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婚約破棄されたので、もう貴方の秘密は守りません。王国最大の情報組織『夜鴉』の首領は私でした

作者: 百香スフレ
掲載日:2026/06/27

「イリス・アークライト。私は君との婚約を破棄する」


 王立学園の卒業記念パーティー。


 大勢の貴族が見守る中、王太子であるエドガー殿下は、静かな声でそう告げた。


 怒鳴るわけでもなく、嘲笑うわけでもない。

 ただ、決定事項を告げるような声だった。


「⋯⋯理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「隣国との関係強化のため、私は隣国の第二王女殿下と婚姻を結ぶことになった。これは王国にとって必要な判断だ」

「そうですか」


 私はそう答えながら、エドガー殿下の瞳を見る。


 私の右目には、人の本質を見る魔眼が宿っている。

 その人間が抱える感情、本音、隠したいもの。そういったものが、色や形のように見える。これは殿下にも言っていない、秘密の力だ。


 エドガー殿下の中には、まだ私への情があった。後悔や痛みもある。⋯⋯けれど、それ以上に強いものがあった。——この国だ。


 この人はもう、一人の男ではなく、王になるための器として生きている。


 昔は違った。

 初めて会った頃のエドガー殿下は、聡明で、優しくて、誰よりも国を愛する少年だった。

 私はその本質を見て、この人を支えたいと思った。


 けれど、いつからだろう。

 国を愛する心は、少しずつ別のものへ変わっていった。


 邪魔な貴族を粛清し、都合の良い貴族には賄賂を渡す。

 あの手この手で相手国の弱みを握り、間者の疑いがある者は、微かな疑いであっても処刑した。


 民を守るためなら、多少の犠牲は仕方ない。

 王国のためなら、誰かを切り捨てても構わない。


 そうしてエドガー殿下は、少しずつ変わっていった。⋯⋯私はそれを知っていた。この目で、殿下の全てが見えていた。


 それでも、見ないふりをしていた。——愛していたから。


「イリス。君には悪いと思っている」

「はい」

「だが、これが王国のためだ」

「はい」

「理解してくれるな?」


 私は少しだけ笑った。


「はい。理解しております」


 きっと、エドガー殿下は私が泣くと思っていたのだろう。

 怒ると思っていたのかもしれない。

 けれど、私は泣かなかった。怒鳴りもしなかった。


 ただ、静かに膝を折り、礼をする。


「これまでありがとうございました。エドガー殿下」

「⋯⋯イリス」

「どうか、良き王になられますよう」


 それだけ告げて、私は会場を後にした。


 背後で、エドガー殿下が何か言いかけた気配があった。


 けれど私は振り返らなかった。————もう、見て見ぬふりは出来なかったから。



 屋敷に戻ると、一人の青年が玄関で待っていた。


 黒髪に黒い瞳。


 整った顔立ちだが、笑っていないと少し冷たい印象を受ける青年。


 彼は私を見るなり、片膝をついた。


「お帰りなさいませ、イリス様」

「ただいま、レイ」

「会場でのことは聞いております」

「早いわね」

「⋯⋯夜鴉(よがらす)ですので」


 彼の名はレイヴン。


 私だけは、昔からレイと呼んでいる。

