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WeltIdea-創造の魔術師-  作者: 水無月 汐璃
第二章『世界の裏』
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第一章『少女との邂逅』

小説新人賞募集した小説で、未熟故に一次落選してしまった小説です。募集用なので続きを書く予定は今の所ございません。


もし宜しければですが、意見や感想を貰えるとありがたいです。

(落選理由は恐らく中途半端な結末、文字の詰めすぎ、今の流れに合っていない、面白く無い(読み辛い)と自分では考えています)

 世界というのはその人にとっては1つ、同じ世界というのは存在しない。誰もが同じ世界というのはあり得ない。その人の世界にはその人の価値観というものがある。それは好み、体質、人間関係と様々な物があるが、最終的には自らの意思、意見が世界を作り上げる。

 世界は自分にとってしか見えない1つの存在。言葉により、自他の認識の違いを知る事により、自分とは違う世界を知ることになる。だから人は世界で生きる――自身の信念と意思を礎として、戦い抜く。

 自らの信念の元、世界の中で戦い抜く人々をこう呼ぶ――『創造の魔術師』と――…………。

季節は初夏――明るく彩られた花びらは散り、深緑の世界を作り上げる時期。体感温度も少しずつ過ごし辛くなってきており、決して快適とは言えない今、影という場所はありがたいだろう。人の目に付きづらい場所なら尚更。つまり学校という場所で言うなら体育館裏や校舎裏――そこに立つ1人の青年。彼は頬を紅潮させながらその場で立つ。自信が無さそうな雰囲気を出してはいるが、その眼は真っ直ぐ見据えていた。そうしてから恐らく数分、青年は意を決し言葉を紡ぐ――

「あ、あの……お、俺と付き合ってください!!」

 『私』が直面しているのは告白というものだった。今の時期、夏も近いからこういう事が多くなる。周りの子も何人か告白が成功したり、されたりでカップルになっているのを何人も知っている。

「…………気持ちは嬉しいけど、ごめんね」

 私に好意を抱いてくれるのは純粋に嬉しい。だけど私自身、そういう関係になりたいとは思わない。そもそもなぜか男の子に恋仲としての好意を向けられる事が苦手。むしろ同姓、女の子からそういう好意を向けられる事が嬉しいと思ってしまっている。

 勿論私自身、そういう性癖は無い――……と信じたい。自分自身の事なのにいまいちハッキリと言えないのはまだその可能性が捨てきれてないわけで……。

「そ……そうですか。その、いきなり呼び出してすみませんでした」

「うぅん、気にしないで」

 目の前の子は見て分かるほど落ち込んでいる。経験上余計なフォローをしてしまえば逆に傷つけることになるので、一言だけ返す。

「それじゃあ、私、行くね」

「あ、は……はい」

 そう一言だけ残して私はその場を後にする――…………。

「あ、おかえり桜渚―。何があった――って聞くまでも無いか」

 校舎裏からまだお昼休みで賑わう教室へ帰ってきて声を掛けてくれたのは2つのサイドテールを揺らし、それを結ぶリボンが特徴的で、夏の向日葵の様な笑顔をしている神谷 理緒。

 昔からの幼馴染で、私の親友。私とは正反対で凹凸コンビとしてそれなりに有名……らしい。理緒というより、周りの噂だから実際は分からないけど。

「それでそれで、こんどはどんな子だった?」

 興味津々、聞かせて欲しいと言わんばかりの調子で聞いてくる。勿論それを指すのはさっきの校舎裏の出来事。というよりそれ以外に思いつかない。

「別に……普通の大人しそうな子だったよ」

「ふーん……で、返事は――」

「断ったよ。というか理緒も分かって聞いてるでしょ」

「まぁまぁ、気にしないの。それにしても今月に入って何回目なの?」

「…………十回は超えてるかな」

 途中から数えるのが面倒になったくらいだしね。

「はー……それだけモテてるのにどうして付き合わないのよ」

 そう言われても……私自信そういうつもり無いのに。そもそも男の子と付き合うという事自体……あまり考えたくない。むしろ付き合えるなら理緒と――って私は何考えてるのよ!!理緒とは同姓!!

