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WeltIdea-創造の魔術師-  作者: 水無月 汐璃
第二章『世界の裏』
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第五章『叶わぬ、変わらない現実』

 その三十分前――…………

 私は何かが引っかかっていた。それが何なのかは分からない。けれども、放置しては手遅れになる――そんな予感がしていた。

「……………………」

「サナ、どうかしたの?」

「あ、何でもないよ」

 ダメだな……変な事に引っかかってて、ボーっとしてしまっていた。しっかりしないと。

「本当に大丈夫なの?」

「うん、ちょっとボーっとしちゃってたけど、考え事してただけだから。心配してくれてありがとうね」

 変な事に気を取られないで早く夕飯を作らなきゃね。リルフィもお腹空かせてるだろうし。でもやっぱり何かが引っかかる。こういうの何だっけ嫌な予感?うーん、よく分からないなぁ……。

「サナ、本当に大丈夫なの」

「んん……大丈夫って言ってるでしょ――」

 リルフィが心配そうに私の手を握り、残った手で頭を撫でて来る。私より少しだけ小さいリルフィが背伸びしならが頭を撫でる姿に可愛いと思いつつ、しっかりしなきゃと強く思って、大丈夫と言おうとした瞬間――

『信念の為? 自分の為? それともただ戦いがしたいだけなの!?』

『…………違う――私はただ、見て貰いたいだけっ!!』

「…………っ!?」

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目の前に光景が浮かび上がった。それは理緒とアリルが戦う風景。そして共に己の信念をぶつけ合うように言葉を放っていた――。

「今…………の……は?」

「サナ……?」

 まさか、理緒とアリルが戦ってるの?マーギア同士で……アリルもマーギアだったなんて。うぅん、そんな事より、今のは夢なの?現実なの?いきなりの事で、頭が混乱している。でもさっきから感じている引っ掛かり――それを当てはめると不思議にもしっくりと来てしまった。

「………………」

 さっき一瞬見えた風景――街外れにある廃屋が残っている広場だった……確認しにいくだけ行って見よう。何も無ければそれでいい。でももし現実だったなら――友達同士が戦い合うなんてそんなの……嫌だ!!

「サナ……守りたいものは、迷わず守って」

「リルフィ……?」

「…………?」

 リルフィ本人も何を言ったか理解していない様子だった。でもさっき言った言葉は――私を後押しするものだった。

「ごめん、リルフィ!留守――……一緒に来て!!」

「わわっ!?」

 一瞬、留守番を頼もうかと思った。でも一人の時に狙われる可能性が無いとは言えない。だから手を掴んで一緒に連れて行く事にした。

「リルフィ、走るからしっかり捕まってて!!」

「う、うん!!」

 自身を魔力で限界まで強化して、夜の街を走りぬける。あれが現実かどうか分からない――だけど、もし現実だったなら手遅れになる前に間に合って!!――…………。

「はぁっ……はぁっ……!!」

 限界まで走り続ける。後先の事なんて考えずに、ただただ、目的の場所へと足を進める。息があがって、全身が悲鳴を上げだしている。それでも足を動かして進む。

 途中まで手を引いていたリルフィは魔力強化した身体能力についてこれず、今は私の背中に捕まっている。だから腕が使えずに、走る事に多くの労力が発生している。それでも走った。そうして見えてきた街外れの廃屋がある広場――そこから多くの魔力が感じられた

(やっぱり……現実!?)

