第四章『すれ違う意思』
「よし、お昼休みだー!!」
「サナー! お昼ご飯―!!」
お昼休みを告げるチャイムが鳴ると同時に、理緒とリルフィが同時に叫ぶ。最近、リルフィが理緒のテンションを真似している。近い内に止めないとリルフィが理緒みたいになっちゃうよ……。
「あぁもう分かったから、大声で叫ばないでよ」
「あはははは、いつも桜渚も大変だね」
「他人事だと思って…………」
ちょっとくらい助けてくれても良いと思うんだ、遠山君……言っても何だかんだで流されそうだけど。
「で、今日は前と同じく中庭で食べるかい?」
「私は問題ないよ」
「同じくー!!」
「あ、ちょっと待って。アリルも誘って良いかな?」
「別に僕は構わないよ」
「という事だけど、アリルもいいよね?」
アリルの方へ向いて、返事を待つ。
「ん…………行く」
この前とは違い、すぐに返答が帰ってきて、その手には四角い包みが握られていた。
「今日はお弁当なんだ」
「うん……作って、きた」
「そうなんだ!アリルの料理楽しみだなー!!」
「わぁっ!? ちょ、ちょっと理緒!!」
いきなり後ろから飛び出てこないで欲しいよ……心臓に悪い。まぁ、普段から気配とかに気を配れば良いんだけど、普通の当たり前の生活でそんな事はしたくはなかった。
「とりあえず、中庭に行こうか」
「ごっ飯~ごっ飯~」
あぁ……もう、誰かもう一人ストッパーか突っ込みしてくれる人居ないの!? もう私一人じゃ色々と限界だよ!!
「「「いっただっきまーす!!」」」
何だかんだで落ち着いて中庭でお昼タイムが始まった。さすがにお昼の時くらいは休ませて欲しい……ここに来るまで理緒の暴走がまた押さえるのに苦労した。リルフィもよく分かってない様子でそれに乗って行っちゃうし……遠山君は傍観してるだけで……アリルはそれを見つめながら笑ってた――だからまだ良いのかな? と思う。というかそう思わないとやってられない。
「それ、美味しそう…………」
「これ? だったらお弁当交換しない?」
「交換……?」
「うん。お互いのおかずを貰うの。ギブアンドテイクって奴……かな?」
「何で、そこ疑問系?」
「う……それは、き、気にしないで。ほら、取って良いよ!私もアリルの弁当貰うね」
「ん…………あ、美味しい」
「そっか、良かった。アリルのお弁当も美味しいよ」
「う、うん…………」
アリルは頬を赤らめながらソッポを向いたが、満更では無い様子だったので、つい笑みがこぼれてしまった。
「ちょっと桜渚。いつの間にアリルとそんなに仲良くなったの?」
「ん? 元々こんな風だったよね?」
「え…………う、うん?」
急な話題を振られて、アリルは困惑しながら頷いた。ってこうしてみると急な無茶振り……私も理緒の影響受けてるよね……うぅ、自重というか自分を保たないと。
「ずーるーい! 何か通じ合ってるー!! 傷ついた! 損害賠償としてアリルの弁当貰うからね!!」
わけの分からない損害賠償という理由で、アリルの弁当に理緒のお箸が攻め入っておかずを一品奪い、それが口の中へと入っていった。
「ってうわ!! 美味しいじゃん!!」
「私も食べるー!!」
続いてリルフィもおかずを一品奪い去っていった。ダメだ……完全に理緒に感化されちゃってる……後でちゃんと言っておかないと。
「あぁもう、二人共! アリルのお弁当無くなっちゃうでしょ!?」
「………………大丈夫」
「もう……アリルもちゃんと言わないと二人は調子乗るからね?」
アリルの表情は柔らかく、笑っていた。だからそれとなく注意はしつつ、特に何もしなかった。だってアリルからは『寂しい』という物が無かったから。だから笑っている今、この状況を無理に止める必要も無いと思ったから。
「へぇ……桜渚、アリルに何か言ったのかい?」
「え、別に特に何も……?」
