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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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43/48

43:無料配布

「うまい! めちゃくちゃうまいぞ! 歯ごたえは固すぎず柔らかすぎず、甘くてしょっぱくて、色んな味がする! あれ、腹に落ちたら何だかポカポカするし」


「ショウガが入っていますからね。もう春も折り返しだけど、朝晩は冷える時もあるから」


 私が言うと、若い兵士は激しく頷いた。


「夜の討伐は冷えるんだ。雨が降ったら最悪でさ。それなのに、食い物といえばカビた黒パンだけで……」


 うむ、それは気の毒の一言である。


 そうこうしているうちに、他の警備兵たちも兵糧丸に手を伸ばした。

 最初はおっかなびっくり、次に口に入れればパアッと顔を輝かせている。


「小さい割に腹に溜まるな。三つ四つ食えば食事代わりになりそうだ!」


「体の底から力が湧いてくるぞ」


「何より、うめぇ~」


 みんなが三つ以上食べて、げふぅと満足そうな息を吐いた。

 私はにやりと笑った。


「麦をベースに、ハチミツや色んな薬草を入れていますからね。栄養たっぷりで元気が出るでしょ?」


「出る、出る」


「ケバブサンドも美味いが、これはまた違うタイプのうまさだ」


 最後まで抵抗していた小隊長も、部下たちに押さえつけられるようにして口に入れられた。


「おぉ……美味い」


 口を押さえてもぐもぐしている。早速二つ目に手が伸びていた。


「シスター、これ、兵糧丸か。日持ちがするって言ってたね」


 中堅の兵士が言う。


「ええ。三、四日程度なら問題なく食べられますよ。三日後にまた来ますから、必要な分だけ置いていきますね。あ、今、味変してドライフルーツやナッツを入れたバージョンも開発中なんです」


「それはありがたい。お値段はいくらだ?」


「タダでいいですよ!」


「えっ」


 兵士たちが絶句した。


「いや……そんなわけにはいかないだろう。これを作るにも、お金がかかるはずだ。シスターの店が潰れてしまったら、申し訳が立たない」


 小隊長が言うが、私とミアは首を振った。


「大丈夫です。そこまで原価が高いものではありませんから。それに何より、王都の平和を守っている警備兵のみなさんが、カビた黒パンを食べて倒れてしまったら大変ですもの」


「タダは、今だけだから」


 と、ミアも続けた。


「今は、おためしはいふ。気に入ったら、お金だして買ってね」


「もちろんだ。じゃあお言葉に甘えて、今はタダでもらっておくよ」


「どうぞ、どうぞ」


 警備兵たちが群がってくる。私とミアは彼らが差し出す小袋に、兵糧丸を入れていった。


「一食三つとして、一日で九個。きりよく十個かな」


「うん」


 ミアから袋を受け取った兵士は、ぎゅっと袋を握りながら言った。


「はー、ありがたい。これでまた戦える!」


「でも、くれぐれも無理はしないでくださいね」


「大丈夫。相手の魔物は数がけっこう多いが、そこまで強い奴らじゃないから。俺たちの体力がしっかりしていれば、負けないさ」


 小隊長も力強く答えてくれた。


「よし。それじゃあまた討伐に行ってくるよ」


「気をつけて!」


 元気を取り戻した警備兵たちは、勇ましい足取りで城門を出て行った。

 その後姿を見送りながら、私はミアに言う。


「私たちは、次の詰め所に行こう。兵糧丸を配れるだけ配らないとね」


「うん! またどろだんごって言ったら、むりやり口に入れてあげないとね!」


「あはは! その通り!」


 こうして私たちは警備兵の詰め所を片っ端から訪れて、兵糧丸配りを続けた。





 その日一日で行けるだけの詰め所に行き、兵糧丸を配布しまくった。

 みんな最初は泥団子の見た目にビビっていたが、食べてみれば美味しさが分かる。


 配布が終わった後は、割れ鍋亭で次の日の兵糧丸を作った。


「ブルーベリーのドライフルーツ、おいしいよ」


『ヨーグルトを練り込むのはどうだ』


「フルーツやヨーグルトだとデザート系かな? 魚粉やお味噌を多めに入れて、お食事系の味もいいわね」


 基本のプレーンなものを量産しつつ、新しい味の開発も余念がない。


「こんにちは、ルシルちゃん。新しいお料理を作っているそうですね」


「あ、ナタリー」


 ナタリーもやって来た。


「滋養強壮効果があって、味もそんなにクセがない薬草。選んできましたよ」


「わあ、助かる!」


 ナタリーが持ってきてくれたのは、いくつかある。

 まず、星ニンジン。輪切りにすると中央部分が星の形になっているニンジンで、疲労回復と滋養強壮に効く。

 次に蓮の実。干した蓮の実はほんのり甘くて、疲労回復とリラックス効果があるそうだ。

 最後にシナモン。薬草というよりスパイスの一種で、体を温める発汗作用がある。私としては抗菌作用もあると知っている。


「どれもいいものじゃない。ナタリー、こんなに持ってきて大丈夫?」


 少し前までの施療院は、薬草の融通に苦労していたのに。

 けれどナタリーは明るく笑った。


「大丈夫ですよ。以前、神官長様が施療院にいらっしゃって、ヴェロニカ院長が不当に値上げした寄付の分だけ、薬草を買う予算に還元してくださったのです。これからも民のために働きなさいと仰せでした。警備兵さんたちも、市民のために働いているのですものね。問題ありませんよ」


「そうだったんだ、ありがとう! 今は無償配布だけど、そのうち安価で売ろうと思ってるの。お金取るようになったら、材料もちゃんと買うね」


「ええ、そうしてください」


 ナタリーも兵糧丸づくりを手伝ってくれて、ずいぶんとはかどった。持つべきものは友だちだ。

 さあ、明日は新作の味を持って行こう。


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