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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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45/50

45:真実のかけら

「宰相と、ヴェロニカ院長……?」


 私が思わず呟くと、アルフォンスは首を振った。


「あくまでスタンリー侯爵家が宰相の派閥だというだけだ。何か明確な証拠があるわけではないよ」


「アルフォンスさんは、どうしてそこまで知っているんですか。貴族なら常識?」


「あー。いや、どうかな」


 アルフォンスは迷うように視線をさまよわせた。後ろで護衛の人が微妙な目つきをしている。なんじゃ。

 結局彼は何も言わず、話を変えた。


「食料ギルドの話はともかく、シスター・ルシルの兵糧丸が警備兵を救ったのは事実だ。風邪の時のおかゆといい、君の料理は、本当に人々を元気にする力があるんだね」


「ありがとうございます。私は私にできることがしたくて」


「自分にできること、か。すごいね、君は」


 なんか褒められまくって落ち着かない。

 でも……嬉しかった。アルフォンスは私をただの落ちぶれたシスターではなく、料理人として認めてくれている。こうして頑張って起こした行動も褒めてくれた。


「ルシルはすごいんだよ。毎日がんばって、いっぱいお料理つくってる」


 ミアが口を挟んだ。


「わたしとフィンをひきとって、おしごとをくれた。だからわたし、お父さんとお母さんがいなくても、さびしくないの」


「ミア……!」


 感極まってミアに抱きつくと、だいぶ迷惑そうな顔をされてしまった。


「だっこはいいから、今日の夕ごはんにフルーツのハチミツ漬け、つけて」


「オッケー! いっぱいつけちゃう」


「ちょろい」


「え? 今何か言った?」


 そんな私たちのやり取りを、アルフォンスは微笑みながら見ている。

 上品な笑みだ。さすがはお貴族様、王子様スマイルが絵になっている。ちょっとまぶしいくらいである。歯とか光りそう。


「それにしても、この兵糧丸はおいしいな。味付けもいくつかあるとか?」


「はい。甘い系ならこっちのフルーツがたくさん入ったやつ。しょっぱい系なら魚粉が入ったこれがおすすめですよ」


「一通りもらおう。後で食べ比べてみる」


 えー、お貴族様なのに?

 優雅なアフタヌーンティーの皿の上に兵糧丸が乗っているのを想像してみる。シュールである。

 アルフォンスは数種類の兵糧丸を受け取って、袋に入れた。銀糸の竜が刺繍がしてある豪華な袋だった。





【アルフォンス視点】



 シスター・ルシルの屋台を去って、私はもう一つ、兵糧丸を口に入れた。

 ほどよい噛み応えが楽しい。噛むたびに色々な味がして、小さな団子に旨味が凝縮されている。

 もぐもぐと噛みながら歩いていると、護衛がため息をついた。


「アルフォンス殿下。食べながら歩くなど、行儀が悪いですよ」


「構うものか。この兵糧丸は、元々そういう食べ物だろう。お前も食べてみろ」


 フルーツ入りの兵糧丸を一つ手渡すと、護衛はしばし疑問の眼差しでそれを見つめてから、やっと口に入れた。


「これは……! 見た目の無骨さに反して、優しい味です。フルーツとハチミツの甘さ、それからミルクの風味が合わさって、まるでデザートのようだ」


 この護衛は見た目によらず、甘党なのだ。甘い系の兵糧丸が気に入ると思った。


「あのシスターは大したものだよ。おかゆの時といい、今回といい。料理一つで問題を収めてみせた」


「そうですね……」


 だが、またもや気になる話を聞いてしまった。食料ギルドの問題だ。

 食料ギルドの腐敗は話に聞いていたが、警備兵の支給品まで粗悪品にするとは。

 宰相の派閥は、すなわち兄である王太子の後ろ盾。必要経費をケチってまで、政治資金を集めているのだろうか。


 これは対処が必要な案件だろう。

 表立って兄上の派閥と対立したくないが、父上にきちんと奏上しなければ。


 護衛が言う。


「殿下。いっそ、あのシスターを取り込んではいかがでしょう。ヴェロニカ院長のことも、何か知っているかもしれません」


「……いや」


 私は首を横に振った。

 実はそれは私も考えたのだ。私の勢力は兄上に比べれば小さい。市井の協力者もほしい。

 だが、ルシルの明るい笑顔が浮かぶ。子供たちや猫と屈託なく笑って、人々に慕われていた姿。

 彼女は私を貴族だと思っているようだが、他の平民がやるような線引きをしなかった。平民は貴族だと知れば、すぐに心を閉ざしてしまうのに。ルシルはまるで、身分差がない国からやって来たような自然さで接してくれる。


 だがそれでも、私が第二王子だと知れば態度を変えてしまうだろう。

 せっかく出会えた友人に、距離を取られたら悲しい。


「私の事情に巻き込んで、彼女を危険にさらしてはいけない。あくまで私はただのアルフォンスとして、友人づきあいをしたいと考えている」


「は。そういうことであれば。……ところで殿下、さっきの兵糧丸をもう一ついただけませんか」


「駄目だ。これは私のだからな」


「ケチですね!」


「うるさいぞ」


 私たちはそんなことを話しながら、王城へ戻っていった。





【ルシル視点】



 その日の夕方、屋台の店じまいをする私の元を、なじみの警備兵が訪ねてきた。


「あ、ごめんなさい。今日はもう売り切れで」


 私が言うと、警備兵は首を振る。声を潜めて言った。


「ルシルさん、少し気をつけた方がいい」


「え?」


「君の兵糧丸のせいで、食料ギルドの連中がカンカンになってるらしい。『俺たちの顔に泥を塗りやがって』って、君の店のことを嗅ぎまわっている連中がいるそうだ」


 食料ギルド。

 どうやら、彼らと対決する羽目になるかもしれない。


(望むところよ。美味しい料理で人を笑顔にすることの、何が悪いの!)


 ただ、うちの店にはフィンとミアがいる。あの子たちに危険が及ばないよう、注意しなければ。

 もしも本当に妨害が入るなら、冒険者を用心棒で雇ってもいい。

 とにかく、引き下がるつもりなんてない。


 ふと見ると、ラテが散歩から戻っていた。夕焼け空を見上げている。


「ラテ。今日はもう帰るよ」


 返事がない。

 彼はぐるりと首をめぐらせて、王城のある方角をじっと見つめた。


「ラテ?」


『……まただ。この町の淀み、確実に濃くなっている』


「でも兵士さんたちは、魔物の討伐はもう終わると言っていたよ」


『……』


 ラテは答えない。たぶん彼にも、はっきり何があるとは言えないんだろう。


 見えない敵と、食料ギルド。

 それらを前にして、私のやることは一つだ。


 店に帰ったら、また料理をしよう。フィンとミアとラテと、あとついでにクラウスを巻き込んで、楽しくクッキング!

 今はそれだけが、私のできることだから。




読んでくださってありがとうございます。

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