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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第4章

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42/50

42:泥団子?

「おいしい! 甘くてしょっぱくて、元気のでるあじ」


 兵糧丸を一つ口に放り込んで、フィンがにこにこと笑った。


「ラテのお味噌が、かくしあじにきいてる」


 ミアも頷いている。


「風味豊かで、携帯食とは思えん味だな。小さい割に腹に溜まる。遠出の冒険に持っていきたい」


 と、クラウス。何気にもう三つも食べている。

 私も一つ、口に入れてみた。


 蒸した小麦や大豆の香りが、口の中に広がる。ハチミツの甘さとショウガやゴマの風味が加わって、鼻に抜けていく。こんなに小さいのに豊かな味わいだ。

 隠し味の味噌の風味としょっぱい味が、何ともクセになる。

 蒸した材料は弾力があって、噛み応えも楽しい。

 ごくんと飲み下せば、ショウガや薬草類の効果でお腹がぽかぽかと温まった。


 なおラテは猫舌なので、まだちょっとだけ熱い兵糧丸を食べて、


『アチッ! うぉアチッ!』


 と悶絶していた。


「ラテ、だいじょーぶ?」


 ミアが心配して皿に水を入れて差し出している。ラテはぴちゃぴちゃと飲んで、ようやく落ち着いたようだ。

 みんなが一通り食べて、満足そうな顔をしている。


「本当は日持ちをさせるために、天日干しにするんだけど。二、三日程度で食べきるなら、このままでいいと思うわ」


 三日のローテーションであれば、警備兵の詰め所を回れっていける。

 とりあえずこの基本の兵糧丸を持っていって、次は色んな味変したものを作ってみよう。


 私はできあがった兵糧丸をカゴに盛って、倉庫に詰め込んだ。


「よーし、完成!」


 これはあくまで警備兵への差し入れだ。それに見た目がちょっと変わっているので、とっつきにくいだろう。

 最初はタダで配布して、慣れてもらうのを優先することにした。

 ケバブサンドもそんなに高いものではないが、こちらはより安価。お財布への負担が少なく、しっかりと栄養を取ってもらえる。

 

「タダより高いものはない。タダでくばって、心をガッチリつかめ。お父さんのくちぐせ」


「タダだけど、これは投資。小さく種まきして、大きくしゅうかく。お母さんのくちぐせ」


 フィンとミアが頷いている。

 私も両手を振り上げた。


「これで警備兵さんの士気をガツンと上げて、魔物をきっちり退治してもらおう!」


「おーっ!」


 料理で人々を支え、町の問題を解決する。

 私の挑戦が、再び始まろうとしていた。





 翌日、私は旅するキッチンに兵糧丸をたくさん積んで、警備兵の詰め所へと向かった。今日のお供はミアである。

 詰め所は王都の中に何箇所もある。一日だけでは全部回りきれないくらいだ。

 とりあえず、昨日も行った城門前を目指した。


「こんにちは! ルシルとミアの旅するキッチンです」


 挨拶をすると、昨日よりもさらにくたびれた顔の兵士たちが顔を出した。


「あぁ……助かる。昨日の戦いもけっこう激しくてさ。シスターのケバブサンドを食べていなかったら、倒れるところだったよ」


 小隊長は腕を怪我していた。包帯を巻いている。


「いけませんよ。施療院には行きましたか?」


 私が聞くと、彼は疲れたように笑った。


「行きたいんだが、暇がなくて。シスターが来ない日はろくな食い物もないし、動くに動けないんだよ」


「……では、これを」


 私は倉庫から、ナタリーにもらっていた傷薬の薬草を取り出した。

 小隊長の包帯を解けば、生々しい傷が出てくる。きれいな水をかけて洗って、薬草を貼り付けておいた。


「助かる。痛みがマシになった」


「シスター・ルシルが今日も来てくれたのか?」


 詰め所から警備兵がわらわらと出てきた。目立った怪我をしている人は小隊長以外にはいなかったが、みんな疲れ果てている様子だ。

 そんな彼らに、私は声を張り上げた。


「今日はケバブサンドとたこ焼きじゃなくて、もっといいものを持ってきました。差し入れです!」


「いいもの?」


 警備兵らが首を傾げている。


「ケバブサンドよりも日持ちがして、それでいてしっかりお腹に溜まって、栄養もある携帯食です。もちろん味も美味しいですよ! 私は三日に一度はここに来るから、その時に必要な分だけ補充してください」


「おぉ……?」


 兵士たちが戸惑いの声を上げている。


「はい、これ。名付けて兵糧丸です!」


 どどん!

 旅するキッチンの屋台には、カゴに盛られた兵糧丸が所狭しと置いてある。昨日、みんなで手分けしていっぱい作ったのだ。


「……」


 ところが警備兵たちの反応は鈍かった。


「なあ、シスター。その茶色っぽい泥団子みたいのが、差し入れなのか?」


 小隊長が何とも言えない顔をしている。

 泥団子とは失礼な。でも、予備知識がなければそうなるか。

 あとはあれかな。食料ギルドのクソマズ携帯食のおかげで、新しい食べ物に挑戦する気力が失せているのかも。


「そうですよ? さあ、食べてみてください」


「いや、しかし」


「さあさあさあ!」


 兵糧丸を一つ手に取ってにじり寄ると、小隊長は後ずさった。なんだね、泥団子がそんなに嫌かね?

 と。

 今度はミアが兵糧丸をひょいと摘んで、ぱくりと食べてみせたのである。


「んっ。おいしーよ。おじさんたちも、食べてみて」


「あ、あんな泥団子を……」


 小隊長は絶句したが、若い兵士が決意を固めたような顔で進み出た。


「おれ、いただきます。シスターの持ってきたものが、マズいわけがない」


「お、おま、死ぬぞ!?」


「腹を壊してトイレと友だちになるぞ!」


「いえ。いいんです。たとえトイレで死んでも、魔物と戦って死んでも、同じこと。それならおれは、あれを食って死にます」


 なにそのノリ……。

 なんかもう、兵士たちの疲労がかなり極限までキているのが見て取れる。

 あと、トイレで死ぬのと戦いで死ぬのはだいぶ違うと思うんだけど。


 とか思っているうちに、若い兵士はミアが差し出した兵糧丸を受け取った。深呼吸してから口に放り込む。


「こ、これは……っ!」


 彼はカッと目を見開いた。



2日1度の投稿忘れがちです(汗)

毎日なら忘れないのに困ったものです。お待ちいただいている方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

カクヨムで1話先行、予約投稿をしているので、確実な方がよければそちらもどうぞ。


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