その町の名は
このお話しは、ライダーとか変身っとか叫ぶ人は出てきません。アメコミのように筋肉ムキムキマッチョが、ぱっつんぱっつんのタイツをはいてでてくるのが”普通”です。
お母様に人気のイケメンはでません。美人が血迷って出てきても、中身はみんなゴリラです。つまり萌え萌えしたい人。すいません、登場する女はゴリラかビッチだけになります。
それでもいいやという心優しい方、よければ読んでいってください。
神は7日かけて世界を作ったそうだが、この街の、今あるこの世界はほんの一瞬の出来事によって作られた。あの日、突然現れた透明な巨人・・・全長数百メートルはあろうかという其れは自らが顕現したことを喜ぶかの如く天に両拳をつきあげた後、世界を揺るがすかのような”声”を放って高らかに新時代の到来を宣言した
「万能なる我が力をもって、この世界に大いなる福音をもたらさん」
そして、巨人はつきあげた拳を大地へと叩きつけ、消えた。この時に起きた大地震は後に The Crash と呼ばれ、今の世界へと変化する発端となった出来事として全人類の心に深く刻まれることとなる。神は世界を作ったのだ。だが、その足元にはすでに世界が、そして人間が住んでいた
そして、超人達の時代がはじまった。
嫌な天気だった。朝からずっと、しとしとと霧雨が降りつづけ、まるで止む気配がない。
さらさらと舞い散る霧のカーテンが私のコート湿らせていた。
徹夜での仕事を終え、私は行きつけのBAR「カサンドラ」へ向かうべく歩いていた。
昨日の仕事は最悪だった。
高い報酬と依頼人の不安そうな様子に同情して、行方不明になった娘を探す仕事をうけたのはあきらかに失敗だった。
人死にも暴力もなかったが、そのかわりにホームドラマさながらの三文芝居に一晩中付き合うはめになったのだ。普通の人生とは無縁の生き方をしている私が、年頃の娘と男親の仲裁である。ただただ疲れる、割に合わない仕事だった。
俺とすれ違おうとした中年女性が街灯に照らしだされた私を見て一瞬驚き、バツが悪そう視線をそらして歩み去る。無理もない。
俺の外見は人に死を思わせる。黒曜石のように黒い光沢の肌、髑髏の顔。
それは怪物と呼ぶにふさわしい外見だった。
超人たちが闊歩する、このアークシティでは超人は2つに分けられる。
かつてのヒーロームービーの主人公の如く、勇ましく美しい姿をもつ『祝福された者』たち。
異形の外見を与えられ、人々の畏怖と軽蔑の対処となる『持たざる者』たち。
俺はどうしようもなく後者だった。
歩きながら、中央街へと目を向ける。
夜にも関わらず中央街は真昼のよう明るく輝き、アークシティ中央にそびえる全長300mのアークタワーは、街の中心であり、希望あふれる未来への象徴でもあった。
このバベルの塔の主であり、文字通り街のヒーローであるアレックス・アークナイトはその名の通り『光の騎士』だった。
天才的頭脳によって作り上げたバイオアーマーに身を包み、自身の超能力を強化した彼は天を飛び、昼夜を問わず悪と戦っている。
まさに、人々が思い描く理想のヒーローだった。
アレックスとは仕事がらみで何度か会ったkとがある。礼儀正しい紳士。それが俺の感じる彼への印象だった。
彼が俺のことをどう思ってるかは知らない。だが、俺はこう思ってる。いけすかない野郎だ、と。
人気の減った通りを抜け深夜営業のコンビニの向かいに、俺の目指す場所。BAR『カサンドラ』はあった。