確かに私の妹だけどいじめたのは私じゃない
「エテルナ!お前は妹のデリアをいじめてたそうだな!服を奪い、狭く質素な部屋に閉じ込め、学びの場すら奪うとは非道の極み!このことは陛下にも報告させてもらうぞ!修道院行きを覚悟せよ!」
「えー…?」
どうも、こんにちは。ごきげんよう。はじめまして。
私はエテルナ。エテルナ・ロザリー
卒業式だからと久しぶりに学園に来て、パーティに参加しているのだけれど初対面の第三王子に意味のわからない言いがかりをつけられています。
……なぜ?
初めまして殿下。そして、えーっと、どういうことだろう。
「デリア、というのは……?」
「お前…!実の妹というのに無いものとして振る舞うとは。お前の妹、デリア・ロザリーのことに決まっているだろう!!」
なるほど。確かに私の妹のことみたい。
大昔に会って以来の妹の姿を思い出そうとしてみる。けど名前とフォルムくらいしか思い出せない。今目の前に現れてもそれが妹とは気づけないと思う。
そういう意味では「ないものとして振る舞う」というのは間違いではないのかも。
まあ、向こうにとって私も「ないもの」だとは思うけれど。
「妹はどこにいるのですか?」
「デリアは今、私の用意したドレスに着替えている。かわいそうに…家でドレスを用意してもらえなかったと泣いていたのだ。それをお前はそんなドレスを着て!どうせそれも奪ったんだろう!!」
殿下は我が家の事情をご存知ないらしい。身に覚えがなさすぎる言いがかりをつけられている。
「たぶん、人違いかと思うのですが」
「何をいう!!お前はデリアの姉だろう…!」
「まあ、たしかに、一応姉ではあるのですけれど」
本当に一応、姉ではあるけれど。姉であるだけというか。
この人、話を聞かないなあ。というか我が家の事情をご存知ないのだろうか。知ってる人は知ってるくらいの話なのだけど。
「妹に聞いてみてくださいませんか。『本当にこの女で間違いないか』と」
「いいだろう。白々しい」
パーティに参加した貴族たちは遠巻きに私たちの成り行きを見守っている。
なんか面倒なことに巻き込まれたなあ。久々に外に出たらこれだから、本当に外出というのは面倒だな、と改めて思った。これが終わったらまた引き篭ろう。うん。
「アーノルド様…っ」
しばらくすると妹のデリアらしき人がやってきた。
王族の仕立てた、一目で上品で高級とわかるピンクのドレスを身に纏って。というかこの王子、婚約者がいなかっただろうか。それなのに妹にこんなドレスを送っても大丈夫なんだろうか。あらかじめ用意してたかのようにぴったりサイズのドレスのようだけど。
「デリア...!お前の憎き姉を問い詰めていたところだ。この女で間違いないか」
殿下が問う。
さて、妹はどうするだろう。
「あっ、えと、殿下。この方は……?」
……いや、そうだよね。
私もデリアを見ながら「この子が妹のデリアなんだ」という感じだもの。
お母様譲りのウェーブがかったピンク色の髪の毛に、愛らしい垂れ目のお顔。遠目で何度か見かけたことくらいはある。そういえばこんなだったような気がしなくもない。
デリアはまだ状況が飲み込めていないようで、私のことが誰なのかわかってない。小さな声で「だれですか?」と尋ねる始末。
その様子に会場中の空気が凍った。
「エテルナ!お前はデリアの姉と言っただろう…!嘘をついたのか!?」
どうしてそこで私が悪いってことになるんだ。