「ははは、そっか。まぁ、桜渚は天然だからなぁ」
数秒ほど私を見つめてから、遠山君は笑いながらそう言った。というか遠山君の中で私って天然キャラなの!? 私自身そんなつもりは無いのだけれど……。
「サナ」
「どうしたの? リルフィ」
裾をクイクイと引っ張ってリルフィが一言だけ言った。
「ずっと、こんな生活続くといいね!」
リルフィは何も考えずに言った一言なのかもしれない。だけどそれは今、私の中でずっと思っていた事だった。マーギアという人外な存在だとしても、私はこんな風に皆と楽しく普通の生活を送りたい。
「うん……そうだね」
「ん……」
だから――私も一言だけ返してリルフィの頭を撫でる。リルフィはくすぐったそうにしながら、幸せそうな表情を浮かべて満足そうにしていた。
ずっと続く――それは願わない事。日々、変わり続ける生活。だからどんな形だろうとずっと同じ様に続く事はない。だけれども――変わって行くからこそ、今の一日一日が大切に思える。
だから私は皆――友達との繋がり、普通の生活との繋がりを守る為にマーギアとして戦おう。終わったら、マーギアなんて力は捨てて、いつもの生活に戻ろう――そう強く再度決心した。
――…………。
そうして時間はあっという間に流れて、放課後になった。今日はどうしようかと悩んでいたら、裾を引っ張られた。
「アリル?」
よく服の裾を引っ張るのがリルフィだから、リルフィと思って振り向けばそこに居たのはアリルだった。アリルからこういう事をしてくるのは珍しく、少しだけ驚いてしまった。
「桜渚…………桜渚は――」
私の名前を呼び、何かを続けて言おうとしたそこで、アリルの口は止まった。その状況が十秒近く続いた。
「…………何でもない」
そうして続いた言葉は何でもないの一言だった。アリルが何かを伝えようとしているのは分かった。でもその一歩が踏み出せないんだろう。
「そっか。じゃあ話せる時が来たらまた話してね。無理強いはしないから、アリルが話せる時で良いから」
「…………うん」
言いにくい事だと気付き、優しく私はそうアリルに告げる。その言葉を聞いて安心したのか、僅かに強張っていた表情が和らいだ。
だけどその表情はまだ何かを気にしていた。突っ込む事も出来る。でも、アリル本人が言い辛い事を無理に聞き出したら失礼だと思う。だから私は待つ事にした。
「……桜渚。用事、あるからまた明日」
「あ、うん。またね、アリル」
アリルは用事と告げて、小走りで夕焼けが差し込み赤く染まる教室から出て行った。もしかして用事を手伝って欲しかったのかな?もしそうなら、明日にでもそれとなく話を振ってみようかな。
「サナ、帰らないの?」
遠山君は試合が近くて部活が忙しく、理緒は先程電話で本家の方に呼び出されて二人共既に教室に居なかった。だから今日は久しぶりにリルフィと二人だった。
「そうだね、今日は遠山君も理緒も居ないし帰ろうか?」
「うん!! サナと帰宅ー!!」
そんなに嬉しかったのか私の手を握って、すぐに帰ろうと言わんばかりに教室の外へ引っ張って行く。
「わ、分かったからそんなに引っ張らないで!?」
リルフィに追いつくように私も続いて早足で教室を後にした――…………。
「ぐ……うっ……あ……」
ここは広場。街から少し離れた場所に位置している廃屋がある大きな広場。そこは夜の暗闇に包まれ、辺りには静寂という存在だけがある。その場所で男が倒れこみながら呻き声をあげていて、『私』はそれを見下ろしていた。
「……………………」
「ば、化け物……ぐっ……!?」
化け物。そう言われた瞬間に、私の周囲に浮かぶ十三にも及ぶ浮遊物の二つほどから男の腹に向けて『魔力』を放射する。
「私は、普通。ただの一人の女の子――ねぇ、どうして化け物って言うの?」
「がっ……ぐっ……」
