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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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83:お魚のお味噌汁

 市場に戻ると、元々少なかったお店はほとんど閉まっていた。

 その中の一軒、店じまいをしている最中のお店があったので駆け寄る。


「親父さん、まだ買い物できますか?」


「あぁ? あんたらは昼間のよそ者か。別にいいが、わざわざ買うようなもんはねえぞ」


 親父はなげやりな口調で言った。

 半ば片付けられた木箱の中には、雑魚と言っていいような魚がちらほらあるばかり。


「ミア、出番よ」


「うん!」


 ミアが木箱の前にしゃがみ込んだ。真剣な表情でくんくんと匂いを嗅ぐ。


「このお魚は、だめ。ピリピリするにおいがする」


 濁った瞳の魚をつまみ上げて、横に置く。その魚は油膜のような、変なテカった感じがする。


「これはへいき。おいしそう」


 次の魚は痩せてはいるが、目は澄んでいた。


『ふむ。相変わらず、ミアの鼻は正確だ。推測するに、海の中に毒を含む流れとそうではない場所があるようだな』


 ラテも隣に立って確かめている。

 ふと見れば、お店の奥の方にも木箱が置いてある。茶色の葉っぱみたいのが雑に詰め込まれていた。


「親父さん、その葉っぱは何ですか?」


「海草だよ。海の厄介者だ。漁網に絡まったから、仕方なく店で外していた」


 海草! そいつはよく見ると、昆布に似た形をしていた。


「ミア、ミア! これも食べられると思う?」


「ん。だいじょうぶ」


 ミアに確認してもらった後、私はそれをちょっとかじってみた。ツヤツヤで肉厚の葉っぱの先端を口に入れると、磯の香りが広がる。

 これは懐かしい昆布の味!


「親父さん、これ、箱ごと全部ください!」


「あ? そんなん買うのか? そいつはゴミだ。別にタダでいいが」


「駄目です。ゴミなんてとんでもない。これはとってもいいものですから、きちんと値段を決めましょう」


「へぇ、それがルシルのお眼鏡にかなった食材?」


 ギルが覗き込んできた。


「どういうふうに使うんだい?」


「ダシを取るのよ。旨味の元ね。かつお節――魚の燻製と合わせれば、とってもいいスープの元になるの!」


「となると、かなり幅広い料理に使えるか。重要な食材だね。……親父さん、こいつは海でよく採れるのかい?」


「あぁ、まあな。といっても今は、魚と同じで量が減ってるが。海の底の岩から生える」


 天然物の昆布の生態に近い。これは期待できそうだ。

 ギルは早速商談に入った。


「親父さん、この海草を定期で仕入れたいんだ。僕らの店は王都じゃけっこうな人気でね。需要は高いから、量も必要になる」


「本気かよ? そんなん言われてもなぁ……。俺の一存じゃ決められん。お頭、おっと、漁師組合長に話してくれ」


「組合長さんというと、昼間の赤い髪の美人さんかな?」


「ははっ! 兄ちゃん、お頭を美人だなんてよく言うぜ。本人の前で言うなよ。ぶん殴られるからな! あの人は人呼んで赤鬼のバーバラ。うちの自慢のお頭さ」


 私たちが実際に小魚を買って、しかも使い道のなかった海草にまでしっかりお金を出そうとしているのを見て、店の親父は少し警戒心を解いてくれた。

 ギルは私の料理人の勘を信じて、見慣れない食材でも話をまとめてくれる。信頼が嬉しい。


「じゃあ、定期的な仕入れはバーバラさんと話し合うとして。今はお試しで買っていくよ。ルシル、どのくらい買う?」


「もちろん箱ごと!」


 私には絶対倉庫がある。お金だって、今は余裕がある。たくさん買っても何の問題もないね。

 気前よく銀貨を支払うと、店主の親父は顔をほころばせた。


「ありがてぇ。これで明日の飯が食えるぜ。……ただ、他の漁師連中はよそ者を嫌っている。最近色々あってな。仕入れの話は難しいかもしれんぞ」


「大丈夫ですよ。今日はそのために買い物したんですから」


 私がにやりと笑うと、親父は不思議そうに首を傾げていた。





 市場から港の方に少し移動して、埠頭の手前まで来た。

 もう辺りはかなり暗くて、空も茜色から夜の紺色に移り変わっている。

 けれど今日は月が満月に近い。月が登れば明るくなるだろう。


「さて。割れ鍋亭クッキング、開始!」


 私は倉庫から、大きな鍋とかまどを取り出した。レンガと土で作った、持ち運びできるようになっているかまどである。

 港の地面にかまどを置いて、火を入れる。

 鍋にはやはり倉庫に入れておいた水を入れた。


 昆布と水の比率は、水に対して二パーセントほどの昆布がいいとされている。水一リットルに対して二十グラムというところ。

 日本で売っているような干した昆布であれば、しばらく水に漬けておくのだが、これは生。そのへんはもう仕方ないと割り切ろう。

 水に昆布を入れて、火にかける。

 私はその間に、魚の下ごしらえだ。フィンとミア、ギル、クラウスが手伝ってくれた。


「私もやろう」


 アルフォンスが腕まくりをしたので、護衛の人がオロオロしている。うん、王子様が包丁持つと危なっかしいよね。


「こっちは人数が足りているから、アルフォンスは鍋の火加減を見ていてくれる?」


「そうかい? 私も剣さばきには自信があるんだが」


 いやいや、剣じゃなくて包丁だから。


「あ、私は包丁を手伝いますよ。騎士見習い時代に雑用で料理経験があるので」


 護衛の人が手を挙げたので、頼むことにする。

 捌くのは小さな魚ばかりで、手早く片付けられそうだ。

 護衛の人が魔道具のランプで明かりをつけてくれた。さすが王子様の側近、気が利くな。


 魚は水で洗ってウロコをこそげ落とし、三枚に下ろす。上下の身から内蔵を取り除き、骨を切り取る。

 最後に身から皮を剥がして、いっちょ上がりだ。

 フィンとミア、ギルはたどたどしい手つきで、クラウスと護衛は刃物慣れしているのか安定した感じで、作業を進めてくれた。


「おっと、そろそろ沸騰しそうね」


 お湯が沸騰する直前に、一度火を止める。昆布を取り出すと、きれいな黄金色のダシ汁が鍋に満ちていた。


「いい匂い……」


 鍋の湯気に顔を近づけて、ミアがうっとりと言った。


「ほう。あの茶色い海草が、こんなに澄んだ色になるのか」


 クラウスも感心している。

 私はそんな彼らを尻目に、下ろした小魚を鍋に投入した。

 ついでに倉庫から人参やじゃがいも、玉ねぎを取り出して、皮を剥いて追加する。

 もう一度火を入れる。もくもく出てきたアクを取り除いていった。


「仕上げは、これ!」


 そうして倉庫から取り出したのは、ラテ特製の味噌だった。

 具材に火が通ったのを確認し、火を止める。大きな鍋なので、お玉じゃ追いつかない。私は小さな鍋を取り出して、味噌を溶かし入れた。


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