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WeltIdea-創造の魔術師-  作者: 水無月 汐璃
第二章『世界の裏』
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第七章『殺す者』

 『彼』は待っていた。そこはかつて桜渚がマーギアとして目覚めたきっかけとなり、リルフィと出会い、歯車が廻り出した公園。そこで『彼』は黒いコートを身体全体を隠すように羽織、佇んでいた。

「………………」

 その姿は不気味――その一言では表せない姿だった。人気の無い公園で、ただ一人……ずっと立ち尽くす一つの影には気配すらも存在していない様に見える。

「おお? 珍しいな、ここで人と会うなんてよ」

 その静寂を打ち破り、影に声を掛けたのは、先日、桜渚と死闘を繰り広げた殺人鬼、上杉キリヤだった。

「女か男か知らないけれどよ、こんな時間に誰かと待ち合わせかい?」

「………………」

 しかし『彼』は無言で上杉を一瞬、横目で見る素振りを見せるだけで、何一つ反応しなかった。彼はただ一つの目的がある為にここで佇む。それ以外の事には『現時点では』一切興味を持たなかった。

「連れないねぇ……良かったら俺が付き合ってやろうか? 暇潰し程度にはなるぜぇ?」

 上杉は舌なめずりをし、腰に下げてあるベルトに携える、魔法武具である『暗殺の双剣』の柄に手をかけた。

「………………」

 影はゆらり、と初めて身体を動かした。上杉から放たれる殺気に反応するように。

「暇潰し……余興という事かな?」

 そして初めてその口を開く。その声はまだ若々しい男の声で、子供っぽく、聞く人が聞けば男っぽい女の子と間違われかね無い声だった。だからこそ、上杉の殺人衝動を更に刺激する事になった。

「余興、あぁ、それもいいねぇ。お前は良い声で泣いてくれそうだ。決めた――今日の獲物はお前だ。上杉キリヤという殺人鬼の獲物だ」

 そう言い放って、上杉は魔法武具を手にする。それは上杉が獲物を見つけ、殺人鬼となった合図でもある。

「…………上杉、キリヤ」

 上杉が自分の名を言った事で彼の中にある一つの感情が沸いて出てくる。それは『喜び』だった。

「貴方があの有名な殺人鬼…………」

「はははは! 有名で結構な事だな! どうした? 恐怖のあまり冷静になりすぎてるのか?」

 上杉は多くの殺人を行ってきた。自身の名を言えば、大抵反応は決まっていた。助けを乞い逃げるか、その場で崩れ落ち泣き叫ぶか、あまりの事に現実逃避するか……もしくは、諦めて冷静になってしまうの四つだ。だから上杉は目の前の影は冷静になっていると思っていた。

「いいや、違うね。嬉しいのさ」

「…………嬉しいだと?」

 影が返した言葉に上杉は眉を潜める。今まで嬉しいと言ってきた奴は誰一人だって居なかった。正確には言う奴は現実逃避した奴くらいだった。だが、目の前の影は冷静に、嬉しいと返した。

「あぁ、そうさ――僕と同じ、存在と戦えるなんて、ずっと願っていたからさ!!」

「っ!!」

 その瞬間、上杉は咄嗟に身を引いた。それは殺人鬼としての勘と言える物で行った行動だった。先ほどまで上杉が居た場所には一閃の光。

「てめぇっ……!?」

「彼女が来るまで時間がある……余興として楽しませて貰おうかな」

 そうして彼は自身の頭をを覆う、フードを脱ぎ捨てる。その中から現れたのは刀を携え、黒いコートを羽織る、黒いシャツとズボンを履く一人の少年――遠山裕也だった。

「ガキだと…………!?」

「ずっと、ずっと願っていた。僕と同じ様な存在である、貴方と戦ってみたいと――だから全身全霊で殺し合おうか!!」

 裕也は誰よりも剣で上へ、上へと願っていた。故に日常生活でも剣道に熱心に打ち込み、自身を磨き上げていた。だけど彼の渇望とも言える願いは満たされる事は無かった。自身を強く、そして剣でもっと強い人と戦いたいという願いは。

 日常生活で満たされない願い――それはいつしか信念となり、裕也をマーギアと目覚めさせた。その日から彼はマーギアと戦う日常が始まった。決して弱者である一般人は襲わず、マーギアという目標を倒す為に、ただ剣のみで戦い続ける日々を――

「ちっ!!」

 裕也が鞘から抜いた一閃を上杉は後退しながら避ける。裕也に対し上杉は自身の殺人を楽しむ為に誰彼構わず殺し続けた。その中には当然マーギアだった者もいる。だから彼の中に警戒が無かったという訳ではない。

