夜会の衣装対決と「シンプル・イズ・ベスト」の哲学
ローナは、頭脳的な介入が失敗に終わると、次に最も原始的で、しかし貴族社会において非常に重要な戦場、すなわち「美と流行」の競争を持ち込んできた。
辺境伯領の年次晩餐会が開かれることになった。これは、ローナが私を社交的に再び孤立させる絶好の機会だと考えていた。
あの公爵令嬢は、王都から取り寄せた、最高級のシルクと宝石で飾られた、絢爛豪華なドレスで登場した。そのドレスは、王都の最新流行を完璧に体現しており、周囲の女性貴族たちは、彼女の姿に息を飲んだ。
(豪華さ、高級さで勝負しても、公爵家の財力には勝てない。私の勝負どころは、現代の「デザイン哲学」と「トータルコーディネート」だ)
私が選んだのは、辺境の職人が織り上げた、素朴ながらも非常に上質な「麻」の生地をベースにしたドレスだった。色は、マクナル様の瞳と同じ、深い青。装飾は極限まで抑え、代わりに、私自身の肩やデコルテのラインを、美しく見せる「カッティング」にこだわった。
ローナは、私のドレスを一瞥し、鼻で笑った。
「あら、アナスタシア様。やはりその生地は、辺境の素朴な麻ですわね。それを着こなすとは、大胆でいらっしゃいますこと。ですが、王都の最高級シルクの前では、ただの粗末な布切れに見えますわ」
私は優雅に微笑み、マクナル様の腕に自分の腕を絡ませた。
「ローナ様。麻は、シルクにはない光沢と、洗練された質感を持っています。私は、この辺境の地に根ざした素材を使うことが、辺境伯夫人としての『誇り』だと考えています」
「それに、このシンプルなデザインは、マクナル様という、最高の装飾品を隣にすることで、初めて完成するのです」
(ローナは自分の美しさだけを主張した。私は「私たち夫婦」の調和と、辺境の素材の価値を主張する)
辺境伯様は、私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「君は、私にとって最高の装飾品だよ、アナスタシア。君のそのシンプルで洗練された美しさこそ、この辺境伯邸に最も相応しい」
ローナは、完全に影が薄くなっていた。さらに、私はもう一つの現代知識を仕込んでいた。それは「光の物理学」だ。
ローナのドレスには、宝石がふんだんに使われていたが、それは屋敷の暖炉の光や、燭台の光を「反射」しすぎて、かえってギラギラと、下品な印象を与えていた。
対して、私の麻のドレスは、光を「吸収」し、「柔らかく拡散」する。それにより、私の肌はより滑らかに、顔はより優しく、高貴に見えたのだ。夜会の後半、周囲の貴族たちは、ローナの派手なドレスよりも、私の「控えめでありながら目を引く」装いを、流行として認め始めた。
マクナル様は夜会が終わった後、私を寝室で強く抱きしめた。
「君は本当に、私の最愛の妻であり、最高のパートナーだ。君なしでは、私はこの社交界の罠を乗り越えられなかっただろう」
「貴方様のおそばにいられるだけで、私は最高の輝きを得られるのです」




