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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

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33:シジミの砂抜き

「要するに、塩水に漬けておくとシジミが頑張って塩水に適応しようとして、体の中で美味しさのモトを作る……かな?」


 なんかもううろ覚えである。浸透圧を苦労して説明しつつ、手は止めない。

 シジミ貝をざるに乗せるのは、吐き出した砂を再び吸わせないようにするためだ。砂はバケツの底に溜まるから。

 少しすると、シジミたちはさっそく呼吸をし始めた。水管を貝がらの隙間から出して、水と砂を吐き出している。ぷくぷくとシジミの吐く息が泡になって水面を揺らした。


「わ、おもしろーい。息してる」


「貝、生きてるね」


 フィンとミアはしゃがみ込んでバケツを見ている。


「そういえばこのシジミ貝、飛び跳ねるよね……」


 魔物だから、前世のシジミ貝よりアグレッシブだ。私は木の板を持ってきて、バケツにかぶせた。上に石をおいて重しにしておく。

 これでも突き破って飛ぶようなら、もう諦めよう。勝手に好きなだけ飛ぶといいさ!


『砂抜きはどのくらい時間がかかるのだ?』


「一晩あれば十分だと思うよ」


 ラテに頷いてみせてから、双子に言う。


「さ、みんな。今日は疲れたでしょう。体を洗って、早寝しようね」


「はーい!」





 翌朝、早起きした私がバケツの中を確かめると、底に砂が溜まっていた。

 シジミ貝は元気に呼吸を繰り返している。これなら大丈夫だろう。


 大きめの鍋を用意して、水とシジミ貝を入れる。

 とりあえずは試作だから、一番の大鍋ではない。

 水が沸騰すると、閉じていたシジミの貝がらがパカ、パカと開いていった。

 シジミを一度すくって回収。横に置いておく。


 次に粒のままの小麦を鍋に投入。前世のオートミールとか、そんな洒落たものではない。ここいらで庶民が食べる麦粥といえば、これなのだ。

 本当はお米のおかゆにしたかったけど、お米はそれなりに割高。たくさん作る療養食は、リーズナブルな方が良いと思った。

 さらにショウガをすりおろして、加えた。


 沸騰したら火を弱めて、しばらく煮る。前世のガスコンロのように自在に火加減を調整できるわけじゃないから、薪の量を調節したりと大変だ。

 その間にシジミは貝から外し、身を醤油ダレに漬け込んでおいた。

 味噌はフィンに不評だったけど、醤油であればそこまでのクセはない。王都の人も食べてくれるだろう。


 麦粥が煮えたので、味見をする。


「うん、いい感じ!」


 シジミのダシがたっぷりと出た汁を吸って、麦粥は滋味豊かな味になっている。

 醤油タレに漬けたシジミ貝もつまむ。こちらも前世でお馴染みの、あのうまみたっぷりの味だ。砂は完全に抜けていて、弾力のある身の感触が楽しい。噛むとじんわりと、貝特有の濃い味がした。


 私はにっこりと笑顔になった。





 私は出来上がったシジミのおかゆを倉庫に格納して、朝のうちに施療院に行くことにした。

 いつもは早起きのフィンとミアは、まだ起きてこない。やはりキャンプの疲れが出たのだろう。

 ラテもぐっすりと丸くなっていたので、起こさないことにした。


 朝もやが薄く漂う中を施療院まで歩く。

 まだ施療院の開く時間ではないのに、既に何人かの人が扉の前で待っていた。

 施療院にはもうナタリーがいて、残り少ない薬草の準備をしていた。


「ナタリー、おはよう。薬草と療養食、持ってきたよ」


「……ルシルちゃん」


 ナタリーはやつれ果てていた。頬はげっそりとこけてしまって、ムーンストーンの瞳は光をなくしている。

 彼女が今までどれだけ頑張ってきたのか、よく分かる。


「ごめんね、ナタリー。遅くなって。でもこれで、少しは力になれると思う。これ、食べて」


 倉庫からできたてのおかゆを取り出して器に盛り、差し出した。

 ナタリーはそうっと受け取って、スプーンでおかゆをすくう。

 そして、一口。


「美味しい……」


 ナタリーはぽつりと呟くように言った。

 ゆっくりゆっくり、スプーンを口に運んでいる。もぐもぐと噛んで食べていくと、少しずつ青ざめた肌に血色が戻ってきた。


「はぁ……。力が戻るようです」


 そうして一杯を食べ終えたナタリーは、やっと微笑んでくれた。


「とても優しい味なのに、力が出ますね。これは小さいけど……貝、ですか?」


「うん、そう。北の湖に住んでいる小さくて黒い貝なの。昨日、みんなで採りに行ったんだ。薬草も見かけたから、持ってきたよ」


 私は倉庫から森ニラとイヌサフランを取り出した。


「こっちが森ニラで、こっちはイヌサフランだと思うんだけど、合ってるかな?」


「ええ、合っています」


 ナタリーは慎重に二種類の薬草を慎重に見比べて、頷いた。


「ルシルちゃん、森ニラはお料理にも使えますよ。このおかゆに入れてもいいかもしれません」


「あ、いいね。いっそ雑炊にしてもいいし」


 次にラズベリーの葉を渡すと、これも喜んでもらえた。

 ちなみにイヌサフランも薬として使い道があるそうで、引き取ってもらった。

 ナタリーは森ニラの束を抱えて、にっこりと笑う。


「今は薬草の在庫が尽きかけていて。これでもうしばらく、何とかなりそうです」


「無理しないでね。ナタリーが倒れたら、施療院が回らなくなっちゃう」


「分かっています。限界だったけど、おかゆのおかげで元気が出ました。また頑張れそうです」


 そう言って笑うナタリーの表情は明るい。本当に無理をしているわけではないようだ。





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