最終章『因縁と目覚める者』
「一体、何の用なんだろう……」
昼間、メールの内容を見て私とリルフィは二人で公園に来ていた。全てが始まって、何もかもが変わってしまった場所――街外れの公園に。メールの差出人は遠山君で、内容は
『話したい事があるから、夜の二十一時にリルフィと二人で街外れの公園に来てくれないかい?』
というものだった。
「街外れで、話って何だろ?」
「私も分からないよ。でも――」
何となく、普通じゃない話なのは確かだ。普通なら、わざわざ夜の二十一時にこんな場所へは呼び出さないはず……仮に夜だとしても学校やどちらかの家、もしくはファミレス等で話せば済む事。何にしろ、少し不気味だった。
「やぁ、桜渚、リルフィ。こんばんは」
そう考えていると暗闇から漆黒のローブを羽織り、同じ様な色の服装をした遠山君がどこからもともなく現れた。
「いきなり呼び出してごめんね。ただどうしても知りたい事があったからさ……」
「別に気にしてないよ。それで、知りたい事って何?」
「…………君はリルフィといつも一緒に居るよね?」
「そうだけど……それが何?」
「いや、ただ確認さ。言葉通りに受け取っても構わない」
「ユウヤ、結局知りたいのって私が、サナと一緒に居るって事だけ?」
「はははは、それだけならわざわざこうやって呼び出して、直接会話する物でもないよ。まどろっこしいのは苦手だし、単刀直入に聞こうか――」
その瞬間、周囲の空気が変わった。ざわり、と空気が蠢き、普段の動きが捻じ曲げられた感じがした――
「桜渚、いや――夏雪」
「っ……!!」
「ど、どういうこと!? なんでユウヤが!?」
「何となく分かっていたさ。先日、リルフィリアと一緒に居て、理緒やアリル達と戦う君を見つけて。まさか桜渚に化けているなんてさ……」
遠山君の目は普段の優しい目とは違い、冷え切っていた。その上で嬉々と輝かしい目をしていた。それは純粋にこの先の事を期待し、楽しんでいる目だった。
「な、何を……」
「この時をずっと待っていたんだ。そう、君をこの剣で戦って、殺せる日を! あの日から!!」
「リルフィ、下がって!!」
そう叫んで、私は『魔具形成』で武器を形成する。それは夏雪と同じく使い慣れた直剣――それを振るう。その先には遠山君が目に見えぬ速さで抜いた刀が拮抗しあい、火花を散らす。
「へぇ、驚いたよ。桜渚の姿でも戦えるんだ」
「遠山君止めて!! どうしてこんな事……っ!!」
言い切る前に刀を振るい切られ、数歩後ろへと吹き飛ばされる。
「どうして!? そんなの決まってるさ――あの日、君は僕を剣で倒した。だから僕はずっとずっと思ってた――君を狂おしい程に殺したいってね!!」
「っ……!!」
激しい刀の軌跡を直剣で弾く。今、ここで魔法武具を出して夏雪になってしまえば、もう取り返しはつかなくなる。だから桜渚として遠山君を止めるしかない――
「はははは! どうしたんだい? 君の強さはそんなものじゃない! さぁ、早く元の姿に戻ればどうだい!?」
通常では在り得ない大降りの刀が細かく速く振るわれ、防戦一方となる。確かに夏雪に変われば、状況は変わる。だけど、私は迷っていた。
マーギアとして戦う事でまた誰かが傷ついてしまう、守る為に戦っても誰かが泣いてしまう――決意はあったとしても躊躇が生まれてしまう。
「そう……その気がないなら――嫌でも呼び出させて貰うよ」
「えっ……!?」