 そう理解した瞬間、悲鳴を上げていた体から疲労が抜けていった。そして代わりに絶対に止めなければという信念が熱く燃え上がり始めた。広場に入り、周囲に茂る茂みや木の場所に降り立つ。

「リルフィ、ここで待ってて。すぐ終わらせてくるから!!」

「うん……分かった」

 素直に頷いて、リルフィは木にもたれ掛かり、手を振って私を見送ってくれた。それを見て思いっきり地を踏み占めて、跳躍する。

 魔力強化した身体能力でそれは木々を超え、数十メートルまで体が浮かび上がる。そこから見えた光景は理緒が拘束され、アリルが今にも理緒に止めを刺そうと言わんばかりの状況だった。跳躍から一気に二人が居る場所まで近づき、着地と同時に、地面を蹴り、理緒の目の前に飛び出す

「アリル、ダメっ!! 理緒っ!!」

 飛び出しながら、『魔具形成』でナイフを形成し、理緒を拘束している物に向かって投げつける。そして理緒を守るように両手を広げて立つ。だけど遅かった。アリルの攻撃は既にされて、目の前に膨大な魔力が迫ってきていた。

「………………!!」

 防ぎきれない――でも、あの力なら!! 私は右手に意識を集中させて、力を呼び出す。その瞬間、白く光る剣の魔法武具、『心を映し出す剣』が右手に現れる。

 ずっと感じてた違和感、今この瞬間にそれがはっきりと鮮明になる。引っかかっていた物、それは私の中にあった。私の中にもう一人の意志が、意識がある。それはあの優しい男の子の声。瞬間――『私』が『俺』へと変わって往く――姿も、体も、服装も意識も何もかもが――。

「でやぁっ!!」

 防御しても受けきれない。ならば流すしかない。剣を下から上へと振り上げて、射線をずらす要領で魔力を斬る。

 激しい衝撃を体を襲う――だが、それは一瞬の物で、斬られた間膨大な魔力はその場で爆発。射線をずらす事は出来なかったが、攻撃そのものは無くす事が出来た。

「ぐぅっ…………!!」

 だが、攻撃をどうにかする事だけを考えていたから、至近距離で爆発した膨大な魔力の衝撃に体が吹き飛ばされる。体が二人が居た開けた広場から木々が生い茂る場所まで吹き飛ばされ、幾重ものの木々が体に当たった。

「っ…………」

 当たる木々を利用して、運動エネルギーを殺す。そしてすぐさま、地面を蹴り上げて二人が居た場所へと走り抜ける。

 走り抜けた先には感情を露にした二人が攻撃を放っていた――攻撃が交差する瞬間、その間に入り込み、互いの攻撃を消失させる。感情を露にした魔力攻撃は威力が大きい……が、信念が入ってない故に呆気なく相殺することができた。爆発の影響で砂埃が立ち上がり、消えて行く。

 そこには爆発の衝撃で吹き飛ばされた理緒とアリル――共に『許さない』という感情を浮かべていた。

「…………!?」

 二人は予想外の介入に驚いていた――しかし、『許さない』という感情は残り、二人は互いに今にでも攻撃しかねなかった。

「誰よ……貴方!?」

「二人共止めろ」

 だからそう一言、強く怒気を含めて言い放つ。どうして戦う……仲間だろう、友達だろう。なのにどうしてそうやって戦おうとする!? 綺麗事なのは分かっている。だが、それでも俺はそう思わずには居られなかった。

「…………邪魔、しないで!」

 アリルの魔法武具だろう。浮遊する物体の幾つかから魔力攻撃が放たれ、飛んでくる。それら全てを剣でなぎ払い、打ち消す。

「邪魔――するさ……アリル」

「え………………!?」

 驚きの言葉は攻撃が剣一本で打ち消されたからなのか、名前を呼ばれたのか、あるいは両方なのか……真意は知る由もない。だが明らかに動揺しているのは確かだ。

「何故……仲間同士で傷つけあう!? アリル! 理緒!!」

「貴方……どうして、私の名前を――」

 どう返そうか迷った。だがここで本当の事を言えば、逆鱗を逆撫でするだけだ。だから俺はありのままを答えた。

「よく知ってるからだ。ずっとずっと――『見てきたから』」

「訳の分からない事を…………何にしても邪魔しないで。私は……アリルをっ、桜渚を殺したアリルを…………!!」

「許さない…………か?許せないから傷つける――二人がどんな想いなのか、信念で戦うのは知った事じゃない」

 いや、本当は知っているんだ。理緒はこの街と平穏――そして桜渚を守る為に。アリルは――恐らくだが『寂しい』という何かが信念に関わっている筈だ。でもここで知っている事を話していても仕方ないし、『桜渚もそれを望んでいる』。

