表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/110

84:港町の裏事情

 味噌が溶けていくと、具沢山のお味噌汁の良い匂いが漂った。折から潮風が吹いて、町の方へと広がっていく。

 魚の旨味がたっぷり溶け出して、味噌のコクのある味と調和している。


「名付けて『特製・漁師鍋風お味噌汁』、完成!」


「わーっ!」


 フィンとミアが手を叩いた。

 と。


「いい匂いがする……」


「お魚と、何の匂いだろ?」


「おなかすいた。おいしそう」


 見ればいつの間にか、町の子供たちが集まってきていた。

 みんな貧しい身なりで、継ぎ当てだらけの服を着ている。痩せている子が多い。この町の漁師や平民の子供たちだろう。

 彼らは湯気の立つ鍋をじっと見つめて、ごくりと喉を鳴らした。


 私はにぱっと笑って、彼らを手招きした。


「みんなおいで! 美味しいスープがあるよ!」


「食べていいの?」


「もちろん。みんなで食べるために、たくさん作ったんだもの」


「わあい!」


 子供たちが目を輝かせて、駆け寄ってくる。

 ところが。


「待ちな!!」


 鋭い叫び声が響いた。声のした方を見ると、漁師たちが血相を変えて走ってくる。


「よそ者から食い物をもらうなんぞ、罠に決まってるだろ!」


「きっと毒が入っている! 殺されるぞ!」


 親たちは子供の腕を掴んで、自分たちの方へ引き寄せた。親の剣幕に驚いて、子供たちが泣き出す。

 いや、なにこれ。

 よそ者が警戒されてるのは知ってたけど、殺されるまで言う? ただの炊き出しですが?

 私が戸惑っていると、漁師たちを押しのけて人影が現れた。


「テメェら、まだこの町にいやがったのか!? 勝手をするな!」


 昼間の女性――漁師組合長のバーバラが、烈火のような怒りを両目に灯して立っていた。

 改めて見ると、やっぱり迫力のある人だ。女性ながらに身長は百八十センチを超えているだろう。

 かまどの火とランプの明かりに照らされて、筋肉の陰影がしっかり見える。無造作に束ねた紅色の髪が、炎のように揺れていた。


 彼女は味噌汁で満たされた大鍋を睨みつけた。


「今度は毒入りスープで、ガキどもを殺そうってか!? させるかよ、この外道が!!」


 バーバラは吠えるように叫ぶと、長い脚を振り上げた。鍋を蹴り倒す気らしい。

 待て待て待て! そんなことしたら、あんたが火傷するよ!

 しかし私が止める間もなく、蹴りは鋭い動きで振り下ろされた。ぶちまけられる味噌汁と火傷する彼女が脳裏に浮かんで、思わずぎゅっと目を閉じる。


 ガキン、と鈍い音が響いた。

 おそるおそる目を開いてみると、そこにはバーバラの蹴りを剣の鞘で受け止めるクラウスがいた。


「あいつ、お頭の蹴りを止めたぞ……」


「ありえねえだろ、何者だよ」


 漁師たちがざわめいている。

 クラウスは眉をしかめた。


「馬鹿力だな、大女。料理を粗末にするな」


「あぁ!? 邪魔すんじゃねえ!」


 押し返されたバーバラは、たたらを踏んだ。相変わらず怒りの形相だが、少し気勢を削がれたようだ。

 よし、今だ!


「ちょっと待って! 毒入りとか殺されるとか、何の話ですか。私たちはただの料理人ですよ。今日、このシートンマスの町にやって来たばかりで、わけが分かりません!」


 私は必死の思いでバーバラの前に立った。この人の蹴りをまともに受ければ、私なんか吹っ飛びそうだけど。それでも話をしないことには始まらない。

 フィンとミアが飛び出してきて、私を守るように二人で立った。


「ルシルはいい人だよ! 王都でいっぱい人を助けてきたもん!」


「ルシルの料理はおいしいよ! 食べてみればいいんだよ!」


「……チッ」


 バーバラが舌打ちして少し下がる。さしもの彼女も小さな子供相手に暴力を振るう気はないようだ。


「事情を聞かせてください。どうしてここまで、よそ者を敵視するんですか」


 私が重ねて問うと、漁師たちがざわざわと声を上げた。


「お頭、どうします」


「話してみますか……?」


 バーバラは迷うように視線をさまよわせた。私、フィンとミア、大鍋を順に見る。

 そうしてしばし、射殺しそうな目で私を睨みつけた。


「あたしたちはただ、王都に助けを求めようとしただけだ」


「え?」


「少し前の話だ。海がおかしくなって、魚が獲れなくなった。それなのに代官の野郎は、変わらず税を取り立てようとしやがる! だから王都の王様に嘆願書を出して、税の免除を頼むつもりだった」


 彼女は背後の漁師たちを振り返った。誰もが不安そうに私たちを見ている。


「そんな時、王都の商人を名乗る奴がシートンマスの町に来た。帰るついでに嘆願書を届けてやると言ってな。あたしたちは信じ切って、嘆願書を渡した。ところがそいつは、代官の手先だったんだよ!」


 バーバラの瞳に再び怒りが灯った。


「嘆願書は握りつぶされ、仲間たちが『役人への反逆罪』で何人も捕まった。あたしもそうさ。そこの広場でこっぴどく鞭打ち刑にされた! でも、あたしはいいんだ。こうして帰ってこれたからな。捕まった仲間たちの中には、今でも帰ってこない奴がいる。代官を問い詰めようにも、人質を取られているようなもんだ。どれだけ無茶を言われても、従うしかない!」


「そんな……」


 よく見ればバーバラの肩口には傷跡がある。細くて長い傷だ。あれは鞭打ちの跡だったのか。


「これがよそ者を嫌う理由だ。分かったか? あんたらは別に、代官の手先じゃないのかもしれない。だが、そんなの証明できないだろ! もう関わりたくねえんだよ!」


 バーバラは吐き捨てるように言った。拳がぎりぎりと音を立てそうに強く握りしめられている。

 そういうことだったのか。バーバラはリーダーとして、漁師と町の人々を守らないといけない。素性のはっきりしない私たちを信じるわけにはいかず、追い払うしか選択肢がなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