遠山君がそう呟いた瞬間、全身に鳥肌が立つ程の悪寒が突き刺さった。それは空気も同じく、辺りは『殺意』だけに染められて行った。
「『魂食いの首狩り剣』――!!」
あまりの殺意で体が言うことを聞かなかった。だけど、あれだけは『触れてはダメ』だと直感が告げていた。
「一の太刀――閃」
「くぅ……っあ、あああああああ!!」
一度納められたと思った刀は次の瞬間、目前まで迫っていた。正直回避出来たのは奇跡に近かった。しかしその結果、直剣で刀を防ぐことになり、間接的にとは言え、刀に触れてしまった。その瞬間、自分の中から何かが吸いだされ、無茶苦茶にかき回される例えようの無い痛みが全身を襲った。
「直撃させたと思ったんだけどな……さすが僕を負かしただけはある存在だね」
「あっ……ぐ、うぅぅ……!!」
一度距離を取った遠山君のおかげで痛みが続く事は無くなったけど、その後遺症は軽いと言えるものじゃなかった。
「さぁ、そろそろ本気の殺し合いと行こうじゃないか、夏雪」
戦うしかないの? 私は守る為に、マーギアとなった。でもその結果は――ただ傷つけるだけの結末。守る為に傷つける――明らかに破綻している結果。
それでも私は、傷つけて遠山君と戦って、止めるべきなの? 分からない……私は、ただリルフィを守る為に戦うんだ。大切な友達との繋がりを守る為に。なのに、理緒とアリルの時は傷つけて、大切な日常を壊してしまった。
「まだ戦う気がおきないのか――そうだ、だったら良い話をしてあげよう。リルフィリアが至高の存在と噂を流して、マーギアをこの街に集めたのはこの僕さ」
「…………っ!?」
「ここに夏雪が居ると言うのは分かってたんだよ。何故かって? それはね、君の両親が夏雪と深く関係していたからだよ。ま、中々吐いてくれないから苦労したよ。君の両親は手強かったからね、それなりにね」
「遠……山く、ん……」
つまり、遠山君は夏雪と戦いたいが為に、私の両親を――? そしてリルフィを、リルフィを巻き添えに――っ!!
「夏雪の事を調べているとさ、リルフィリアはどうやら夏雪がかつて失った大切な子にそっくりだったのさ。だから利用すれば、必然的に夏雪も釣れると思ったから噂を流したのさ」
どくん、と強く鼓動が蠢いた。それは怒りと決意――私は今ここで『決意』しなければいけない。このまま遠山君を放って置けばリルフィや、理緒、アリルまでに被害が及びかねない。それは私の信念に反する――絶対に守りたい物の喪失。だから――
「遠山君……が、私の両親を――」
「あぁ、そうさ。夏雪を殺す為なら手段は選ばなかった」
「………………遠山君の、望みは、何?」
「決まってるさ……夏雪との殺し合いで、剣で殺す。砕いて言うなら、復讐を込めた再戦さ」
「剣で、夏雪を倒して、更に上に行きたいの?」
「あぁ、行きたいさ。誰よりも剣で上へ。僕は負けるわけにいかないんだ……それが僕の信念、僕と『破滅の剣』の生きる道さ!!」
「…………」
右手に力を集中させる。自身の中から力が湧き出てくるのを感じる――それは合図。私と夏雪の入れ替わり。私は決意した――日常を壊した根源、遠山君を全力で止めに行くと。
マーギアとして――『倒す事』を。全身が魔力の光に包まれ、姿が変わって往く――見た目も服装も、魔力となり変化して行く。それは迷いとの別れ、決意との向かい合い。私は――守ると決めた。それを害するならば――止めるまで。だからもう迷わない。その上で遠山君を止めると!!