「…………知った風な事……言わないで」

「邪魔するなら、貴方にも――容赦しないわよ」

「………………」

 どうにもこうにも説得じゃもう止まりそうにない。だったら――方法は一つ。

「――あぁ、構わない。だが、俺も――二人が戦うというなら容赦しねぇっ!!」

 そう叫んで俺は剣を構える。言葉で止まらないなら――信念をぶつけて止めるまでだ。

「理緒、アリル――お前らが戦うと言うなら俺は二人と戦う。止めてやる」

「…………正気?」

「正気さ。俺は――信念のまま戦う。友を守りたいが為に」

 友達が目の前で傷つけあうのを黙って見過ごす精神は持ち合わせていない。『俺』も『桜渚』も。だから全力で止めてやる――どんな手を使ってでも。

「二人が戦いたければ俺を倒してからにしろっ!!」

 そう叫んで剣に魔力を溜め、放出させる。理緒へ向かって魔力攻撃を放ち、その反動を利用しながらアリルへ向かって飛ぶ。

「っ……速……!?」

「そこだっ!!」

 アリルに向かって剣を振り下ろす。しかしそれは突如出来た防御壁に阻まれる。と同時に別方向から魔力攻撃を飛んでくる

「…………!?」

 何となく予想はついていた。アリルの魔法武具は十三の遠隔式魔法武具なのだろう。だから防御をしつつ攻撃も可能――故にそのまま防御壁を足場にしてアリルの後方へと飛び上がる。

 本来俺に当たる筈の魔力攻撃はアリルの目の前に命中する事になり、アリル自身の視界を封じる結果になった。

「なっ……!?」

 だが、アリルの魔法武具からは正確に俺を狙ってきた。

「ぐっ……ぅ……!」

 咄嗟に防御の構えをしたが、想定外の事もあり、全てが全て防御出来ずに幾つか直撃を食らってしまう。魔力で出来た、風ではためく上着はその直撃で部分部分が破れてしまっていた。

 魔力防護性のある服があるとはいえ、直撃を食らってしまえば相応のダメージはある。こればかりは意志の強さでもどうする事は出来ない。

「っ……アリル、止めろ!! 止めるんだ!!」

 降り注ぐ魔力の雨を避け、剣で防ぎながら、距離を取りつつ叫ぶ。アリルの攻撃は『あまりにも正確すぎる』。

 まるで俺の位置を知っているかの様に先読みと精密な攻撃が降り注ぐ。ここで一つの結論が見える――アリルは恐らく能力で俺を……いや、多分アリル自身の周囲の空間を認識しているという結論が。どうしてそう思えたのかは分からない。だけど自分の中ではそう確信できた。

「桜渚を……桜渚を返せ!! アリルっ!!」

「……理緒……!!」

 魔力が地面に当たり、その影響で吹き荒れた砂嵐が晴れると同時に、理緒がアリルへと銃の照準を合わせ、トリガーを引くのが目に入る。

「させるかっ!!」

「…………えっ?」

 このままだと、アリルに当たってしまう――そう思った瞬間にはアリルの攻撃をそっちのけにして、理緒の前に飛び込み、最低限の魔力弾――直撃や急所コースだけを弾く。銃弾を全て防ぐのは不可能。なら、動きに制限が掛からないレベルの銃弾はスルーするまでだ。

