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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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94:集まっていく情報

「あたしゃよそ者が嫌いなんだ。わざわざ家にまで押しかけてきやがって。帰れ、帰れ」


 アマンダはしっしっと手を振った。柄の悪い婆さんである。

 バーバラは困ったように続けた。


「婆さん、そう言うなよ。こいつらはいい奴だ。この町のために骨を折ってくれている」


「あたしの知ったことじゃないね。前によそ者に痛い目にあわされただろう。もうああいうのはごめんなんだよ」


 取り付く島もない。

 ところがここで、ギルがすいっと前に出た。


「急に訪問したご無礼、お許しください。僕はギル、こちらのシスターはルシルといいます。この黒猫はラテ」


 アマンダは不審そうな目でギルを見ている。

 ギルは気にせずに花束を差し出した。


「赤色がお好きと聞いたので、赤の花束を用意してきました。お気に召すといいのですが」


「え? あたしに花束を?」


 アマンダは面食らった。差し出された花束を、思わずという感じで受け取っている。


「そちらの方にも用意すべきだったのに、気が付かず申し訳ありません」


 ギルは中年女性に向かってぺこりと頭を下げる。


「あの人はアマンダ婆さんの孫な」


 と、バーバラが教えてくれた。


「あんた、あたしが赤が好きだと何故知っているんだい」


「バーバラさんに聞きました。その赤いショール、よくお似合いですよ」


 アマンダは赤色の夏用ショールを羽織っている。よく似合っていると言われて、ちょっと頬が赤くなった。


「ふ、ふん。こんな婆あにお世辞を言っても無駄だよ。帰りな!」


「お世辞じゃありませんとも。お年を召してもなお美しい」


「ふざけてんのかい! 百歳の婆あを捕まえて!」


「ふざけてませんよ。僕は嘘は言いません」


 うーん、なんだこれ。何を見せられているんだろう、私は。

 老婆にもナンパの手を抜かない男、ギル。その根性はある意味、尊敬に値するが……。

 こっそりラテを見ると、チベットスナギツネのような顔で彼らを眺めていた。

 そうしているうちにもギルのアマンダへの籠絡ろうらく(?)は続き、とうとう陥落させてしまった。


「あーあー、もう分かったよ。花束はありがたくもらってやる。で? 何の用だって?」


「ありがとう、アマンダさん!」


 ギルは馴れ馴れしくソファの横に座った。

 孫の人が勧めてくれたので、私とバーバラも向かいの椅子に座る。


「教えて欲しいんです。この町の北に流れる川の近くに、鉱山などはないでしょうか?」


「鉱山……?」


 アマンダの目がキラリと光った。


「こりゃあまた、懐かしい話が出てきたもんだ。ああ、あるよ」


「……!」


 私たちは顔を見合わせた。

 アマンダが花束を手に言う。


「あたしの娘時代だから、かれこれ八十年以上前のことだ。銀鉱山が発見されたとかで、当時町じゅうが沸き立ったのさ。だが結局、埋蔵量はあっという間に尽きてね。五年かそこらで廃坑になってしまった。爺さん――あたしの旦那も銀に釣られて町に来たクチで、あたしと出会ったのさ。あたしと所帯を持っていたから、鉱夫から漁師に鞍替えしてね」


「鉱山、しかも銀ですか」


 アマンダのラブロマンスも微妙に興味があるが、やはりここは鉱山の情報だ。

 八十年前なら、若い人たちが知らないのも無理はない。

 銀であれば精製に水銀を使って不思議じゃない。


「廃坑になった鉱山が、再稼働したことはなかったんですか?」


「ないね。あたしも普段は忘れていたくらいだ。埋蔵量が尽きた時に調査をしようとしたらしいんだが、途中で崩落が起きてできなかったんだとさ」


「ううむ……」


 私は腕を組んだ。銀山が実在したとなれば、何かの拍子にまだ埋蔵量があると判明して、鉱山が再稼働した可能性がある。


「その銀山はどこにあるんですか?」


「川の上流を徒歩でさかのぼって丸二日。そこから北に数時間ってとこだ。山自体はそんなに大きくないが、地下に坑道を掘っているんだよ」





 アマンダと孫娘にお礼を言って、私たちは家を後にした。


「昔、銀山があったのか。これはいよいよ、水銀の毒が垂れ流されていると見て間違いなさそうだ」


 ギルが唸る。


「代官バルダスの帳簿に水銀の大量購入の記録があったということは、そいつが主体で銀の採掘をしているのでしょうか」


「まあ、そうだろうな。結局あいつが全ての元凶だった……!」


 バーバラがぎり、と歯を噛み締めた。

 宿に戻ってみんなにこの話を報告する。

 アルフォンスが深いため息をついた。


「バルダスは宰相サイラスの派閥に属している。それも私の記憶では、かなり初期から傘下に入っていたはずだ。バルダス自身は役職は代官に過ぎず、国政の場で立場がない。おそらく宰相に献金を増やして、自分の立場を強化するつもりだったのだろう」


「ちょうど今、食料ギルドが大打撃を受けたからね。宰相はかなり困っているはずさ」


 ギルも続ける。


「海が汚れ始めたのは二、三ヶ月前。食料ギルドの没落時期と多少前後しているが、今の代官は張り切っているだろうね。何せ基盤が弱まった宰相に恩を売れば、それだけ立場が強くなるから」


「金とか、立場とか。そんなもんのために海を汚したのか」


 バーバラの声は低い。怒りに満ちていた。


『小さき命を奪った罪、罰を与えねばならぬ』


 ラテも言う。

 アルフォンスが続けた。


「銀の採掘は国王の許可が要る。私はこの話を知らない。まともに許可を取ったとは思えないね。……父上に、いや、王宮に書状を送ろう。監察官の派遣を要請する。銀の密採掘と汚染の放置、これだけで十分に重罪だ」


 彼はさっそく紙を取り出して、さらさらと書き始めた。

 緑の瞳には真剣な光が灯っている。王族の威厳が感じられた。


「思ったんですけど、バーバラさんの仲間の漁師さんたち。鉱山に送られている可能性はないですか?」


 私が言えば、バーバラがこちらを見た。

 代官と揉めた一件で、何人かの漁師が捕縛されたまま未だ帰ってきていないのだ。


「あり得るな。国に無許可で採掘してやがるんだ。人手だってまともな方法じゃ募集できねえだろ」


「じゃあ、その人たちの救出も必要ですね」


 アルフォンスが頷いて、要請の書類に書き足していく。


「よし。それではこれを早馬で王都へ送らねば」


 完成した書類に封をした、ちょうどその時のこと。


 バタン! と乱暴に宿の扉が押し開けられる。

 血相を変えた漁師が宿屋に飛び込んできた。


「大変だ、化け物だ! 化け物が港に出たぞー!!」



今後はなるべく1~2日に1話投稿を目指しつつ、ちょっと不定期になります。

カクヨムで先行していますので、そちらもどうぞ。


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