「ははははは!! ようやくお出ましだね、夏雪!!」
「………………裕也」
目を見開くと、『俺』の前で子供の様に無邪気に喜ぶ目をした裕也が刀を持って震えていた。
「確かに受け取ったよ――桜渚の決意」
信念の先の結果に生じる矛盾、決意しても迷ってしまうその気持ちは痛いほどに感じる。でも、桜渚は決意して俺を呼んだ。裕也を止めてと。ならば俺のする事はただ一つ――俺は桜渚の決意と信念を受け取って、俺の信念の元で戦う事だ。
「来いよ、望み通り出てきてやったんだ。全力で掛かって来い!!」
「言われなくても――いざ、参る!!」
そして第二ラウンドが始まった。始まりは一瞬、互いに跳躍して暗闇の公園を駆け抜け、火花を散らす。魔法武具同士が拮抗し、火花を散らす度に、桜渚の時と同じく、自身の中に例え様の無い激痛が突き刺さる。触れて効果が発揮する能力――つまり遠距離攻撃をしなければ、ほぼ確実に裕也の能力の影響を受ける。
だが、遠距離攻撃を持たず、能力も無い俺は近接戦闘を行うしかない。遠距離攻撃は無い事もない――が、アリルの時はチャージの時間があったからあれだけの威力を発揮できただけ。裕也相手にそんな余裕は生まれる事は無い。ならば、どうするか。
「でやぁっ!!」
「斬――!!」
一度大きな火花が散り、互いの威力で共に後方へと吹き飛ばされ地に降り立つ。距離が離れ、武具を構えて互いを見つめ合う。
「さすが夏雪。僕を負かした事だけはあるよ。僕の能力を食らってそこまで動けるなんてね」
「俺は、お前とは初めて会うんだがな」
「へぇ、負かした相手の事はいちいち覚えてられないって事かい? 舐められた物だね」
「勝手に妄想してんじゃねぇよ。俺はただ覚えてないだけだ。少なくともここ数年程度の記憶しかない」
「…………ふーん、リルフィリアと同じか。つまり君とリルフィリアは切っても切れない縁があるみたいだね」
「そんなの知った事ねぇよ」
言葉での牽制をしつつ、俺は対策を整える。裕也の能力は恐らく触れる物全てを自身へ吸い取る能力――あの感覚は魂を抜き取られる物だと嫌でも分かる。だったら魂、自身の中身を覆うように魔力で防げば良い。
干渉される事による拒絶反応での痛みが突き刺さるとしても、裕也の能力本来の効果は完全に発揮されない。故に常時魔力消費する事になるが、動きを制限されるよりかはかなりマシだ。
「だったらその縁――斬って上げるよ。そうしたら気兼ねなく戦えるだろう?」
「なっ!?」
そう呟くと同時に裕也の姿が目の前から消え去る。
「リルフィっ!!」
考えるよりも早くリルフィの前に立ち、剣を目の前に掲げる。
「うっぐ、がぁぁっ……!!」
次の瞬間には激しい衝撃と、体内を覆う魔力が見る見る吸い取られていく激痛が襲い掛かる。
「はははは!! さすがだね、でも――甘い。二の太刀――祓!」
「なっ……がぁっ!?」
拮抗し合う抵抗が一瞬軽くなる。そう気付いた瞬間には激しく地面に叩きつけられ、数十メートル吹き飛ばされていた。背中からまともに斬られ、弾き飛ばされたと気付くには数秒を要した。
「ナツユキ!!」
「良いのかい、自分の心配をしなくても」
裕也はユラリと低姿勢だった身体を起こし、リルフィへと近づいて行く。
「ぐ……逃げ、ろ。リルフィ……!!」
守りに行こうと身体を動かすが、一気に大量の魔力と重傷を負った為、力が入らず立ち上がる事すら出来ず、ただ情けなく叫ぶ事だけしか出来なかった。
「――さない」
「どうしたんだい? 怖くて震えが止まらないのかい?」
「許さない……ナツユキを、傷つけた。ユウヤ……許さない!」
リルフィは震えていた。だけどそれは恐怖や悲しみでもなかった。ただ俺を傷つけた裕也に対する怒りで震えていた。
「『親愛の光』――!!」
「なっ…………!?」
