毒入りのハーブティーと「pH検査」の応用
ローナは、社交的な妨害や、美しさの競争でも勝てないと悟り、ついに最も卑劣な手段、すなわち「毒」に訴えてきた。
彼女は、王都で大流行しているという名目で、マクナル様へハーブの詰め合わせを献上した。
「マクナル様、この『夜の雫』というハーブは、王都では貴族の間で大流行している、最高の鎮静作用を持つものですわ。アナスタシア様がいつも淹れているハーブティーに、少し混ぜるだけで、効果が倍増します」
ローナは、小さな瓶に入った、乾燥ハーブの束をマクナル様に手渡した。マクナル様は、警戒心を抱きつつも、公爵令嬢からの「献上品」を無下に断ることはできない。
「ローナ嬢。わざわざありがとう。では、今晩、妻に淹れてもらうとしよう」
マクナル様がそう言うと、あの女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
(ローナの目的は、間違いなくマクナル様の体調不良、もしくは中毒死だ)
私は、マクナル様には言わずに、ローナのハーブを自分の寝室に持ち帰り、一人で実験を始めた。私は前世で、理科の実験で使った「リトマス試験紙」の簡易版を思い出した。それは、紫キャベツを煮出した液体を使うという、最も簡単な方法だった。
私はローナのハーブと、マクナル様がいつも飲むハーブティーを、それぞれ紫キャベツ水に浸した。
マクナル様のハーブティーは、紫のままだった。しかし、ローナのハーブは、すぐに鮮やかな「赤」に変わった。
(やはり!これは、非常に強い「酸性」だ!)
私は、そのハーブ単体では毒ではないが、マクナル様が服用している別の薬草(胃腸の調子を整えるアルカリ性の薬)と混ぜることで、急激な化学反応を起こし、胃の中で「劇物」を生成するように仕組まれていると推測した。
私は急いでマクナル様の書斎へ向かった。
「マクナル様、今晩のハーブティーは、淹れないでください」
私が理由を説明し、証拠の「赤い液体」を見せると、夫は顔を青くした。
「ローナ様は、この『相性の悪さ』を利用して、マクナル様を病死に見せかけようとしたのです」
「アナスタシア。そなたは、また私の命を救ってくれた」
あの方は、私を抱きしめ、深く感謝の言葉を述べた。
翌日、リリウス辺境伯はローナを呼び出した。そして、彼女に何も言わずに、例の「赤い液体」を見せた。
「ローナ嬢。君がくれたこのハーブは、私の健康に非常に悪影響を及ぼすようだ」
ローナは必死に言い訳を始めた。
「言い訳は無用だ」辺境伯様は冷たく遮った。「君のハーブは、純粋な『悪意』に満ちている。公爵家との関係を考慮し、今回は公にはしない。だが、今すぐこの領地を離れなさい。二度と私の妻と私に近づくな」
ローナは、自分の計画が、私が持ち込んだ「赤い液体」によって完全に暴かれたことに気づき、顔面蒼白になった。あの女の悪行は、科学の光によって照らし出されたのだ。