「ん?顔赤くしてどうしたの?もしかして好きな人が居るから付き合わないの!?」

 身を乗り出して理緒が眼を輝かせながら突っ込んでくる。その言葉に周囲が一瞬静まったり、騒いだり、大きな音が立ったのは偶然のはず。

「べ、別に居ないよ……そういうの。ただ……よく分からないというか……」

 嘘は言ってない。私自身よく分かってないのは事実。私はごく普通の女の子――のはずと思う。べ、別に性癖で百合という訳ではないと思いたい!というか実際、そういう系の本や小説を読んでも何とも思わないから違うはず。違うはずなの!!

「ふーん、でもその顔は何か怪しいなー」

「怪しくないよ…………」

「でもさー、桜渚はスタイルも良いし、身長は低いし、髪は長い。それで優しいから人気があるんだよ。それなのに誰とも付き合わないって事はそういう事じゃないの?」

 私のスタイルや容姿は関係無いと思う……理緒曰く彼女にしたいランキング(こんなのあったことすら知らなかった)TOP5に入ってるらしいけど、それと容姿スタイル性格とは関係無いと思うんだけどな――と言っても無駄なので黙っておく。

「違うって。もう……この話は終わり!!」

 無理やりに話題を終了させてから転換させる。理緒はつまらなさそうな表情をしていたが、話を続けていればどこまでも掘られそうで面倒になるのは見えている。というか今まで何度もあったし。

「2人とも毎日毎日飽きないね」

「あ、裕也。でも気になるでしょ?」

「それは……まぁ、そうだけどあまりしつこく聞くのもどうかと思うけどね」

 どこにでも居そうな――と言っては失礼だけど、目の前の好青年、遠山 裕也。

 私、理緒と同じクラスで人当たりや口調も柔らかくノリも良く、私と違い交友関係が広い。私達とは今年、2年生になった時のクラス替えで知り合って、気づけばいつもこの3人で居る事になっていた。理緒が場の雰囲気を盛り上げて、暴走。遠山君がそれを止めつつ苦労する。私は常に(なぜか)弄られる役……いつも通りの流れだ。

「で、実際どうなのよ?桜渚」

「だから……居ないって」

「…………大変だね、桜渚も」

 そう思うなら止めてよ……私1人じゃ理緒制御出来ないのよ。とは言っても裕也にも限界があるし……理緒を完全に止められる人って居るのかなぁ?

「そう言えば……遠山君はどこへ言ってたの?」

「ん、ちょっと大会の事で呼び出し食らってたんだ」

「あ、もうそんな時期なんだ。今年もいけそうなの?」

「さぁね。勝負は時の運も交じるから何とも言えないよ」

 細身の体で大人しい青年に見える遠山君。でもその実態は剣道で全国大会出場常連という剣道の遥か上の道を歩いている。というより剣技に関する能力と知識は私が知る中では突出している。

「今年も応援しにいくから、頑張ってね」

「ありがとう。期待に応える様にするよ」

 周囲から何やら不穏な空気と視線が裕也に向いている気がするけど……気のせいだよね?というかブツブツと呟きがあちこちから聞こえるの怖いよ。

「はぁ……桜渚は天然だね」

「なんで!?」

 どうしてそこで天然という単語が出てきたの!? 私、天然じゃないよ! ドジもしないし……し、しないと思う! ち、ちょっとは失敗とかするかもしれないけど決して天然と言われる程のドジはしてないはず。

「無自覚と来ましたよ。男の裕也としてはどう思う?」

「僕は別に……何とも言えないって」

 ふ、二人して理解してる様に会話してるって事は私だけ分かってない!?

「ど、どういう事……?」

「あーもう、桜渚は可愛いわね!!」

「わぁっ、り、理緒ーー!?」

 いきなり抱きつかれて頭をワシャワシャとされる。少しドキドキしているのは気のせいでもなく……わ、私……本当に性癖に百合なの!?もしかして理緒が好きになってるの!?と色々浮かんだが深く考えると底なし沼に嵌りそうだったから、頭の隅へと放り投げた――…………。

「…………遅くなっちゃったな」

 周囲は日が落ちて薄暗くなっている。初夏とは言え、夏本番に比べれば日が落ちる時間は早い。先生からいきなり頼まれた用事を済まして学校を出たらこんな時間になってしまった。薄暗い町って何かが出てきそうで怖い……例えばいきなり人が飛び出してきたりとか。

「って、何考えてるの……」

 変なこと考えて実際にそうなったら洒落にならないよ。というか飛び出して来たら本当に困る。ニュースで夕暮れ以降に人が襲われたり居なくなったって話聞いてるし、物騒だから早く家に帰らないと。帰り道を速足で歩き続ける――だけど何故か今は『この薄暗い闇に掴まれそう』な気がして恐怖を覚えていた。多分、変に想像したからだよね?