「……姉であっておりますよ、殿下」
「デリアはお前を知らないではないか!お前はなんなのだ、おい、誰かこの女をどこかへ連れて行け!そして本当の姉を連れてこい!」
ーー第三王子はポンコツである。
と、聞いたことはあったけど、まさかここまでとは。
めちゃくちゃポンコツな上に誰にも信用されていないみたい。その証拠に誰も私を連れ出そうとはしない。まあ、私が本当の姉で間違いではない、ということをこの二人以外はきちんと認識してるからかもしれないけれど。
別にうちの家庭事情はそこまで秘密にされてもいないしね。大っぴらにしたことはないけれど、少なくとも私側は聞かれれば素直に話してきたから、ある程度ちゃんと社交活動をしている人なら知っている話だ。
「殿下、私はデリアの姉で間違いありませんよ。そしてデリアが私の顔を知らないのもまた、間違いではありません」
「そんなわけないだろう」
「そんなわけあるんですよ。まあ、デリアをいじめた姉は私ではないですけれど。デリア、あなたにとっては初めましてよね?姉のエテルナよ。一回くらい名前を聞いたことあるんじゃないの」
「エテルナ、……お姉様??」
デリアがフリーズする。長らく家にいなかった姉のことを必死に思い出していることだろう。
いくら屋敷を不在にしているとはいえ、流石に名前くらいは聞いたことあるはずだ。……碌でもない感じに仕上がっているとは思うけれど。
「エテルナ、どうしたの?」
「カーティス」
デリアが私を思い出している間に、後ろから幼馴染兼恋人のカーティスがやってきた。挨拶回りをしてたはずだけど騒ぎを聞いてこちらに来てくれたようだ。
「べつに、どうもしないよ」
「じゃあなんで君は輪の中心にいるの。言いがかりをつけられているようだけど?」
言いながら守るようにしっかりと腰を抱く。
「カーティス様っ」
デリアはカーティスが登場するなりデリアは目を輝かせる。わお。
それもそのはず。カーティスはロレーヌ公爵家の嫡男。そしてとびきり美しいのだ。令嬢たちから大人気の男。
普段あまりパーティに参加しないからデリアがカーティスを間近で見るのは初めてなんじゃなかろうか。隣に殿下がいるというのに、妹はカーティスに釘付けである。大丈夫か。
「初めまして、ロザリー伯爵令嬢。そして君に名前を呼ぶことを許した覚えはないよ」
「そんな……っ!カーティス様はエテルナお姉様に騙されているのです!」
おっと。そう来るのか。
カーティスの忠告を無視した上でこちらに流れ弾が飛んできた。
私のことを思い出したんだろうか。
「お姉様はとてもわがままで、我が家は苦労しているのですっ!お姉様が勝手に家を出て行って、私たち家族はどれだけ心配したことか……!
それなのにお姉様は図々しくも公爵家に転がり込み、公爵家のお金で贅沢三昧。私は今夜のパーティに参加するドレスすら用意できなかったというのに」
両手で顔を覆って泣くようなそぶりをする。どうやら私の存在を思い出したらしい。
んーなるほど。実家ではそういうことになっているんだ。
「デリアかわいそうに。おい、エテルナ、貴様は今日にでも公爵家を出て行き伯爵家へ帰るのだ!そして出て行って迷惑をかけた分、家族に、そしてデリアに尽くせ!」
泣き真似をしているデリアに殿下が寄り添う。殿下、その子はカーティスに見惚れてたけどそれでいいんですか。
この二人に対してどこから突っ込めばいいのかわからない。
ーーどうする、これ?