目の前に倒れ伏せる男は答える余裕も無く、自らのボロボロになった体を引きずるように私から離れて行く。その姿は私を普通の女の子とは見ずに、ただの化け物として見て、それから逃げ出している姿。
「貴方も……そう、なんだね――だったら、さよなら」
私の魔法武具『ヴィーストラ』。十三からなる遠隔式魔法武具。一つ一つが私の意志の通りに動き、私を――守る為にある魔法武具。合図と同時に六つ程から魔力を放出させ、男に全て命中させる。成す術も無く男は消え去る――信念同士のぶつかり合いでの負けは死を意味する。それが『この世界』での掟。
「……………………」
男が消えた場所をジーッと見つめる。そこには魔力が当たった跡と息絶えた男だけが残っている。虚しい――悲しい――どうして皆、私を除け者の様に扱うの? 私が普通じゃないから? 私はただの――普通の女の子なのに。そう問いても答えは帰ってこない。
「………………桜渚」
名前を呼ぶ。初めて、私に優しくしてくれて、私を普通の女の子として見てくれた、初めての友達。友達と言ってくれた。
嬉しかった……ずっとずっと独りだった私を光で照らされた――本当にそう思えた。だから――今日、伝えようとした。私が――マーギアだという事を。でも、出来なかった。知ったら、今の生活は崩れてしまう。
桜渚は……『しょうがないな』、『それでもアリルは変わらないでしょ?』と言ってくれるかもしれない。でも、その期待以上に否定や拒絶が心の奥から怖い。だから言えなかった。桜渚は『待ってくれる』と言った。嬉しい……でも、怖かった。私を普通に扱ってくれて、優しくしてくれた友達を――手放したくなかった。
「……………………」
私の心情を表すように辺りは寂しい人気も明かりも無い暗闇が広がる。夏の小風が木々を揺らし、ざわめきを立てる。その音を聞いていると酷く不安になってしまう。だから去ろうとしたその時――
「…………アリル」
よく、見知った声が私を呼んだ――…………。
「…………アリル」
『私』がそこへ駆けつけた時、その場に居たのはアリルだけだった。目線だけを辺りに動かしてみれば、近くには倒れている男――恐らくあれが『本家』から言われた目標だろう。既に命の灯火は消えている。
「貴方も、マーギアだったのね」
「…………理緒」
アリルの周囲に浮かぶ十三の浮遊物。あれがアリルの魔法武具。恐らく魔力での遠隔操作か、本人の意思による操作――どちらにしても今のこの状況はいつ不意打ちを食らってもおかしくない。私はホルダーにセットしてある魔法武具、『光と闇の双銃』を引き抜き、アリルへと照準を向ける。
「アリルがそこの男と戦って、勝ったのかしら?」
「…………声、掛けられて。襲われたから反撃したまで…………化け物と言わなければ――殺さなかった」
普段、無口で大人しいアリルの口調は変わらない。だけどその声色は恐ろしく淡々としていて、冷たく無情だった。
「そう。その男はマーギアの能力を使って、犯罪ばかりを起こしていた。代々続く神聖なマーギアの戦いを穢した――だから私は本家からの命令で始末しろと言われてここに来たの」
神聖なマーギアの戦いなんて、私にはどうだって良い。ただ、私が大切にしているこの街で最低な犯罪を起こし続けるのは許せなかった。でももうこの問題は過ぎた事――だけど、また新たな問題が残っていた。
「…………アリル、貴方はマーギアとしてどうするつもり?」
「…………どういう、こと?」
「言葉通りの意味。貴方はマーギアとしてこの街に来た。違うかしら?」
「……………………」
「無言は肯定と受け取るわね。まぁ、この街は結構マーギアの中じゃ有名ね。だから来た事には文句は言わない。でもこの街や一般人の日常を壊すって言うなら――話は別」
最後だけ強く言い切り、指をトリガーへと掛ける。
「理緒…………それは誰に言ってるの?」