次の瞬間、リルフィの手には『心を映し出す剣』よりも、純粋で綺麗な白く輝く直剣が日本握られていた。それはリルフィがマーギアとして覚醒した瞬間だった。だけど不思議にもその光景に懐かしさを知った――いつか、俺はあの姿を見た、そんな気がしたんだ。
「やぁぁっ!!」
「ふ……甘いよ!!」
裕也は一瞬だけ気を取られていたが、すぐに自身を取り戻し、落ち着いて対応する。迫り来る双剣を同時に刀で防ぎ、言葉を紡ぐ――
「『魂食いの首狩り剣』――!!」
「そんなの、効かない!!『純白の光(ヴァイスリュミエール』!!」
「な、これは……!?」
目を見開いて驚いたのは裕也だった。その瞬間には刀を双剣からずらし、リルフィから跳ぶように後退した。『純白の光』、それはリルフィの誰かを守りたい願いが能力となった物。純粋で屈託の無い真っ白の光の前ではどんな能力も無力化されてしまうのだった。
「ナツユキ、大丈夫!?」
裕也が跳び退いた瞬間、リルフィは脇目を振らずに俺の傍へ駆け寄って来た。その表情は今にでも泣いてしまいそうだった。
「はは……だ、大丈夫さ」
だから安心させるように、リルフィの頭をポンポンと撫でる。
「今、治して上げるから! 『神聖なる祈り(セイクリッドプリエ)』――!!」
「…………!」
光に包まれたと思えば、怪我は一瞬にして治り、また消費した魔力がほぼ全快まで回復していた。
「大丈夫? 他に痛い所とか無い?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。すっかり治ってる。これがリルフィの能力なのか」
「うん。私の魔力を変換させて回復できるみたいなの」
魔力を変換――つまり魔力を使う事で治療が出来るということか。逆に言えば多用してしまえばリルフィの魔力は枯渇してしまう。使い所には注意しなければ。
「ははは……これは想定外だなぁ。まさかリルフィリアまでマーギアだなんて。その上夏雪の傷まで回復。本当に想定外だよ、ははっ」
「裕也……」
在り得ない自体の連続で裕也は不敵な笑みを浮かべる。通常なら混乱して狂った――と思うだろう。だが、裕也に対してはただ一つ、恐怖を覚えた。
「じゃあ、第二ラウンドと行こうか――僕もそろそろ本気を出したいからね」
「え……今まで、本気じゃなかった!?」
「力ってのは最初から全部出す物じゃないんだよ、リルフィリア。さぁ、行くよ――『魂食いの首狩り剣』!!」
「っ……あぅっ!!」
「リルフィっ!!」
次の瞬間には今までに無い速さでリルフィの懐へ裕也が飛び込んだ。
「余所見をしてていいのかな?」
「くっ、させるかっ!!」
剣を振るい、裕也の刀を防ぐ。しかしその一撃は先ほどよりも何倍も速く、重い物で、体内に巡らせている防御用魔力がみるみる吸い取られていく。
「うっぐぅ……!!」
「ナツユキから離れて!!」
「遅い!!」
「うっ……!!」
死角から隙を突くように双剣を振るったリルフィの攻撃は全て防がれ、避けられ、その上で刀での鋭い反撃が返ってくる。
「そこだっ!!」
低威力の魔力を剣から数発に分けて放出する。勿論裕也はそれを回避する――が、そんなのは百も承知だ。回避を先読みし、そこに出来た隙を狙い、剣を振り下ろす。
「見え見えだよ、夏雪」
「っ……!!」
やはり読まれていた。だが、そこで攻撃の手を止めてしまえば、裕也の反撃が待つだけ。剣を振るっては避けられ、防御されては次の手へ。反撃が来れば避ける。流れを複雑にする為、防御を交えて、剣と刀が交差し続ける。
リルフィの回復能力のおかげか、先ほどに比べ裕也の能力の効果はかなり薄い。少なくとも激痛が走る事は無くなり、精々ハンマーで殴られた程度の痛みだった。それでも十分な痛みだが痛みに気を取られることは無い。
「はぁ……はぁ……」
「ははは、やるねぇ。今の僕についてこられるなんて」
裕也の動きは今までとは桁違いに違っている。理由は分からないが、裕也の言葉を考えるにまだ隠している能力がある。恐らくそれで自身を強化している筈だ。強化系の対処はほぼ無理に近いが、それでも強化の理屈を知らなければ対処のしようが無かった。