めんどくさくなってきたので適当に流して強引にでもいいから帰りたいな、なーんて思っていたけど、カーティスを見上げてみると笑顔のまま猛烈に怒っていた。それはもうめちゃくちゃに怒っている。
確かに、殿下の言ったことはカーティスの地雷を踏んだもんね……。
天使のような見た目の後ろにドス黒いオーラが見える気がする。腰を抱いている手にグッと力が入る。
これは長引きそうだ……。
バレないように小さくため息をついた。
「エテルナは伯爵家には帰しませんよ。ロザリー伯爵も断るでしょう。どうしても帰せというならば違約金を払っていただかなければいけませんからね。それは伯爵家も本意ではないでしょう」
「カーティス様は騙されているのです!」
「誰に?」
「お姉様にです!何を聞かされているのか知りませんが、勝手に家を出て行った親不孝者ですよ!」
そう言ってデリアは私を指差す。
姉妹とはいえ、こんな場所で人を指差すなんて。この子は長女と同じくマナーがなってないらしい。あの両親なら仕方ないかもしれないけど。
「そもそもその認識が間違っているのよ、デリア。私は勝手に家を出て行ってないわ」
「嘘よ」
「嘘ではないよ。エテルナが8歳、君が生後半年の頃に我が公爵家で引き取ったんだ。君の両親は当時大喜びで了承したよ」
「お父様とお母様が子供を売るような真似するはずないわ!」
それがあるんだよなあ。
私とカーティスは顔を見合わせて苦笑した。
***
私が生まれたロザリー伯爵家には、私を含め四人の子供がいる。
長女のミネア
次女のエテルナ
双子で三女・長男のロザリーとルカリオ
双子が生まれるまでは長女のミネアは後継者として、私はその予備として育てられていた。基本的には何事もお姉様が優先。与えられるものも、願い事も、祝い事も。
物心が着いた頃から「お前は予備だから」と言われていたから、その扱いに疑問を抱いたことはなかった。(それが変だと知ったのはロレーヌ公爵家に引き取られてからだ)
スペアとして育てられてラッキーだったのは姉と同じ教育を受けられたこと。
年子で私が言葉を覚えるのが早かったこともあり、私は姉と同じ内容の教育を受けた。
姉とは違い両親に放って置かれ気味で暇だった私は、学ぶことにハマった。家庭教師のステラ夫人はとても博識な女性で知識に貪欲な私に優しく何でも教えてくれた。
姉は一年くらいすると授業をサボり出した。
授業の時間になるとこっそり屋敷を抜け出して、どこかに遊びに行っているようだった。
でも私はそれを両親に報告しなかった。どうせ姉を優先させなさいって言われるから。
姉は遊びに行く。
私は勉強する。姉の分の宿題をこなす。ステラ夫人に褒めてもらえる。
両親は何をしてるかほとんど知らない。顔をあわせることも滅多にない。
そんな状態が8歳になるまで続いた。それでも使用人たちは多少気にかけてくれていたので、暮らすには困らなかった。食事、掃除などの生活まわりの世話はこなしてくれたし、私はただただ机に向かって勉強していればよかった。
そして8歳になったとき、双子の妹と弟が生まれた。
その時まで母親が妊娠していたことも知らなかった。
男の子が生まれたことに屋敷中が大歓喜し、……私の生活は一変した。
双子の世話というのは大変らしい。もともとギリギリの人数だったため、屋敷の使用人たちは大忙しになった。
小耳に挟んだことによれば、息子フィーバーに入った両親が部屋の模様替えや家具の買い替え、こまめな部屋の掃除やより一層気を使った食事を命じたことが理由らしかった。
増員もなく仕事が増えた使用人たちは、ついぞ私の存在を忘れてしまったようで、だんだん食事や風呂の世話にこなくなってしまった。厨房に行けば食事をもらえるけれど、それも一日に一回だけ。タイミングを間違えば忙しさを理由に追い出される始末。結構困った。
姉は弟が生まれたことにより、後継者になれないことを嘆いた。これまで後継者としてずっとちやほやされてきたのに息子が生まれた瞬間に両親は姉に見向きもしなくなってしまった。あれは私からみてもちょっとどうかと思う。