「え?」

 そう考えて顔を上げた瞬間、信じられない物を見た。私は確かに人気の多い道、普段通りの通学路を辿りながら帰っていたはずなのに……今いる場所はその道から少し離れた場所にある公園だった。普段は親子や子供で賑わうこの公園も日が落ちる頃には人気の無い食らい場所となる。一定距離に街灯が公園を照らし出してはいるが、逆に不気味さが増加している様に思える。

「…………」

 それよりもどうして私はこんな場所に居るの?いや、それ以前に『どの道を通ってこの場所へ来た』のだろうか? 

 幾ら考えても分からない。いや、正確には思い出せない。そもそも覚えているのかどうかも怪しい。ともかくここから離れないと――本能でそう感じていた。ここに居ては危険、ここに居ては何もかもが変わってしまう。

「っ…………!!」

 頭の中で理解した瞬間、私は公園の外へ向かって全力で走りだす。ここから出ないと、抜けないと――取り返しがつかなくなる。それは本能と同時に予感でもあった。だから早く逃げないと……そう強く思い脚を速めた、次の瞬間――目の前に大きな影が飛び出してきた。

「きゃっ……!!」

 咄嗟に脚を止める。だが速く走っていた時の運動エネルギーは殺しきれず、私はバランスを崩してそのまま倒れこむ。体を起こした瞬間、ありえない現象に驚愕する。制服のシャツの上に羽織っていた上着が切れていた。転んだだけではこうはなりえない。

 だったらどうして……辿りつく答えは1つしかない――『飛び出してきた影が原因』という答えしか。

 あまりの展開の続きに頭が混乱する。どうすればいい?どうしたらいいの?でも混乱するだけでは現状は変わらない。だから人気が多い場所へ逃げなければ――そう強く思いこみ、混乱する頭を無理やりに落ち着かせる。

(落ち着いて……落ち着いて行動しないと)

 まずはこの公園から逃げ出して、人気のある場所、もしくは交番に駆け込んで助けを求めないと。

 そう思って立ち上がった時、その考えは一気に拡散して消失した。何故なら私は影を見てしまったから。

「…………っ!?」

 人影の様に見えたその姿は確かに人だった。だが、月光で薄く照らされるその姿は人と呼べるかどうか怪しい姿だった。獣の様な顔、パーツが所々おかしくなっている身体――単純に例えるなら半獣のゾンビだ。

 その片手に抱えられているのは薄暗い月光のみが存在する暗闇でも輝く肩までサラリと伸びた髪、幼い顔立ちと身体――だけどその顔色は蒼白。私と同い年くらいの女の子が影に抱えられていた。

「…………アァ……ア……!」

 この半獣人の狙いは私じゃなかった。狙いは脇に抱える今にも消えてしまいそうな女の子――私は偶然その場で出会ってしまった。だから本来なら狙われる道理も無い。だけど私は半獣人の目の前に出てしまって、補足されてしまった。

 本能で理解する――『逃げられない』と。

 いや、もう影の姿を捉えてしまった時点でこの選択肢はとうに消えていた。女の子が危ない目にあってるのに、そのまま何もせずに逃げれば絶対に後悔する。だから出来る事は最後まで諦めずにやる。どんな時でも誰かが危険な目に合っている、傷つこうとしているのに、見過ごせる筈が無い。だから絶対に諦めずに行動する――それが私の『信念』だから。

(でも……どうすれば……?)

