな追跡劇も。日数と距離がのびるにつれ、その数を減らしていった。
そしてついにこの3人だけが残ったのだ。
別に愛想をつかせたり、飽きたから離脱したのではない。
近く次の作戦が決まっている。彼等はそれに参加する手はずになっていたので、仕方なく帰って行っただけだ。今はちょうど2つの計画を実行している谷間だった。そこをまるで計ったかのように子供達は家出をしたのだ。捕まえて”吐かせて”みないとわからないが、もし知っていたのならよく自分達の【授業】から学んでいた事になるだろう。
だが、そうだとしても喜びなどなく。許すつもりはかけらもなかった。
バーン夫人はいら立つモリスン夫人を横目に、窓際に立って外を薄笑いを浮かべてみているリメーンに意見する。
「リメーン。あなたはこの件での責任者に選ばれている。私はあなたに今後の方針を定めるべくディスカッションを求めるわ」
若者は姿勢も態度も変えず、楽しそうに聞き返してきた。
「ディスカッションですか?そんなものが必要なのですかね」
色々あってこれまでは我慢していたが、2人の婦人の我慢もそろそろが限界だった。立場を教える必要があるだろう。
「あるわ。その説明をする前に、あなたには1つ言っておくことがある。
年齢に関わらることなく、立ち場だけでいえば確かにあなたは私達と同格よ。ただし、それも”能力がある”と認められたからという前提条件があるから。
この件の最初から、あなたはなにやら余裕と自信を見せつけるように振舞っているわね。
はっきりというわ。我々はあなたの能力に疑問を抱いている」
「それはそれは……」
「冗談や脅して言っているわけではない。本気で言っているの。
確かにあなたの超人としての力には誰も疑問を持っていないわ。でもね、あなたの場合はそれだけではない。時が来たら我々の上に立つ者になるという野心がある。その時、家出した子供達はあなたに率いられるわけだ。
だが、このままあの子たちを見失うような”ヘマ”をすれば。あなたの全てに我々は審査のやり直しを考える必要がある。当然だ、未熟者達をあなたの指揮で我々が捕まえられないなら、責任者には当然の処置を求める」
「それは怖い」
「ならば真面目にやりなさい。今はこの3人しかいない。私は後方担当だし、戦えるのはあなたとモーガンだけ。もう数日すれば何人かはこっちに戻れるはずだけど。その前に少しでも近づかなければ」
「わかりましたよ。話しあいましょう」
リメーンは仕方ないという感じで振り向くと両手を上げて降参の意を示した。
机の上のノートパソコンを操作して、ディスプレイにうつるものを切り替える。
現れたのは大型の動画投稿サイト。例のダイナーでの強盗事件から数日。どうやら客の中にこっそりと撮影していた奴がいたらしく。窓ガラスに押し付けられるように氷漬けにされ、撮影者の側の壁に派手に叩きつけられて動けなくなる強盗達の姿がぶれた映像だったが載せられていた。
「例の財布を回収したことと、動画サイトへ投稿された映像から子供達が南東方向へ進んでいることが分かった。その後、東海岸へ逃げ込むと思ったが、ルート上にはいなかった」
「裏をかいているつもりなのよ。まったく、小賢しい!」
「しかし成功していますなぁ」
神経を逆なでする茶々が入るが、ここはだまっておく。
「たぶん、東はもういくつもりがないのかもしれない。実際、ルート上にはいないことは確認している」
「そうなると、南か西海岸ね。西海岸に近づかれると面倒よ。あそこはU.S.エージェントの活動が活発だもの。子供達を抑えられるかもしれない、まずいわね」
「西海岸を目指すのは確かにまずいですがね。しかし、どうでしょう。彼等はそこまで行けますか?」
「リメーン、なにがいいたいの?」
「彼等がそこまで移動できる足があるとは思わないと言っているのですよ。回収した財布と間違えたと言う相手が、ドル札の束を入れて持ち歩いていたとは思えません。
それにガキ共だけの移動は人目につく。田舎ということもあるが、最近目撃情報が無いのは彼等が人の目の無いところを移動しているか。移動手段として車を手に入れたか、です」
ここで一度言葉をきると、得意げな顔をしたまま再び口を開く。
「西南方向に、ガソリンスタンドと警察を抑えるのです。盗難車の数は?子供だけで車を乗り回してはいないか