「ま、魔力弾を弾いた……!? なんで……なんで邪魔するのよ!!」

「言った筈だ。二人が戦うなら、俺を倒してからにしろと。裏返せば俺を倒さない限り二人が戦いを止めるまで邪魔をする」

「何なのよ……あなた何様のつもりよ!!」

 何様……か。今ここで正体を現せば事態は収まる。だが、今度は混乱を招いて予測不可能な事態を起こしかねない。

「……………………」

「関係無いなら、退いて。じゃないとあなたも――」

「ふざけるなっ!!」

 その先の言葉だけは言わせたくなかった、聞きたくなかった。だから言葉を遮る様に力の限り叫んだ。

「じゃないと何だ? 戦うってか!? ふざけるなよ!!」

 戦う――濁しているがそれは憎しみが渦巻いている。じゃないと『殺す』それが本当の意味だ。だけどそんな事、理緒に言わせたくない。させたくない。

「それで何になる!? 理緒はそんな事の為にマーギアとして戦ってる訳じゃないだろ!?」

「あなたに……私の何が分かるって言うのよ!?」

 お互いの意志がぶつかり合う中、それを遮り介入する様に幾つかの閃光が走ってくるのが目に入る。

「っ……理緒っ!!」

「!?」

 咄嗟に地を蹴り、理緒に向かって飛ぶ。そのまま理緒を抱きかかえながら、地を転がる。元居た場所には魔力攻撃が集中的に振る――後少し遅れていれば俺も理緒もただじゃ済まなかった。

「………………まだ」

「っ!!」

 地に転がる二人を囲うようにアリルの魔法武具が展開され、それら全てから一点に向かって魔力攻撃が放たれる。その先は俺と理緒が居る先――全方位からの魔力攻撃。

「邪魔しないでと言ったでしょ!!」

「ぐあっぅ……!!」

 対処を考えていると、理緒の膝が腹に入る。追撃と言わんばかりに銃で頭を殴り、俺は突き飛ばされる。

「この程度で……私を倒せると思わないで!!」

 双銃から魔力弾が放たれ、理緒の正面の一点だけの攻撃が相殺される。そしてそのままの流れで理緒はアリルへと走って行くのが見えた。

「くっ……ぐ……」

 ある程度攻撃されるのは想定はしていたが、あのタイミングで理緒から攻撃を食らうのは想定外だった。何とかアリルの攻撃は防いだものの、ダメージは少なくは無かった。

 いや……これは俺の甘さが原因だ。理緒もアリルも……相手を倒す事しか見ていない。それ以外に感情のぶつけ先が無い。俺にぶつけて貰えるなら――あわよくば戦いを止める。守って、説得して止める――もうそれは遅すぎた物だという事を嫌でも気付かされる。

 どうあっても二人は戦い続ける――どちらかが倒れるまで。今も目の前で魔力が走りあい、周囲の地形を削って行く。俺に残された道は――ただ一つだけ。『攻撃』して二人を止める事だけだ。それもただ止めるだけじゃない……真正面からぶつかって二人の『信念』を折ってだ。

『後一つ、信念を打ち壊すってのもあるけれど……イコールこれはマーギアとしての死を意味するから省くわね』

 いつか、倉岡との戦いで理緒が言った言葉を思い出す。信念を折るというのは壊すのと同義。つまりマーギアの死を意味する――だけどそんなのは望まない。

 だが、感情に駆られて行動する二人を止めるにはこれしかない。もうどんな言葉も、叫びも届かないならば――戦って、剣で――俺の『心を映し出す剣』で伝えるしかない。

(迷うな……躊躇するな。絶対に――誰も死なせず止めるんだ)

 傷つけず――そんなのはもう無理だ。戦うとはそういうこと……戦って誰しもが傷つかない訳が無い。誰にしろ身体的、内面的に傷つく。

 だけど、それでも……戦ってでも貫き通さなければいけないものがある。だから俺は――剣を取って、二人を止めるっ!!