 しかし彼にとって裕也はあまりにも異端すぎて、自分と同じだった。マーギア、それも自分と同じ様な存在と戦うのは初めてだった。

「今のを避けますか……やはり、有名なだけあって、戦い方を心得ている」

「心得も糞もあるかよ。ただ俺は獲物を殺すだけ――それだけだ!!」

「っ!!」

 上杉は『瞬間高速』を使用し、一瞬で裕也の死角へと移る。裕也の武器は刀、対する上杉は二本のサバイバルナイフだ。刀は威力は大きいが、隙がその分大きい。だがナイフは威力は低いが、隙は少ない上手数を稼げる。

 故に上杉は裕也の武器の特性を利用し、一瞬で懐へ飛び込んで行く。例え防がれても二手、三手と手数を稼げば、いつかは刀で防ぎきれなくなる――そう踏んでいた。

「っ!?」

 裕也は上杉を一瞬見失う。それもその筈、今の上杉は一瞬だけとは言え、目にも止まらぬ速く動けるのだ。

「はっ、そこだぁっ!!」

 上杉は裕也の死角から、急所に真っ直ぐとナイフを突き立てる――

「なっ!?」

 だが、それは裕也の刀により防がれる。完全な死角からの一撃。それも数回にも渡る攻撃の手を全て刀によって弾かれた。

「はは、少し驚いたよ。貴方は……本当に僕と同じだ。殺人鬼と呼ばれた人がいきなり消えた理由はマーギアになったからか。ははは!! それでこそ僕の憧れの存在だ!!」

 最小限の刀の動きでナイフを弾いた裕也はすぐさま刀を振るい抜く。魔力で強化された裕也の身体は常識では在り得ない速度、手数で刀を振るい、上杉に襲い掛かる。

「防御からの反撃なんて見え見えなんだよ!!『存在解体』――!!」

 上杉は本能で悟っていた。この相手は全力で殺しに掛からないと、負けるのは己だと。同時に自分と対等に戦える相手と殺し合える事に今までに無い快感を覚えていた。だからこそ、隠さず惜しまずに自身の能力を開放する。

「これは……!?」

 刀とナイフ、互いの魔法武具が拮抗し合う。拮抗し合うが、実際押されているのは裕也の方だった。上杉の能力による、魔法武具に触れるもの全てを殺す力が裕也の刀に僅かなヒビを入れさせる。

「殺されろよ、おらあぁっ!!」

 上杉が残る片手のナイフを無防備な裕也の懐へと突き進まさせる。その切っ先は妨害されず、真っ直ぐに裕也の腹に突き刺さる筈だった。

「…………!?」

 しかし、切っ先は裕也の横腹を掠るだけで、それ所か拮抗し合っていたもう片方のナイフから抵抗が無くなり、バランスを崩す結果となった。

「斬らせて――貰います」

 声の場所は上杉の上空。裕也は防ぎきれない事実をいち早く認識し、身体をずらすと同時に、あえてナイフとの拮抗を崩した。そしてそのナイフに刀を上手く合わせて、支えとし、地面を蹴って上空へ跳躍していたのだ。

 常人、いやマーギアだとしても在り得ない動きだった。しかし裕也は何よりも剣に長けている。故に剣の知識、重心、刃の状態まで全てを理解している。だからこそ、この様に在り得ない動きが出来た。そのままの流れでバランスを崩した上杉に刀を振るう。

「『瞬間拘束』――!!」

 しかし、上杉は一瞬の加速でそれを回避し、空中で身動きが取れない裕也の死角へと跳躍する。

「貰った!!」

「甘いっ!!」

 しかし裕也は身動きが取れない体制からでも刀を振るう。こんな動きは恐らく世界のどこを探しても裕也一人だろう。だが、上杉の能力が裕也の刀を刀とナイフが接触する度に殺していく。

「終わりだぁっ!!」

「くっ……!!」

 大きく弾かれたナイフは裕也を後方へ離す結果となった。そして裕也の刀は既にボロボロだった。

「ははっ! そろそろてめぇの獲物は限界みたいだな!?」

「………………」

 誰が見ても上杉の能力により、裕也の刀はボロボロ。後数回刀を振るえば折れてしまいかね無い状態だった。

「そうだね……だから、そろそろ終わりにしようか」

 裕也はそう言って一度刀を鞘へと収める。そして姿勢を低くし、構えを取る。それは居合い――たった一閃の攻撃で仕留める型の構えだ。

「確か……居合いだっけか、それ。いいぜ……お望み通り終わりにしてやるよ」

 殺人鬼と誰よりも上を目指す剣士。根本は違えど、その方向性は同じ物。だからこそ消耗戦になるのは目に見えていた。

 だから上杉も裕也が望む次の一撃で終わらせる事を受けた。ただでさえ裕也の刀は能力によりボロボロ。その上、上杉には加速能力がある。ここでジリ貧になるよりも、一撃での終わりを選んだ方が理に合う。