「だったらこれで――『輝きの誓い(グレンツェンシュヴェーレン)!!』
リルフィの双剣に濃縮された魔力が集まり、双剣を覆い、輝く。それは高圧縮された魔力の双剣――それを刃として固定している為威力は数倍以上に跳ね上がる。
「ふ……貰ったよ」
「えっ!?」
対して裕也はそれをまともに受ける。しかしリルフィの驚きの声は裕也の行動に対してではなく、双剣の状態に対してだった。刀に阻まれた双剣の輝きが徐々に失われ、その魔力を消失させていた。
「リルフィ!!」
リルフィから裕也を離す為に剣を振るう――が、
「なっ……!?」
振るった剣は裕也の肘により弾かれた。ありえない、そう思った。裕也は両手を使い、刀でリルフィの双剣を受けた上で僅かに肘を動かして俺の剣まで受け止めたのだった。
「ははは、予想外って顔をしてるね。これくらい剣を知っていれば、最低限の魔力防御で出来る事さ。それに今の僕は魂を食らわせて身体強化中――だから『見える』から出来る」
あっけなくそう言う裕也。剣を知っているからこそ、言えることだった。そしてようやく裕也の動きが違う理由が分かった。
『魂食いの首狩り剣』、それは名前からして相手の魂を食らう能力だと思っていた。しかし、本当の姿は魂を自身の魔法武具へ食わせて、驚異的な強化能力という姿を隠していたのだった。
「それとリルフィリア。君の能力の一つは能力の無力化だけど、それは自身に対してだろう? 魔法武具に対しては効果を発揮しない――違うかい? いや、そうだろう? でなければ魔力を圧縮固定した魔法武具から魔力を吸い取られる事なんて無いもんね」
「っ…………!!」
「さぁ、魔力も十分回復したし――邪魔者には消えて貰うよ」
「リルフィっ、逃げろ!!」
それは例えようの無い殺意の恐怖。その視線の先はただ殺す事だけを見据えていた。それを感じ取った俺はリルフィへ叫び、二人の間に入り込む。
「夏雪、言ったよね――君の繋がりは斬るって」
「かはっ……!!」
裕也は足だけを動かして、鞘を俺の腹へと深く突き刺した。完全に予想してなかった事にまともな防御も回避もする事が出来ずに二人から距離を離される。
「終わりだよ、リルフィリア――『冥府への刃』」
「させない!!『輝きの誓い!!』
漆黒に包まれた裕也の刀、純白の光に包まれたリルフィの双剣。光と闇が交差し、激しい衝撃を発生させる。だが、拮抗は一瞬。光は闇へと蝕まれていっていた。
「そ、そんな……どうして……!!」
「はは、終わりだよリルフィリア」
「まだ、まだ!!『親愛の光』、開放して!!」
リルフィが叫ぶと、圧縮固定されていた魔力が、一気に開放され、光の魔力が一斉に闇と裕也へと襲い掛かる。
「さすが――と言うべきだけど、それは致命傷だよ。相手の能力を知らないまま、下手に能力を使うべきじゃないよ」
「えっ……」
一斉に襲い掛かる魔力を裕也は全て切り裂いた。それはほとんど抵抗も無くただ横に刀を振るっただけで魔力は一瞬にして消え去った。
「最後に教えてあげる。この能力は全ての防御を破壊して、魔力を壊す能力なのさ」
「あ……」
リルフィは信じられない表情をして目の前に来る刃だけが目に入った。その光景でリルフィは自分が負けたという現実を知った。
「ナツ、ユキ…………」
裕也の刃は無残にリルフィを斬った。それは誰が見ても致命傷の一撃。
「リ、ルフィ……リルフィイイイイイイ!!」
光と闇で視界を遮られながらも、魔力の衝撃に耐えながら、進んだ先に見たものは裕也の一撃がリルフィへと刻まれていた時だった。
「リルフィ! しっかりしろ!!」
「あ…………ナツ、ユキ」
「大丈夫だ、今、治してやる!!」
強く想う。リルフィを助けられる力を願う。想いが強さになる魔法武具なら、俺の想いに答えやがれ! リルフィを助ける力を貸してくれ!!そう強く願うとリルフィは淡い光の粒子に包まれる。
