公衆の面前での「羞恥」攻撃と「科学的証拠」
ローナは、あらゆる手段が尽きたと悟り、最後の、最も下品で、卑劣な攻撃を仕掛けてきた。それは、辺境伯邸で開かれた、領内の有力貴族を集めた晩餐会での出来事だった。
ローナは、招待されていないにもかかわらず、親族の男爵を脅し、無理やり会場に乗り込んできた。
この悪女は、私とマクナル様が談笑している場に乱入し、大声で叫んだ。
「アナスタシア様! 貴女の秘密を、私は知っていますわ! 貴女は、このマクナル様と結婚する前、王都で『恥ずべき過ち』を犯した、破廉恥な女ですわ」
ローナは、私が妊娠する前に、別の男と関係を持っていたと主張した。
「その証拠に、貴女の身体には、当時の『証』が残っているでしょう」
ローナは、私が着ていたドレスの、肩の少し下あたりを指さした。そこには、私が生まれつき持っている、小さな赤いアザがあった。
(なるほど。この生まれつきのアザを、『不貞の証』だと公衆の面前で主張するつもりね。悪質極まりない)
私は、マクナル様の静止を振り切り、前に一歩踏み出した。そして、穏やかに、しかし会場全体に響く声で言った。
「ローナ様。貴方様の言葉は、あまりにも根拠のない、下品な誹謗中傷です」
「根拠がないとでも! 貴女の体に残された『シミ』こそが、貴女の過去の不貞の証拠ですわ」
私は静かに微笑んだ。
「ローナ様。貴方様は、この『シミ』が、私が生まれる前から存在している、皮膚の『色素異常』であることをご存知ありませんか」
私は前世の知識で、皮膚科の常識を持ち出した。アザは、多くの場合、生まれつきの色素沈着であり、不貞とは何の関係もない。
「もし、ローナ様が、私の生まれつきの身体の印を、公衆の面前で『不貞の証』と誹謗中傷されるのであれば、それは『辺境伯夫人の名誉棄損』だけでなく、『医学的な無知』を公言しているに等しいですわ」
私は使用人に命じ、私のアザが幼少期から存在していたことを証明する、古い肖像画を急いで持ってくるよう指示した。
マクナル様は、私を抱き寄せ、ローナに向かって、冷たい視線を浴びせた。
「ローナ嬢。君の最後の悪あがきは、私と妻の絆を砕くどころか、君自身の品性を、底の底まで晒しただけだった。君は、この領地にいる資格はない」
ローナは、顔を真っ青にし、その場に崩れ落ちた。あの女の最後の攻撃は、「生まれつきの証拠」という、科学と客観的な証拠によって打ち砕かれたのだった。
そして、この出来事が、彼女の没落への、決定的な一歩となることは、この時の私には、まだ知る由もなかった。