 半獣人は今にでも襲い掛かって来る。むしろ出会い頭に遭遇してすぐに襲われなかった事が奇跡に近いと思う。でも、ここからはそうはいかない。今、この瞬間にでも襲われてもおかしくない。

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

「…………っ!!」

 半獣人が叫び、飛びかかってきた。抱えていた女の子は無造作に放り投げだされた。怖い、足も身体も震えて上手く動かすこともできない。正直な所、夢だと思いたい。今すぐに逃げ出したい。だけど、私は歯を食いしばって足を動かし、地を蹴って駆ける。

 半獣人の動きは真っ直ぐに飛び掛かりながら、もう人とは言えない鋭利に輝く長い爪を持つ手を振り下ろしてきている。だからこそ、回避するのは簡単。真っ直ぐな程読みやすい物はない。

(遠山君の知識が役に立つなんて……感謝しなきゃ)

 遠山君は誰よりも剣の知識と腕がある。剣道――それは一種の戦い。遠山君から教えられた……と言うには怪しいけど、言っていた言葉――

『真っ直ぐな剣筋は読みやすいからね。すぐに動いて避ければ、そこから反撃も簡単なんだよ。真っ直ぐに竹刀を振ってきても、突いてきても、ちょっと身体をズラしつつ、回避して次の行動に移れるからね』

 その言葉通り、半獣人の攻撃はただの女子学生である私でも簡単に回避出来て、そのままの流れで次の行動に移れた。空高く投げられた女の子の元へ全力で地を蹴り、地面に落ちるギリギリの所でキャッチに成功する。

 両手の中にある女の子は驚くくらいに軽く、儚く――綺麗、こんな状況なのに純粋にそう思えた。

「…………ん……」

 よかった……息はある。生きていて本当に良かった。だけどそれは今現時点での話。半獣人に補足されている私達はこの先どうなるかは分からない。女の子を抱えながら逃げて助けを求めれば解決――それは分かっていた。でもさっきから『逃げられない』と本能で理解している。人がいる場所まではそれなりに距離があるから、助けも求められない。つまり、『詰み』だ。

「……………………」

 うぅん、1つだけまだ残ってる。『戦う』という選択肢が。だけど人じゃない半獣人を相手に私の様なただの人が戦って勝てる筈もない。遠山君ならもしかしたらだけど……今は居ない。それに仮に私が戦えたとしてもこの子を守りながら戦うのは難しい。

 だけど――守りたい。まだ立ち上がれるから諦めない。この子の繋がりを断ち切りたくない――!!

『だったら戦おう。君には力がある』

 強くそう願った瞬間、ひと際大きく鼓動が跳ねる。それと同時に頭に声が響いた。それは力強い男の子声。だけど優しく包み込むような暖かさがある――そして私は『懐かしい』と感じた。

『守りたいなら、力で守り抜く――そうだろ?』

 その言葉は私の中の何かを熱くさせていく。今までずっと眠っていて冷え切った何かを溶かしていくように――そして願う……守りたい、守るための力が欲しいと

「…………え!?」

 右の手の中には薄暗いこの闇の中、青く光り輝くナイフが自然とそこに現われていた。重さを全く感じない、だけど質量がしっかりと存在していた。女の子でも扱える手軽な武器を考えていた。それが手の中にありえない姿で存在している…………考えるのは後からでも遅くない。今はこれで――あの子を守ってみせる!!

「…………アアアアアアアアアアァァッ!!」

 攻撃を外した半獣人がこちらへ振り向き再度同じように飛び掛かってくる。半獣人……多分思考とかは獣と同じと思う。でなければさっきと同じ動きを繰り返す筈がない。だけど逆を言うなら何をするかも分からない。つまり予測不可――だったらここで行動不能にさせないと!

「…………やぁっ!!」

 直線的な動きを身体を低めて僅かな動きで半獣人に向かいながら回避し、そのままの流れで右手の中に存在するナイフを思いっきり振るう。その先は半獣人の足の脛――どんな人だろうと足の脛や足首は鍛えられない。鍛えられても他の場所に比べれば圧倒的に成長度合が無い。ナイフの剣筋は半獣人の足の脛を捉える。驚くほどに抵抗は無く、まるで豆腐を斬った様な感じだった。

 だけど、身体を斬る生々しい感触は手に残っている。誰かを刃物で斬った――その現実は激しい嫌悪感と嘔吐感を私に与えた。

「アアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 半獣人は足の脛を斬られて、飛び掛かった運動速度もあり前のめりに倒れこみ、地に伏せながら足を抑えていた。