「あ……ナツユキの魔力……あったかい」
「良いから黙ってろ!! くそ、もっとだ!! もっと!!」
裕也が居るのにも構わず、全力の魔力をリルフィの回復へ回す。だけどリルフィが受けた傷は深すぎて、助かるかどうかも怪しいものだった。
「『神聖なる……祈り』…………」
「リルフィ!?」
「私は、大丈夫……だから、ナツユキ。ナツユキは……戦って。ユウヤに……勝って。だから――待ってるよ」
それはリルフィからの託し。リルフィの想いを、信念を俺に預けた。
「………………」
俺はリルフィをお姫様抱っこで抱きかかえ、離れた場所の茂みの木の根元へと寝かしつける。リルフィは自身能力で俺が回復として分け与えた魔力を使い自身の傷を回復させた。
これで命に別状は無いが、魔力がほとんど無いリルフィはマーギアとして未だ危険だった。そんな状態でもリルフィは俺を想ってくれた。桜渚とリルフィの信念と決意を背負った俺は――強く剣を握り締める。
「死ななかったなんて、回復能力って厄介だね。でもこれで……気兼ねなく殺しあえるよね、夏雪」
「………………」
「僕は夏雪に勝って、剣で上に行く。誰よりも高みへと! だからあの時の仮は――今、ここで返すよ」
「何が――何が高みだ」
怒りに震えた。何よりも、友達だった相手に何も思わず、容赦せず、ただ自身の願いを叶える為に剣を振るう裕也に。
「裕也……お前は、その高みへ行ってどうするつもりだ……」
「どうする? そんなの決まってるじゃないか。ただ上り詰めるだけさ!だから御託は良い――殺しあおうよ、夏雪!!」
漆黒に包まれる刀を構えて、真っ直ぐに向かってくる裕也。そこは純粋な楽しみと殺意が宿る。その姿を見て俺は更に怒りに震える。
「お前は……お前はどうしてそうなったんだ!! 『桜渚』が知るお前はただ真っ直ぐに、純粋に上を目指してただろ!! なのに、どうして手段を選ばなくなった!?」
「っ……!?」
裕也が息を呑んだのが分かる。それは俺の言葉か、それとも全力の能力を宿した刀を受け止められたのかは分からなかった。だけどどちらにせよ、今の状況で裕也の予想が外れた流れになっているのは確かだった。
「そうやって、手段を選ばずにただ強者と剣で戦って、高みに上って、その先に何があるんだ!? 何が残るんだ!? 答えてみろよっ!!」
刀を受け止める剣を大きく振るい、裕也を弾き飛ばす。
「分からないさ! 誰も言った事のない場所だからね。だからこそ僕はそこへ上るんだ!!」
互いの信念と想いがぶつかり合う中、一つ、また一つと火花と軌跡が走る。その一撃は重く、激しい衝撃を発生させる。
だが共にそんなのは関係なかった。ただ目前の相手を目に入れて、目的の為に自身の魔法武具を振るい、信念をぶつけ合う。
「それで、上った先に何が残るって聞いてるんだ!! 剣で一番になって、相手も居なくなった時、お前はどうするんだよ!?」
「っ!?」
今度こそ、裕也は俺の言葉で息を呑んだ。
「そうやって手段を選ばずに一番になって、相手が居なくなった時! 裕也、お前には無いが残るんだよ!? 栄誉か? 名誉か!? 満足感か!? ただ勝つ為だけに剣を振るい、その先にあるのは何だ!?」
「そんなの、そんなの決まってるさ! 一番という強さ、剣で最強と言う称さ!!」
「あぁ、そうだろうな! でも、相手が居なくなったらその強さは失われる!! お前は勝つ為に殺すと言った。じゃあ殺して、殺して、その先に誰がお前を最強と言うんだ!? 残った人か? それとも自慰みたいに自分で言って自分を慰めるのかよ!?」
「あぁ、そうさ!! 自分で最強と言って何がダメなんだい!? 僕はその為だけに剣の道を進む!戦う!剣と共に往くんだ!!」
「剣と共に高みへ行く? それは誰の願いだ? 遠山 裕也としてか? マーギアとしてか? どっちなんだ!?」
