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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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86:味噌汁作戦会議

 バーバラは首を傾げながら味噌汁を飲み、ブハッと噴き出した。

 うぉぅ、汚い!


「はぁ!? そこの兄ちゃんが王子様だって? 冗談も休み休み言えよ、おい」


「声が大きい。代官の手の者に聞かれたくないんだ、小さい声で言ってくれ」


 バーバラはアルフォンスの言い分を無視して、私に聞いてきた。


「おい、シスター。本当なのか?」


「ええ、残念ながら」


「ルシル、残念ながらとはどういう意味かな」


 アルフォンスの笑顔がちょっと怖い。キラキラしているくせに微妙に黒いオーラを出すという器用な真似をやっている。

 いや、だって、めんどくさいじゃない。私だって王子様を連れて食材買付の旅に来たくなかったのよ。


「色々気を使って大変だから、という意味ですよ」


「気など使わなくていいと言ったのに」


 ここでひょいとギルが口を挟んできた。


「このお方が王子殿下なのは本当だよ。で、僕たちが食材仕入れに来たのも本当。王子殿下とはちょっとご縁があってね、お忍びで旅行気分を味わう予定だったんだよ」


 ここでバーバラにウィンクを飛ばす。


「それに、美人さんが困っているのを放っておけるわけがないだろ?」


「はぁ!?」


 バーバラはちょっとのけぞった。頬が赤い。


「誰だよ、美人って!」


「もちろんバーバラさんだよ。背が高くて力強くて、実に美しい。惚れ惚れしたね」


「ば……馬鹿野郎!!」


 ばちこーん!

 バーバラの張り手が炸裂して、ギルは吹っ飛んだ。

 漁師たちがヒソヒソしている。


「あの兄ちゃん、怖い物知らずだな」


「頭のネジが飛んでるんじゃねえの。お頭を口説こうとか」


「き……君たち、それは言いすぎだろ。バーバラさんは美しい。これは真実だ!」


 吹き飛んだ先でヨレヨレのギルが宣言して、バーバラは顔を真っ赤にした。

 まぁ別に口説いているわけではないと思う。ギルはいつもあんな感じだ。レディファーストもここまで徹底するなら、見上げた根性である。


「彼のことはともかく。まさかシートンマスがこのような状態だったとは」


 アルフォンスはギルの言動を華麗にスルーして、頭を振った。


「シートンマスの代官バルダスは、私の知る限り、宰相の派閥の役人だ。兄上と宰相は食料ギルドで集めた金を使って、各地の役人を買収している。自分たちの基盤を固め、国政を牛耳るために」


「バルダスが買収されたかどうかは知らねえよ。あいつは昔から悪どかった。態度が悪化したのは、確かに最近だがな」


 バーバラが舌打ちする。

 私は考えながら言う。


「海が変になってしまったのも、割と最近ですか?」


「そうだな。二、三ヶ月ってとこか」


「何か関係があるんでしょうか……」


「分からん。だいたい、どうして海がこんなことになっちまったのか、分からねえんだ」


「じゃあやっぱり、調査ですね。海の異変の原因を調べるのと、あとは代官に捕まった人がどうなっているか」


 私が言えば、アルフォンスは頷いた。


「ああ。代官の不正を裁くにも、しっかりとした証拠を揃える必要がある。今、私が身分を明かして介入しても、言い逃れをされてしまっては意味がない」


「あんたら……」


 バーバラが言葉を詰まらせた。

 先ほどまでの怒りと憎しみの光はもう消えて、かすかな希望を追う瞳になっている。


「ありがたい……。さっきまでの無礼を許してくれるだけじゃなく、力を貸してくれるなんて。あたしらにできることなら、何でもする。何でも言ってくれ!」


 いつの間にか、周囲には漁師たちが集まっていた。口々に言う。


「ありがとう、シスター、王子さん。俺らも何でもやるぜ」


「俺もだ!」


「シスターの鍋を食ったからな。力が出るぜ!」


 つい先ほどまでのおどおどとした態度は、すっかり消えている。力強い海の男たちがそこにいた。

 私はパンと手を打ち合わせた。


「よーしそれじゃあ、食べながら作戦会議といきましょう。海の異変の原因を見つけて、元通りにできるように。横暴な代官をとっちめて、捕まっていた人々が帰ってくるように。力を尽くします!」


 今の段階じゃ「できる」と断言はできない。特に海の異変は未知数だから。

 それは漁師たちも分かっているのだろう、それでも頷いてくれた。


「ああ、まずはやらないことには、始まらないからな」


「一歩前進ってやつだ」


 みんなで鍋を囲んで、これからの方針を話し合った。





 味噌汁作戦会議にて、方針が決まった。

 一つ。海の調査と代官の調査は、同時並行で行う。

 二つ。海の調査はバーバラと私、ラテ、クラウスがメイン。

 三つ。代官の調査は、アルフォンス(と護衛の人)とギルがメインになる。どちらも漁師たちはサポート役だ。


 役割が与えられなかったフィンとミアは、不満顔である。

 けれども危険が伴う調査に、子供たちを巻き込むわけにはいかない。


「ミアは、食べられるお魚を見分けて取っておいて。また料理するからね。フィンは、そのうち代官の帳簿なんかをゲットできたら確認をお願いするわ」


 そう言い聞かせて、港町で留守番を頼んだ。

 宿屋に受け入れてもらえたので、そこを拠点にする。港町の人々と、乗ってきた馬車の御者が双子の面倒を見てくれることになった。

 といってもあの子たちはしっかり者なので、特に手がかかることはないだろう。


「それじゃあ、行ってくるね!」


 味噌汁作戦会議の夜から明けて、翌朝。

 私は港に立っていた。

 目の前にはバーバラの漁船がある。他の漁師の船よりも一回り大きい、立派な船だ。


『どうして吾輩が海に出なければならんのだ……』


 ラテはまだ、ぶちぶちと文句を言っている。


「仕方ないでしょ。ミアを連れていけない以上、ラテの微生物への感覚が頼りなんだから」


 海の毒は微生物(プランクトン?)をも蝕んでいる。となれば、プランクトンの命の力を感じ取れば、毒の原因や源流が分かるかもしれない。


「ラテ。心細ければ、俺が抱っこしてやろう」


 クラウスは通常運転だ。ラテは背中の毛を逆立てた。


『いらんわ。心細いわけがあるか。揺れるのと水が嫌いなだけだ!』


 しょんぼりしたクラウスを尻目に、ラテと私は船に乗り込んだ。

 漁船としては大きいとはいえ、前世の大きな船とは比べ物にならない。木製の甲板がゆらゆらと揺れている。ラテは落ち着かない顔になった。


「全員乗ったか? 出発するぞ!」


 バーバラが声を張り上げる。


「もやい綱を解け。漕ぎ手、用意! 沖まで出る!」


 彼女自身もオールを手にして、漁師たちを力を合わせて漕ぎ始めた。


「ルシルー! 気をつけて行ってきてねー!」


 埠頭でフィンとミアが手を振ってくれたので、振り返した。

 漁船はだんだん加速して、港町が離れていく。

 船の後には白い波の軌跡。目の前に広がるのは青い空と濁った色の海。

 私たちの海の冒険が始まった。




読んでくださってありがとうございます。

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