「このっ…………!!」

「はぁああああああああああ!!」

 感情を露にし、戦う二人――その魔力の雨の中、俺は躊躇わず飛び込む。いくら直撃を受けようと、どれだけ傷つこうとも、俺は止める。止めなかった時の痛みに比べればこんなのは蚊に刺された程度だ。

「魔力――開放っ!!」

 自分の中にある魔力を身体から、剣から一気に放出させる。それはさっきアリルに使ったのとは違う――防御として、攻撃としての意識を持たせて放ったもの。その衝撃は魔力の雨を遮り、壊し、使用者にも襲い掛かる。

「あなたっ……そう、あくまで邪魔するのね。だったら一緒に消してあげる」

 理緒は『光と闇の双銃』の銃口を片方をアリルに向けたまま、残った方を俺に向ける。そこに魔力が集中していくのが目に見えて感じられる。

「『魔術装填』――くっ!!」

 しかし、それを遮るように割り込んできたのは幾つもの光線。それは理緒を狙いつつ、俺までも標的になっていた。

「っ……アリル!!」

「もう……消えて。私には、私以外……いらない」

「ちっ……!!」

 今までに無いくらいの濃さの魔力光線が空間を閃光する。それは雨と言うレベルじゃなく、滝の様な鋭く、激しい魔力攻撃――全てを防ぐのはどう考えても不可能。押され続ければジリ貧でこちらが不利になるだけ。

 幸いアリルの攻撃は『威力』よりも『数』だ。数発程度なら無防備に直撃を食らっても何とか耐えられる。それは理緒も分かっているらしく、双銃で魔力攻撃を撃ち落としていた。しかし、それは油断だった。この攻撃はただの布石でしかないという事にアリルの姿で気づかされる。

(アリルの前に魔法武具が集まって……まさか!?)

 『俺』が呼び出されたきっかけとなった、アリルから放たれたあの攻撃――到底アリルの魔法武具からは考えられない威力だ。

 だが、もしもそれらを『一つに束ねる』能力があるならば話しは別だ。収束される十三の魔法武具の一点集中攻撃――防御も回避も不可能だ。だけど同時に突破口の光でもあった。

「っ…………!!」

 段々と攻撃の嵐は止んで行く。しかし、それはアリルの能力の布石――気付けば俺と理緒はアリルの一直線上に固められていた。

「な…………しまった!!」

 理緒が気付いた時には時既に遅い。アリルの準備はほぼ完了してしまっていた。アリルの前には十三が一つとなった魔法武具。その先端には肌が震えるほどの強大な魔力の集まりがあった。

「…………皆、消えちゃって――」

 俺にはマーギアとしてもあまりにも未熟であり、異端だ。俺はマーギアでありながら能力を持たない。いや、実際にはある――が、それは『桜渚』としての能力。つまり『俺』としての能力ではない。

 それに魔法武具だって突出した能力がある訳でもない――だけど同時にそれこそが俺の力だ。『心を映し出す剣』――この剣は俺の心を、想いを映し出す(つるぎ)。俺が強く、真っ直ぐに想えば想うほど強くなる魔法武具。つまり俺の意志こそが魔法武具の強さになる。

 言い換えるなら――『心と想いの強さ故、下限も上限も存在しない』。つまるところ、魔法武具が能力であり、能力が魔法武具だ。だから強く想う――もうこんな事止めさせると。二人にはもう戦って欲しくないと。傷つけあってほしくないと。だからその為に力を貸してくれ――!!

「『結束する武器』――!!」

 アリルから強大な魔力が放射される。それは死を直面したかのようにスローモーションに感じられた。だが俺は諦めない――アレは絶対に『斬』では壊せない……なら『撃ち落とす』。魔法武具の剣の刃の部分の中心に一筋の光が走る。

 そしてそこを中心として割れ、下の刃の部分が僅かに前に動く。その間には大きな魔力が宿る――俺の心と連動して強く脈を打っている。守る為に――力を貸してくれ『心を映し出す剣』!