 正直、どんな存在だろうとそこに存在しているなら生きている。だから傷つくのは、それがどんな者であろうと見たくはない。守るために戦って傷つける……そんなの意味が無いから。

「アアアアアアアァ……アアァァァァアアアアアアーーーーーーー!!」

 半獣人が狂ったように叫びを上げ、再度こちらへと突っ込んでくる。今までよりも早く、だけど大雑把。だけど殺意と気迫だけは桁違いになっている。傷つけたくない…………だけどこの子を守る為には――動きを封じるだけじゃダメだ。しっかりと青く光る透き通ったナイフの柄を握る。それは私の決意と迷いを断ち切る為でもある。真っ直ぐと殺意の塊が突っ込んでくる――

『剣というか他でも同じだけど、自分より強かったり大きい相手と戦う時はさ、焦らずに冷静に相手の動きを見るんだ。そうしたらある程度はこちらにアドバンテージが取れるからね』

 遠山君の言葉が頭を反復する。冷静に、相手の動きを見据える――そしてそれに合わすように反撃をする。勢いよく飛び掛かってくる半獣人の動きに合わせて、ナイフを真っ直ぐと脇腹へと滑り込ませる。勢いがある半獣人の体は運動エネルギーの流れるままにナイフへと突っ込み切り裂かれる。

「アアアアアアアアアアアアアッ…………!!」

 ナイフは自分が思っていた以上に半獣人を脇腹の肉を深く裂き、内臓まで届いたのだろうか、大量の血が噴き出す。そして脇腹を押えながら半獣人は断末魔であろう叫びを上げながらその場に倒れこむ。まだ生きてはいると思うけど、助かりはしないはず。

 …………ごめんなさい。心の中でそう謝る。どんな理由があろうと生を奪ったのは私――謝って済む話ではない。

「……………………」

 辺りには再び静寂が舞い戻る。先ほどとは変わらず薄暗い月光だけが差し込む人気のない公園のままだった。ただ違うのはそこには人では無い者が倒れ、周辺には赤い水たまり。少し離れた場所で気を失っている女の子が倒れている。そして私自身も……普通ではあり得ない物が右手に存在し、命を奪った罪悪感に襲われている。

「…………え!?」

 目を閉じて、様々な感情が渦巻き、迷い、色々考えていた。ふと眼を開けると半獣人は今まさに光となって消えていく寸前だった。驚くのもつかの間で、次の瞬間にはその場には何も残っていなかった。血溜まりも、半獣人も。そして右手にあったはずの青く光り輝くナイフも。

その場には倒れこむ女の子と、私だけが残された。

「…………どういうことなの」

 こんなの、普通じゃない。一体何がどうなってるのよ……!?起こった事も、私も何もかも普通じゃない…………私は一体何なの?どうしてあんな化け物と戦えたの?幾ら考えても答えはでず、底無し沼に嵌まっていく感じがしている。

「………………ん」

「あ………………」

 そうだ……悩む前にこの子が居るんだ。目を覚ます様子はないし……どうしよう。また同じ目に合う可能性もあるし、ここから離れることを優先しないと。となると、この子は…………

「背負って連れていくしかない……よね」

 もちろん私の家に。家にまで帰って再度襲われることを考えると怖いが、それを考えてはキリが無くなる。ともかく落ち着く場所に帰らないと。

 気絶してる女の子を背負い、薄暗い公園を後にする。だけど私はまだ知らなかった。今日、この場所でこの子と出会い、普通じゃない力に目覚めて、人じゃない者と戦ったことは全ての始まりに過ぎなかった事を

――…………。

 色々な事が起こり、精神的に疲れている重い体を引きずりながらようやく安心できる我が家へ帰ってきた。だけど家には人の気は無く、寂しげに泣いている。暗がりに包まれた家の中をスイッチ一つで暗がりを明るさへと帰る。

 一見普通のどこにでもある洋風の一軒家、ほとんど白い家具や壁で作られるこの家は明るさがあれば、先ほどの寂しさも消えてしまう。人気の無い寂しさ……もうこの家に一人で住み始めてから何年も経つ。私が中学生の頃、両親は旅先で帰らぬ人となった。それからは親戚の人達からお世話や気を使ってくれたが、全て柔らかく拒否して、私は一人でこの家に残った。ここは私の思い出の場所、街だから、離れたくなかったから。

「…………よいしょっと」

 背負い続けていた女の子を、自室のベッドへと寝かす。女の子の呼吸は安定しているように見えるから、後は目を覚ますだけと思うんだけど…………。と思っても私は医者でも何でもない。目を覚ます、安定しているかは実際のところ分からない。いざとなれば病院にも連れて行く必要があるかな。

 それにしても半時間近く背負っていたけど全く腕も体も肉体的に疲れていない。この子……軽すぎる。ここに居るけど、居ない――言うなれば天使の羽根?