「勿論どっちもさ! それが僕なんだよ、夏雪だって桜渚として隠れて過ごしてよく知っているだろう!?」
「違う! お前はただマーギアとして高みへ行きたいだけだ!! 生まれた時からお前はマーギアだったのか? 違うだろ!? 高みへ行きたいという願いは遠山 裕也の願いだろ!! なのに今のお前はマーギアとしての力を使って、マーギアの力で上へ上ってるだけじゃないのか!?」
「自分のある力を使って何がいけないのさ!? 自分の力、自分の剣で戦って、上へ上って、剣で高みへ行く! 大体、夏雪に僕の何が分かるのさ!? さっきからごちゃごちゃと言って!!」
「分からないさ。だけど、今のお前は違う!! お前はもっと正々堂々と、遠山 裕也として、人としての力で剣で上を目指していたんじゃないのか!?」
「もう言っても平行線のようだね。だから――一瞬で終わらせてあげるさ」
裕也は一度距離を取り、刀を鞘へと納める。それは侍で言う居合いの構えの合図。同時に一番威力の高い攻撃を振るう事でもあった。
「最終的には信念の強さのぶつけ合いか……いいだろう。お前のその信念、剣で高みを目指すという想いが本物なら、俺を倒してみろよ!!」
「言われなくても――そうするさ」
裕也は何度も深呼吸を繰り返し、自らのリズムを整え、自身の世界へと感覚を全て投影する。それは零であり無の世界。刀の世界では一瞬で勝負が決まる。その中で零は所謂最強の同等の言葉。
「『魂食いの首狩り剣』――『冥府への刃――』!!」
裕也が用いる全ての能力が再展開され、鞘からその刃が開放される。。迫り来る一撃は一度きりにして、今までに無い全てを切り裂く最強の刃。
「………………」
だけど俺は負けるわけには行かない。信念を託され、ただ友達との繋がりを守る為に死ぬわけには行かない。死は自ら繋がりを手放すと同意――それはマーギアとしても、俺自身としても死を意味する。
それに何よりも俺はまた――皆と平穏な日常を過ごし笑い合いたかった。もう元には戻らないとしても、それでも僅かに残る日常の笑顔を壊したくは無い。
『心を映し出す剣』を深く握り締め、構えを取る。強く願い、想い、魔力を剣へと集中させに行く。裕也を止める為に、マーギアとして倒す為に――その一撃は全ての繋がりを守り、害する物を倒す一撃。それはどんな相手だろうと、壊しつくす一閃の軌跡を描く剣。
「『絆の剣』(バントシュヴェーアト)――!!」
全ての信念と想いを魔力として剣に託し、迫り来る刃を迎え撃つ。
「うおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああ!!」
膨大な魔力と信念がぶつかり合い、空気が震える。あまりの衝撃に魔法武具を持つ手どころか、身体まで吹き飛ばされかねなかった。
それでも互いに更に魔力と信念をぶつけに行く。負けた方は確実にマーギアとしての命である、魔法武具は破壊されるだろう。だからこそ、お互い負ける訳にはいかなかった。
「なっ…………!?」
裕也は驚愕していた。裕也の能力は魔力と防御能力を破壊する刃。その上で触れる相手の魂を吸い取り、自身の力へと変換させる。ならばリルフィと同じく魔力の塊を魔法武具に乗せて攻撃している俺の能力『絆の剣』を破壊できると思っていた筈だ。だけど現実はそうじゃなく、ただ互いの能力が拮抗し合っていただけだ。
「裕也……お前が破壊するのは魔力と防御能力だけだ。だけどこれは『そんなもの』とは違うんだよ! 二人と俺の決意と信念を乗せた力だ! 壊すにはただ一つ――お前の信念の強さで打ち破るしかねぇんだよ!!」
マーギアとしても異端な存在。ただ突出した能力を持たず、全てが自身の想いへと直結している。言い換えれば魔力は想いであり、想いが魔力。
魔力だけを破壊されたとしても、想いが残るならば破壊されたとはいえない。つまり純粋な信念の強さでこれを打ち破るしか方法は無い!