「『フィーレスト』!!」

 そう叫ぶと同時に、剣の間に空気が震える程の強大で圧縮された魔力が開放される。あまりの威力に身体が吹き飛ばされそうになるが、全力で二本の足で耐える。

「ぐっ……!!」

「っ…………」

 二つの強大な魔力同士が拮抗し合う。その衝撃は更に身体に負担が襲い掛かる。だが、身体がどれだけ傷つこうと、俺の心は折れない。どれだけ強大な物だろうと――心と想いだけは負けない。

 甘い考えと言われるかもしれない――だけどそれが俺の『信念』だ。友との想いや、絆、繋がりを守る為なら――どんな道だろうと諦めずに抗ってやる。それは『桜渚』も同じだ。だから――絶対に負ける訳にいかない!!

「ぐっ、おぉ…………おおおおおおおおおおおおおお!!」

「…………えっ!?」

 拮抗し合う魔力の均衡が崩れて行く。段々とアリルの方へ、拮抗し合う中心が動いて行く。

「…………っ……私は……!!」

 アリルはそれに耐える。だが、幾ら耐えようと、徐々に押されてしまっている。理緒との戦いで魔力を消費しているのが響いているのだろう。

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 力の限り叫ぶ。アリルの全力の攻撃を打ち破る為に――

「あ………………」

 微かにアリルの声が聞こえた。その声は何かを悟った声だった。直感で分かっただろう――これにはもう勝てないと。つまり敗北を確信したという事になる。

 それを理解した瞬間、俺は心も頭も空っぽにする。そして弱々しい事で埋め尽くす。想いの強ければ強くなる――つまり弱ければ弱くなる。そして狙い通り、放射された魔力が目に分かる程、威力を無くしていった。そしてその瞬間、大きな爆発が起きる。

「………………」

 爆発の影響が収まったその場所には倒れ伏せるアリルの姿があった。まずはアリルは問題ない――残るは理緒だ。

「ありがとうね――アリルを眠らせてくれて!」

「なっ!!」

 大人しいと思えばいつの間にか理緒はアリルの後ろに居た。その銃口はアリルへと向けられている。

「アリル……さよなら――『一直線の弾丸』」

 二つの銃撃音が響き渡る。双銃からそれぞれ一発ずつ、放たれた弾丸がアリルへと向かって行く。

「でやあああああああああああああ!!」

「なっ!?」

 理緒は目の前で起きた事に驚愕していた。それもその筈だろう――アリルに当たる寸前、弾丸が剣に阻まれたのだから。

「ぐ…………!!」

 『魔術装填』で強化された弾丸に、狙った場所に放たれ、防ぐ物全てを破壊する『一直線の弾丸』。それが二つ同時に襲い掛かる。剣を持つ手に大きな衝撃と負担が走り続ける。その上、魔法武具を破壊しようと弾丸が突き進み続ける。

 このままだとアリルも俺もやられる――だけど同時にこれこそが勝機でもあった。真っ直ぐすぎる理緒の魔法武具と能力――理緒の信念を折って戦意を無くすのは、これを真正面から受け止めて打ち破る。それしかなかった。

(信念を……打ち破る)

 それはマーギアとしての死を意味する物じゃない。俺が言う意味は挫折、ショック――つまり自分自身が信じてる物を打ち破るという意味だ。

 理緒は真っ直ぐだ。それは羨ましい程に真っ直ぐで、優しいもの。だからどんな物でも一直線に打ち破る。だが俺はその概念を打ち破る。一直線で今までどんなものでも、打ち破り続けた――その概念を壊す。

 今、受け止める弾丸を防ぐ――それこそが理緒の信念を打ち破るという意味だ。一直線は強い――だけど同時に脆くもある。だから俺はそこに賭ける!!