姉は当初は嘆き泣いていたけれど、次第にその感情は怒りに変わっていった。今思えばそれくらいしか感情の発散の仕方がわからなかったんだろうとは思う。
怒りの矛先は私に向かってきた。両親が私を微塵も気にしないことをいいことに、毎日殴る蹴るの大暴力。
屋敷を抜け出して遊んで鍛えられた姉はなかなか力が強く、あっという間に服の下はあざだらけになった。
『できる限り自分で自分のことをしよう。心は折れないようにしよう。逃げる準備をしよう』
過酷になってきた家庭環境の中で心に決めた。
なんとか生活した。いっそ死んでしまおうかとか考えたけど、こんな家族のためになんで私が命を捨てなければいけないんだと思うと、腹が立って死ねなかった。
どうやってこの家から逃げようか、どうやって外で暮らしていこうか、今後の方針を考えて半年くらい経った時に家庭教師のステラ夫人がロレーヌ公爵とその息子のカーティスを連れてロザリー伯爵家にやってきた。
ある日、ステラ夫人の授業を終えていつも通り門までお見送りしたら、家の前に大きな馬車が止まっていた。ぽけっとしているところを夫人に抱えられてあっという間に馬車に乗せられた。そしてそのまま公爵家に連れて行かれた。
あの時はびっくりした。普通に考えたら誘拐である。
「公爵様、この子が以前からお話ししていたエテルナ嬢です。カーティス様と同じ教育内容にも難なくついてこられる才女です」
対面に座っていた公爵様は私をじっと見た。赤い瞳が印象的だった。
公爵様は授業に出てくるような内容をいくつか質問をされて、それに答えた。最後の質問に答えると、納得したように頷いた。
馬車には同い年くらいの綺麗な男の子もいた。手短に「息子のカーティスだ」と紹介された。カーティスは私を見ると隣に移動してきて、何も言わずに手握ってくれた。
馬車が公爵家に到着すると、手を繋いだまま一緒に降りてそのまま屋敷を案内してくれた。
案内が終わると最後にグリーンを基調としたかわいらしい部屋に入れられた。
部屋の中には数人の使用人がいて、カーティスは彼らに「頼む」というと私を置いて出て行った。
オロオロとする私をメイドたちは優しく宥めて風呂に連れて行った。そういえば双子が生まれてから自分で風呂を用意していたから、きちんと洗ってもらうのは久々だということにその時気づいた。
公爵家の人からすると、まあまあ不潔だったのかもしれない。
大人しく服を脱がされ久々の暖かいお風呂にワクワクしていたけれど、痣だらけの身体を見た使用人に悲鳴をあげられてしまった。ワクワクしていたお風呂の時間は短縮され、大慌てで医者が呼ばれた。
「君をこの家で引き取ることにした」
治療を終えると公爵夫妻、ステラ夫人、カーティスが揃う部屋に案内され、入るなりそう言われた。
「君の家庭教師であるステラ夫人はカーティスの家庭教師でもあってね。君の屋敷での扱いを見かねた夫人から相談を受けていたんだ。
自覚がないかもしれないが、君はとても頭がいい。あの家で腐らせておくには勿体無いほどに。君さえ良ければ、もっといい教育をこの家で受けてみないか?
私が君の家と話をしよう。君はこの家で引き続き貪欲に学んでくれればいい」
「私は公爵様に何を返せばいいのでしょうか」
「簡単なことだよ。息子の婚約者になってくれればいい」
公爵様はそう言った。
カーティスは私の隣に座って、逃がさないと言わんばかりに強く手を握っていた。
のちに聞いて知ったことだけど、彼はステラ夫人から聞いてずっと私に興味があったらしい。そしてあの日に会ってみて「この子しかない」と確信したのだとか。
初対面の不潔で頭でっかちな子に、どうして彼は恋に落ちたのか正直謎である。
少しだけ考えて、えーいままよと頷いた。
伯爵家に戻りたくなかった。あの家にいる限り、一生人として扱ってもらえない。それが私の出した結論だった。
公爵様がどれくらい信用に足る人なのか、その時の私にはよくわからなかったけど、ステラ夫人のことだけは信じられた。私のことを一人の人として接して、唯一ずっと気にかけてくれた人。