返ってきた返答はおかしな質問だった。意図が分からない。これもアリルの作戦の内?何にしろ警戒しないといけない。
「それはアリル、貴方しか居ないわね」
「…………じゃあ、変える。それは私、それともマーギア、それとも――別の何かに言ってるの?」
意味が分からない――けど、質問をどのアリルにぶつけているか……という事なのだろう。だから私はそのまま――率直に返す。
「今は、マーギアとしての貴方に言ってるわね。もし――貴方がこの街の平穏を壊すと言うなら、信念のまま動いて壊す結果となるなら……今、私はここで貴方を倒す。マーギアとして」
「…………理緒も……そうなんだね」
アリルは俯き何かを呟いた。そして次に顔を上げた瞬間――
「理緒も……要らない」
感情が消えたアリルがそこにいて、同時に十三の魔法武具が動き出した。
「――――っ!!」
咄嗟にトリガーを引く。魔力で出来た弾をアリルに向かって雨の様に降らす。だけどそれは届く事はなかった。アリルの周囲に浮かぶ、細長い円すい型の魔法武具の幾つかから魔力が維持放出されながら、魔力の壁を作り弾を全て弾いた。そして残りの魔法武具が私へ向かって魔力を打ち出してくる。
「………………!!」
アリルへの射撃を止め、魔法武具とその攻撃へと目標を変える。魔法武具から打ち出されたビーム状の魔力攻撃は魔力弾で相殺させる。しかし、空中に浮かび、行動制限の無い魔法武具には何一つとして掠りすらもしない。
「やっぱりそれが……アリルの魔法武具なのね」
「『ヴィーストラ』……私を守ってくれて、見て貰える魔法武具」
「そう」
今の言い方――どちらかと言えばアリルは防御寄りのマーギア。私の能力とは相性が良い――だけど、その魔法武具は十三と数が多く、自由自在に動き回っている。防御主体の相手ならば私の『一直線の弾丸』で壊せば良い。貫けなければ『魔術装填』の一時強化をすれば済む。
だけどどちらも当たらなければ意味が無い。『一直線の弾丸』は狙った場所に真っ直ぐ飛ばし、命中した魔法武具、能力を破壊する。だけど動き回る相手には分が悪い。狙った場所に飛ばす――聞けば、優秀に聞こえるが裏を返せば、狙った場所にしか飛ばせない。だからアリルの魔法武具に命中させるのはかなりの先読みが必要になる。
「要らない……私を、私として見ない人なんて……もう嫌だ、要らない、消えてっ!!」
「くっ……!!」
防御に回っていた魔法武具も攻撃へと移り、十三の砲台が私へと向けられ、魔力の波状攻撃が降り注ぐ。それらを防ぐだけで精一杯で、反撃する暇が無い。
一つ一つの攻撃の威力はかなり低い。現に能力無しの射撃で相殺が出来ている。だけどそれらが嵐の様に波状で飛んでくる為、反撃の隙を見出せなかった。
「守ってくれる……確かにその通りね!!」
攻撃は最大の防御とは言ったものね。防御を固めた所を能力で一気に壊して、勝負を決めようとした算段は一瞬で消え去った。
でも、私が勝つ手段は防御を固めて魔法武具の動きを止めなければいけない。最初、魔力弾を防いだ時の様に、魔力の防御壁を展開させて、そこを狙って魔法武具を破壊する――それしか勝ち目は無い。
そこからはジリ貧だった。アリルは攻撃の雨を降らし続けるが、決定打が無い。私はアリルの攻撃に対して防御と回避を専念せざるを得なく、攻撃が出来ずにいた。暗闇の広場に魔力の雨が交差し続ける。少しでも気を抜けばその雨に打たれて、一瞬の間に勝負を決められる。
(………………)
そうして戦いが一つ疑問が浮かび始めた――『アリルの攻撃はあまりにも正確すぎる』。攻撃一つ一つが正確に私を狙い、防御や回避した先に、先読みしたかのように攻撃が飛んできている。それにアリルも私もまだ能力を一度も使っていない。
つまりアリルには『そういう能力』があるのではないか? だったらそれを確認しながら、揺さぶって行くしかない!