「………………」

「………………」

 互いにその場から動かず、相手の動きを見る。勝負は一瞬で決まる――…………

「そこだっ!!」

 先に動いたのは上杉だった。裕也の構えは居合い――つまり待ちの戦法だ。上杉が間合いに入らなければ裕也は攻撃する事は無い。だが、虎穴に入らなければ虎の子は手に入らない。

 だから上杉は『瞬間高速』で一気に間合いをつめる。裕也の死角から後方へと移り、一本のナイフを投げる。そして自身は裕也の前方へと移り、真正面からナイフを突き刺しに行く。

 今までの行動には無い、真正面からの攻撃に加え、死角である後方からは投擲されたナイフ、二度のフェイントによる双方向攻撃だ。これを回避する事はほぼ不可能――

「ぐっ……がはっ!!」

 裕也は速度に追いつけず、二度のフェイントからも出遅れて、まともに攻撃を食らう。投擲されたナイフは左肩へ、上杉の持つナイフは腹へとまともに突き刺さった。

「ハハッ、終わりだ――『存在解体』!!」

 上杉はすかさず触れるもの全てを殺す能力を開放させる。その結果は裕也自身の身体の殺害――チェックメイト、そう思った瞬間……。

「…………かかったね」

「な……!?」

 裕也は不適な笑みを浮かべた。それは獲物を完全に捕らえたという表情をしていた。その表情にゾクリと上杉に悪寒が走る。

 殺人鬼である上杉に悪寒が走ったのは何時振りかは分からない、しかし今の裕也はそれ程不気味な雰囲気を漂わせていた。

「おしいね……あのまま待つか、貴方が魔法武具を狙っていたなら、貴方の勝ちだった。でも僕に触れてしまった――だから、さようならだ」

「まさか……!!」

『貴方は僕と同じ存在だ』

 上杉は最初の方で聞いた言葉がふいに頭を過ぎった。ただの冗談かと思いきや、実際は自分と同じ殺人鬼、そう思っていた。

 しかし実際は言葉通り――『完全に自分と同じ存在』という事に気付いたのだ。そう、言い換えれば――『マーギアとしても完全に同じ存在』であるという事に。

「『魂食いの首狩りエクスキューショナー』」

「あ、がっ、がああああああああああああ!!」

 その瞬間、上杉は悲痛の叫びを上げた。外傷は一切無い。あったとしても殺人鬼には当たり前の存在だった。だが、今回は違った。

 『中から魂を吸い上げられる』痛みは味わった事の無い痛みを上杉にもたらせた。裕也と深く繋がった上杉の魔法武具――裕也の能力は上杉と同じく、触れる者を対象とする。ならば深く繋がった魔法武具を介してマーギア自身にダイレクトに能力が影響するのは目を見るよりも明らかだった。

「あっぐぅ……あがぁ、ごぶっ……」

「素晴らしい……あぁ、貴方の魂はこんなにも濃くて、似ている。だから――僕が全部貰い受けるよ。だから心配しなくてもいい……貴方は僕の糧になるんだから。だから――さようなら。貴方と戦えて、楽しかったですよ」

 裕也は上杉の腹を蹴り飛ばし、力無く空に浮いた上杉に向かって、居合いから一筋の一閃を走らせる。それは上杉の首を切り裂き、マーギアであろうと即死の致命傷を負わせた。

「ふぅ…………」

 上杉が死んだ事により、刺さっていたナイフも消え去った。そして受けた傷は一瞬にして癒えて行く。それは魔法武具も裕也自身も共通に――故に裕也は結果的にはほぼ無傷で上杉を倒した事になる。

「お前も楽しめたようだね。ははは、悪い悪い。つい楽しみたくてね――怒らないでくれよ」

 まるで刀と通じ合う様に裕也は刀へと語りかける。いや、実際通じ合っていると言っても間違っては居ない。裕也は何よりも自身の魔法武具である剣、『破滅の剣(フェアデルプ・レーヴァテイン』の事を理解しているのだから。

「ちょうど時間か。良い余興になったかな」

 公園にある時計を見上げて、裕也は呟く。その表情は更なる戦いを求めて快感を期待していた。

「はははは……待ってるから、早く来てくれよ――桜渚」

――………………。


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