「うおっ、うおおおおおおおおあああああああああ!!」

 心を剣に、剣に想いを。剣と俺が一心同体になる――そして『桜渚』の想いも重なっていく――理緒にはそんな事して欲しくないと。

 だから今、ここで失敗は許されない。失敗はアリルの死に繋がる。それはある意味でここに居る全ての人の信念が壊される事にもなる。

だから絶対に勝たなくてはいけない。

「『フィーレスト』っ!!」

 魔法武具の名を叫ぶ。これはトリガー、剣と心をより深く繋げる為の言葉だ。言葉は一種の催眠作用にもなる。名を呼ぶ事で、ドクンと大きな鼓動が走り抜ける。剣と俺の周囲に魔力が流れ出し、風に包まれたように服や髪がはためきだす。

 剣に強い力が宿り、俺の心を映し出すように脈を大きく打ち続ける――故に、今、この瞬間――俺は理緒の一直線の想いを打ち破る。

「え……う、嘘……そんな……」

「はぁっ……はぁ……!」

 剣を振り抜いた俺の姿を見て、理緒は呆然と銃を構えたままの状態で立っていた。だけどその目からは闘争が無くなり、迷いと戸惑いだけがあった。

「あっ…………――」

 剣の柄で理緒の首筋を叩くと同時に、魔力を干渉させる。魔力の干渉――言い換えるならば、他人の魔力の流れを自身の魔力による、流れの妨害。つまり相手の感覚を狂わせる。感覚の狂いと衝撃により、理緒は力なく俺の腕の中に倒れこむ。

「はぁっ……はぁ…………」

 正直、危なかった。理緒の能力、『一直線の弾丸』が単発式でなければ恐らく負けていたのは俺だ。双銃から放たれる単発式の弾丸が二つ。

 たった二つだけど、魔法武具と拮抗する所か押し返させられた。『一直線の弾丸』――理緒が狙う場所に一直線に飛んで行く弾丸。だからこそ弾丸一発にしか効果が発揮されない。全てに効果を発揮させるのは出来なくは無い――が、消費魔力や集中力等の事を考えると不可能に近い。これを知っていたからこそ、俺は理緒を止める事が出来た。

(…………軽くて、細いな)

 不謹慎かもしれないが、ふと、腕の中で眠る理緒を見てそう思った。同時にやるせない気持ちが浮かんでくる。どうして、理緒やアリルみたいな子がこんな目に合わなきゃいけないんだ……どうして傷つかなきゃいけないんだ。

「………………ちくしょう」

 その質問の答えは闇の中だ。返って来る訳も無く、答えてくれる筈も無かった。ただ、静寂が戻ったこの場にある木々が夏風に吹かれてざわめく音だけが答えた。

「………………」

「リルフィ……」

 ガサリと草が動く音の方を見れば、そこには離れた場所に居た筈のリルフィが顔を覗かせていた。

「………………」

 ただジッと俺を見ていた。その行動に俺は――『不思議と既視感を感じていた』。

「……やっと、やっと会えた……ナツユキ」

 数秒、経った後、リルフィは飛び込むように抱きついてきた。その表情は泣きながら、笑っていた。だけどその表情を見ていて辛かった。

 だって俺は…………『今から数年程度前の記憶しかないのだから』。つまりあいつが高校生になってからの記憶。あいつの眼を通してみてきた物だけだ。それ以外に分かるのは――マーギアとしての知識と自身の名前だけだった。

「…………ごめん」

「?」

 抱きつくリルフィの肩を掴み、そっと身体から離す。その行動にリルフィは首を傾げていた。リルフィの表情を俺は今から壊そうとしている。だけど偽ったまま、共に過ごすのはもっと嫌だったから――