頭の中の伯爵家脱出プランの一つに、ステラ夫人の養子になれないか、を含むくらいには夫人のことが大好きだったから。
私がその場で頷くと、公爵家のみなさまの行動はそれはもう早かった。
改めて私の健康診断をして、医者から診断書をとった。ステラ夫人は伯爵家の口の軽そうな使用人から家庭事情を聞き出して、育児放棄の実態を調査した。姉の素行調査も入った。
姉が市井で何をしてるかその時初めて知った。どうやら平民の、それも悪いお友達と遊んでいるようだった。わずか9歳にして借金の額がすごかった。絶対にカモられている。
二週間の準備を経て、公爵夫妻と共に実家へ向かった。
なんとなく予想はしていたけど、両親は私がいなくなったことに気付いていなかった。突然の公爵夫妻訪問、しかも娘を連れて、ということで目を白黒させていたのを覚えている。
「娘が何かご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません...!エテルナ!こっちにきなさい!お前も謝るんだ!」
しばらく会っていないのに私が誰だかよくわかったな、という感心と、見当違いなことを言われて呆れたという感情が同時に来た。両親に対する愛情が枯れ果てていることも、このときに自覚した。
「今日はエテルナ嬢をうちで引き取れないかのご相談に来ました」
「は?……え?」
「いえ、うちのカーティスが気に入ってしまいましてね、伯爵家では面倒を見切れないようですし、であればうちで引き取ってしまおうかと。なに、伯爵家に損はないよう十分用意もあります」
優雅に足を組む公爵様はにっこりと笑って書類を広げた。
一枚一枚説明して、育児放棄の実態を暴いて脅したり。お姉様が市井で作った借金の額を教えてみたり、金額を聞いて青ざめる両親に対して、指定の条件で引き取らせてもらえるなら肩代わりして、双子の弟妹の学費を出してもいいと言ってみたりしていた。
両親は真っ青な顔をして、ろくに契約書を読みもせずにサインしたのだった。
その日私は少ない私物を全て持って公爵家に引っ越した。
あれ以来伯爵家には帰っていない。
というか連絡もとっていない。
***
「そんなわけで、私はデリアと一緒に住んでいないので嫌がらせは不可能ですし、デリアが私と最後に会ったのは物心つく前だったので顔も知らなくて当然ですし、両親は長女の借金とデリアたちの学費のために私を公爵家に引き渡しました。
当時の契約書がありますから、まだ疑うなら両親に確認してください。写しがあるはずです。契約書にも私は二度と帰らないと書いてあります」
殿下とデリアは今の話を聞いて呆然としている。いきなり知らない話を聞かされたからびっくりしてるのかもしれない。
「ま、要するにロザリー嬢の勘違いということです」
「ちなみにお伝えしておくと、長女は数年前に厳しい北部の修道院へ行ったと聞いております。お姉さまと私以外に姉はいませんから、「姉」がデリアをいじめられるわけがありません。誰が彼女をいじめているのかは調査しておいた方がいいと思いますよ」
ギクリ、とわかりやすくデリアは肩を揺らして目を逸らした。
最初から王子に取り入るための嘘なんだろうな。
「カ、カーティス様は強欲なお姉様の面倒をみ続けるおつもりですか!?」
「はあ、まじでクソ話が通じないな。……あ、ごめん、エテルナの妹なのに」
「気にしないで、私も今同じことを思っていたから」
これで双子の片割れ、弟のルカリオは真面目で優秀というのだから不思議なものである。ちなみにルカリオは隣国に留学していてこの場にはいない。
「ここまで来て、十分に伝わっていなかったようで申し訳ありません」
カーティスはわざとらしく腰を折る。そして見せつけるようにぐい、と私を抱き寄せた。
「この場を借りて改めて宣言しておきます。私は、私の意思で、誰からも強制されることなく、公爵家の持つ権力の全てを使ってエテルナを手に入れました。
初めてみた時に一目惚れをして、強制的に連れてきて暮らして数年、毎日好きになる一方です。
彼女は嘘をつきません。私は彼女を愛しています。もちろん自分の意思で。
一生面倒を見続ける?