 かつて貧民街で倒れていた孤児だった彼を拾ったのは、私が十歳の頃だった。


 皆は汚い子供だと言い、危険だと言い、助ける価値など無いと言った。


 けれど私の魔眼には見えていた。

 憎しみ、怒り、飢え。——そして、その奥にある異様なほど澄んだ才覚。


 この子はきっと、誰よりも遠くを見る。そう思った。


 それから数年後、レイは王都の裏側に情報網を作り始めた。


 最初は小さなものだった。


 使用人同士の噂、商人の帳簿、酒場での会話、貴族の密会。

 それらを集め、繋ぎ、売り、利用する。

 気が付けば、それは王国最大の情報組織になっていた。


 その名は、夜鴉。——表向きの首領は私。実際に運営しているのはレイ。

 そんな夜鴉は、レイによって私のために作られた組織だった。


「命令を」


 レイが静かに言った。


「何の?」

「あの男を潰します」

「駄目よ」

「⋯⋯何故です」

「まだ駄目」


 私がそう言うと、レイは不満そうに眉を寄せた。


 珍しい表情だ。

 普段は私の前でも感情を抑えているのに、エドガー殿下の話になるとすぐこれである。


「レイ。顔が怖いわ」

「申し訳ございません。イリス様の悲しげな顔を見たら、あの男への殺意が溢れ、漏れました」

「漏らさないで」

「努力します」


 努力ではなく止めてほしい。

 そう思ったが、今言っても無駄だろう。


 私は応接室へ向かい、椅子に腰掛けた。


 レイは当然のように紅茶を用意し、私の向かいではなく、少し後ろに立つ。


「座りなさい」

「私は使用人ですので」

「夜鴉の副首領でもあるでしょう?」

「イリス様の前では使用人です」

「⋯⋯頑固ね」

「貴女に拾われた日から変わっておりません」


 レイはさらりとそう言う。


 まったく⋯⋯昔からこうだ。


 私が拾った小さな少年は、いつの間にか王国の影を掌握するほどの男になった。


 それでも彼は、私の前ではずっとレイのままだった。


「エドガー殿下は、隣国の第二王女と婚姻を結ぶそうよ」

「存じております」

「⋯⋯さすが夜鴉ね。本当にどこまで知ってるのかしら⋯⋯」

「それはもう、この国の全てですとも。⋯⋯さて、その第二王女との婚姻の件ですが、調査は終わっています」


 レイが一枚の書類を差し出した。


 私はそれを受け取り、目を通す。——隣国との婚姻、共同軍事演習。他には新たな通商条約や、辺境地域への駐留。

 一見すれば、隣国との関係を深めるための政策に見える。⋯⋯けれど違う。


 これは同盟ではない。将来、隣国を呑み込むための布石だ。


「⋯⋯ここまで進めていたのね」

「はい」

「止められる?」

「夜鴉を使えば容易です」


 レイは即答した。


「では、これまで隠してきた情報は?」

「⋯⋯」

「良いわ。正直に話しなさい。私には嘘は通じませんよ」

「⋯⋯はい。全て保管しております」


 分かっていた。私には魔眼があるから。

 私が捨てるよう伝えた情報を、夜鴉は情報を捨てていなかった。エドガー殿下の不祥事や、違法な工作、政敵を潰すために行った裏取引など。


 全部、私が情報の抹消を命じていた。⋯⋯私はずっと、エドガー殿下に不利な情報を夜鴉だけが握り、それを私自身で揉み消すことで殿下を守ってきたつもりだった。だけどレイは、今日のような日が来ることを予想し、私の命令を無視して保管してきたのだろう。


