連続+事件=?
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街灯もまばらな裏路地は暗く、まるでこの街のそこに淀んでいる闇があふれだしたかのように深く得体のしれない不気味さを醸しだしている。そんな闇の中、ボロボロのコートを身にまとった一つ人影が、まるで這いずるかのように重く、鈍い足取りで歩を進めていた。
その人影の主、この街の闇を住処とするホームレスであるスリムは、先ほど見てしまった恐ろしい光景を、ビッグ・ヒット・ボブが、あの予知能力者が無残に殺される瞬間を思い出し背筋が凍るかのような錯覚を感じていた。
ビッグ・ヒット・ボブは、この界隈ではそこそこの有名人だった。
超人と呼ばれるものならばこの街に掃いて捨てるほどいる。だが彼のように未来を透視できるような、特異な力の持ち主はほんの一握りしかいない。ボブの力は本物だった。
かつて、スリムは今日のように裏路地で彼が街のギャングに襲われるのを目撃したことがある。その時ボブは、ギャングをだまして金をかすめ取ったらしく、怒り狂いつめ寄る5人組を相手に、だまされたテメーらが悪いのさぁなどと涼しい顔で吹いてみせた。その言葉に激昂した5人がナイフや銃をとりだし、ボブに襲いかかったが、結局誰もボブに触れることすらできず完璧にノしてしまった。それは動きが速いとか力が強いなどといったものではなく、あらかじめ何が起きるのか、どうすればいいのかを知っているものの動きだった。あのボブの姿を裏路地の影から見ながら、スリムは羨望と嫉妬を感じずにはいられなかった。俺もあんな力に目覚めたかった。こんな不自由な体ではなく、あんな素晴らしい力に。
よろよろと歩きつづけていたスリムは、強い吐き気をもよおして壁に手をついてぜぃぜぃと荒い息を吐いた。追い詰められ、あらゆる行動が、未来が、己の死以外の選択肢しか存在しないと知った時にボブが見せたあの絶望的な表情。そのあまりにも陰惨な光景がいまだに脳裏に焼きついてはなれい。
「ずいぶんと苦しそうじゃないか」
突然、後ろから声をかけられてスリムは驚きと共にふりかえった。
「君は苦しんでいるようだ。自らの心の弱さに?それとも人生に?」
闇が点在する裏路地の闇の一部、その場所だけがまるで光っているかのようにその男は立っていた。
驚きと恐怖で凍りつくスリムに男はまるで数年来の友人に話しかけ続ける。
「見られているとは思わなかったよ。いや、本当にね。まるで気がつかなかった」
純白のコートを纏ったその男は、漂うような滑らかな動きでスリムの側へと歩みり、数メートル手前で足を止めた。
「な、なんデ・・・」
「ん?」
「なんデ、ボブを殺したんダ?」
スリムのその問いかけに男は歩みを止め、不思議そうな表情でスリムを見た。
「俺に何をするつもりだ、とは聞かないのかい?」
答えでなく、質問を投げらかけられたことにスリムは混乱する。
「君は優しいんだね。自分より、他人のことを気にする。それは誇っていい美徳だよ。いやいや、これは本心からの言葉だ」
男は微笑みながらそう言うと、大仰に手を広げた。
「君の質問に答えよう。ボブ君はね、知り過ぎたんだよ」
いや、これはちょっと違うかな?と呟き男は首をかしげる。
「言いなおすよ。ボブ君はね、私がこれからやろうとしていることに気づいてしまう人間だった。だから、殺したのだ」
「ヤろうとシテるこト?」
「そう、偉業をね」
そう誇らしげに男はいい、そして少しはにかんだ表情で言った。
「私はこの悪に満ちた街を世界を・・・助けたいのだ」
男のまともではない発言にスリムは唖然とした。こいつは何を言っているんだ?
次の瞬間、スリムと男の間にあったはずの数メートルの距離は忽然と消え、男はスリム眼前に立っていた。
「ナ”!?」
「だからねぇ、本当に申し訳ないと思うんだが・・・君にも死んで貰わなくちゃならないんだよ」
その言葉を言い終わらないうちに男の右腕がすばやく動き、スリムの腹を深々と貫いていた。
「おや?」
腹を貫いたにもかかわらず、まるで泥水に腕を突っこんだかのような感覚に男は不思議そうな顔をし、そして納得した。
「ああ、なるほど。君の身体はそういうモノなのか」
身を守るため反射的に自らの肉体、超人となったときから、いままで液状化してしまったスライム状の身体を変化させ、スリムは男への攻撃を試みた。肉体の質量を変化させ、ハンマーのように形状へと変化させた腕を叩きつける。
常人の数倍にも及ぶ大量の水分を保有し、自在に身体の形を変えられるスリムならではの攻撃。並みの超人ならば、この一撃で気絶させる攻撃を、男は左の手刀でスリムの腕を切断しあっさりと回避してしまった。それと同時に男の右腕が凄まじいまでの輝きを放ち、驚愕するスリムを一瞬にして焼き尽くし気化蒸発させていた。
「いやはや、命が失われる瞬間というものは、いつ味わっても悲しいものだね」
肩のほこりを払いながら、男は本当に悲しそうに呟く。そしてスリムが立っていた空間を一瞥すると、もう興味が失せたのか軽い足取りで裏路地の闇の中へと歩み去っていった。
後には男に切り飛ばされたスリムの腕の断片が激突した壁から流れ落ち、下水口へと静かに飲みこまれようとしていた。




