40:美味しい携帯食
夜になって割れ鍋亭に戻った私は、フィンとミア、ラテを集めて相談していた。
どういうわけか食堂の隅にはクラウスもいて、無言で剣の手入れをしている。なんか最近この人、半分お店のスタッフみたいになってるなぁ。
「警備兵さんたちが、大変そうでね。毎日、旅するキッチンを持っていきたいけど、詰め所は何箇所もあるでしょ? ちょっと回りきれないよね」
「せっかく行っても、兵士さんが出かけているかもだしね」
フィンも頷く。
「そこで!」
私はばーんと手を広げた。
「新しい『携帯食料』を作って、いつでも美味しく食べてもらいましょう!」
「おー?」
ミアが首を傾げている。
「今までのけいたい食料って、どんなの?」
「固くてカビててクッソまずい黒パンよ」
私が鼻にしわを寄せながら言うと、フィンとミアはくすくす笑った。
「カビてるのはよくないね。その、食料ギルド? は、商品をちゃんとかんりしていないの?」
と、フィン。ミアも続ける。
「そんなのくばって、商人のなおれ。お父さんなら、そう言う」
ここでクラウスが口を挟んだ。
「食料ギルドは王都の食べ物を幅広く扱っている。主食の小麦は、ギルド経由でなければ手に入らない」
「よく知っていますね」
「引退した冒険者の仲間が、今はパン屋をやっている。小麦粉の価格を釣り上げられていると嘆いていた」
「へぇぇ……」
聞けば聞くほどろくでもないな、食料ギルド。
これは黙って待っていても、警備兵たちの食料事情の改善は望めそうにない。
やはりここは、私が新しい携帯食料を開発しようではないか!
「それでね、みんなに相談。美味しくて力が出る携帯食料、どんなのがいいと思う?」
私が言うと、まずフィンが手を挙げた。
「はいっ! カビたらいやだから、日持ちするのがいいです」
「うんうん。持って歩くものだから、日持ちは大事よね」
次にミアが口を開いた。
「日持ちはだいじだけど、固すぎるのはヤダ」
「確かに。あんまり固いと食べるのに時間がかかるしね」
今度はクラウスが言った。
「片手間に食えるものがいい。戦いが続いている合間に、口に放り込んですぐに食事を済ませられる」
「なるほど。冒険者の意見、参考になります」
最後にラテが言う。
『魚味がいい』
「さて。それじゃあ意見をまとめると、『日持ちがする』『固すぎず食べやすい』『片手間に食べられる』ね」
『おい! 吾輩の意見を無視するな!』
「はいはい。趣味全開にしないでね」
とはいえ、味変するのはいいアイディアだ。いくつか味を揃えておけば、飽きずに食べられるだろう。
ううーん?
私は前世の記憶を引っ張り出しながら、考える。
前世の携帯食といえば、おにぎり。でもおにぎりのお米は、この国では少々割高だ。趣味で作って食べるならいいけど、たくさんいる警備兵に行き渡らせるにはコスト面で不安がある。
次に乾パン。携帯保存食だけど、あれは特に美味しいものではなかった。
栄養面でも頼りないし、これはないかな。
その次に思いついたのは、栄養バランスバー。私も時間のない時にエナドリと一緒にお世話になった。
あれ、味や種類が案外豊富で、まあまあ美味しいよね。
悪くない……が、ああいうものが日持ちするのは、前世の高い技術で密封されたパッケージがあるからだ。
この世界で日持ちを重視しつつ再現するとなると、固く焼き締めることになるだろう。そうなるとちょっと、食べにくいかも。
でも、栄養バランスバーの方向性はいいと思う。もう少し工夫だ。
「あっ」
一つ思いついて、私は声を上げた。
みんなが私の方を見る。
「兵糧丸はどうかな!?」
「ひょうろうがん?」
フィンとミアがコテンと首を傾げた。
◇
兵糧丸とは、前世日本の戦国時代の忍者たちが食べていたという携帯食料だ。
材料は米ともち米。
でも、蒸した小麦でも何とかなると思う。しっかり熱を通しつつ、多少の水分を残すことで日持ちと食べやすさを両立させる。
中身に抗菌作用のある薬草や食材を混ぜれば、さらに日持ちはアップするだろう。
私がこの話をみんなにすると、目を輝かせて聞いてもらえた。
「おもしろそう、美味しそう!」
『たこ焼きで使った魚粉を入れれば、魚味になるな』
「小さく丸める携帯食か。それは便利だ」
方向性は決まった。次はさっそく、兵糧丸に混ぜ込む材料を考える。
「ショウガは外せないよ。おなかがぽかぽかするもん」
「ドライフルーツ、入れたい。刻んで入れればいい?」
フィンとミアが口々に言う。
ショウガは抗菌作用があるし、フルーツは味のバリエーションと栄養の補強になる。どちらもいい考えだ。
「森ニラはどうだ? あれは滋養強壮に効くんだろう?」
『薬草ならナタリーに聞いてこい』
クラウスとラテも言う。
森ニラもいいと思う。それほどクセのある味ではないから、他の食材との相性にもよるけど、細かく刻んで入れれば栄養アップになる。
「うん、どれもいいアイディアね。フルーツでスイーツ系の味にしたり、魚粉と森ニラでお食事系の味にしたり。楽しみになってきちゃった!」
あとはナタリーに抗菌作用があって食べやすい味の薬草を聞いて、他の材料も集めて来よう。
今回は前のシジミ貝みたいに、遠征してまで取ってくる食材はないはずだ。
こうして、兵糧丸作りが始まった。
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