「イリス様。命令を無視したこと、贖罪のしようもございません。首を落とせと言われれば、すぐにでも私の首を差し出します」

「⋯⋯それを本心で言う貴方が偶に怖いわ。そんな事しないわ。むしろ、私のためにしてくれて嬉しい。ありがとう」


 久しぶりにレイの頭を撫でると、レイは恥ずかしそうに顔を赤らめて身を捩った。


 ⋯⋯思えば、情報の揉み消し以外にも、私は沢山エドガー殿下のために働いていたな。


 彼が酒場で貴族子息と揉めた時は、相手方に示談金を払った。

 彼が不正な資金移動に手を染めた時は、帳簿を整えた。

 彼が外交交渉のために相手国の弱みを握った時は、その情報元を守った。

 彼が暗殺されかけた時は、夜鴉が犯人を先に始末した。


 全部、エドガー殿下のためだった。

 愛していたから。あの人が良き王になると信じていたから。


 だけど——いや、だから——。


「イリス様」

「何?」

「貴女は、与えすぎました」


 レイの声は、静かな声だった。

 でも、そこには怒りがあった。


「エドガー殿下は、ご自身が優秀だから問題が消えていたと思っているのでしょう。ご自身が王に相応しいから、周囲が上手く回っていたと思っているのでしょう」

「そうね」

「違います」

「分かっているわ」

「なら————」


 レイの声が少しだけ低くなる。


「もう、守る必要はありません」


 私は書類に視線を落とした。


 そこには、エドガー殿下が進めていた計画が記されている。


 国を守るため、王国を大きくするため、未来の争いを未然に防ぐため。

 そのために、邪魔な貴族を粛清し、隣国に内通者を送り込み、都合の悪い商会を潰し、必要なら冤罪すら作る。


 エドガー殿下は、本気で王国のためだと思っている。


 魔眼で見なくても分かる。でも、魔眼で見ればもっとよく分かる。


 彼はもう、止まれない。

 このまま進めば、いずれ王国そのものが変わってしまう。


 民を守るために民を監視し、平和のために戦争を起こし、王国のために人を殺す。

 そんな国になってしまう。


「レイ」

「はい」

「私ね⋯⋯あの人を愛していたの」

「知っています」

「今も、少しだけ残っているわ」

「⋯⋯知っています」

「だから、これは復讐ではないわ」


 私は顔を上げた。


「止めるの」


 レイの目が、ほんの少しだけ細められる。

 嬉しそうにも、悲しそうにも見えた。


「命令を」


 私は少しだけ目を閉じる。


 ——エドガー殿下の笑顔を思い出す。まだ少年だった頃。

 誰よりも真っ直ぐに、王国の未来を語っていたあの人。


 あの人を支えたいと思った。

 隣に立ちたいと思った。


 けれど、もうその未来は無い。


「これまで隠していた情報を、全て公開して」

「全て、ですか?」

「ええ、残さず——全てよ」

「——承知しました」


 レイは深く頭を下げる。


 その口元が、わずかに笑っていた。


 まったく⋯⋯。本当に、エドガー殿下が嫌いなのね。

 そう思ったが、口には出さなかった。



 翌朝。

 王都は揺れた。


 最初に出たのは、一枚の号外だった。

 王太子エドガー殿下による不正資金の流用疑惑。


 それだけなら、まだ揉み消せただろう。

 しかし昼には、関係者の証言が、夕方には帳簿の写しが。そして夜には、隣国貴族との密会記録が出た。


 翌日。

 政敵を失脚させるために証言を操作した証拠が出た。


 その翌日。

 国境の軍事行動を正当化するため、故意に小規模な衝突を黙認していた事実が出た。


 さらにその翌日。

 隣国第二王女との婚姻が、平和のためではなく、将来的な併合計画の一部だったことが暴露された。


 王都は混乱した。


 貴族たちはざわめき、商人たちは取り引きを止め、隣国の使節団は王宮へ抗議した。


 けれど、誰も夜鴉を止められない。

 当然だ。夜鴉は嘘を流していない。

 ただ、これまで隠されていた真実を表に出しているだけだ。


 その全てが、事実だった。


「イリス様。想定より広がりが早いです」


 レイが報告する。


「そう⋯⋯」

「止めますか?」


 それは、夜鴉ならここで事態を止められる、という事だ。一体レイはどこまで手を伸ばしているんだろうか⋯⋯。私は少し怖くなり、考えることをやめる。代わりに、重い口を開いた。