(………………それにしても)

 さっきの公園での出来事はなんだったのだろう? 夢――というわけでもないよね。もしかして最近ニュースで言っていた夕暮れ時に人が襲われたり、行方不明になってる原因……? でもそれならもっと大事になっているはず――姿がばれていればの話だけど。

 さっきの『アレ』は影だけ見るなら人だ。しっかりと見ないと正体は分からない……実際私もそうだったから。でも仮にそうだとして、『どうしてあんな人外みたいな存在がこの街に?』他所から流れてきた?だったらその他所はどこ? まさかこの街で生まれた?でもそれなら噂程度に耳に入るはず…………幾ら考えても堂々巡りね。

「それから……力――か」

 あの時、声が聞こえた。私は守る為の力――女の子でも扱えるような何か、そう軽くて武器になる物を思っていた。そうしたら気づけば右手には青く光り輝くナイフ――あれはこの世の物じゃない……だって青光りしている上、透き通っていた。

「……………………でない」

 確認しようと思い、あの時と同じく強く頭に描いたが、右手にも左手にも変化は無かった。あの時はある意味命の危機だった。条件として危機感とか思いの強さが関係あるのかな……?

「…………んん……?」

 そうこう考えているとベッドで眠っていた女の子から意識の籠った声が零れた。

「えっと、大丈夫?私が分かるかな?」

「…………私……は?」

 どう答えるべきなのか――正直言うのか誤魔化すのか。だからと言って嘘はつきたくなかった。

「貴方は危ない目に合いかけて、偶然私が助けたのよ」

 出た言葉はこれだった。完全に嘘……というわけでもないから大丈夫のはず――って誰に言い訳してるんだろう……。

「………………」

「えっと、貴方の名前は?」

「…………リルフィリア」

 見た目からそうだとは思ってたけどやっぱり、外国の人だったんだ。時々思うけど外国の人はなんでこんなに綺麗なんだろう……ってそうじゃないって!!

「んー、長いからリルフィって呼ぶね。それでリルフィは……意識がある前の事、覚えてる?」

「…………分からない」

分からない……てことはいきなり何かされて覚えていない、もしくは強い衝撃で忘れたって事なのかな?だけどこの考えは次に紡がれる言葉によって砕け散った。

「…………名前、以外……思いだせない」

 …………………………え?それってあれ?記憶喪失――!?こ、こういう場合って病院の連れていけばいいの?でも記憶喪失ってそう簡単に治る物じゃないし、そもそもリルフィの保険証とか身分証明書とかないし!?ギリギリの所で声に出さずに済んで、勿論表情にも出していないけど、内面はパニック状態だった。

「………………でも、やっと会えた――『ナツユキ』」

「え…………?」

 そう呟いたと思えば、リルフィはベッドに腰掛けて傍にいた私に抱きついてきた。それはまるで迷子になった子供が、好きな子にやっと会えた――矛盾してるけどそんな感じ。

「え、え、え……あ、の!?」

「……………………すぅ……」

 何が起こったかのか訳の分からない状況に付いていけない私を置いてけぼりにして、リルフィは胸の中で安らかな顔して眠っていた。

 パニック続きの中で一つだけ、私の中にストンと落ちる言葉があった――『ナツユキ』。それはどこか懐かしく、馴染みがあった様な気がして――大切な物と思えたから。

(…………それより、この状況どうしよう)

 リルフィはしっかりと私の制服のシャツを握って眠っている。ちょっとやそっとじゃ起きなさそうなのは目に見えていた。

「…………一緒に寝るしかないよね」

制服のままお風呂に入らないで寝るなんて……うぅ……朝一で入ってアイロン掛けしなきゃ――…………。

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