「マーギアとの戦いは信念のぶつかり合いだろ! だったら、能力に頼らずに、自分の信念で俺を破ってみろよっ!!」
「夏、雪…………!!」
ピシリと、拮抗し合う空間にヒビが入る。それはどちらかの信念が押されて敗北へと踏み出した証拠。剣同士の勝負は長続きしない――いや、むしろ勝負は最初で決まっていたと言っても過言ではなかった――…………。
「………………」
「はぁ……はぁ…………」
辺りには静寂が戻る。そこには多大の魔力痕が残り、辺りを漂わせていた。
「お前の……負けだ、裕也」
目の前には刀を折られ、敗北し、マーギアとして『死亡』した裕也が意識を失い地に倒れ伏していた。裕也の一撃は居合いの一撃。居合いは一つの振り抜きの太刀で勝負が決まる形。その居合いで俺の信念を砕けなかった時点で裕也の敗北はほぼ確定していた。
「お前が……正々堂々とマーギアとしても自分を曲げずに剣を振るい続けてたなら……勝ってたかもな」
結局のところ、裕也の信念は矛盾していた。遠山 裕也として剣で正々堂々と真っ直ぐに高みへ目指し、強者と戦い続けたいという願い。だが、マーギアとして手段を選ばず、ただ戦い抜いて上を上り続ける。
方向は同じだが、ずっと戦い続け己を磨き続けるに対し、ただ強者に勝って一番になるという想いは全く逆だ。だからこそ、信念同士のぶつかり合いになれば、裕也は勝てなかった。
純粋にマーギアの能力でのぶつかり合いならば負けていたのは恐らく俺だ。今日ばかりは自身の能力に助けられたと言える。おかげでリルフィも……
「そうだ、リルフィ!!」
リルフィが眠る木の下へ走り、リルフィへと近づく。
「お、おい……リルフィ?」
そこに居たリルフィに意識は無く、俺が近寄っても意識が目覚める事は無かった。
「おい!! しっかりしろ!!」
「ん……すぅ……ナツユキ……」
「………………」
最悪の光景が頭を過ぎりリルフィの身体を大きく揺さぶると返ってきたのはいつも通りの間抜けた声だった。どうやら魔力の枯渇と体力の消費が重なり深く眠っているだけだったようだ。
「ったく……呑気な奴だな。よっと」
先日とは違い、今日はリルフィを背に背負う。その身体は小さく、暖かかった。
「…………帰ろうか、リルフィ」
「むにゃ……ナツユキ……えへへ……」
幸せそうに眠るリルフィを背に背負い、公園を後にする。問題はまだ片付いていない。
そもそもマーギアとは何だろうか――自身の信念を元に生まれる存在――だけどその結果はその人の信念を捻じ曲げて、結果的には傷つくか破綻してしまう。
日常を守りたいと言った理緒は自ら日常を捨ててしまった。剣で競い合いたいと願った裕也は剣で一番になるという矛盾した信念を持った。アリルは……信念が分からないから何もいえないが、深く傷ついているのは確かだった。
「………………」
マーギアという存在に疑問を持ち始める。だけどマーギアとして生きる限り、俺はリルフィを、友達を守る為にマーギアとして戦い続ける事になる。
それは理緒もアリルも同じだろう。また戦う事になるかもしれない。それでも傷つく結果になっても、俺は…………マーギアとして戦い抜く。例えそれが、救いの無い永劫たる苦しみの渦の中だとしても――…………。