「⋯⋯いいえ。止めないわ」

「承知しました」


 レイは淡々と答える。

 でも、どこか機嫌が良さそうだった。


「楽しそうね」

「ええ、少し」

「⋯⋯少し?」

「ふふ、失礼しました。⋯⋯かなり楽しいですよ」

「正直ね」

「貴女の前で嘘はつけませんので」


 それはそう。

 私には魔眼がある。


 とはいえ、レイの場合は魔眼がなくても大体分かる。

 エドガー殿下が落ちていくのが楽しくて仕方ないのだろう。


 顔には出ていない。

 でも、長い付き合いなので分かる。


「殺しては駄目よ」

「まだ何も言っていません」

「考えていたでしょう」

「ええ、少し」

「⋯⋯少し?」

「参りました。⋯⋯かなり本気で考えておりました」

「本当に正直ね」

「私の救世主であられるイリス様を苦しめ、不当に独占していたあの腹黒男に漸く鉄槌を下せるのです。少しは妄想したって良いではないですか」

「⋯⋯レイ、あなたね⋯⋯」


 私はため息をついた。


 するとレイは少しだけ笑う。

 その表情を見て、私は昔のことを思い出した。


 拾ったばかりの頃、レイはほとんど笑わなかった。


 食事を出しても、服を用意しても、部屋を与えても、いつも警戒していた。


 そんな彼が初めて笑ったのは、私が彼の名前を短く呼んだ時だった。


 レイヴン、それが彼の名前。

 でも、私は言った。


「レイって呼んでもいい?」


 その時、彼は小さく頷いた。嬉しそうに。

 それ以来、私だけが彼をレイと呼んでいる。

 それが少しだけ、彼の特別になっていることも知っている。


「レイ」

「はい」

「貴方は、私のために夜鴉を作ったのよね」

「はい」

「なら、私の命令は守りなさい」

「もちろんです」

「エドガー殿下を殺しては駄目。これは情報の保管をした時とは違って、本当に殺してはいけないわよ」

「⋯⋯承知しました」


 少し間があった。魔眼は、レイの殺意をひしひしと伝えているが、一応理性で殺さないように押さえ込んでいるらしい。


 ⋯⋯本当にお願いよ、レイ。



 五日後。

 エドガー殿下は王太子の地位を失った。


 隣国との婚姻は白紙になり、第二王女は本国へ帰国。


 王宮では調査会が開かれ、エドガー殿下の関与した複数の工作が正式に問題視された。


 処刑されたり、投獄されることは無かった。


 けれど、王位継承権は剥奪され、王都から遠く離れた離宮へ送られることになった。


 事実上の追放である。


 その前日。

 エドガー殿下が、私の屋敷を訪ねてきた。


 通すつもりは無かった。⋯⋯けれど、レイが言った。


「最後に見ておいた方が良いかと」


 そう言われて、私は少し迷った後、会うことにした。


 応接室に現れたエドガー殿下は、数日前よりずっとやつれていた。


 髪は乱れ、目の下には隈がある。

 けれど、その瞳の奥には、まだ王国への執着が燃えていた。


 私は魔眼でそれを見る。

 後悔、怒り、焦り、未練。————そして、私への愛情。

 私への愛情が、まだ残っている。それが少しだけ、痛かった。


「イリス」

「はい」

「夜鴉の首領は、君だったのか」

「⋯⋯はい」

「⋯⋯そうか」


 エドガー殿下は笑った。

 力の無い笑みだった。


「全て、君がやっていたのか」

「私だけではありません。夜鴉が動きました」

「私を守っていたのも?」

「はい」

「私を壊したのも?」

「はい」


 エドガー殿下は俯いた。


 沈黙が落ちる。

 その間、レイは私の後ろに立っていた。


 気配は静かだ。

 でも、かなり殺気立っている。


 ——やめなさい。

 私は視線だけでそう伝える。


 レイは不満そうに、ほんの少しだけ目を逸らした。


「何故、もっと早く言わなかった」


 エドガー殿下が呟いた。


「言いました」

「何?」


 殿下は、私が夜鴉の首領であることを聞いている。分かった上で私は、別の返事をした。


「何度も。やり過ぎですと。誰かを切り捨てるやり方は、いつか国を壊しますと。貴方は聞きませんでした」

「⋯⋯」

「エドガー様。貴方は国を愛していた。私も、それを愛していました」


 昔の私は。

 国のために努力する彼が好きだった。


 民のために夜遅くまで書類を読み、誰よりも良い王になろうとしていた彼が好きだった。


