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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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98/110

98:空からの使者

 改めて建物から出ると、周囲は完全に制圧されていた。

 見張りたちは縛り上げられて、ギルや労働者が見張っている。

 クラウスはまだ戻っていないが、坑道の入口から労働者たちが逃げ出してきている。解放が進んでいるのだろう。


 アルフォンスとバーバラは戦闘を終えて、労働者たちの安全を確認していた。

 ラテは元の黒猫の姿に戻っている。辺りに漂う毒の悪臭に顔をしかめていた。


「……これは何事だ!?」


 不意に山道の方から声が響いた。

 見れば悪趣味な身なりをした男が、三十人ほどの手勢を連れて鉱山の入口にやってきていた。


「バルダスッ!!」


 バーバラが吠える。

 ではあの男が、悪名高い代官のバルダスか。


「うん? お前はバーバラか。見ない顔も多いが……」


 多数の武装した部下に守られているせいだろう、バルダスは余裕の表情を崩さずに私たちを眺めた。


「なんでテメェがここにいるんだ!」


「なんでも何も。ここは私の鉱山だ。視察に来るのが当たり前だろう」


 川をさかのぼるルートでなければ、私たちと鉢合わせしなくても不思議ではない。うかつだった。

 武装兵たちはじりじりと距離を詰めてくる。クラウスのいない現状、私たちだけで労働者を守りながら勝てるだろうか?


 アルフォンスに目配せすると、彼は頷いた。


「控えろ、代官バルダス! 私は第二王子アルフォンス・アーネスト・ミーティス・アステリア。不正な銀鉱山の採掘及び、海の汚染の調査に来た!」


「なっ、王子殿下!?」


 バルダスたちに動揺が走る。


「王宮は既にお前たちの行いを把握している。既に監察官が派遣された。大人しく裁きを受けよ!」


 アルフォンスは王家の紋章が入ったメダルを掲げ、凛とした声で宣言した。

 これで相手が引いてくれればいいけれど……。


 だがバルダスは歪んだ笑みを浮かべると、アルフォンスを指さした。


「ククク……。何を言い出すかと思えば。王子殿下がこのような所に、しかもゴロツキのような輩を引き連れているわけがない。どうせ偽物だろう。者ども、かかれ! 王子殿下を名乗る不届き者を殺せ!」


 おおお……。なんというテンプレの悪役だろうか。本当にこういうセリフを吐く人がいるなんて。不覚にもちょっと感動してしまった。

 思わず「スケさん、カクさん、やってしまいなさい」と言いたくなる。

 しかし感動している場合ではない。こうなることを見越して、私は預かりものをしていたのだ。


 倉庫からそれを取り出す。長さ二十センチ程度の筒だ。

 先端部分をポンポンポンと三回叩くと、最初は弱く、次に勢いよく緑色の煙が吹き出た。

 私はそれを空に向かって掲げる。緑の煙が立ち上っていく。


「小賢しい! こけおどしだ!」


 バルダスと武装兵は一瞬だけ驚いたが、すぐに気を取り直して向かってきた。

 労働者をかばって、バーバラとラテが前に出る。武装兵たちの抜き身の剣がギラリと光った。


「バルダス、てめえ、どうして毒を垂れ流した! 海が死んじまうだろうが!」


 バーバラが怒鳴る。しかしバルダスは鼻で笑った。


「海などどうでもいい。ちまちまと漁業で税を取るより、銀を掘る方がよほど金になるのでな! 当たり前だろうが」


「そんな理由で……!」


 武装兵たちが距離を詰めてくる。


 しかし。

 ふと、鉱山の入口に影が差した。

 上を見上げた私の目に入ったのは、いくつもの大きな影。滑るように空中を飛んでいる。


「あれは飛竜!?」


 そう叫んだのは誰だったか。

 鉱山の上空に、三頭の飛竜が舞っていた。





 飛竜たちは急降下すると、バルダスらに向かってブレスを吐き出した。たちまち一団は炎に包まれる。

 飛竜は竜の中では下位種だが、強靭な体と炎のブレス能力を持っている。通常の人間ではまず勝てない。

 そして飛竜はアステリア王国において、王家直属の『飛竜隊』の象徴。

 アルフォンスが派遣を要請した彼らが、発煙筒の煙を見て駆けつけてくれたのだ。


「ぎゃああぁぁっ!」


 火だるまになった武装兵たちが地面を転がっている。

 飛竜は――というか、飛竜の乗り手たちは風向きや地形をきちんと計算に入れたようで、私たちの方へ炎は来ない。

 でもあれ、まずいんじゃない?


「バルダスが死んでしまったら、責任の追及ができませんよ!」


「分かっている。彼らもちゃんと対処をするよ」


 その言葉と同時に、火だるまになったバルダスらの上に大量の水が降り注いだ。飛竜の乗り手が放った水の魔法だ。

 無事に鎮火されたが、バルダスたちはもう動けない。


「殿下! ご無事ですか!」


 聞き慣れた声がして、飛竜の一頭から護衛の人が飛び降りてきた。

 飛竜たちは次々に着地する。乗り手たちが降りてきた。

 その中に、少し立派な身なりの女性がいる。彼女はアルフォンスの前までやって来ると、恭しく一礼した。


「王宮監察官、ご要請に応じて参りました」


「ああ。ご苦労」


「ここが殿下の書状にあった、密採掘の銀山ですか。確かにひどい有様です」


 彼女は周囲の様子を見て眉を寄せた。


「労働者への不当な虐待、そもそも労働者の募集も不当だったのでしょうね」


「それだけではない。港町シートンマスの住民への圧力、水銀毒の垂れ流しもある」


 アルフォンスと監察官の会話を聞きながら、私は不安になった。

 この中世レベルの社会で『公害』という概念はあるのだろうか? 前世でも公害は近年まで放置されていた。罰する法律は存在するだろうか。

 その内容を質問してみると、監察官は微笑んだ。


「シスターの言う『公害』は、確かに初めて聞く言葉です。しかしバルダスは私腹を肥やすために毒を撒き散らした。自分の利益のために他人を無差別に傷つける。海の環境を破壊したのも、毒を使った殺人や傷害の拡大解釈で裁けますよ」


「良かった……!」


 私はほっとして、一つ思い出した。


「あちらの製錬所の建物に、帳簿らしき冊子がありました。暗号で書いてありますが、港町にいる私の仲間が解読できます」


 冊子を差し出すと、監察官は真剣な表情で目を通した。

 それから彼女は飛竜と飛竜の乗り手たちに号令をかける。


「これより港町シートンマスに向かう。私の飛竜壱号は、アルフォンス殿下を同乗。弍号はバルダスらの見張りと労働者の保護を。参号はもう一度王都に戻り、犯罪者の連行に足りるだけの人手を連れてくること。以上だ」


「はっ!」


 飛竜の乗り手たちはすぐに行動を開始した。

 一頭は鉱山の前で伏せをして睨みを利かせ、もう一頭は大空に舞い上がっていった。


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