?それだけで解決です」
「ダメ。それでは時間がかかるわ」
「……そうでもないかもしれない。ただ、子供達がそんなに愚かなことをするかしら?」
「しますよ、絶対に。甘い夢を見ているガキ共です。なんなら、もっと稼ごうなどと考えてラスベガスに向かっていたってなんの不思議もない」
リメ―ンはそう口にすると、自信満々に議論を打ち切った。
▼▼▼▼▼
全員で円を描くようにして囲んで頭をつきだすと、ディアナが先頭をきって話しはじめる。
「それじゃ、確認。
ホークガールの次のターゲットは山間部にある廃棄された小さな中継所。ここに一昨日から物資を運びこんでから出動する連中が居る。
私達は彼等がその準備をしているところに忍び込んで、くわしい作戦内容をゲットするの。
と、いっても。ホークガールがいつものように潜入して戻ってくる間。私達が待機して見張っているだけでいい。ヴィクター?」
「ディーの言うとおりだよ。
相手は武装した犯罪集団だ。僕らが正面から相手をするのは賢いやり方じゃない。
それに、僕らはこれまで合同訓練を何度かしたことがあったけど。ホークガールをいきなりそこに組み込むのは危険だ。
だから、切り離して考えるんだ。
ホークガールは潜入工作。僕らは斥候だ。相手に混乱がおこれば僕らはそこから退却する。ホークガールはその騒ぎに乗じて逃げる。
集中するんだ。これは訓練じゃない、失敗しても殴られて終わりにはならない」
お互いがうなづくのを見て、ホークガールが言う。
「なんかさ……チームって感じがするね。こういうの経験ないから不思議。でも、いきなりで私が足を引っ張るかもしれないんだよね。気をつけないと」
「心配いらないよ、ホークガール。君はこれまでと同じ動きをしてくれればいいんだ。トラブルなく終われば、僕らは遠くで見ているだけでしかないからね。中で騒ぎが起こって君が危ないと思ったら、こちらが外からかく乱する。それだけだよ」
ルーベンがそういって励ますと、メガンも口をはさむ。
「その後はどうするの?」
「情報はできるだけ急いで知らせたいけど、こっちも安全を確認しないといけない。明け方まで移動して、そこで送信する。これまでのホークガールのこともあるから、ヒーローも僕らの情報を信用してくれるはず。
取引が終わったら僕達の車を手に入れる。あんまり褒められた話じゃないけど、ホークガールが偽造身分証を持ってるからそれをフルに活用させてもらう。
その後は、西海岸を目指すか南下するか。また選ぶことになるよ」
するとここで、トニーがわざと明るい声で言った。
「じゃあさ、ラスベガスに行こう!」
「……ハァッ!?」
「いやさ、ベガスでスロットなりダイスで大金を稼ごうぜ」
「……トニー、あんたは馬鹿だって思ってたけど、それはない」
「兄弟、冷静になれ。ベガスは大金を稼ぐ町じゃない。”稼げるかもしれない”という賭け事の町だ。知っていたか?」
「第一、ラスベガスってここからだと北じゃない。わざわざまた戻るつもり?」
自分を除く全員が呆れ顔をするので慌てて誤魔化す。
「わ、わかってるよ。言ってみただけ。ジョークだから」
ともかく。彼等の初の実戦が。初めてチームとしての隠密作戦が決まった。
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夜の空の下、暗い森の中には一か所。異様に明るい場所があった。
そこには簡易のテントとライトがあちこちに設置され。迷彩柄のカーゴパンツをはいて腰に物騒なフルオートの銃器を持つ男達が忙しく動きまわっていた。
それを少し離れた小高い丘の上にいる、ヴィクターとトニーが見下ろしている。
「なぁ、ヴィクター。ひとついいか?」
「……」
「ホークガールが1人でうごいて、俺達は偵察のフォーメーション。ってのはわかった。でもさ、なんで前に出ているのはメガンだけで、次にルンとディーで。そんでもって一番攻撃力のある俺がお前の隣なんだよ?」
「理由が聞きたいのか?」
「ああ」
「突撃馬鹿を抑えるため」
「おいっ、殴るぞっ」
「冗談だよ。でも、真面目な話。これでいいのさ。
3時間前、彼女があの地下壕にどうやって忍び込んだか見たろ?あんなに大勢が居たのに、あっさり入っていった。彼女は自分の面倒を見れるんだよ。