 けれど——。


「でも、今の貴方は国しか見ていない」

「王とは、そういうものだ」

「いいえ」


 私は首を振る。


「王は国を見るものです。でも、人を見なくなったら終わりです」


 エドガー殿下の瞳が揺れた。


 魔眼は、殿下の後悔と愛情が濃くなるのを見た。


 でも、もう遅い。


 どれだけ彼の本質が見えても、私はもう彼を守れない。


 これらは殿下の為と思い、彼の暴走に加担し続けた私の責任でもあるからだ。


「イリス。私は⋯⋯」

「さようなら、エドガー様」


 私は静かに告げた。


「どうか、離宮では穏やかにお過ごしください」

「⋯⋯戻るつもりはないのか」

「ありません」

「私を、まだ愛しているのに?」


 少しだけ、息が止まった。


 魔眼を使わなくても分かる。これは最後の縋りだ。

 エドガー殿下は、私の中にまだ残っている情を見抜いている。


 その通りだ。⋯⋯私はまだ、少しだけこの人を愛している。けれど。


「愛していることと、隣に戻ることは別です」


 そう言うと、エドガー殿下は何も言えなくなった。


 やがて彼は立ち上がり、部屋を出ていく。


 私はその背中を見送った。

 今度も、呼び止めなかった。



 エドガー殿下が去った後、応接室には静けさだけが残った。


 私はしばらく椅子に座ったまま、冷めた紅茶を見つめていた。


「後悔していますか」


 レイが尋ねる。


「しているわ」

「⋯⋯」

「でも、やり直したいとは思わない」


 私がそう言うと、レイは少しだけ安堵したように息を吐いた。


「エドガー殿下を殺しましょうか?」

「⋯⋯話聞いてた?」

「聞いていました」

「殺さないで」

「承知しました」


 即答だった。逆に怪しい。


「本当に?」

「イリス様が命じる限りは」

「命じなかったら?」

「事故というものは、どこにでもあります」

「レイ」

「冗談です」


 たぶん冗談ではない。


 私は呆れて笑った。

 すると、レイもほんの少しだけ笑う。


 昔のままだ。


 私が拾った少年は、どうしようもなく私に甘く、私の敵には容赦が無い。


 その在り方が正しいとは思わない。

 でも、私はその忠誠に何度も救われてきた。


「レイ」

「はい」

「これから忙しくなるわ。私は殿下の暴走を止められず、結果として殿下を陥れる行動を取った。だから、私はその罪を償い、殿下に代わって王国を良くしていく必要があるわ」

「承知しました。夜鴉は、いつでも動けます」


 レイの顔は真剣だ。私の後悔や自責の念を聞いても、失望一つ見せることが無い。本当に優しい子だ。

 私の魔眼は、レイからの愛情をヒシヒシと感じている。レイが私を好きなことなんて、当たり前に知っているのだ。だと言うのに、私はこんな優しい子の愛情さえ利用し、夜鴉を思いのままに使った——いや、これからも使うだろう。

 私は己の醜さに辟易しながら、それでも真っ直ぐにレイを見つめる。


「そう」

「どこへでもお連れします。誰からでもお守りします。何を望まれても、私は叶えます」

「私は、稀代の悪女よ。正直、歴史の教科書にも載るくらいの悪女だと思うわ」

「私はそう思いませんし、関係ありません。私はどんなイリス様であっても、変わらずお慕いしております」

「そう⋯⋯」


 私は立ち上がり、窓の外を見る。


 王都はまだ騒がしい。

 エドガー殿下の失脚で、しばらく混乱は続くだろう。


 けれど、国は滅びない。


 むしろ、これで良かったのだと思う。

 国を愛しすぎた王子は止められた。


 愛していた人を失った私は、それでも前に進む。全ての贖罪を果たすために。

 そして私の隣には、昔から変わらず私を見ている青年がいる。


「行きましょう、レイ」

「はい、イリス様」


 夜鴉の首領と副首領。


 そう呼ばれる私たちは、その日、静かに王都の闇へと戻っていった。


 もう誰か一人を守るためではない。

 これからは、殿下に代わって王国のために。

 私は夜鴉を使う。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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