表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/49

38:お金ボッシュー

【三人称視点】



 風邪の流行の終わりを、一人だけ喜ばない人間がいた。修道院長のヴェロニカである。


(まったく、せっかくの稼ぎ時だったのに。思ったよりも早く流行が終わって、がっかりだわ)


 この風邪のせいで、王都では貧しい人を中心に死者も出た。本来であれば彼らを救うべき施療院の主のヴェロニカだが、そんなことは眼中になかった。

 彼女の頭にあるのは、お金だけである。


「まあ、いいわ。それなりに稼いだし。このお金は化粧品用に取り分けて、残りをあのお方に……」


 そこまで呟いた時、修道院長室のドアがノックされた。側付きの修道女が顔を出す。


「院長様、失礼します。神殿の神官長様がお見えです」


「神官長様が? すぐにお通し……いえ、お出迎えに伺いますわ」


 ヴェロニカは慌てて席を立った。神殿は修道院の上位組織である。ましてや神官長となれば、聖職者としての序列がかなり上の人物だった。下手な貴族よりも力を持つ相手だ。


(どの神官長様かしら? うちの派閥の方ならいいけど……)


 神官長は何人か存在する役職である。政治的にヴェロニカの実家と近しい者であれば、心配の必要はない。


 ヴェロニカが出迎えるより先に、神官長はさっさと部屋に入ってきた。何人かの神官を引き連れている。

 中年や老年の者が多い神官長職の中にあって、年齢は三十歳そこそこと若い。目付きの鋭い男だ。

 残念ながら、ヴェロニカの期待する相手ではなかった。


「ヴェロニカ殿」


 神官長が言う。ひどく冷たい声だった。


「神殿に匿名の告発があった。貴女が風邪の流行に乗じて、施療院の寄付金を増額したというものだ」


「そ、それは」


 ヴェロニカの視線が泳ぐ。神官長の口ぶりは、事実を知っているようだ。どこまでごまかせるか必死で考えていると。


「ごまかそうとは思わないことだ。人々に聞き込みをして裏は取れている」


「左様でございましたか……。でも、あの風邪の流行中は、薬草やその他の物資が高騰しておりまして。施療院に必要なものを買い揃えるための、苦肉の策でしたのよ」


 嘘である。

 神官長は皮肉に笑った。


「ほう。私の知っている話と違うな。実はここへ来る前、先に施療院に立ち寄って治癒の能力持ちのシスターから話を聞いた。物品の帳簿も見せてもらった。買い揃えるどころか、不足分を放置していたようだが?」


(ナタリー! 余計なことを!)


 ヴェロニカは内心で歯ぎしりしながら、それでも笑顔を作る。


「まあ、いやですわ。手違いがあったようですね。すぐに手配をいたします」


 もう風邪の流行は収まっている。今から適当に薬草を買い求めて、お茶を濁しておこう。ヴェロニカはそう考える。

 だが神官長は釘を刺した。


「今すぐに寄付金の増額の撤廃を。さらに、施療院の帳簿は定期的に神殿で監査する」


 修道院と施療院は神殿の下部組織だ。神殿にはそうする権限がある。


「そ、それは……!」


 ヴェロニカは言いかけて、黙った。これ以上ごまかすのは難しい。ではここは引き下がっておいて、今回儲けた分は懐に入れておこう。

 ところが、彼女を考えを見透かしたように神官長が続ける。


「施療院のシスターは、増額された寄付をした患者たちの記録もつけていた。何ともしっかりした人物だな、この小さな施療院にはもったいない。……さて、これに基づき、余分な寄付金は民へ還元するよう命ずる。具体的には、施療院の寄付金制度の撤廃――無償化と薬草類の充実だ。さあ、不正に得た寄付金を出しなさい」


「無償化!? で、でも、それでは……」


「出せない理由があるとでも?」


 神官長に詰め寄られて、ヴェロニカはがっくりと肩を落とした。

 しょぼしょぼと歩いて金庫を開けて、お金を取り出す。


「聞いてはいましたが、かなりの額ですね……」


 金額を確認して、従者の神官が呆れた声を出している。神官長は頷いた。


「まったくだ。ヴェロニカ殿、念の為に聞くが、我々が来なければこのお金はどうするおつもりでしたかな?」


「それはもちろん、神の子である民の皆さんに還元しましたわ!」


 ヴェロニカはほとんどやけくそで言った。


「……よろしい。その心がけを忘れないように。神はいつでも貴女を見ていますよ」


 そうして神官長一行は去っていった。

 一人残された修道院室で、ヴェロニカは机を叩く。


(なんてこと! あたくしのお金が! あぁ~~~~悔しいっ!!)


 怒りの勢いに任せて机を蹴った。


「あ、いたっ!」


 ところが足の小指を派手にぶつけてしまい、彼女は悶絶する。痛みに悶えながら叫んだ。


「誰かいませんか! ナタリー、ナタリーを呼んできなさい、今すぐに!」


「シスター・ナタリーは今、施療院で治療中で……」


 側付きの修道女が、おそるおそるといった様子で顔を出した。


「どうでもいい患者なんかより、あたくしの足の指の方が大事です! 早くなさい! 今すぐに駆けつけるように言って!!」


「は、はいっ!」


 修道女が走っていく。

 呼び出しの理由を聞いたナタリーが、なるべく患者の治療をゆっくりやって、のんびりと「駆けつけた」のは言うまでもない。




これにて第3章は終了です。ここまでお読みくださりありがとうございました。

第4章はヴェロニカとの対立が深まる予定です。


それから次からの更新は少し頻度を下げまして、2日に1度になります。

この作品を12月開始のカクヨムコンに応募するため、準備しようと思いまして。


もしよければ、ブックマークや評価(★5で満点)をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