後は僕らがヘマしちゃいけない。メガンを前にだしたのは、保険さ。何かあったとしても、ディーとルンが何とかしてくれる。僕らはその後ろで見物さ」
「なんだ、てっきりあの合体技をやるのかと思った」
「”シャボンジュース”?まだ、あれが実戦で役に立つと思ってるのか」
「立つさ!お前のフォースフィールドの中に、おれがマグマ級の火の球を放り込む。そいつを投げつければ最強だぜっ」
「そうかもね。でも、今回は無しにしてくれ。フォースフィールドを作っても、この距離を遠投するのはきつすぎる」
こんな感じで、事態は案外想定通りに動いていた。
ヴィクターが言った通り。施設の入り口わきにある草むらの中にはルーベンとディアナが身を隠している。そして施設の外周に立っていた柵の壊れた部分から中に、メガンが侵入していた。
メガンが隠れている場所から少し離れた場所で、男達は話していた。
「作業が12%ほど遅れているようだ」
「仕方ない。今回の計画の”プロモーター”と部隊長がまだ金を持ってこないんだ。おかげで士気もあがらない」
「まだ連絡はないのか?話じゃ日暮れにはここに到着するはずだった!」
「連絡はあったそうだが、遅れているだけだろう。金を見れば、皆もやる気を出すさ」
「そうだろうが、隊長はあの獣だぞ?当たり散らされる方はたまらんな」
(お金?獣?どういうことだろう)
メガンは考えるが、幼い彼女の頭では特に思いつくことなど何もなかった。
だがお金!
それにはとても興味がある。
彼女は甘えん坊でかわいいところがあったが、馬鹿ではない。自分と言う存在が、この旅する仲間に負担となっていることはちゃんと分かっていた。
今回の”作戦”だって、いってしまえば足りなくなった旅費を何とかするためのものだし。それはようするに、大食いで、足を引っ張ることしか出来ない子供のメガンの責任だと考えていた。
だからなのだろう。ついつい考えてしまったのだ。そうだ、そのお金。悪い人が使うお金なら、ちょっとくらいとってもいいんじゃないかな?と。
差しこんだメモリカードが緑のランプに変わるのを見ると、スロットから抜いて回収する。
(はい、お仕事完了)
ホークガールの隠密技術はたいしたもので、サーバールームまで完璧に気配を消して移動して見せると。そこにいる人間がわずかに見せる隙をついて、一気に情報を盗み出してしまった。
(みんなの力を借りれば、もっとスムーズに終わると思ったんだけどねぇ)
当初、彼女は魔法を使うディアナのジャンプゲートで施設内までの異動を希望したのだが、彼等はそれを了承してくれなかった。
「別にイジワルで言っているんじゃないの」顔をしかめてディアナは言っていたっけ。なんでも魔法と言うのはそれほど便利なものではないらしい。何かを使うと、その場に魔法の痕跡が残るのだと言う。
優れた魔法使いであるなら、それを隠す技術もあるが。残念ながらディアナは未熟なゆえに、それが上手くいかないらしい。
隠密作戦は痕跡を残さないことが一番。ならば、出来るだけ使わないようにしたいと彼等は言うし、それは納得できるものであった。
(こればかりは追われる者とそうじゃないのとの意識の違い。そういうことかな)
彼等がそれほど神経質になるのは、今も追ってきていると信じている親達の存在があるからなのだろう。確かに、それなら自分には理解できない。なんせ、自分の家族ときたら……。
ふと、男達が騒いでいることに気がついた。どうやら、外で誰かが帰ってきたらしい。
物陰に隠れたまま、意識を集中させる。部屋の片隅にある通風孔の奥から、外の匂いがしてそこから出ていけると言う確信が何故かわいた。
こういった超感覚がもたらす勘は、いつもが正解ではないが。従わない理由はなかった。
どうやら今回も楽に終わりそうだ。外に出たらディアナと合流して離脱するだけ。
背中と体にかけた弓を再確認すると、メモリーを握りしめる。静かに素早く移動する彼女の姿を、誰の目も捕えることはなかった。
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スモークガラスの向こう側にいる男共が自分の乗った車の周りに集まってくるのを見て、グレイ スカーは低いうなり声を洩らす。馬鹿共が、飴やチョコレートをほしがる餓鬼みたいに寄ってきやがって。