「アリル、貴方はどうしてマーギアとして戦うの!?」
「…………」
「信念の為? 自分の為? それともただ戦いがしたいだけなの!?」
「…………違う――私はただ、見て貰いたいだけっ!!」
ここで初めてアリルが感情を表にして叫んだ。普段大人しいアリルが感情を表にしないから、叫んだ事に驚きは隠せなかった。
「私は……私を見て貰えたなら、それでいい。それ以外何も要らない――でも、もらえない。見て貰えない。みんな、みんな……私を見ようとしない」
「そんなの……伝えないと分からないわよっ!! アリルはどう見て欲しいのよ!?」
「伝えても……分かってくれない! 誰も、誰も私の事なんてっ!!」
アリルが叫ぶに連動するかのように攻撃の雨は激しくなっていく。この時点でアリルの魔法武具はアリル自身の意思操作というのが確定した。
つまりアリル自身を折るか攻撃を与えれば勝ち目はある――だけど、私だって好き好んで戦ってる訳じゃない。アリルのマーギアとしての目的を知るまではまだ決定打を打つ訳にいかない。
「そんなの! 言わないと分かるわけないでしょ!! どうして欲しいのよ、アリルは!?」
「…………私を見て。それだけ――」
前から言っていた『私を見て』。恐らくそれがアリルの信念を作り上げている。でも、見るとはどういうことなの?
「でも……理緒は見てない。だから……消えてっ!!」
「っ…………、『一直線の弾丸』っ!!」
全ての砲台が私という一点に向かって一斉掃射した。防げない、避けられない、相殺できない。本能でそう感じた私は、後ろへ飛び下がり、能力を発動させる。
魔力弾が一直線に一斉掃射の集中点へ飛んで行き、ぶつかり合う。集中された魔力が破壊され、辺りに魔力の波動が広がり、体全体を強風と言う名の衝撃が襲う。
「…………壊された……!?」
今っ!! アリルの意志が揺らぐ今、更に『魔術装填』で強化して、魔法武具へ向かって『一直線の弾丸』の弾を何発も撃つ。両手にある双銃が火を噴き続ける。
リコイルを無視した射撃で双銃と一体化している腕に負担がかかり、精密さは欠けている。だけどリコイルを利用して次へ、また次へと銃口を向けながら、トリガーを引き続ける。
「あっ…………!!」
我に帰った、アリルがそれに対処する。自由に動ける魔法武具でそれを避けるアリルの意志での操作は賜物――でも数瞬の遅れは致命傷だった。十三の内、幾つかが魔力弾に掠り、完全破壊までとは行かずとも、先程とは見て分かるくらい動きが悪くなっていた。
「…………私の破壊と強化を合わせても破壊できないなんて」
マーギアはそれぞれ能力があり、それぞれ突出している。当たればひとたまりも無いのはどのマーギアも同じ。それに対抗するのは己の信念。
信念で相手の能力効果を拮抗させて、無力化、もしくは弱体化させる。それか回避するしかない。故にマーギア同士の戦いは世界と世界のぶつかり合いと呼ぶ。
「…………私の勝ち」
「え…………っ、くぁっ!?」
魔法武具を破壊寸前まで追いやられて、驚きの表情を浮かべていたアリルはそう呟いた。次の瞬間、私の四肢が何かに引っ張られ、固定された。見ればアリルの魔法武具の四つがそれぞれ、魔力を維持放出させ、四肢を魔力で固定させていた。
「…………さっきの、危なかった。破壊と強化は、分が悪い……でも、甘い。私には『空間認識』がある」
「空間認識……!?」
「私の魔法武具……追い詰めたお礼に、教えてあげる。一定範囲の空間を認識する能力――」
そう言うことだったのね……空間を認識していれば魔法武具の遠隔操作、精密な攻撃も最小限に出来て、相手の動きも動作から読めなくは無い。
だからアリルは咄嗟に先読みをして、私の動きを封じる配置へと魔法武具を動かした――私の攻撃を回避しながら。
「っ!!」
固定される四肢が引っ張られ、力が上手く入らなくなり、手から魔法武具である双銃が足元へ零れ落ちる。拘束から逃れようと、魔力で拮抗したり、手足を動かして抵抗したけど、一切動かなかった。
「無駄……魔法武具を使ってでも……拘束は外れない。そして――これで終わり」
アリルがそう言うと、残った九つの魔法武具がアリルの元へ集まる。
「『結束する武器』――」
「なっ…………!?」
アリルが呟くと、光が放たれ、そこには細長い円すい型の魔法武具。だけどその大きさは先程とは桁違いで、部分部分の形が変わっていた。
「魔法武具を、一つにする能力……遠隔出来ないけど――威力は増大」
アリルの魔法武具に膨大な魔力が集まるのが分かる。アリルのもう一つの能力は自分の意志で好きな数だけ魔法武具を一つにする――遠隔操作は出来なくなる代わりに、莫大な攻撃力を得る――どんなマーギアでもあの魔力をまともに受けては無傷ではすまない。
「くっ……! このっ、外れなさいよっ!!」
体全体を動かして拘束から逃れようとする。何度も何度も。私はこんな所で死ねない!死にたくない……!! 私はまだ――終わらせてない!!
