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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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99/109

99:港町再び

 残った飛竜の前に立って、バーバラとギルが口を開いた。


「あんたらだけじゃ、見張りの人手が足りねえだろ。あたしもここに残る」


「僕も残るよ。クラウスが戻ってきたら、彼も見張りをしてもらおう」


「では、私とルシル、ラテは飛竜に乗って港町に戻ろう。フィンがデータをまとめてくれているはずだ」


 アルフォンスが言って、話はまとまった。

 こうして私は港町まで戻ることになった。





 飛竜の背中は快適だった。

 監察官、アルフォンス、私、ついでにラテが乗ってもそこまで狭苦しくない。

 竜の胴体にベルトが巻き付けてあって、それを掴む。

 飛竜は大きく羽ばたくと、あっという間に空へと飛び立った。


「……わぁ!」


 私は思わず叫んでしまった。

 眼下に広がるのは銀鉱山。それが今やちっぽけな岩くれのように小さく見える。

 少し遠くを見れば、汚染されてしまった川が流れている。しかしこの距離であれば悪臭は届かず、ただ静かに水をたたえているように見えた。

 ラテは船にはさんざん酔ったくせに、空飛ぶ飛竜は平気であるらしい。私の肩にしがみつきながら、楽しそうに風に吹かれていた。


 飛竜は羽ばたくたびにぐんぐん加速して、あっという間に港町まで戻ってきた。

 徒歩だと三日近くかかったのに、まさに一瞬。午後の太陽は未だ高い位置にある。

 飛竜は港町の上空で旋回すると、減速して港の前の広場に着地した。

 漁師たちや町の人々が、何事かと遠巻きに眺めている。


「ただいま!」


 私が飛竜から飛び降りて手を振ると、どよめきが起きた。


「ルシル! ドラゴンに乗ってきたの?」


「すごい! かっこいい!」


 フィンとミアが走り寄ってくる。

 二人を抱きしめていると、背後にアルフォンスが歩み寄ってきた。


「フィン。さっそくだけど、頼んでいた暗号の解読はできたかな?」


「うん、バッチリ! ノートにまとめておいたよ」


「お手柄だね。もう一冊同じ暗号があるのだが、それの解読も頼めるかな?」


「いいよ、どれ?」


 監察官がやって来て、製錬所にあった冊子をフィンに渡した。

 私の言う「暗号解読が得意な仲間」が小さな子供だったので、戸惑っている。

 フィンは冊子を受け取って読み始めた。


「んー。こっちも水銀の帳簿だね。……あ、銀の売上もかいてる。えーっと、お金のけんきん先は、サイラス様だって」


「……!」


 監察官の目が険しくなった。

 サイラスは宰相の名前。食料ギルドの主で、ヴェロニカを手駒としていた人だ。


「少年。それは確かですか?」


「え、はい、これです。ここの文字がアナグラムになっていて、こうすると『サイラス』でしょ?」


「確かに……。これは厳しく尋問する必要がありますね」


 監察官はアルフォンスに向き直った。


「殿下。私はもう一度銀山に戻って、代官バルダスの尋問を開始します」


「では私も行こう。フィン、解読したノートを取ってきてくれるかい?」


「うん、いいよ! 宿屋にあるから、ちょっと待ってて」


 フィンとミアが連れ立って走っていく。


「ルシル。私は戻るが、君は休んでいてくれ。後はもう心配ない。飛竜を使えば移動はすぐだから、時々戻ってくるよ」


「はい。私はお料理を作っておきますね。銀山の労働者のみなさんに、お腹いっぱい食べてもらわないと!」


『労働者に飯を食わせたら、次は川と海の浄化だ。忘れるなよ』


 忘れるわけがない。

 水銀毒の流出は止まったとはいえ、既に流れ出た量は膨大。なるべく早く浄化に着手しなければ。

 でもその前に、弱りきった労働者たちに温かい食事を作る! 彼らは本当に倒れる寸前だったもの。

 張り切っている私に、アルフォンスが微苦笑した。


「夜になったら一度港町に戻るよ。それまでに料理を用意してくれ。フィンに新しい帳簿の解読を頼んでおいて」


「はい、分かりました」


 話しているうちにフィンとミアが戻ってきた。


「はい、これ!」


「ありがとう。もう一冊の解読も頼んだぞ」


 監察官が受け取って、アルフォンスと二人で飛竜に乗り込んだ。

 飛竜が羽ばたく。

 空に舞い上がった彼らに手を振って、私はさっそく料理の準備を始めた。





「さーて! 何のお料理を作ろうかしら」


 港の広場で腕まくりした私のスカートの裾を、ミアがちょいちょいと引っ張った。


「ルシル。おさかな、たくさんあるの。使って?」


「え?」


 見れば市場の方から、木箱を担いだ漁師たちがやって来るのが見えた。


「シスター、この魚を使ってくれ」


 降ろされた木箱には、立派な魚が何匹も入っている。


「どうしたんですか、これ? 前は小魚ばかりだったのに」


「毒は北の川から来てたんだろ。なるべく南の方まで漁に出て、獲ってきたんだよ」


「へんな匂い、しない。大丈夫」


 ミアが太鼓判を押した。


「なるほど!」


 木箱の中を物色してみると、アンコウに似た魚を見つけた。

 一メートル近い大きな茶色い体に、強面の顔をしている。

 歯は牙みたいにギザギザで、頭には突起がついている。これを疑似餌にして小魚をおびき寄せるんだったっけ。

 アンコウの旬は冬のはずだが、今は真夏だ。……まぁ、ここは地球じゃないから生態系も違うのだと思っておこう。


 私がアンコウの木箱を手に取ると、漁師は微妙な顔をした。


「それを料理するんですかい? こう言っちゃなんだが、そいつはかなり臭みがありますぜ」


 私は笑顔を返す。


「きちんと調理すれば平気ですよ。それにこの魚の肝は、とっても栄養がありますから」


 アンコウの肝。あん肝だ。

 身は低カロリー高タンパクだが、肝に限ってはハイカロリーで栄養たっぷりなのである。

 体が弱ってしまった鉱山の労働者にぴったりの食材ではないか。

 レシピはそうだなぁ。定番のアンコウ鍋かな?

 今は夏だけど、山の方に行けば朝晩は冷える。弱った胃には温かいものがいいだろう。


「さて、それじゃあ、このアンコウ。捌いちゃいますからね」


 愛用の包丁を倉庫から取り出して、私はさっそくアンコウと格闘を始めた。


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