グレイ スカーは獣人型の超人にして傭兵である。
灰色の毛は多めに、体は大きく190をこえ、あちこちになまなましい傷が見える狼男である。
今回の”仕事”には自分のような傭兵が多く参加していることになっている。だが、実績のあるプロの自分と違い。今回自分が率いる”部下”達の出来には不満しかなかった。
素人とまではいわないが、それに毛が多少生えている程度の奴等にしか見えなかったのだ。
「スカー。そんなにイライラしないで。任務を前にして彼等をあまり萎縮させないでくださいよ」
そう言って苦笑いを浮かべているのは、今回の”プロモーター”である。白人でビジネススーツというから、もう別世界のクソ野郎だ。どうせこっちのこれからの苦労などちっともわからず、頭数を用意して満足しているのだろう。
「仕事はするさ。だが、余計なサービスを要求されるのは好かん。ボーナスが無いしな」
「あぁ……あの”お客”のことで怒っていたのですか。彼等はスポンサーの1つと友人関係にあるのです。それに、今回の為に西海岸でいろいろと陽動にも動いてくれた仲間です。仲良くしないと」
「傭兵の俺には関係ないし、そういうことなら邪魔しない所で勝手にやってくれ。ただな、あんたの集めた役立たず共はどうせ浮ついて仕事をさぼっているに違いないぞ。
あんたが下りて、奴等の前にその手にもっているトランクの中の札束を見るまでは不安そうに突っ立っているだけだ。まずは仕事の為に、俺の”部下”だとわからせるために。あんたにはまず、奴等にその中のモノを見せて落ち着かせてやれ。
あいつらはそれを女の下着を見るようによだれを垂らして待っている犬コロだ」
「わかりましたよ。それで彼等のやる気が出ると言うならやりましょう。
それが終わったら、私はお客の応対がありますから。後は任せます。ちゃんと朝には動けるようにしておいてください」
フン。大きな狼の顔をしたグレイ スカーは鼻を鳴らすと。その鼻息で運転席に座る男のヘルメットが前にずれた。
ディアナとルーベンは3台の車がやってきて自分達の横を通り過ぎるのをしっかり見ていた。
施設の中が騒がしくなっている。ホークガールの言葉が本当なら、この隙に脱出してくると思った。
車が止まり、中から新しく男達が出てくるのが見える。スーツ姿の者や、着ぐるみでも来ているのかと思うくらい不自然なほど大きな頭の狼の姿をした超人もいるようだ。
(匂いでばれたりしないかしら……ちょっと早いけど、メガンを呼び戻そうか)
ディアナがそんなことを考えていた時だった。
「ディー、まずいぞ!」
そう言って隣に座るルーベンが肘で突いた。正直、ちょっとどころではなく痛かったのだが。この気優しいおっとり人間が、こんなに慌てた反応を示すのは本当に何か悪いことがあったのだろう。
ディアナは再び目を凝らす。
すぐにわかった。いや、わかりたくなかったし。知りたくもなかったけど。
最初ディアナの位置からはよく見えなかったが、3台目の車から降りてきた連中がまずかったのだ。
見ればすぐにわかる。
そこには、私服姿ではあったがイゴー・バーンが。ディアナの父が居た。
それだけではない、ヴィクターとメガンの父親もいる。なんであいつらがここにいるのよ!?
目を丸くして驚いたディアナは隣のルーベンを見た。
相変わらず険しい顔をしていたルーベンだが、ディアナを見てなぜか変なことを口にした。
「ディー、それじゃない。それも大変だが、それよりまずいのは左だ」
左?
よくわからない。ディアナの位置からは見えないものが問題だと言っているようだ。少しだけ腰を上げて顔を上げると、目に飛び込んできたものを見て慌ててしゃがみ直した。その際、口から「あぁ、なんてこと!?」などと洩らしそうになり、自分の手で慌てて口をふさぐのを忘れなかった。
メガン!あの娘。
よりにもよって、親達を囲んでいる連中のすぐ側。そこにある木箱の裏にいつのまにか移動していたのだ。ちゃんと今は隠れてはいるようだが、もしばれてしまえば最悪八つ裂き。運が良くても親達に捕まってしまう。
そうなったら?
いつもは冷静なディアナだが、この時はさすがにパニックを起こしそうになった。