願ったり叶ったりですよ。
彼女が死ぬその時まで面倒を見続けられるというならば、何もかも差し出しましょう。それほど彼女を愛しているのです。
ですからロザリー嬢はこれ以上、私とエテルナの関係に口を出さないでいただきたい。あなたが口を出すことで、エテルナが身を引くなんてことがあれば私はあなたをいっそ殺してくれと思うほどに苦しめ、エテルナを監禁することになるでしょうから。そうなりたくなければ、どうかその愚かな口を閉じてください」
早口で捲し立てると、その綺麗な顔で「ね?」とかしげて見せた。
これには興味津々に私たちの様子を見ていたオーディエンスもちょっと引いている。
「カーティス、安心して。あなたから離れたりしないわ。そんな面倒なことはしないっていつも言ってるでしょう」
「うん、わかってるよ。でも僕は本気。本気だからちょっとでも火種になりそうなこと早く潰しておかないと」
ぎゅうぎゅうと今度は全身で抱きついてくる。まったくもって困った恋人ですこと。
殿下とデリアは完全に固まっていた。カーティスって普段外ではこんな感じじゃないらしいから、その差にびっくりしてるのかもしれない。
この辺が引き際だろう。二人がフリーズしている間に帰ろう。
「では、そういうことですので。殿下におかれましては、妹のことをよろしくお願いいたします。とは言っても明日から妹ではなくなるのですが」
「エテルナは明日コーナン侯爵家の養子になり正式に僕と婚約します。もちろん陛下も承認済みです。これからは不相応に絡んでこないようお願いします。あ、そう言えば明日は手続きの関係で陛下に謁見するんですよ。ついでですから今日のことは僕から伝えておきますね。では」
帰ろう、とカーティスが私を促す。何か言いたそうにして、でも言葉が出てこない二人を置き去りにして、私たちは会場を後にした。
***
次の日、私たちは予定通り婚約した。
そもそも決まっていたのだ。今まで婚約しなかったのは伯爵家と交わした契約期間が理由だった。学園を卒業するまでは伯爵家に籍を置く、卒業すると私の籍は伯爵家から抜かれて公爵家が決めた家の養子となることが決まっていた。
婚約の報告と一緒に卒業パーティでの出来事を陛下に報告した。
王子は速やかに国境付近を守る騎士団に突っ込まれた。曰く、「頭を使うより体を使う方が得意な子だからな」ということらしい。飛ばされたあたりは魔獣がわんさか出る場所だけど生き残れるんだろうか。
デリアは伯爵家により修道院に送られたらしい。
長女に続き二人目の修道院送りである。伯爵家で優先されるのはルカリオであり、デリアもルカリオに迷惑をかけるようであれば不要らしい。そういう、娘といえど素早く切り捨てるところは貴族らしいけれど元身内としては「なんだかなあ」という感じである。
数日後に伯爵家から私宛に手紙が届いたらしいけど、カーティスが開けもせずに燃やしてしまった。私もその対応でいいと思う。
「ルカリオはよくあんな家でまともにいられるわね」
「君に似たんだろうね」
「どうかしら。……それで?私の実家も整理して、婚約もしたけれど少しは落ち着いた?」
「いや、ちっとも。あーあ、早く結婚したいよ」
この男は私を家に連れてきて四六時中一緒にいて、学園にも他の男と過ごしてほしくないという理由から通わせなかったというのに。それでも何かのきっかけで私が離れたらどうしようと不安でたまらないらしい。
そんなめんどくさいこと、そんな自ら幸せを捨てるようなことするはずないのに、といくら言っても信じてくれない。
全くもって仕方のない婚約者だ。
「私もカーティスの家族になるの、楽しみよ。
愛情たっぷりの家族ってものを教えてくれるんでしょ?知っての通り私は経験したことがないの。いろんな本を読んでみたけれど、どこにも載ってなくて私は教えてもらうのを楽しみにしてるんだけど?
何をそんなに不安になるのよ。どっしり構えていてよ。私の人生はあなたのもので、あなたの人生も私のもの、そうでしょ?」
「もちろん。絶対に逃げないって誓ってくれる?」
「望むところよ。カーティスこそ、私のこと捨てたら一生呪ってやるんだから」
「いいね、それ最高」
半年後ぴったりに結婚し、私たちは合計5人の子どもに恵まれた。カーティスは子供達も、そして私のことも変わらずずっと愛してくれたのだった。
結構前に書いて放置してた短編です。同日投稿した「面倒ごとと君」 とテンションの差がひどい。