「無駄…………理緒、さようなら――」
「あ………………」
無残な一言と共にアリルの魔法武具から魔力攻撃が放たれる。防御も無い無防備な状態であれ程の大きな攻撃を受けてしまえば――命の保障は無かった。
ただ何も考えられず、ただボーっと魔力攻撃が迫るのを見ていた。死ぬ寸前――走馬灯が走るというけれど、嘘だ。ただ、何も考えられなかった――そうして、思考が完全に止まる寸前。
「アリル、ダメっ!! 理緒っ!!」
「…………え!?」
「あ…………」
信じたくなかった。ありえなかった。要る筈の無い桜渚の声が聞こえたと思えば、私に背中を向けて両手を広げて立ち塞がったから。
それを理解した瞬間、体の拘束が解かれる。桜渚が飛び出しながら拘束を解いたのか、アリルの動揺だったのかは分からない。だけどアリルの魔法攻撃は桜渚に命中し――私に当たる事は無かったのが事実だった。
「さ、な…………桜渚っ!!」
魔力の衝撃で何度も地を跳ねて吹き飛ばされた体を起こし名を呼ぶ。だけど、返事は返ってこない。衝撃が消えたそこにも桜渚の姿は無かった。
「なんで…………桜渚……あ……なん、でよ……」
桜渚が死んだ? 居なくなった? そんなの、そんなの嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 守るって誓ったのに!! 言ったのに……私のせいで桜渚が? そんな……そんなのって……無いよ。
「桜渚あああああああああああ!!」
叫んでも桜渚の声は聞こえない、『帰ってこない』。ただ静寂だけがそこに残る。
「あ…………私……桜渚……」
違った。一つだけ小さな呟きがこぼれていた。その元は呆然としていたアリルだった。
「私……桜渚、友達……大切で、優しくしてくれた……殺し……あ……」
アリルも私と同じ様にショックを受けていた。桜渚がどれほど、私達の中心に居たのか、今になって痛い程分かってしまった。だから――行き着く先は一つしかなかった。
「アリルっ!! よくも……よくも桜渚をっ!!」
魔力の衝撃で共に吹き飛ばされたのは近くに落ちていた『光と闇の双銃』を拾い上げてアリルに向かってトリガーを引く。ボロボロの体で照準が上手く合わず、弾はアリルの頬を掠って行った。
「…………貴方が、理緒が……理緒が居なければ桜渚もっ!!」
アリルも激昂した。やり場のない感情。誰も悪くは無い――だからこそ、目の前に居た相手に感情をぶつける。
それは怒り、悲しみ、憎しみ――様々な物が混ざり合っていてよく分からない。ただ一つ――言えるのは『許さない』。
「『魔術装填』!!」
「『結束する武器』――!!」
お互いの全力の強化を行い、共に走って近づいてゆく。そしてある程度まで近づいたら同時に魔法武具から魔力を撃ち出した。
共に乗せるのは『許さない』という感情。射線上、運が悪いのか良かったのか、そのどちらもが直接命中する軌跡を描いていた。ただ防御というのは考えない。お互いの魔力攻撃が交差する瞬間――当たる筈のない魔力攻撃が爆発した。その衝撃で私もアリルも吹き飛ばされた。
「…………!?」
爆発の場所に居たのは一人の男で、白く輝く剣を手に立っていた。その姿は凛々しく、しかし怒りに満ちて私とアリルを見つめていた――。