「俺は……夏雪ナツユキという名だけど……リルフィの事は知らない。俺には……数年前からの記憶しかないんだ」

 本当の事を言った。リルフィの希望を壊してしまうかもしれない言葉を。だけど――返ってきた言葉は予想を覆す物だった。

「ナツユキに会えただけで、良い。ずっと一緒に居られるだけで……いいもん」

 笑っていた。屈託の無い、満面の笑みで恥ずかしそうにしながら。その姿を見て不意にもドキリとしてしまった。

「…………あ、あー……と、とりあえず! ここから離れないとな」

 誤魔化すように話題を逸らす。何にしろ、あれだけの激しい戦闘を行った後だ。この時間帯の街外れの広場とは言え、誰かが来ないとは限らない。

「リルフィ、手伝ってくれるか?」

「うん、ナツユキの頼みなら良いよ!」

 う……そういうのは卑怯だと思うんだ。でも同時に嫌な気分にもなる。リルフィは好意という想いを俺にぶつけてきている。

 だけど俺は受け止めれない。他人からの想いを蔑ろにしている自分に嫌悪してしまう……いや、考えるのは後回しだ。今は意識の無い二人を連れて家まで帰らなければいけない。今だけはマーギアとしての知識があるのは助かっている。

 理由は分からないが、『俺』が居られるのは、どうやら魔法武具を出している時だけみたいだ。魔法武具を消せば『俺』は消え、『桜渚』へと戻る。だけど、桜渚にこの二人を連れて帰るのは体格的にも筋力的にも厳しいだろう。未だに魔法武具を出して、俺のままで居るのは、これが理由だ。

「………………」

 だからと言って俺一人で意識の無い二人を抱えるのは無理な話だ。リルフィに手伝って貰うとは言っても、リルフィに抱えてもらうのは……無理だろうな。

「仕方ないか…………よっ――っと」

 倒れこむアリルを背に背負い、理緒を両腕でお姫様抱っこする。これ以外の方法がぶっちゃけると思いつかなかった。

「リルフィ、アリルが落ちないように後ろから押さえててくれるか?」

「分かった!」

 アリルの両腕を首に回して固定させてるとは言え、両腕が塞がっている為、下手したら落ちかねない。だからリルフィに後ろから押さえて貰う。

「……………………」

 まぁ、そのあれだ。体型的にアリルを背に回した方が良いとは思った。アリルが……まぁ、そのあまり育っていないに対して、理緒は女の子らしすぎる成長なのだ。

 だから色々と大丈夫だろうと思っていたが、そんな幻想はぶち壊される。成長してないとは言え、アリルだって女の子だ。男と違って柔らかい肌に細みな身体に……それが背中に伝わるわけで……更にお姫様抱っこの理緒も落とさないようにある程度、自分の身体に寄せなければいけなくて……柔らかい二つの山の片方が当たってしまう訳で……。

(ぐ…………これは色々ときついだろ!!)

 色即是空! 色即是空! さすがに意識の無い女の子にそういう感情はまずいだろう!!

「ナツユキ…………変な事考えてる?」

「か、考えてない! ちょっとどう帰るかの道筋を考えてただけだ!!」

 時々、リルフィが鋭くて怖い……とりあえず早く帰ろう!俺の理性的にも――…………。


「はははは……面白いね」

 その光景を遠く離れた場所から見下ろす影が一つ。影が立つ場所は、夏雪達が居る広場から数百メートル離れた場所に生い茂り、その中にそり立つ一本の木の最上部。

 一般人では立つ事事態がありえない。つまりこの影も『普通では無い存在』、マーギアなのだ。

「あの二人がマーギアなのは予想外だったけど……だけど、やっと見つけたよ」

 影の腰にズシリと存在している一本の鞘。これが影のマーギアとしての武器だろう。影はそれを奮い立たせるように数回撫で上げる。

「お前も、待ちくたびれたな。でももうすぐさ……望みは叶うさ。その為に、ここまでしたのだから」

 そう、不適な笑みを浮かべて影はその場から言葉どおり、音も立てずに飛び去って行く。強者と戦いたい――ただそれだけを思いながら――…………


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